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持ち込み禁止、席の移動……お客さまにお願いをすんなり聞き入れてもらう3つの方法【老舗和食店の女将に聞く】

2024.01.23

著者:弥報編集部

監修者:小保下 グミ

お店を経営していると、大半のお客さまはルールを守ってくださいますが、すんなりと理解いただけないお客さんも一定数いらっしゃいます。「お客さまは神さま」というフレーズはよく耳にするものの、営業に悪影響を及ぼしかねない場合などには、注意を促したり、店の都合でお願いをしなければいけません。しかし、適切な対応をしなければ、かえって大事になってしまうケースも見受けられます。

では、店側のお願いを気持ちよく聞き入れてもらうにはどうしたらいいのでしょうか。お願いを繰り返す?下手に出る?いずれも違います。大切なのは、1.お願いの理由を説明する、2.感謝の気持ちを伝える、3.感情に訴えかけるの3点です。

また、お客さまやシチュエーションによって効力のある方法は異なります。老舗和食店の女将が教える3つのポイントを参考に、ぜひ試してみてください。


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なぜそうしてほしいのか?一言理由を説明するだけで、すんなり納得してくれることがある

お客さまにお願いをしたりマナーを守ってもらいたい場面において、私たちはどのような対応を取ればよいのでしょうか。1つ目のポイントは、なぜお願いを聞いていただきたいのか、その理由を説明することです。ただ単に頼むだけでは納得してもらえないことも多いですし、逆にこちらが意図していなかった反応をされることがあるからです。

例えば当店ではこんな事例がありました。あるとき、団体のお客さまの貸切予約が入りました。当店では、貸切予約を受ける際はコース料理のみでお願いしています。そのことをお客さまにお伝えしたところ、アラカルトで頼みたいと逆の要望をされてしまいました。どうやらお客さまは、当店がコース料理に限定している理由を、売上を確実に上げるための措置だと思ったようです。なので、たくさん注文するからアラカルトで注文させてほしいと言ってきたのです。

しかしアラカルトを受けられない本当の理由は、人手不足の影響です。スタッフが足りていないために、一度に大人数のオーダーを捌くことができず、仕込みが可能なコース料理しか対応ができなかったのでした。そこで、お客さまに理由をきちんと伝えると「そういうことならコース料理で」とすんなり納得してもらえました。理由を伝えていなければ、お客さまはなぜアラカルトで注文してはダメなのかがわからず、不満を溜め込んだままになってしまっていたかもしれません。

飲食店における持ち込み禁止のようなルールも、理由をきちんと説明することで納得してもらえる場合があります。「持ち込まないでください」だけでは理由がわからず納得できないこともあるかもしれません。しかし「持ち込んだ食べ物で食中毒を起こすとお店の責任になる」などと明確な理由を添えることで、「それなら仕方ないですね」と納得していただける場合があります。お願いを聞き入れてもらうには、問題の本質を理解してもらうことを心がけてみてください。

「助かります」の一言を添えるだけで、やって良かったなと思ってもらえる

2つ目のポイントは、お願いを聞いてくださったお客さまに感謝の気持ちを伝えることです。

お店のルールの中には、お客さまが必ず守る義務がないものもあります。例えば当店は営業中にだれでも読める新聞紙を置いているのですが、読んだあとそれをたたまないで元の場所へ返してしまう人がいます。このようなケースの場合、お客さまにたたむよう強制はできません。

しかしそこをなんとか気持ちよく聞き入れてもらうには、お願いしてきちんと戻してもらったあとに「助かります」と一言添えると良いでしょう。こうすることで「なんで自分がそんなことしなくちゃならないの?」と思っていたお客さまも、やって良かったなと思えるものです。

また当店ではときどき、より多くのお客さまに店内を利用してもらうために席の移動をお願いすることがあります。いちど腰を下ろした席を移動するのは、決して気分の良いものではないでしょう。ですので、移動のお願いに応じてくださった際は全力で「助かりました。ありがとうございます!」とお伝えするようにしています。そう言うと初めて「いいんですよ。いつでも言ってください」と笑顔を見せてくださる方が過去にいらっしゃいました。

