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働き方改革対応、助成金獲得、採用・定着率アップも!社労士に聞く「スモールビジネスのための社労士活用法」

2019.11.28

著者:弥報編集部

監修者:篠田 恭子

働き方改革関連法の施行でスモールビジネス経営者も人事制度の整備や精度の高い労務管理が求められています。しかし、経営者がその全てに精通して実行するのはハードルが高いと感じている方も少なくないでしょう。

そんな時は、専門家である社会保険労務士(社労士)にサポートしてもらうことで、経営者の負担を減らせるばかりでなく、労務トラブルの防止や社員の定着率向上が期待できますが、そもそも社労士とは企業にとってどんなことをしてくれる方たちなのでしょうか。

社労士に頼めること、依頼するメリット、自社に合った社労士の選び方を社労士の篠田恭子(しのだ・きょうこ)先生に聞きました。

社労士とは“人”に関することの専門家

税理士とは顧問契約を結んでいるけれど、社会保険労務士(以下、社労士)とは付き合いがない、具体的に何を頼めるのかわからないという声を聞きます。実際のところ、社労士は何をしてくれる人なのですか?

社労士は税理士と同じ、国家資格の士業です。税理士が税金の専門家なのに対し、社労士は名前の通り、社会保険と労務という“人”に関することの専門家です。

社労士だけが業として行えること(独占業務)は下記の3つになります。

  1. 労働社会保険諸法令に基づく申請書等及び帳簿書類の作成
  2. 申請書等の提出代行
  3. 申請等についての事務代理

また、社労士の中には「特定」が付記された特定社会保険労務士がいます。特定社会保険労務士は、社労士の独占業務に加え、労働関係紛争に関するあっせん手続きの代理やパート労働法などに基づいて都道府県労働局が行う調停手続きの代理などが独占業務になります。

社労士は上記の独占業務以外にも、賃金の計算に関する事務や労務管理などに関するコンサルティングを行えます。

「社会保険や労務の手続き」「助成金獲得」「求人や賃金設計」など幅広く依頼できる

社労士の独占業務にあたる書類作成・手続き業務の具体的な内容を教えてください。

事業所単位では、就業規則、36協定、社会保険加入などの書類作成と届出があります。

社員単位で大きいのは入退社時に必要な健康保険、厚生年金保険、雇用保険などの手続きですね。その他には、年一回の健康保険・厚生年金保険の算定基礎届、労働保険料の年度更新、傷病による休暇・休業や給付金申請の手続きなどがあります。

厚労省の雇用保険関係助成金の申請代行や公共職業安定所(ハローワーク)に提出する書類の作成・届出代行も社労士の独占業務です。

その他にお願いできることはありますか?

社労士によって対応範囲は異なりますが、ざっくり言うと、会社の従業員に関することは何でも依頼できます。もちろん、弁護士など他の士業の独占業務は除きます。社労士は労務トラブルの予防はできますが、紛争になってしまっている場合は、一部を除き弁護士さんの出番ですね。

実際にクライアントさんからの依頼で多いのは給与計算ですね。残業時間の計算や社会保険料の天引きなど社労士の業務と親和性が高いので。

その他は賃金制度を含めた人事制度の設計、人材育成、人に関する各種の相談対応などのコンサルティングが中心になります。最近では、有給休暇取得義務化や労働時間把握義務化を受けて、変形労働制の導入や休暇制度の整備などの依頼も増えています。私の場合、シフトの組み方の相談なども受けていますよ。社労士の他に産業カウンセラーなどの資格も持ち、従業員のメンタル面のコンサルティングに力を入れている社労士もいます。

また、このところ目立って増えているのはハローワーク以外の求人広告の作成など、人材採用系の業務です。社労士は入退社の情報を把握していますから、どんな人が定着しやすいかを理解した上で採用活動のアドバイスができます。採用で大きな成果を上げている社労士もいると聞きます。

経営者へのコンサルティングだけでなく、社内研修の講師や従業員との面談の依頼も少なくありません。研修講師を専門にしている社労士もいます。

社労士に依頼するメリットは「労務トラブルの予防」や「定着率の向上」

スモールビジネス事業者が社労士に業務を依頼するメリットは何ですか?

