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小宮一慶が教える、非常時の経営では「ダウンサイドリスク」と「資金の確保」を最優先に考えよ
2020.05.07
著者:小宮 一慶
現在、新型コロナウイルス感染症によってビジネスに影響が出ている企業が少なくありません。こうした非常時に経営者はどう行動すべきでしょうか。
結論から言えば、経営者は外部環境を正確に分析したうえでダウンサイドリスク(下振れリスク)を厳しく見積もることが重要です。そして短期的には何よりも資金を確保することです。
目次
ダウンサイドリスクを見積もり、資金繰りを最優先に考える
私は新型コロナウイルスの問題は長期化するのではないかと懸念しています。よしんば収まったとしても第2波、第3波が来ることも十分に予想されます。イタリアやスペイン、アメリカでは感染爆発が起こっており、日本でも起こらないとは限りません。すでに厳しい局面に立たされている企業も多いでしょうが、経営者の皆さんも景気の低迷の長期化を念頭に置いておく必要があります。さらには新型コロナウイルスが収束しても、しばらくは海外取引や外国人との交流が以前のようには戻らないことも考えておく必要があります。
こうした状況下では、経営者は会社の状況を冷静に判断することが大切です。特にダウンサイドリスクを厳しめに考えてください。お客さまの減少のみならず、取引先の倒産もあり得ます。その際にどこまで損害を被るかを考え、手元流動性資金(現預金)を十分に確保しておくことが鉄則です。
通常であれば、中小企業でも手元流動性資金は月商の1.7か月分もあれば十分ですが、今はもう少し多く持っておいたほうが安全です。政府も日本政策金融公庫を介して中小企業を中心に資金供給を増やしており、民間金融機関でも日銀の資金供給を受けて新型コロナウイルス対策の資金繰りを支援しています。
手元流動性資金が十分でない企業は、保険のつもりで借りておくことをおすすめします。すでに相当な数の申し込みがあり、手続きに時間がかかる可能性がありますので、できるだけ早く申し込みましょう。
経営者が心に余裕を持ち、正しい判断をするためにも資金の確保は重要です。会社は赤字になってもすぐには倒産しませんが、手元からお金がなくなった時に存続が危うくなるのです。
まず資金繰り表を作成し、そのうえで資金繰りのコントロールを
資金を確保する際にまずやるべきは、正確な資金繰り表を作成することです。手始めに資金の流出・流入を正確に把握すること。資金の流出は借入の返済、買掛金の支払い、人件費、家賃、その他経費の支払い、投資予定なども含みます。借入金を約定弁済している場合は毎月の返済額を把握していると思いますが、期日一括返済の場合も同様に正確に把握しておかなければなりません。
一方、流入は現金売上や売掛金の回収、投資の売却などです。その際に売掛金の額も確認してください。いつお金が入ってくるかという期日を正確に把握するとともに、相手先の経営状況も知っておく必要があります。今回のように予期せぬ状況に立たされると、相手先の資金繰りが滞り入金が遅延するケースも考えられます。
他にも手持ちの現預金を正確に把握しておくことも大切です。いざというときにすぐに売却できる有価証券や、保険も解約すれば資金として使えます。これらを加味しながら、この先の資金繰り予測をできるだけ正確に立てておきます。少なくとも半年先、できれば1年先くらいまでの資金繰り表を作っておきたいものです。
ここからは資金繰りを良くするための方策です。自社で資金繰りをコントロールする方法はいくつもあります。
1つ目は買掛金の支払いサイト(期日)です。売掛金の回収サイトよりも長ければ資金に余裕が出ますが、買掛金を短いサイトで払っていれば負担がかかります。売掛金、買掛金の額によっては経営に大きな余裕が生まれたり、ピンチに陥ったりします。
2つ目に在庫です。ずいぶん昔、私がアメリカのビジネススクールに通っていた時、先生がファイナンスの講義の初回に「在庫はキャッシュ」と話していたのをよく覚えています。原材料であれ、完成品であれ「現預金の代わりに在庫になっている」という認識が必要です。資金繰りが大変な時は、必要以上の在庫は極力処分すべきです。
3つ目に不要不急な投資も控えるべきです。以前から決めていた設備投資やオフィスの拡張、移転なども、今本当に必要かをもう1度考え直すようにしてください。設備投資や移転は多額の資金が必要になるケースが多いからです。
