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うちの会社は残業社労士に聞く「中小企業の労働時間把握義務化」がないから無関係…はNG!

2019.06.10

著者:弥報編集部

監修者:篠田 恭子

2019年4月から中小企業も対象となった労働時間把握義務。従業員がどれくらい働いているのか正確に把握することは働き方改革の基礎であり、これができていなくては業務の効率化もおぼつきません。

今回は中小企業の労働時間把握のポイントとアドバイスを社会保険労務士の篠田恭子(しのだ・きょうこ)先生に教えていただきました。

「うちは残業がない」は本当?残業代未払いになっていないかもう一度確認を!

労働時間把握義務化とは、具体的に何が義務化されたのですか?

篠田恭子先生(以下、篠田):「客観的な方法による把握」が義務化されました。改正された労働安全衛生法の条文(第66条8の3)では「厚生労働省令で定める方法により」と書かれており、その内容が労働安全衛生規則に「客観的な方法その他適切な方法」と定められています。

(法第六十六条の八の三の厚生労働省令で定める方法等)
第五十二条の七の三 法第六十六条の八の三の厚生労働省令で定める方法は、タイムカードによる記録、パーソナルコンピュータ等の電子計算機の使用時間の記録等の客観的な方法その他の適切な方法とする。

労働基準法ではなく、労働安全衛生法なのですね。

篠田:はい、そうです。労働者の健康管理を目的とした改正です。2020年4月から残業時間上限規制が中小企業にも適用になりますが、残業時間の適正な把握のためには労働時間の適正な把握が必須ですから、その前準備とも言えますね。

労働時間把握義務化と残業時間上限規制に関して「うちは残業がないから関係ない!」という声があるようですが、実際のところはどうなのでしょうか?

篠田:「労働時間把握」の内容は単に時間数の把握ではなく、時間帯も含めた実態の把握ですから、残業がないから労働時間を把握しなくていいわけではありません。

また、「うちは残業がない」という経営者さんに詳しく話を聞くと「それは残業です」という時間がほぼ必ずあります。例えば、製造業で「1日7時間、週6日勤務」は、法定労働時間を超えていますから超えた分は時間外労働です。「1日7時間以上働いてもらうことはないから残業はない」は間違いです。

着用が義務付けられた制服への着替えや清掃など始業前の準備や終業後の片付けにかかる時間も労働時間です。それも含めて法定労働時間以内に収まっているでしょうか? 法律上の定義に照らし合わせて残業のない会社は滅多にないと思いますから「うちは残業がない」と思っている経営者の方は本当に残業がないのか、もう一度見直していただきたいですね。

今回の改正で「管理監督者も対象になった」と聞きますが、管理職も対象になったということなのでしょうか?

篠田:管理職だからといって「管理監督者」なわけではありません。職務内容、責任と権限、待遇などの実態によって判断されます。少人数の企業の場合、役員以外の管理職は「管理監督者」に入る可能性があります。なお、今回の改正では裁量労働制適用者も労働時間把握の対象に含まれました。

従業員の労働時間を把握しなかった場合の罰則はあるのでしょうか?

篠田:労働時間把握義務違反という形での直接的な罰則はありませんが、労務関係に関する重要な書類に適正に記録しないことになるので、記録保管義務(109条)違反で30万円以下の罰則の対象になります。近頃は元従業員からの残業代未払の訴訟が増えています。訴えられた時に記録がなければ反論もできません。

例えば、私の事務所でも初めて相談に来られた経営者の方に「従業員から『私には有給はないんですか?』『これは残業ではないのですか?』と聞かれたがどうすればいいか」と質問を受けることが最近増えています。経営者よりも従業員の方が情報収集しているので「知らなかった」では済まされませんし、信頼を失いかねません。

残業代の未払いで数百万円を支払うことになったりしたら、中小企業にとっては大打撃です。日頃からきちんと対応しておくのが一番です。

企業がやるべき3つのポイント。中小企業へのおすすめの方法と注意点

労働時間を把握するために具体的に企業がやるべきことは何でしょうか?

篠田:大きくは下記の3つです。

  1. 客観的な方法で労働者の労働日ごとの業務開始・終了の時刻を把握・記録する
  2. 何が労働時間に当たり、その内どれが時間外労働に当たるのかを理解する
  3. 各労働者の労働時間の状況を把握・記録・保管する
まず 1の「客観的な方法による労働者の労働日ごとの業務開始・終了の時刻の把握・記録」について中小企業へのおすすめの方法はありますか?

篠田:おすすめはクラウド型のITを活用した勤怠管理システムです。正確ですし、給与計算ソフトと連動させればデータの入力や移行の手間も省けます。費用も1人当たり月々数百円くらいと安いですし、時間外労働等改善助成金の対象になる場合もあります。弥生認定連動製品にも、弥生給与と連動できる勤怠管理クラウドサービス「CLOUZA」などがありますね。PCやタブレットで使えるので専用の機器を導入する必要もありませんし、弥生ユーザーの方は検討してみてはいかがでしょうか。

タイムカード打刻や、出勤簿に自分で記入する方法はどうですか?