大きくは次の3点です。

1. 書類の作成や届出を漏れなく正確に行える

労務関係の手続きは労働法の知識がないと正確に行うのが難しいところがあります。例えば、ハローワークに出す求人票の内容が間違っていて、せっかく採用したのに「話が違う」ということですぐに退社してしまっていたケースがありました。社労士に依頼すればこういったトラブルは防げます。

2. 労務トラブルの発生を防止できる

給与計算のような事務作業でも、社労士が行うことで給与計算が間違っていて未払い残業代でトラブルになるなどのリスクが回避できます。

3. “人”に関することのコンサルティングを依頼できる

働きやすい職場作り、人材育成などに、専門家としての知識やノウハウを生かしたサポートやアドバイスができます。

それぞれについて、もう少し具体例を挙げて紹介すると、下記があげられます。

【制度作り】

  • フレックスタイム制の導入
  • 1年単位、1か月単位の変形労働時間制の導入
  • 育児・介護休業制度の整備
  • 人事制度(人事評価を給与に適切に反映し、従業員のモチベーションアップにつなげる)

【人材育成のための従業員向けの研修】

  • ハラスメント研修
  • 人事評価者研修
  • 階層向け研修
  • メンタルヘルス対策
  • 労働法に関する研修

こうした施策を的確に行うことで、従業員の満足度が向上し、定着率が上がります。

なるほど!では、社労士に依頼する場合、費用はどれくらいかかるのでしょうか?

社労士の報酬に公的な規定や目安はありませんが、相談業務の顧問料は月1万円からお引き受けしているところが多いと思います。事業形態や依頼内容にもよりますが、一般的には税理士よりは顧問料は低めになります。顧問料以外の費用も会社の規模や社労士によって幅があります。

就業規則を例に挙げると、私の事務所の場合、助成金対策として最低限必要な「就業規則+賃金規定」の新規作成は基本料金10~15万円、就業規則の変更(見直し)は顧問先3万円~、スポット5万円~としています。必要な協定届の提出や就業規則の従業員説明については、私の事務所は別途頂戴していますが、基本料金に含める社労士もいると思います。

社会保険(健保・厚生年金)への加入の手続きは新規適用届と被保険者資格取得届が必要です。扶養家族がいる場合は被扶養者異動届も必要になります。私の事務所の場合、新規適用4万円、資格取得届1名につき5千円で、最低4万5千円になります。加入する従業員人数や扶養家族の人数によって必要な手続きの量が変わりますので、料金も変わります。

社労士によって料金に幅があるとはいえ、会社が大きくなり人事総務業務が増えてきた場合、そのために従業員を雇用するより、社労士にアウトソースした方が費用は抑えられると考えています。

また、社労士に依頼することで助成金が獲得できれば、費用面では助かりますね。

顧問契約を結んだ方がいいのは、どのような事業者でしょうか?

未払い残業代の訴訟など労務トラブルが年々増加していますし、働き方改革関連法に対応するための制度などの整備も必要です。経営者よりも従業員の方が制度に詳しい傾向があり、従業員からの質問がきっかけで相談に来られる経営者も増えています。

トラブル防止の観点からも、人を雇用する事業者であれば社労士と顧問契約を結ばれるのが望ましいと思いますが、特に事業が急成長中で入社人数が多い事業者や従業員の出入りが多い事業者は、入退社の手続きを漏れなく正確に行うために、顧問契約を結んで社労士に依頼した方がいいと思います。

給与計算も社労士に依頼してほしい業務ですね。「うちはちゃんとやっているから」とおっしゃる事業者でも、助成金の申請のために賃金台帳を提出してもらうと計算が間違っていることがよくあります。計算ミスという意味ではなく、どれが残業に相当するのかなどが間違っているのです。

この状態だと助成金が申請できないばかりでなく、未払い残業代として問題になったりしますから、社労士に依頼して正確に計算してもらった方がトラブルの防止にもなります。

選ぶポイントは「得意分野」「会いやすさ」「人柄」

良い社労士の探し方・選び方を教えてください。

探す方法は知り合いや税理士さんに紹介してもらうか、ネットで探すかですね。私の場合も税理士さんの紹介とホームページからの問い合わせからクライアントになられるケースがほとんどです。

