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有休取得の促進にかかったお金を国がサポート!「働き方改革推進支援助成金」とは?

2020.09.14

前回の記事「有給休暇取得の義務化5つのNG事例 違法行為となる前に確認すべきこと」では、会社がやってはいけない違法な事例や、スムーズに有給休暇の取得を進めるための方法をご紹介しました。

とはいえ、対策が必要とわかってはいても「新しいことにはお金がかかるし……」とお悩みの経営者の方も多いはず。実は有給休暇取得の促進に使える国の助成金があるのをご存知でしょうか?

そこで今回は、社会保険労務士の篠田 恭子先生にお話をうかがいながら「働き方改革推進支援助成金」の概要や、休みやすい環境作りによるメリットなどを解説します。

対象者や対策は?「有給休暇取得の義務化」をおさらい

有給休暇は「雇い入れの日から6か月継続して雇われている」「全労働日のうち8割以上の出勤がある」という2つの条件を満たせば、正社員だけでなくアルバイト・パートの人も付与されます。

2019年4月からは「有給休暇取得の義務化」により、すべての企業が対象者に年5日の有給休暇を取得させなければならなくなりました。日本は諸外国より有給休暇取得率が低いという現状から「働き方改革」の一環として法改正されたものです。

篠田:「対象となるのは有給休暇の付与日数が10日以上の労働者で、有給休暇の付与日数が9日以下の従業員は含まれません。また義務付けられたのは、年5日の有給休暇の取得であり、有給休暇5日の付与ではない点にも注意しましょう」

対象の従業員全員が自主的に年5日の有給休暇を取得しているような会社では、特に対策は必要ありません。ですが、そうではない会社の場合、有給休暇の取得を促す取り組みが求められます。

会社が従業員に有給休暇を取得させるための方法は、取得が済んでいない従業員に面談などを行い希望日を定める「個別指定方式」と、あらかじめ会社が有給休暇の取得日を決めておく「計画年休制度」の主に2つです。

どちらの場合も、時季指定のやり方などを就業規則に記載する必要があります。計画年休制度では、労使協定の締結も必須です。

篠田:「有給休暇取得の義務化は会社にとって負担となる面もあるものの、従業員のモチベーションや生産性の向上につながります。労働問題への意識の高まりもあり、会社には遵法の徹底が求められるといえるでしょう。

使い勝手のよい半休制度なども取り入れつつ、有給休暇を取得しやすい環境を整備することが重要です」

罰則も!有休取得義務化への違反はリスクだらけ

有給休暇取得の義務化に違反した場合の罰則は「労働者1名につき30万円以下の罰金」です。もし複数の従業員への違反が発覚すると、その分、罰金も高額になる可能性があります。

違反となる例で代表的なのが「本来の休日を有給休暇に置き換えてしまう」というもので、もともと休みだった年末年始やお盆、土曜などに有給休暇を取得させるケースです。

その他にも、取得日に合わせて大量の仕事を持ち帰らせたり、雇用契約を短期更新にして有給休暇を付与できないと言い張る事例などが見受けられます。

これらの行為は違反であるのはもちろん、人材の離脱につながりかねません。一部、労働者の合意を得て就業規則を「不利益変更」すれば可能となるものもありますが、その場合でも労働者の反発は避けられないでしょう。

篠田:「雇用契約や社会保険に関するトラブルに発展すれば、過去に遡って賃金や保険料を支払わなければならないこともあります。有給休暇取得の義務化をきっかけに労働環境を整備して、経営リスクを軽減すべきです」

「働き方改革推進支援助成金」で有休取得を促進!

有給休暇取得を促進するためには、専門家のコンサルティングを受けたり、労務管理ソフトを導入したりと労働環境整備のための費用がそれなりにかかります。この費用を助成してくれるのが「働き方改革推進支援助成金」です。

篠田:「その他にも生産性の向上を図る『業務改善助成金』や東京都の『事業継続緊急対策(テレワーク)助成金』(2020年8月現在、応募終了)を利用することで、業務効率化によって労働時間に余裕が生まれ、有給休暇が取りやすくなるといった二次的な効果が期待できるかもしれません。

しかし、直接的に有給休暇取得の促進に使えるのは、やはり働き方改革推進支援助成金だと思います」

働き方改革推進支援助成金は、目的に合わせて複数のコースが用意されています。テレワークコースは他のコースと重複して受け取ることも可能ですが、まずは目指す取り組みにマッチしたものを1つ選んで申請するとよいでしょう。

ただし、一度支給されたコースは原則として再度利用することができません。2019年は「時間外労働等改善助成金」という名称だったのですが、旧名称時代に受けたコースについても同じものとみなされます。

