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noteプロデューサー・徳力さんに聞く「フォロワーもいいねも追わない」ビジネスSNS運用

2022.05.12

著者:斎藤充博

こんにちは。ライターの斎藤充博です。ツイッターを見ていると、同業のライターのこんなツイートをよく見ます。

「ツイッターを見たというクライアントから仕事を依頼された」

SNSから仕事につながるというのです。そんな話を聞いたことがなかったわけではないのですが、それって本当ですか?

僕はツイッターを2009年に始めてから、常時ツイッターに貼り付いて、おもしろおかしいツイートをしたり、マンガを投稿したりしています。その結果、フォロワーも1.1万人います。インフルエンサーとは言えませんが、まあまあの数字だと思います。

それでもツイッター経由で仕事が来たことって、1、2回くらいしかありません。どうして、僕はツイッターから仕事が来ないんでしょう? 1.1万人では、フォロワーが足りないのか? もっともっとツイートがバズらないとダメなのか?

今回はSNSサービスのnoteのプロデューサーでありながら、SNS活用の書籍『自分の名前で仕事がひろがる 「普通」の人のためのSNSの教科書』を出版した、徳力基彦さんにSNSの使い方を教えてもらえることになりました。

徳力さんいわく、
「ビジネスでのSNS活用はバズる必要はない」
「たくさんのフォロワーを求めてはいけない」
とのこと。

僕がぼんやりと考えていたSNS活用と、まるで真逆の世界がそこにありました。

*取材はリモートで行われました

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徳力基彦

noteプロデューサー、ブロガー。ビジネスパーソンや企業のSNS活用のサポートを行っている。
著書に『自分の名前で仕事がひろがる 「普通」の人のためのSNSの教科書』。
Twitter:徳力 基彦(tokuriki)

フォロワーが足りないからビジネスに結びつかない?

斎藤充博(以下、斎藤):……というわけで、SNS経由で仕事が来たことがほとんどないんですよ。僕のツイッターを見ていただけますか。

Twitter:斎藤充博

徳力基彦さん(以下・徳力):斎藤さんのツイッターアカウント、面白いですね。特にマンガが描けるというのは強い。

斎藤:それでもツイッター経由での仕事なんて、1~2回くらいしか来たことがないです。フォロワーは1.1万人ほどいるんですが、もっと増やさないとダメですかね?

徳力:その考え方はちょっとSNSを勘違いされていると思います。SNSを仕事に使う場合は「メディア運用」と「ビジネス運用」があると考えています。この二つを混同してはいけないんです。

斎藤:どういうことでしょうか?

徳力:「メディア運用」とはアカウントをメディアのように運用していって、そこから収益を上げる方法です。たとえばnoteでは読者がクリエイターさんの作ったコンテンツに課金をすることができます。

この収益をビジネスにまで高めようとすると、どうしてもある一定のフォロワーがないと成立しませんよね。1.1万人では弱いかもしれません。

斎藤:ですよね。noteは直接課金ですが、他にも企業からPR案件をもらったりすることがあると聞きます。マンガでPR案件を行うと、4コマ一つでもものすごい金額になるとか……。

徳力:その一方で「ビジネス運用」とは、ビジネスマンである自分の仕事に関わることをコンテンツにして、それをきっかけに見込み顧客を見つけようとすることです。

ビジネス運用であれば、見込み顧客や決裁者である、数十人くらいの心に深く刺さればいいんです。いくつかは案件化する可能性があります。それを考えると1.1万人のフォロワーは多すぎるくらいです。

斎藤:なるほど。すると、僕のTwitterアカウントはどっちなんだろう……?

徳力:斎藤さんのライターのお仕事は、企業がクライアントになる「to B」のお仕事だと思います。斎藤さんがSNSでやりたいのは本来「ビジネス運用」の方なのではありませんか?