ネットでは、全国社会保険労務士会のホームページで検索することもできます。検索ならここが一番信頼できます。

次に社労士の選び方ですが、下記の3つを考慮してください。

1.得意分野・業種

社労士によって得意分野は異なります。特定の分野に特化している社労士もいますし、一通りやるけれども助成金はやらない社労士も少なくありません。頼みたい内容に適した社労士を選びましょう。

福祉業界の介護職員処遇改善加算制度のように特殊な制度のある業界の事業者は、その業界を得意とする社労士の方が依頼しやすい場合があります。また、「残業が発生しないような勤務体制を作ってほしい」というような依頼をする場合も、その業界に詳しい社労士の方が頼みやすいかもしれません。業務の実態に合わない制度設計をしてしまうようなことが避けられますので。

2.会いやすさ

最近はWeb会議システムを使ってオンラインで相談を受けることもありますが、労務関係の相談はやはり対面で行いたいという方も多いです。対面を希望する場合、会いやすさは重要です。

社労士の仕事の形態には、社労士が依頼主を訪問する訪問型と依頼主に事務所に来てもらう来所型とがあります。訪問型の場合、依頼主としては移動しなくていいというメリットがある反面、たまにしか来てくれない場合があるとか急な相談に対応してもらい辛いというデメリットがあります。来所型はその逆です。

来てもらうにせよ、訪問するにせよ、近くの方が会いやすいですね。近ければ、申請期限ぎりぎりの書類を直接届けられます。実際の業務ではそういう一見小さなところが大きなメリットになります。

また、厚労省の助成金の他に、自治体の助成金も色々ありますので、事業所のある自治体の制度に詳しいという点でも近隣の方がいいと思います。

3.人柄

社労士は個人で開業しているケースが多いので、その人が信頼できるかどうかが一番の決め手です。社内研修講師など従業員と直接対話する業務を依頼する場合は、経営者だけでなく従業員からも信頼される方が最適です。女性の従業員が多い業種の男性経営者の方から、「女性の社労士さんの方が、僕よりも従業員の気持ちがわかるだろう」と言われることもあります。

顧問契約ではなく、スポットでの依頼もできますか?

もちろんです。社労士にもよりますが、最初から顧問契約するのではなく、スポットで頼んでみてよさそうだったら顧問契約することも可能です。顧問契約している社労士が手掛けていない分野のことをスポットで他の社労士に依頼するケースも多いですよ。私の場合ですと、顧問契約している社労士が助成金をやっていないからという理由で、助成金のみスポットで依頼されることもよくあります。

顧問契約を結ぶ場合に注意してほしいのは、月々の顧問料でどこまで対応してもらえるのかです。従業員数に応じた顧問料を設定している社労士が多いですが、「1-10人まで○○円」「11-20人まで××円」というようにランクで設定している場合と、「基本料金+○○円×従業員数」のように設定している場合があります。

ホームページに料金を掲載していない社労士が多いので、年一回の届け出は別料金になるのか、訪問型の場合は顧問契約料金内で月に何回来てもらえるのかなどもよく確認してください。

近頃は働き方改革関連法の影響で、就業規則の改訂の依頼なども増えてきています。法令改正に適切に対応するためだけでなく、働きやすい会社にすることで人材の採用や定着率を向上させるためにも、社労士を上手に活用していただきたいと思います。

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この記事の著者

弥報編集部

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この記事の監修者

篠田 恭子(社会保険労務士)

1977年埼玉県川越市生まれ。システムエンジニアとして約10年勤務。仕事・子育てをしながら、2011年社会保険労務士試験に合格。2013年1月社会保険労務士事務所を開業。2014年4月特定社会保険労務士付記。 2018年5月移転を機に事務所名を「おひさま社会保険労務士事務所」に変更。 働くすべての人が「楽しい」と思える職場づくりを応援します!を経営理念に掲げ、地域の企業を元気にするために、日々活動している。(所属)全国社会保険労務士会連合会、埼玉県社会保険労務士会、埼玉県社会保険労務士会 川越支部

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