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「契約書を作成しなかった」ことによる損害リスクを避ける!経営者が知っておくべき契約知識の基本を弁護士に聞いてみた

2022.03.10

著者:弥報編集部

監修者:棚田 章弘

「売買契約」や「業務委託」「業務提携」など、ビジネスシーンではさまざまな契約を交わすことがあります。すべてにおいて契約書が必須ではありませんが、契約書を作成しなかったがゆえに損害が出たり、裁判にまで発展してしまうケースや事例もありますから、注意が必要です。契約のしくみを知っておくことは、スムーズにビジネスを進めるために必須と考えてください。

また、契約時のリスクを最大限に減らすために留意するべきポイントも知っておく必要があります。そこで今回は、経営者が知っておくべき契約のしくみや個人事業主、中小企業によくある契約書の発生ケース、締結時のポイントなどについて、大谷・佐々木・棚田法律事務所の弁護士である棚田 章弘さんにお話を伺いました。


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ポイントは取引継続の有無!契約書が必要なケース

そもそも契約書が必要な状況とは、どのようなケースなのでしょうか?

契約は法律で作成するよう定められている特殊な場合を除き、原則としてお互いの意思が合致することによって成立します。極論を言ってしまえば、契約書がなくても取引活動自体は成立させられます。また、一方が決定権を持つ際にも必要ありません。例えば、スーパーで買い物をするときなどには、契約書を作成しません。

では、どのようなケースで契約書を締結すべきなのかというと、B to Bで想定されるケースは以下の通りです。

  1. 取引が1回で終わらず、反復継続して行われる場合(継続的売買)
  2. 長期間に渡って関係が継続する場合(共同研究)
  3. 金額が大きい場合(不動産取引など)
  4. 金銭消費貸借(争われる場合:Ex.もらった、お金を借りていない)
  5. 権利の移転に関する契約(債権譲渡、著作権譲渡、契約上の地位の譲渡、株式譲渡など。権利は物と違って見えないもの)
  6. 業務委託、請負
  7. 雇用契約(義務)
  8. 和解(要注意:必ず専門家に相談すべき)

B to Bの場合、少額か即終了の事案以外は、基本的に契約書を作成しておいたほうがよいでしょう。

一方、B to Cの場合も基本的にはB to Bと同様です。ただし消費者に対する取引には、特定商取引法や割賦販売法など、事業者に「文書交付義務」が課せられているものがあります。文書交付義務が課されている場合には、契約書を作成し必要事項を記載しなくてはいけません。

特に特定商取引法の場合は、クーリングオフの書面を交付しておかないと、いつでも無条件解除されてしまう可能性があるため、注意が必要です。なお契約書の役割は法的な効果だけに留まらず、相手方に契約締結の事実を自覚させ自発的に履行を促す意味があることも、念頭におくべきでしょう。

契約書の締結が必要ない状況とは、どのようなケースなのでしょうか?

その場限りの1回の取引で終わってしまうような契約であれば、契約書はなくても構いません。例えば文房具や業務に必要なノートを買うような場合は、代金と引き換えに目的物をもらい、それで関係が終わるので契約書は不要です。

また、相手方が先に契約義務をすべて完了したうえで、その後もお付き合いするようなことがない場合も契約書は必要ないでしょう。例えば内装工事を依頼して既に作業が完了し、問題ないことが確認できているような場合ですね。

契約書と似たものに覚書がありますが、両者の違いを教えてください。

法的には、合意の中身で契約が決まるため、覚書という題名であっても内容は契約書というケースもあれば、その逆もあり得ます。契約書と覚書の違いを意識するのであれば、契約書はまさに契約を締結するときに作成するもの、覚書は契約書の補充や追加合意などの場合に作成するものである、ということで考えておけばよいでしょう。

もし裁判に発展したら?契約書を発行しないデメリットやリスク

契約書を発行しないことによって、どのようなデメリットを被る可能性があるのでしょうか?

契約書を作成しなかった場合は、基本的に何か取引で問題が発生したときにデメリットが生じる可能性が高いです。例えば契約の成立自体を否定されるケースや、取引条件が明示されていないことで「そんな条件では契約していない」と言われるようなケースが挙げられます。

なお契約書を作成していても、相手方が「そんな条件は知らない」と言ってくるような場合があり得ると思います。しかし裁判になった場合、そのような主張が通る可能性は低いでしょう。最終的には代金が払われない、仕事をしてもらえないなど契約が履行されないケースが一般的です。

契約書を締結せずに取引先とトラブルになった場合、どのようなリスクがあるのでしょうか?

