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『やさしくて強い社長になるための教科書』著者に聞く、心をコントロールする方法

2023.12.05

著者:弥報編集部

監修者:志水 浩

会社を率いる社長であれば、社員の士気を上げ、進むべき方向を指し示したいもの。しかし実際は、社員の機嫌を損ねないように過度に気を使ってしまったり、焦りのためにワンマン経営で突っ走ってしまったりと、さまざまなケースがあるのではないでしょうか。

会社経営はやさしさと厳しさの良いバランスの基に成り立ちます。社長は特有の不安や孤独を感じやすく1人で抱え込んでしまうことも多いですが、その精神状態が不安定な経営に直結してしまいますから注意が必要です。

今回は心の管理を適切に行い、正常な判断力を維持するために何をするべきか?などについて実践的な力量向上の方策を『やさしくて強い社長になるための教科書:やさしいだけだと会社は潰れる。厳しいだけでも会社は伸びない』の著者である志水 浩さんにお伺いしました。ぜひ自身の心の状態をコントロールし「やさしくて強い社長」を意識した経営の参考にしてみてください。


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「やさしくて強い社長」はどんな人?なぜ求められるのか

「やさしくて強い社長」とはどのような人物像なのでしょうか。

「やさしくて強い社長」とは、長期的な視点で自身や社員が次の「4つの幸福」を、より多く得られるような経営ができる人物のことを指します。

〈4つの幸福〉

  1. 愛されること
  2. 褒められること
  3. 求められること
  4. 人に貢献すること

上記の4つは仏教で人間の究極の幸せだとされているものです。この4つの幸福は、ビジネスにおいても通ずるところがあると考えます。

「やさしくて強い社長」とは具体的に精神が安定しており、どんな状況下においても出来事をプラスに捉え、自己変革を行い続ける「主体変容性」を持ち、高いマネジメント力がある社長のことだといえます。

なぜ「やさしくて強い社長」が経営に適しているのでしょうか。

「やさしくて強い社長」は自身の精神を安定させた状態で、長期的な視点を持ち会社の未来のために行動します。表面上のやさしさや間違った強さではなく、会社と社員の未来のために、時には厳しい判断を下し道標を示すため、その存在が求められるのではないでしょうか。それだけでなく、社員にも良い影響を与え、会社全体の競争力を拡大していく力もあるのです。

経営コンサルタントとして30年以上さまざまな会社を見てきましたが、特に中小企業の経営者は心のやさしい人物が多く、身を粉にして働いているケースが多いです。また社員に物事を強く言えず、周囲の顔色を伺いながら意思決定や社員教育を行う例も見受けられました。こうした社長は表面的には「やさしい社長」として受け取られていますが、それだけでは、会社をつぶしてしまう可能性があります。なぜなら短期的かつ他人軸的視点では、会社の舵は取れないからです。

一方で周囲との関係性が良くないために、裸の王さまのように間違った「強い社長」になり、悩ましい意思決定を行い続けるケースもあります。

実はどちらの場合も経営責務の多大なストレスやプレッシャーから影響を受ける、社長の不安定な精神状態が大きく影響しています。中小企業は社長の写し鏡といってもいいほど、社長の精神状態や価値観が色濃く反映されます。「やさしくて強い社長」が会社全体に良い影響をもたらすのは、自然な流れであるといえるでしょう。

「やさしくて強い社長」がもたらす良い変化

「やさしくて強い社長」は会社や社員に、どのような良い影響を与えるのでしょうか。

社長がやさしく強い場合、主体的に動く社員が育ちやすく、会社が存続する可能性が上がるといった影響が出ます。なぜなら社長自身が安定した精神の基、主体的変容性を持っていると、集団組織の心理として社員も自ずとその力を身に付けていくためです。

会社が危機的状況を迎える主な原因の1つとして、環境変化に対応できなかったというケースが非常に多いです。現代は先行きが不透明かつ将来の予測が困難で、市場や競合相手も都度変化していくため、会社も柔軟に適応していかなければならない局面にあるでしょう。

会社は社員の集積ですので、社員の協力なくして会社の存続はありません。会社の方針や理念、目的などに対して主体的に捉え、具現化するために行動できる人物がどれだけ社内にいるかが会社存続の鍵となります。

実際に「やさしくて強い社長」が会社に良い影響をもたらした例を教えてください。

神奈川県の秦野市に「元湯陣屋」という老舗旅館があります。バブル期から業績は低迷し続け、多額の負債を抱え、倒産の危機に面していました。さらには先代社長が亡くなり、奥さまが宿の切り盛りをしていましたが、心労から入退院を繰り返す状態が続き、経営業務もままなりませんでした。

そこで名乗りを上げたのが先代の息子夫婦です。夫婦は現場で働きながら、持ち前のやさしさや強さを発揮して業績悪化の原因を冷静に見極め、改革を行っていきました。引き継いだ当初「予約担当は予約を受けるだけ」などというように業務が分業化されていたため、スタッフは臨機応変な対応が難しく、指示待ち体質だったそうです。また情報管理がアナログで、スタッフ同士のコミュニケーションも不足していたことから、さまざまな弊害がありました。そこで予約や会計処理などのデジタル化や、スタッフのマルチタスク化を進めることで自ら考えて判断する組織へと変革させることに成功したのです。