4つ目に経費の見直しです。こういう時期こそ、今までなんとなく支出していた経費、決裁の緩めだった経費を思い切って減らす良いチャンスです。
幹部とは「リスク」を共有し、社員とは「安心感」と「意識」の共有を
非常時においては、幹部とはダウンサイドリスクを互いの共通認識とし、普段より連絡を密にして情報共有しておくことが大切です。経営者が最終的に意思決定をするためにも正確な情報は不可欠です。衆知を集めるのです。
ただし、社員に危機感を煽るのは逆効果です。非常時は「会社が続くのか」とか「自分の給与や雇用はどうなるのか」と社員は不安でいっぱいです。しかし社員が危機的状況をコントロールすることはできません。経営者は社員に対しては、見通しを正確に説明すること、また資金的には心配ないと説明して安心感を与えることです。そのうえで非常時ゆえの協力を求めてください。不要不急の出費を控えること、場合によっては時短勤務の了解を得ることも出てくるかもしれません。
非常時に大切なことは、社内で「意識」を共有することです。例えば、普段のコミュニケーションにおいて、コピーを100枚用意してほしい、○○さんを訪問してほしいというのは「意味」です。皆さんも経験があると思いますが、同じ行動でも好きな人から言われたらやりたいけれども、嫌な人から言われればやりたくないものです。非常時に社員を動かすには「意味」ではなく、「意識」の共有が必要なのです。
なおメールは「意味」を伝えるには便利なツールですが、「意識」は伝わりにくいものです。それよりも「電話で話す」、「Zoomで会議する」などのほうが格段に「意識」は伝わります。
非常時の経営者の指揮官先頭と覚悟は、日ごろの経営で養われる
私のお客さまで、北海道にバルブなどの機械のメンテナンスを行う会社があります。仮にA社としますが、リーマンショックの時にA社のお客さまの業績も落ちました。機械の買い替え時期が来てもお金がなくて買い替えられないお客さまに対し、A社は安価な金額で時には無償でメンテナンスを行い、機械の耐久年数を延ばしたのです。
お客さまはもちろん喜びましたが、これはA社が普段から「お客さま第一」の行動を取る姿勢があったことと、資金に余力があったからできたのです。リーマンショックが収まり、通常のビジネス環境に戻った時にお客さまが取引先として選ぶのはA社であることは明白です。
このように非常時こそ会社の実力が問われます。できる限り「お客さま第一」の行動を取ってください。また日ごろからこの姿勢を持つように心掛けてください。
非常時はリーダーが指揮官先頭で行動・対応することが大原則です。これは戦前、海軍のリーダーを養成する海軍兵学校でも厳しく教えられていたことです。リーダーが動かなければ部下は動けません。リーダー自らが先頭に立ち、衆知を集め、決断する。先頭に立つには覚悟が要りますが、これも普段から覚悟を持って経営をしていなければ、非常時に急には持てません。
いずれにしても経営者はこの先の見通しを、楽観視しないことです。リスクを十分に考え、社内では明るく振る舞うようにしてください。そのためにも、まずは資金の確保が最優先です。
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この記事の著者
小宮 一慶(こみや かずよし)
経営コンサルタント。株式会社小宮コンサルタンツ代表取締役会長CEO。十数社の非常勤取締役や監査役、顧問も務める。1981年京都大学法学部卒業。東京銀行に入行。1984年から2年間、米国ダートマス大学タック経営大学院に留学。MBA取得。帰国後、同行で経営戦略情報システムやM&Aに携わったのち、岡本アソシエイツ取締役に転じ、国際コンサルティングにあたる。この間、UNTAC(国連カンボジア暫定統治機構)選挙監視員として、総選挙を監視。93年には日本福祉サービス(現セントケア)企画部長として在宅介護の問題に取り組む。95年に小宮コンサルタンツを設立し、現在に至る。企業規模、業種を問わず、幅広く経営コンサルティング活動を行う一方、年百回以上の講演を行う。新聞・雑誌、テレビ等の執筆・出演も数多くこなす。経営、会計・財務、経済、金融、仕事術から人生論まで、多岐に渡るテーマの著作を発表。その著書140冊を数え、累計発行部数は360万部を超える。
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