契約書を締結せず紛争に発展した場合には、裁判手続になる可能性は契約書を作成した場合に比べて高くなる傾向にあります。裁判を行う場合は、基本的には短くても1年はかかると考えておいてください。事案にもよりますが、例えば建築紛争の場合であれば、少なくても23年の時間が必要です。建築紛争は、基本的に非常に長くなる傾向にあります。

もちろん契約書がないことが原因で、裁判で負けてしまうこともあります。

また仮に裁判で勝ったとしても、例えば売掛金などを回収しようとすると強制執行の手続きなどに時間がかかるうえに、お金が回収できないケースもあります。つまり裁判に勝っても、必ずしもメリットがあるとはいえないのです。

継続的取引をしていて売掛金がたまっているような場合は、どのような商品をいつ、どのように売ったのか、すべての証拠を確認する必要があります。そのため会社中の資料を調査する必要があるので、非常に時間がかかります。契約書を締結し受発注手続きをきちんとしておくことができれば、いざ裁判になったときに証拠が整理できているということにもつながります。

さらに弁護士と相談する時間や、資料を確認する時間なども必要です。また、すべての作業を弁護士側で実施できないので、どうしても会社の方にも作業をしてもらう必要があります。

このように契約書をきちんと締結しておけば、裁判沙汰になるリスクを回避できる可能性は高くなります。もちろん、契約書を締結している場合でも裁判になることはありますが、リスクはかなり軽減できるでしょう。また、万が一裁判沙汰になった場合でも、契約書を締結していれば時間の大幅な短縮につながります。

個人事業主や中小企業にありがちな「今までウチは大丈夫だったから」というケースは、たまたまこれまで大丈夫だったというだけで、今後の安全が担保されているわけではありません。例えば、これまでは少額取引だったので、たまたま大きなトラブルには発展しなかっただけで、会社が成長して取引金額が大きくなった場合は同じようにはいかない可能性が高くなるのです。契約書を締結していない状態でトラブルに発展した場合は、会社が被る損害は多大なものになると考えましょう。

仮に裁判に勝ったとしても、1年以上売掛金が回収できない場合に、会社が耐え続けられるかという点にも留意する必要があります。

業務範囲は明確に!【契約種類別】契約書に盛り込むべき内容

「業務委託契約」の締結が必要なシーンと契約内容の概要、締結時に押さえるべきポイントなどを教えてください。
業務委託契約の概要

業務委託契約とは、ある業務を自分の代わりに相手方に行ってもらう契約です。「請負契約」は「仕事の完成」が業務内容に含まれますが「業務委託契約」に「仕事の完成」は含まれません。ただし、昨今は請負的な内容で業務委託契約という名称を用いるケースが多く、実際には契約書の中身で業務委託か請負かを区別するのが一般的です。

業務委託契約が必要なシーン

取引先に仕事を依頼するときには、業務委託契約か請負契約が必要と考えてもらえばよいでしょう。なお、業務委託と請負の双方に言えることですが、個人事業者が相手方となる場合、あまりにも拘束力が強い契約であると、雇用と同視されるリスクがあります。したがって、企業側にとって一方的に有利すぎる内容の契約には注意が必要です。

業務委託契約に含めるべき内容

業務委託契約は相手に業務を依頼することが契約内容であるため、必然的に定めておくべき内容は「業務の内容」と「料金」です。

また必要に応じて、契約期間、役割分担、経費負担、材料提供や物品貸与、成果物の権利帰属、秘密保持、不履行時や品質問題などの処理、再委託の可否といった条項を加えます。業務委託契約の内容は多種多様なので、依頼したい業務に似たひな形などを活用して、適切な契約を作ることが一般的です。ただし複雑な内容の場合は、専門家に依頼したほうがよいでしょう。

「秘密保持契約」締結時に押さえるべきポイントなどを教えてください。
秘密保持契約の概要

秘密保持契約(NDA)とは、自社の秘密情報を他者へ開示する際、契約範囲内の用途以外の使用や、第三者への開示を禁止する場合に締結する契約書です。秘密保持契約は取引を行う前や、情報を開示する前に締結する必要があります。

秘密保持契約が必要なシーン

秘密保持契約を締結するタイミングは2回あります。1つはこれから取引や契約締結などの検討をするために情報を開示する場合。もう1つが何らかの契約締結後に、その契約履行のために秘密情報を開示しなくてはいけない場合です。