篠田:紙のタイムカードは客観的な把握方法の一つとして認められていますが、給与計算時に入力の手間がかかり、間違いも起こしやすいです。新規に導入するには専用機器の購入や場所の確保が必要な上、運用面でも専用の紙代がかかりますし、保管も大変なのであまりおすすめできません。

出勤簿に自分で記入するのは自己申告になりますが、自己申告は客観的な方法で把握し難い場合にやむを得ず認められる方法で、原則は客観的な方法による把握とされています。どうしても自己申告にせざるを得ない場合も、実態と乖離がないか調査が義務付けられているため使用者側の負担も大きくなります。加えて、申告自体に間違いが発生しやすく、また給与計算時のミスも起こりやすいという欠点もありますから、他の方法への変更を検討しましょう。

遅刻や早退の時だけ申告して、それ以外の日は特に何もしないというのは論外ですから早急に改善しましょう。

では、次の「何が労働時間に当たり、その内どれが時間外労働に当たるのかを理解する」ですが、先ほどのお話にあったように「実は時間外労働」というケースも多いのですね。

篠田:そうですね。月額固定給で「残業時間分も入っている」とおっしゃる経営者の方も少なくありませんが「みなし残業制(固定残業制)」の場合は就業規則等に「みなし残業制」を導入していることを明記した上で、みなし残業時間とそれに当たる金額を雇用契約書等で明示する必要があります。当然、その時間を超えたら追加で残業代を支払わなければなりません。

残業代未払いで問題になるのは、みなし残業時間と金額を明示せずに、「残業代込みの月額固定給」としているケースが多いので、早急に残業時間の線引きを明確にしましょう。

制服への着替え時間や始業前の清掃時間、研修などの時間も労働時間とのことですが、例えば自主的に清掃している場合はどうなのでしょう?

篠田:文字通り自主的にやっているなら労働時間ではありませんが、暗黙の裡に新人がやるのが当然とされている場合などは労働時間とみなされる可能性がありますね。また、美容院などで終業後の研修や練習を行っている場合も自主練習なのか義務なのか明確にして、従業員に説明しておく必要があります。

小規模なクリニックで、午前中の診療終了が延びがちな上に昼休みに電話対応しなければならず、実質的に1時間の休憩が取れないことが問題になったケースもあります。休憩時間や始業前始業後の電話対応や訪問客対応についても社内で認識合わせをしておきましょう。

あまりにガチガチにルール化すると職場の雰囲気がギスギスするのではないかと懸念する声もあります。

篠田: そういう懸念もわかりますが、線引きは必要ですし、社内文化のいいところは残しつつ、仕事とそれ以外のメリハリをつける方法を考えていただきたいと思います。線引きについての社内での認識合わせが重要ですから、全体ミーティングの時に触れるなどして共有し、納得感を持って働いてもらえるようにしていきましょう。

最後の 「各労働者の労働時間・残業時間を把握・記録・保管する」については、何か注意点などはありますか?

篠田:記録には3年間の保管義務があります。残業時間などを記載した賃金台帳だけでなく、タイムカードなどの元データも対象です。電子データでの保管も認められていますが、過去のデータのフォーマットを流用しようとして、データをうっかり上書き更新してしまわないように注意しましょう。

36協定は届け出ないと無効!電子申請も活用しましょう

労働時間を把握してみて、1時間でも時間外労働があるなら36協定を結ぶことが必要ですよね。

篠田:もちろんです。また、36協定は結ぶだけでなく届け出が必要なことをご存じない方も少なくありません。届け出て初めて有効になりますので、例えば期間を「4月1日から1年間」として結んでも、忙しいからと4月10日に届け出たら、「4月9日までは無効」になります。4月9日までに時間外労働をさせていたら違反になります。「結んでいるから大丈夫」ではありませんので注意してください。

36協定を新規に結ぶためには、どれくらいの手間と費用がかかるか目安を教えていただけますか?

篠田:書類自体はA4で1~2枚です。電子申請も可能ですし、協定の内容さえ決めてしまえば記入にはさほど時間はかかりません。また、申請に費用はかかりません。社労士に依頼する場合の費用には幅がありますが、高くても数万円だと思います。

まず届出用紙を入手して、決めるべき内容を把握するところから始めましょう。わからないことがあれば、監督署に聞くこともできますし、厚生労働省の「36協定届出等作成支援ツール」、東京労働局「よくあるご質問」なども参考になります。協定の内容だけでなく、過半数代表者の選出方法も重要ですから、しっかりやりましょう。

36協定は更新が必要ですから、事前に届け出られるように早めにスケジュールに組み込んでおくこともポイントです。

労働時間の把握は働き方改革の基礎ですから、しっかり対応することが必要ですね。

篠田:「外を飛び回っていて、労働時間の把握なんてできないよ」とおっしゃる経営者もいらっしゃいますが、今は離れている人ともメールやSNSで連絡を取ることがいくらでもできます。スマホやタブレットから使えるクラウド型の勤怠管理ツールで、外回りの多い従業員の労働時間を管理している企業もあります。把握できないなどということはありませんから「どうしたらできるか」を考えて実行していきましょう。

【関連記事】

【参考リンク】

■厚生労働省
労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき処置に関するガイドライン
36協定届出等作成支援ツール

■東京労働局
しっかりマスター労働基準法—割増賃金編
よくあるご質問

■弥生株式会社
働き方改革への取り組みガイド
弥生認定連動製品 勤怠管理クラウドサービス「CLOUZA」

この記事の著者

弥報編集部

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この記事の監修者

篠田 恭子(社会保険労務士)

1977年埼玉県川越市生まれ。システムエンジニアとして約10年勤務。仕事・子育てをしながら、2011年社会保険労務士試験に合格。2013年1月社会保険労務士事務所を開業。2014年4月特定社会保険労務士付記。 2018年5月移転を機に事務所名を「おひさま社会保険労務士事務所」に変更。 働くすべての人が「楽しい」と思える職場づくりを応援します!を経営理念に掲げ、地域の企業を元気にするために、日々活動している。(所属)全国社会保険労務士会連合会、埼玉県社会保険労務士会、埼玉県社会保険労務士会 川越支部

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