さらには新たな売上を生み出す施策として、自社システムのクラウド型旅館・ホテル管理システムの外販に取り組みました。今ある課題解決だけでなく、未来予想まで構想した良いビジネス事業成功例といえるでしょう。

「やさしくて強い社長」になるために日々意識すべきこと

「やさしくて強い社長」になるために、日々意識して行動すべきことや、具体的に取り組むべきことがあれば教えてください。

安定した精神の基で、物事の局面を自身から変えていける「やさしくて強い社長」になるためには、まず漠然とした悩みを細分化する必要があります。

5W「When(いつ)」「Whrere(どこで)」「Who(だれが)」「What(何を)」「Why(なぜ)」、3H「How(どのように)」「How Many(どれくらい)」「How Much(いくら)」の観点から悩みを明確な課題として捉え直し、具体的な課題として落とし込みます。

漠然とした「悩み」が具体的な「課題」になれば、より具体的な施策を検討することができ、1つずつ明確に対応していけるようになるでしょう。行動してできることから局面を変えていきましょう。

そして社長自身が行動すること、すなわち率先垂範を心掛けてください。社員は見ていないようで、社長の言動を事細かく観察しています。

また例えば「なぜこの施策が大切なのか」という業務や、事業の根幹の部分を自ら説明して理解してもらうことでも重要です。社長自ら説明することで、社員の意欲をさらに上げていくことができます。

しかし一方的に話すだけではなかなか伝わりません。意見を募りながら進行していきましょう。信頼関係がより強固になると「社長や会社のために頑張ろう」という貢献意欲(エンゲージメント力)も高まります。

自身もプレーヤーである中小企業の社長の場合、悩みを考察する十分な時間が取れず、悩みに押しつぶされていくこともあります。そういった状態を避けるためにも、自身の価値観をアップデートし、マネジメント力を向上させていく機会を設けることが大切です。

自身が担当する目先の業務を減らし、俯瞰して物事を捉える視点を持つ必要があるでしょう。

不安感や怒りなど、経営者特有の精神状態をコントールするために、日ごろからできることはありますか。

肉体的、精神的に良い状態を保つため、定期的に言いたいことがたまったら吐き出すなどのストレスコントロールを意識的に行うようにしましょう。だれかと話すだけで気持ちが落ち着きますし、社員とのコミュニケーションの中で気付かされることもあるでしょう。

また行き詰ったときや諦めそうになってしまったときは、自社や自分が掲げてきた目的を見返すのもおすすめです。「何のためにやっているのか」という強い芯の部分が明確にあると、冷静に自分自身を見つめ直すことができます。

怒りなどが収まらないときは、アンガーマネジメントなども有効です。「こうあるべき」という感情を捨て、良い意味で期待値を下げて物事を捉えてみましょう。時には叱ることも必要ですが、相手の性格などを考慮しながら接することで、相手も変化していくでしょう。

「やさしくて強い社長」を目指すときに、留意すべき点などがあれば教えてください。

心ある人ほど「自分が頑張らなければいけない」と良くも悪くも独走してしまいがちです。くれぐれも、すべてを1人で抱え込まないようにしてください。

自身の苦労や会社の危機を社員に伝えないままでいると、結果として社員たちは自分たちで考えるべきことでも問題解決を社長に委ね、思考が停止してしまう組織になってしまいます。自身が抱え込んでいる不安や情報を開示することで、社員1人1人が考えて動くようになることもあります。他力を上手に使うことも、心掛けてみてください。

本当のやさしさが「できる社員」を育てる

社員に厳しく言えない社長が増えているといいますが、アドバイスをお願いいたします。

昨今、叱れない上司や経営者が増えているといいますが、厳しいことは悪いことではありません。言うべきことを伝えなければ、社員は自分が何を求められているのかわかりません。そうした社長の姿勢は、実はやさしさではないということです。厳しいというのは、社員の将来を考え、自力の形成を促すことですので、適切な形で指摘する必要があると考えてください。

仕事で達成感を得るのは、苦しさを乗り越えて良い結果が出たときだと考えます。社員の現状の個性やスキルを踏まえて、時には良いストレスを与え、厳しいことも言ってあげるのが、長い時間軸で見たときの本当のやさしさなのではないでしょうか。


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この記事の著者

弥報編集部

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志水 浩(株式会社新経営サービス 専務執行役員)

1967年、京都府生まれ。1991年、株式会社新経営サービスに入社。経営コンサルタントとして30年以上のキャリアを有しており、中小企業を中心にさまざまな業種・業態の企業支援を実施中。また、各種団体での講演活動を全国で行っている。著書に「成功体験は9割捨てる」「やさしくて強い社長になるための教科書」(あさ出版)がある。

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