加えて、声に出して「助かります」と言うことで、近くにいる他のお客さまが「それはお店を助ける好ましい行為なのだな」と認識します。その結果、他のお客さまも同じような行動を取り始めるので、店側からお願いする頻度が減ってくるのも良い点です。

日本人は良くも悪くも周囲の行動に影響されやすい気質があります。多くの人に守ってほしいマナーなどは、声に出してお礼を伝えることで他のお客さまにも同じような行動を波及させたいところです。

理屈を伝えるよりも感情に訴えかける方が人は動く

3つ目のポイントは、お客さまの感情に訴えかけることです。

前半部分で「お願いの理由を説明するとよい」と書きました。しかし実は、だれかに何かをお願いする際は、理屈を延々と述べるよりも感情に訴えかけた方がより行動に移してもらいやすい場面が往々にしてあります。

「事実はなぜ人の意見を変えられないのか」という書籍にこんなことが書かれています。


結局のところ、人間がどんなにデータ好きであろうと、脳がそのデータを評価して判断を下すときに用いている価値基準は、私たちの多くが脳はこれを使っているに違いないと信じている価値基準とまったく別物だ。情報や論理を優先したアプローチは、意欲、恐怖、希望、欲望など、私たち人間の中核にあるものを蔑ろにしている。


つまり人を動かそうと考えるなら、時に情報や論理で説得するよりも「〇〇がしたい!」という意欲や「〇〇は避けたい」という恐れなど、人間の根幹的な感情に影響を与えることが需要だということです。具体的な例を見てみましょう。

コロナ禍の飲食店はどこもほぼ例外なく来客数が激減しました。そんな中、なんとか売上を立てようとした、とある店の店主が「困っているんです、お願いします!このお店を続けたいんです!助けてください!」と世間に訴えかけたところ、一部の人の心を動かし、テイクアウトなどの形で来店客を呼んだ例がSNSやテレビニュースなどで報じられました。

これがもしも「来客数が前年同月比○%減で売上がひっ迫しており……」のような、事実を淡々と述べた訴えだったら、人々の足はそれほど向かなかったことでしょう。

あるいは店前に無断駐車する人がいて困っているとき、「通行人の妨げになるのでおやめください」ではあまり人は動きません。それよりも「警察に通報します」「罰金を頂戴します」と張り紙を貼っておく方がよほど効果があります。もう少しソフトに「この場所に車を止めた方がたびたび駐禁切符を切られています。お気をつけください」などの対応でもよいかもしれません。人はたいてい他人のためには動けなくても、自分に災難が降りかかってくるとなったとたん、急に行動をし始めるものなのです。

当店でも、季節のイベントなどでどうしても集客したいときは、あれこれ理由を述べるよりも「来てください、待ってます!」とストレートにお願いし、こちらの本気度を伝えるようにしています。一方でマナーを守ってほしいような場面では、守ってもらえないことで当店がどれだけ迷惑を被るかということより、他のお客さまに迷惑がかかることや、お客さま本人に不利益が生じることなどを強調するようにしています。店に迷惑をかけることは厭わない方でも、他のお客さまに白い目で見られたり、自分が損することは避けたいと思うものだからです。

もしもお客さまにお願いしたいことが出てきたら、上記3つのうちのどれかを試してみてください。理屈で納得してくれるのか?感謝が効果的か?感情を揺さぶられると行動に移すタイプなのか?人によって、あるいはシチュエーションによって効力のある方法は異なるでしょう。しかしよほど悪意のある人でない限り、これらいずれかの方法ですんなりとお願いを聞き入れてくれるはずです。


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この記事の著者

弥報編集部

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小保下 グミ(老舗和食店の女将)

老舗和食店の女将。夫が後を継いだ家業で経営全般に関わる。現在は休業中。
noteにて定期購読マガジン「小さなお店のちいさな女将」を運営。飲食店経営や自営業の生き方・働き方について発信中。

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