なお、申請後や交付決定前にかかった費用は助成金の対象外(職場意識改善特例コースを除く)です。申請時は「見積もり」までしか認められていないことに注意してください。

それでは、有給休暇取得の促進に利用できる4つのコースの概要をそれぞれ見ていきましょう。

最大250万+αを支給!「労働時間短縮・年休促進支援コース」とは

「労働時間短縮・年休促進支援コース」は、有給休暇の取得促進や労働時間の縮減など労働環境の整備を行う中小企業事業主のための助成金です。専門家のコンサルティング・就業規則の作成・労務管理ソフトの導入などの取り組みに要した経費の一部が、成果目標の達成状況に応じて支給されます。

助成を受けるための要件として「年5日の有給休暇の取得に向けての就業規則の整備」が含まれており、有給休暇取得の義務化に向けて計画年休制度などの条項を設けた会社は、この条件を満たすことになります。

その他の要件で注意すべきなのが「36協定」の締結・届出が済んでいるかどうかという点です。36協定とは時間外労働に関する労使間の協定で、法定労働時間を超える残業が発生する場合は必ず労働基準監督署に届け出なければなりません。つまり、まったく残業のない会社や、あっても法定労働時間内に収まっている会社以外は必須の協定なのですが、その実態は不十分だといいます。

篠田:「私の肌感覚ですと、新しい会社はほとんど出していませんね……。存在は知っていても『届出が必要なの?』と言われたりします。

36協定を届け出なければこの助成金は申請できないですし、そもそも36協定なしに残業させるのは労働基準法違反です」

労働時間短縮・年休促進支援コースは、成果目標のうち1つでも達成できれば支給され、すべてを達成した場合の最大支給額は250万円です。これに加えて、賃金引き上げに応じた加算額が合算されます。

支給対象となる取組は、以下の「成果目標」①〜④のうち1つ以上選択し、その達成を目指して実施してください。

  1. 全ての対象事業場において、令和2年度又は令和3年度内において有効な36協定について、時間外労働時間数を縮減し、月60時間以下、又は月60時間を超え月80時間以下に上限を設定し、所轄労働基準監督署長に届け出を行うこと
  2. 全ての対象事業場において、週休2日制の導入に向けて、所定休日を1日から4日以上増加させ、規定後1月間においてその実績があること
  3. 全ての対象事業場において、特別休暇(病気休暇、教育訓練休暇、ボランティア休暇)の規定をいずれか1つ以上を新たに導入すること
  4. 全ての対象事業場において、時間単位の年次有給休暇の規定を新たに導入すること

上記の成果目標に加えて、対象事業場で指定する労働者の時間当たりの賃金額の引上げを3%以上行うことを成果目標に加えることができます。

篠田:「経費の内訳は、詳細に記載して提出する必要があります。見積もりを出す際に助成金の対象になるかどうかわからない機器などがある場合は、労働局の雇用環境・均等部(室)に問い合わせるとよいでしょう。

経費として認められるものの中で取り組みやすいのが、タイムレコーダーの導入です。手書きのタイムカードはやむを得ない場合のみしか認められていないのですが、いまだに使っている会社が多くて……。しかもタイムレコーダーは決して安いものではないですから、助成金を活用すると便利だと思いますよ」

【参照】
働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)|厚生労働省

「勤務間インターバル導入コース」で、従業員の休息時間を確保

「勤務間インターバル導入コース」は、勤務間インターバルの導入に取り組む中小企業事業主の支援を目的とした助成金です。勤務間インターバルとは、勤務終了後から翌日の出社までに一定の休息時間を確保することをいいます。

深夜まで残業して翌朝定時で出社するような状況が続くと、従業員の健康を阻害しかねません。勤務間インターバルを導入することで、設定した休息時間の分は翌日の始業時刻を繰り下げることが可能です。

助成を受けるための要件は、「労働時間短縮・年休促進支援コース」と大部分が重なっており、同様に「年5日の有給休暇の取得に向けての就業規則の整備」「36協定の締結・届出」が含まれます。また、支給対象となる取り組みは同一です。

勤務間インターバルの休息時間は、「9時間以上11時間未満」または「11時間以上」とし、その内容を就業規則に規定することが求められます。休息時間が長いと支給額も大きく、最大支給額は100万円です。賃金の引き上げを成果目標に加えた場合は、人数や引き上げ率に応じて加算額を合計します。

篠田:「もともと休息時間が確保されている会社なら、勤務間インターバルを導入しやすいため、申請しやすい助成金だと思います。そのため働き方改革推進支援助成金の中でも、非常に人気が高いです。

健全過ぎるといいますか、残業ゼロで勤務間インターバルを導入する必要がないような会社だと、逆に対象にならないんですね。少し残業があって、勤務間インターバルの取り組みをはじめようという、そんな会社のための助成金です」