斎藤:……確かに。SNS経由で企業から仕事が来たというライターをうらやましがっていたのですが、それはビジネス運用ですね。

よくツイッターやブログで「読まれやすい文章の書き方TIPS」を書いているライターさんがいるけど、あれは見込み顧客に向けて書いていたものだったのか。それが案件化すると「SNS経由で仕事が来ました」になるんですね。

徳力:そういうことになるでしょう。斎藤さんはメディアの仕事もされていますよね。「ビジネス運用」と「メディア運用」がまざってしまいやすい環境にあるのかもしれません。

SNSをビジネスで使うメリットは「自分の分身を使ったコミュニケーション」

斎藤:ただ、そうした「to B」の案件を獲得するのに、SNSを使うのって有効なんでしょうか。僕は対面で語ったり、飲みに行ったりしないと信用されないような気がして。古いタイプなのかもしれませんが……。

徳力:SNSというのはコミュニケーションツールなんですよ。電話をする、手紙を書く、それと同じように「SNSを使う」と考えてほしいです。

さらにSNSのようなデジタルコミュニケーションツールの特徴は「一度に何人もの人に届けられる」ことです。僕は「SNSは自分の分身が作れるツール」と思っています。

他の仕事をしている間にも、分身が見込み顧客の前で、自分のビジネスの説明をしてくれると思ってください。これを使わない手はないと思います。

斎藤:なるほど……。その考え方はわかります。ただ、それだとSNSのフォロワーは多ければ多いほどいいですよね。先ほどの話と食い違うような気がします。

徳力:フォロワーが多いのはいいのですが、無理にフォロワーを獲得しようとする行為に問題があります。効率良く数字を求めてしまうと、きっとどこかで「お騒がせYouTuber」のようなことになってしまうことになりかねません。

斎藤:あ~。そういうふうになっている人、いますね。

徳力:これは重要なことなのですが、ビジネス目的のSNS運用で重要なのは「フォロワー数やRT数」などの数値ではないんです。あくまでも対象にしたいのはアカウントの先にいる「人間」です。

斎藤:「人間」か……。

徳力:そうです。自分の分身がそうした見込み顧客の一人一人とおしゃべりしているところを想像してみてください。それが数十人程度でもかなりすごいことではないでしょうか。

斎藤:確かにそうですね。僕はリアルな人間に話しかけるような意識でSNSをやってはいませんでした。

徳力:メディアとしてSNSを運用する意識があると、つい投稿内容を「作品」のように考えてしまいがちなんですよね。でもそうではなくて、「会話」と考えた方がいいんですよ。

斎藤:ここまで根本的に考え方が違うとは思わなかったです……!

徳力:でも、斎藤さんのように考える人はまだ多いですね。

たとえば日本の大手企業の社員はSNSの利用の制限があることが多いです。これもSNSをメディアのように捉えているから制限するのでしょう。一社員がメディアを利用して発信するなんて、ありえないことでしたから。

しかしSNSを「電話」や「手紙」のように、コミュニケーション手段と捉えると、その一つを制限することは、かなり不利なことだと思いませんか。その点、自由にSNSを利用できるフリーランスにとっては大きな武器になるはずです。

SNSでは「ビジネスの場での雑談」的な投稿も積極的に!

斎藤:なんとなくビジネス運用するSNSの心構えが分かってきたような気がします。フリーランスが実際にやってみようと思ったときは、まずは何から始めればいいでしょうか。

徳力:まずはSNSのアカウントを作る前にやることがあります。ホームページ作りです。

斎藤:まずは、そこからなんですね。

徳力:SNSはコミュニケーションの場所です。SNSを見て興味を持ってくれた人が参照できる場所をまず作っておく必要がありますね。ホームページというと大袈裟に聞こえるかもしれませんが、noteとか長文を書ける場所に自己紹介記事を書いておくという形でも良いと思います。

SNSのプロフィール欄は文字数制限があるので、自分がどんな人間か分かってもらうためのページを作ってリンクしておくのがオススメです。

斎藤:これができたら、次にSNSの運用に入れますね。しかし、Twitter、Instagram、YouTubeなどに、いまから参入すると、フォロワーを増やすのが大変と聞いたことがあります。

徳力:それは確かにあるでしょうね。でも、ここでSNSを使う目的はフォロワーを増やすことではなくて、自分のビジネスの助けになるようにすることです。だから自分のビジネスにあっていればいいんです。