  • 取引や契約締結を検討するための秘密情報の開示

例えば、秘密情報を用いて事業を行いたいが、その内容を開示しないと取引相手が契約締結をしてよいか判断がつかない場合などに利用されます。取引相手側としては、契約を締結するためには秘密情報を知っておきたいと考えるのが普通です。一方、秘密情報を開示する企業側は、営業秘密を開示すると損害が発生する可能性がある場合などに、秘密保持契約を締結します。

  • 契約の履行に際しての秘密保持契約

取引を継続していくなかで、相手方に対して営業秘密を開示しなくてはならない場合もあるでしょう。例えば、顧客情報や仕入れ情報などが挙げられますが、その情報の種類は多様で、何が大切かは事業者次第です。業務を依頼し、継続してもらううえで、相手方に提供する情報を秘密にしてほしい旨を依頼する場合に、秘密保持契約を締結します。

秘密保持契約に含めるべき内容

秘密保持契約には秘密情報の定義や管理方法、開示が許容される範囲、流失した場合の処理、契約期間、契約終了時の処理などを含めるのが一般的です。ただし、昨今は秘密保持契約の中身が定型化している傾向にあります。

「代理店契約、特約店契約、フランチャイズ契約」の締結が必要なシーンと、契約内容の概要を教えてください。

代理店契約と特約店契約の場合と、フランチャイズ契約について、それぞれ見ていきましょう。

代理店契約、特約店契約、フランチャイズ契約の概要

まず代理店契約とは、代理店が特定の事業者から代理権を付与され、当該特定事業者の代理人として営業を行う契約です。例えば、保険代理店は保険会社のために営業活動を行い、保険会社と顧客の契約を締結します。

特約店契約は、代理店契約の一種です。特定事業者から「特約店(代理店のなかでも、サービス提供会社と特別な契約を締結している事業者)」として指定されていることを謳い、事業活動が行えるといったメリットが得られます。ただし、代理店が複数事業者のために行動できることに対し、特約店であるがゆえに、複数事業者の代理店にはなれないなどの制約がある点はデメリットだといえるでしょう。

フランチャイズ契約は、サービスの商標やノウハウなどを有する事業者(フランチャイザー)が、当該ノウハウなどを相手方事業者(フランチャイジー)へ提供する代わりに対価を得る契約です。

代理店契約、特約店契約、フランチャイズ契約が必要なシーン

これらの契約は基本的に大企業相手の契約が多いため、代理店や特約店、フランチャイジーになろうとする場合は、契約書が作成されることが一般的です。

代理店契約、特約店契約、フランチャイズ契約に含めるべき内容
  • 代理店契約、特約店契約

代理店契約や特約店契約を締結する際には、代理店に関する権限の授与(独占か非独占かという事項も含む)、競合製品、サービスの取り扱い、手数料、報告義務、契約期間などの項目を契約書に含めましょう。

  • フランチャイズ契約

フランチャイズ契約に含むべき項目としては、提供されるノウハウの内容、商標などの利用許諾、フライチャイズ加盟金などの費用、ロイヤリティ(ノウハウ対価)の定め、競業避止、有効期間などが一般的です。

「不動産売買契約」の締結が必要なシーンと契約内容の概要を教えてください。
不動産売買契約の概要と必要なシーン

不動産売買契約書とは、不動産を売買する際に必要な契約書で、当該不動産を買主が買い受ける価格などが規定されています。不動産売買契約を締結する際には、契約書が発行されることが一般的です。

「共同開発契約、共同研究契約」の締結が必要なシーンと、契約内容の概要を教えてください。
共同開発契約、共同研究契約の概要と締結シーン

共同開発契約や共同研究契約は、他社と協力して商品開発などを行うときに締結します。口約束だけでは紛争につながることが多いので、基本的に契約書を締結しておくべきです。

共同開発契約、共同研究契約に含めるべき内容

共同開発契約や共同研究契約を締結する際には、共同開発、共同研究の内容、作業分担、費用負担、成果物の権利帰属および利用方法、秘密保持などの項目を含めましょう。

ここまでに紹介してもらったもの以外で、中小企業がよく発行する契約書があれば、教えてください。

これら以外で、中小企業や個人事業主が締結する可能性が高い契約は、以下のようなものが挙げられます。

請負契約

請負契約とは、業務委託契約とは異なり「仕事の完成」が内容に含まれる契約です。例えば、工事の依頼や商品の製作依頼などが挙げられます。

継続的商品販売基本契約

継続的商品販売基本契約とは、継続的に商品の売買をする場合に締結する契約です。統一的な処理を記載した基本契約と、個別の商品の特定、納期などを記載した個別契約がセットになっている場合が一般的といえるでしょう。