【参照】
働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)|厚生労働省

新型コロナウイルス対策の特別休暇に使える「職場意識改善特例コース」

「職場意識改善特例コース」は、新型コロナウイルス感染症対策として特別休暇制度の整備を行う中小企業事業主を対象に期間限定の助成金として設けられました。子供の休校に伴う休暇や感染の疑いがある人の休暇を導入することで、従業員が安心して休める環境を整えることを目的としています。

篠田:「職場意識改善特例コースは急遽設けられた助成金ということで、申請のハードルが低いのが特徴です。支給対象となる取り組みは労働時間短縮・年休促進支援コースと同一ですが、『年5日の有給休暇の取得に向けての就業規則の整備』も『36協定の締結・届出』も求められません。特別休暇の規定を新たに整備すればほぼ要件を満たします。

とはいえ、『36協定』は届出していないと労働法違反となりますのでご注意ください。」

他の助成金と違い、交付決定前にかかった経費も支給の対象となり、最大支給額は50万円です。ただし、申請受付は2020年9月30日で締切となるので注意してください。

【参照】
働き方改革推進支援助成金(職場意識改善特例コース)|厚生労働省

テレワークも有休も!「テレワークコース」でゆとりある生き方を

「テレワークコース」は、テレワークを導入する中小企業事業主を対象とした助成金です。テレワークをワークライフバランス向上のための施策とし、その他にも、過重労働の防止や有給休暇制度の改善などに取り組むことが求められています。

過去にこの助成金を受給していても、テレワークの対象労働者を2倍に増やした場合は再度受給が可能です。

助成金を受け取るためには、テレワークの導入が大前提ですが、専門家によるコンサルティングや就業規則の作成・変更なども支給対象となります。そのためテレワークの導入と有給休暇取得の促進を同時に進めているような会社では、申請を検討してみるとよいでしょう。

篠田:「新型コロナウイルスの影響もあり、テレワークコースを申請した会社はかなり多いと思います。ただしパソコンの購入費用については、対象となるのはシンクライアント端末(ユーザーが使用する端末)のみです」

成果目標として「評価期間に対象労働者全員が1回以上テレワークを行う」「評価期間におけるテレワークの週間平均回数が1回以上」という2つの目標を設定する必要がありますが、未達成でも支給対象となります。もちろん達成したほうが支給額は多く、その場合の最大支給額は300万円です。

【参照】
働き方改革推進支援助成金(テレワークコース)|厚生労働省

※2020年8月現在、応募終了しておりますが、働き方改革推進支援助成金(新型コロナウイルス感染症対策のためのテレワークコース)については、新たに募集を開始する予定です。

なお、東京都内に本社または事業所を置く中堅・中小企業向けに「テレワーク定着促進助成金」の募集が8月24日より開始しています。助成金の上限は最大250万円、申請受付方法郵送による提出となります。合わせてご確認ください。

「休みやすいは、働きやすい」有休取得促進で人材を確保

「働き方改革推進支援助成金」は、有給休暇取得の促進や義務化への対策にお悩みの経営者の背中を、そっと押してくれる制度です。助成金を活用することで、専門家によるコンサルティング・研修や労務管理ソフトの導入などの取り組みに気兼ねなく投資できます。

篠田:「現政府が推進している働き方改革はいつまで続くかわからないですし、助成金の内容が変更される可能性も否定できません。助成金は年を追うごとに条件が厳しくなっていく傾向がありますから、なるべく早く申請しておいたほうがよいと思います。

そして働き方改革推進支援助成金は電子申請(テレワークコースを除く)や郵送申請もできるので、申請を社会保険労務士に依頼する場合でもメールやWeb会議での相談や郵送でのやりとりで済ませることが可能です。その際は、オンライン対応に積極的な社会保険労務士を探してみてはいかがでしょうか」

働き方改革が注目される中、「休みやすい会社」は「働きやすい会社」として、その魅力を存分にアピールできるといえるでしょう。人材確保に悩む中小企業であれば、なおさらのことです。環境整備を面倒と思わず、従業員のモチベーションアップや健康維持の一環として、前向きに取り組むことをおすすめします。

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この記事の著者

篠田 恭子(社会保険労務士)

977年埼玉県川越市生まれ。システムエンジニアとして約10年勤務。仕事・子育てをしながら、2011年社会保険労務士試験に合格。2013年1月社会保険労務士事務所を開業。2014年4月特定社会保険労務士付記。 2018年5月移転を機に事務所名を「おひさま社会保険労務士事務所」に変更。 働くすべての人が「楽しい」と思える職場づくりを応援します!を経営理念に掲げ、地域の企業を元気にするために、日々活動している。(所属)全国社会保険労務士会連合会、埼玉県社会保険労務士会、埼玉県社会保険労務士会 川越支部

おひさま社会保険労務士事務所  https://k4-da.net/

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