斎藤:そうか……。ついフォロワーを増やそうとしてしまう方向に考えてしまいますね。

徳力:フォロワーの数や、いいねの数は本当に魔物なんですよ。おそらく、SNSを始めたらずっとその魔物と戦うことになると思います。

斎藤:ビジネス目的のSNSではどんなことを投稿すればいいんでしょうか。

徳力:さきほど言ったようにSNSは「自分の分身」です。その分身が「ビジネスの場で普通にしゃべるような内容」を投稿するのがよいでしょう。

斎藤:というと……。たとえば、自分が仕事でやっていることや、サービス内容などですかね。そういう投稿ばかりする人はちょっと苦手ですが……。

徳力:いえ、ビジネスとは関係ない話も積極的に投稿してほしいです。営業マンって、ビジネスの場でいきなり本題には入らないじゃないですか。

斎藤:確かに。新卒で入った会社で法人営業をしていましたがそうでした。あの延長で考えればいいのか。

徳力:僕はカップヌードルを食べたって投稿をいっぱいしていますよ(笑)。まずそういう日常の話題から入っていって、自分を知ってもらう。

斎藤:本題のビジネスの話を書くときにはどんなことに気をつければいいでしょうか。

徳力:まずは「誰か一人のためのメール」と思って書くのがいいでしょう。たとえばお客さんに説明するときにメールを書いたり、一緒に働いている人に指示を出すときにメールを書いたりしますよね。それをブログに上げるようなイメージです。もちろん公開していい部分と、非公開の部分は区別して、ですよ。

斎藤:それを見た誰かは「こういうときはこうすればいいんだな」と役に立つわけですね。

徳力:そうです。説明や指示も、言葉でしゃべるとその場限りですが、インターネット上に残しておくと、誰かの役に立つ。これはデジタルのいいところですね。それに書いた本人にとっては「僕はこういう内容の仕事ができる」というアピールになるんです。

斎藤:なるほど。だいぶSNSでの案件獲得の流れが分かってきました。

SNSは「自分の分身」、ビジネスの場で普通にしゃべる内容を書けばOK

斎藤:SNSのビジネス運用を考えると、みんな一番気にするのは「炎上」だと思います。僕はいままで炎上はしたことはないのですが、メインで使っているツイッターの世界は炎上だらけだし、自分がいつ炎上してもおかしくはないと思っています。

防ぐにはどうしたらいいでしょうか。

徳力:「悪いことをしない」ことですね。

斎藤:それだけでいいんですか? 何か物足りないような……。

徳力:斎藤さん、SNSには「みんなを燃やそうと思っている悪意のある人達が大勢いる」というイメージがありませんか?

斎藤:ありますね。そういう種類の人達は確実にいるのでは、と……。

徳力:それはですね、「炎上するような話題が好きな人」をフォローしているからそう見えるんです。そういう人は自分でも炎上しますし、他人の炎上をRTします。でも、ほとんどの炎上は、誰かの「正義感」からはじまるんです。

完全にビジネス目的で、自分のビジネスに関連するようなアカウントだけをフォローしていると、タイムラインってすごく平和になりますよ。

斎藤:なるほど。フォローしている人によって世界が変わって見えるのはSNSならではですね。

徳力:SNSをビジネス運用に徹する場合、そこまで「炎上」することはないんです。政治とか宗教のような人によって価値観が分かれる話を避けて、「仕事でするような話」を心がければ、そこから炎上することは考えにくいですよね。

もちろんリスクはゼロではないのですが、誰かを傷つけるような悪いことをしたり、誰かの正義感を刺激するような過激な投稿をしなければ、炎上は避けられると思います。

お話を聞いて

「メディアとしての運用をしない」
「フォロワー数やいいねの数を気にしない」
「ビジネスでするような話をする」

徳力さんに教わったことをまとめると、以上のようになりそうです。しかし、お話を聞いた後に悩んでしまいました。10年以上、実名でやっているツイッターの方向性を、いまさら変えられない!

いままでずっと、ふんわかしたマンガや、思いついた小ネタばかりを投稿していたのに、急に真顔になってビジネスの話をしたらものすごくヘンでしょう。みんなから心配されそうです。

そこで思いついたのが、「SNSごとに内容の方向性を変える」という手段です。

ツイッターはいままで通り。こんなふうに、小ネタやマンガなどを投稿。

Facebookはビジネスっぽく。ちょっと信頼できそうなライターに見える?

これで仕事が増えれば……。「SNSきっかけで仕事がいっぱい来ています」って言ってみたいです!

この記事の著者

斎藤充博

1982年生まれ。ノンバンク金融の営業を退職した後に、指圧師、マンガ家、ライターなどの仕事をしていまに至っています。著書に『いやしのツボ手帳』(永岡書店)、『ツボストレッチ』(日本文芸社)などあり。

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