賃貸借契約

賃貸借契約とは、事務所の賃借、レンタルなど、物を借りるために対価を支払うときに締結する契約です。

雇用契約

雇用契約とは、労働者を雇い入れるときの契約です。使用者には労働条件の明示が義務とされていますので、使用者としては、契約書の作成は必須と考えておくとよいでしょう。労働法によるさまざまな規制があるので注意が必要です。就業規則があれば、就業規則が契約内容になります。ただし、あくまでも契約内容になるだけで、契約書の作成自体は行うべきです。

和解契約

和解契約とは、取引先とトラブルになり、和解的解決を図るときに締結する契約です。弁護士など、専門家に相談して作成することをおすすめします。

【契約種類別】リスクを最小化するために知っておくべき契約書締結時の注意点

「業務委託契約」締結時に注意すべきポイントを教えてください。

企業と個人事業主が業務委託契約を締結する際には、「業務内容」と「料金」の2点については特に注意しましょう。

注意点1:業務内容

業務委託契約を締結する際には、業務内容の特定が企業側、個人事業主側の双方にとって非常に重要です。具体的にどのような業務を行うのか明確化しておきましょう。

業務を委託する企業が業務内容をあいまいに伝えると、頼もうと思っていた業務なのに「それは契約の範囲外です」と言われてしまい、結果として仕事をしてもらえない可能性があります。

一方、業務内容があいまいな場合、委託される個人事業主は「これも業務に入るからやってくれ」など、想定していなかった仕事をさせられてしまうことにつながるでしょう。場合によっては、追加料金が支払われず「むしろ契約しないほうがよかった……」という事態も生じ得ます。

個人事業主は時間の切り売りで収入を得ているため「業務内容がわりに合うものかどうか」「広範囲の仕事を押し付けられてしまわないか」という点には、特に注意が必要です。企業側とのパワーバランスで、不利な契約書を締結させられる可能性が高い場合は、撤退の判断が必要になる場合もあります。

注意点2:料金

料金については、確定額または計算式がきちんと契約書に示されておくことが重要です。また、特に追加料金が発生しうる場合に、それに備えた条項を作成しておくことも必要と考えましょう。

「秘密保持契約」の締結時に注意すべきポイントを教えてください。

秘密保持契約を締結する際には、秘密情報の定義と管理方法、契約期間の3点に注意が必要です。

注意点1:秘密情報の定義

秘密保持契約を締結する際には、秘密情報の定義を明確化する必要があります。

基本的に秘密情報は、開示の前後で秘密情報として指定されるのが一般的です。中には、開示されたすべての情報とする契約書もありますが、秘密情報かどうかがあいまいになりやすいので、どこまで保護されるべきかが不明瞭になりがちです。

したがって何が秘密情報かをしっかり定義することと、その定義に従った運用を心がけましょう。

注意点2:管理方法

秘密保持契約を締結する際には、秘密情報の管理方法も明確にしておく必要があります。

具体的な内容としては、管理者の指定や具体的な管理方法、開示範囲などが挙げられます。ただし、あまりにも厳しすぎる管理方法の場合は、契約書に記載された内容が守れなくなる可能性が高いです。そのため、実際に管理方法を遵守できるかどうかを検討し、難しい場合は、管理方法の修正を申し入れることも視野に入れましょう。

秘密情報を開示する企業が注意するべき点は、取引先が企業だった場合、開示する範囲が複数人になることを想定することです。社内の秘密保持管理体制が非常に重要なポイントになるため、秘密保持契約書の締結だけでなく、社内の秘密管理についても規程を設ける必要があると考えてください。

一方、個人事業主の注意点としては、自分が情報を開示する立場の場合、どれが秘密情報なのかを明確化しておく必要があります。個人事業主の中には、自分が有する情報のどれが秘密情報なのか把握していない方が一定数います。そのため、実際に取引が始まった後で、第三者に知られたくない情報が存在することに気付くケースがあるのです。個人事業主が取引先に情報を開示する場合には、開示前に改めて秘密情報がないかどうか見直してみることが重要といえます。

また開示される立場の場合、取引先から開示された情報を自分1人で管理するケースも多いでしょう。したがって、秘密情報とそうでない情報を分別管理できなくなることもあるので、情報の管理を意識して行うことも重要です。

注意点3:契約期間

秘密保持契約を締結する際には、契約期間と秘密情報として管理すべき期間の明確化が必要です。

契約期間中はもちろん、契約終了後も秘密保持義務を設ける契約書もあります。また、契約終了後に特定期間を設ける場合もあれば、期間を設けずに永久とも解釈できる契約書があるため注意しましょう。

情報を開示する側としては、効果が継続する期間は長いほうがよいのですが、開示される側としては短いほうがよいでしょう。自身がどちらの立場か検討して、契約効果が継続する期間を決めるべきです。

「代理店契約、特約店契約、フランチャイズ契約」締結時に注意すべきポイントを教えてください。

代理店契約と特約店契約の場合と、フランチャイズ契約について、それぞれ見ていきましょう。

  • 代理店契約、特約店契約の注意点

代理店や特約店になる場合は「相手方からどのような内容の権限を授与されるのか」「それに対する対価はどのくらい見込めるのか」「代理店となった場合、自分の活動がどの程度制限されるのか」などをチェックしておくことが重要です。特に自社に対する制限についてはよく見ておかないと「契約締結後に想定と違う制限があった……」ということにもなりかねません。

一方、相手方に代理人になってもらう場合には、相手方に対する競業避止義務(きょうぎょうひしぎむ:競合企業の設立や、競合企業への転職といった競業行為を禁止すること)を課すかどうかについて、しっかりと決めておくべきです。また、競業避止義務を違反した場合のペナルティを設定しておくことも必要でしょう。ただし、あまりにも自社に有利な内容にしてしまうと、独占禁止法上の不公正な取引方法に該当する可能性があります。そのため特に流通に関する代理店の場合は、流通・取引ガイドラインなどにも注意しなくてはいけません。

  • フランチャイズ契約の注意点

一般にフランチャイザーは大企業である場合が多く、中小企業側が契約締結の当事者となる場合は、フランチャイジーになるケースが多いです。この場合、大企業は定型の契約書を用いるため、その内容について修正を求めるのは困難でしょう。そのため契約書をよく読み、どこにリスクがあるかを把握したうえで契約締結に臨む必要があります。特にロイヤリティの設定が適切かどうかは重要なポイントです。また、ノルマ設定なども確認しておく必要があるでしょう。

「不動産売買契約」締結時に注意すべきポイントを教えてください。

不動産売買契約書に含めるべき内容は、売買の目的たる不動産の所有権移転、売買代金および支払時期、引渡時期、危険負担(契約締結後の契約履行不能の処理)、契約不適合責任(不動産の不具合があった場合などの処理)、租税公課負担、境界明示などです。ただし仲介業者が間に入る場合には、定型の契約書が使われることが多いでしょう。その場合は、特約条項をチェックすることが重要です。また、重要事項説明書には不動産に関する行政上の制限などが記載されているため、詳細を確認しておきましょう。

「共同開発契約、共同研究契約」締結時に注意すべきポイントを教えてください。

共同開発契約、共同研究契約を締結するときに最も大事なことは、成果物の権利帰属および利用方法の取り扱いです。共同研究や開発をしたにもかかわらず、権利が相手方のみに帰属し自由に利用できない場合は最悪といえます。そのため共同開発、共同研究後に、成果物を利用できる内容を明示しておくことが必要です。

また共同開発契約、共同研究契約を締結するときには、共同開発や研究分野の範囲をよく検討する必要があります。対象分野を広く取りすぎると、こちらが独自研究したい分野も範囲にされかねないことや、逆に狭すぎると共同研究をする範囲が狭くなり、メリットが少なくなるリスクがあるためです。

作業分担や費用負担についても、事前に自社が負担する可能性のある事項をあらかじめ検討しておかないと、思わぬ労力や費用が発生する可能性があります。相手方が一切費用を負担しないような内容になっていないか事前に確認しておくことが必須です。

契約書のテンプレートを活用するケースも多いと思いますが、何か注意点はありますか?

民法の改正が実施されているため、あまりにも古い契約書のテンプレートを使うのは避けるべきです。最新の内容が反映されたテンプレートを使うようにしましょう。

私は契約書のテンプレートは有用であると思っています。契約書が全くないよりは、あった方が間違いなくリスクは軽減されます。それに、テンプレートは当事者の一方に有利にされていることは少ないので、ある程度公平性が確保されている契約書になっている場合が多いです。

例えば商品売買基本契約書など、定型の契約書であれば活用メリットは高いです。最もテンプレートを使う場合でも一度はその全文に目を通しておくことはしておくとよいでしょう。

一方で、取引が単発ではなく継続的に続くような場合には、やはり専門家に依頼して契約書を作成してもらったほうがよいでしょう。

なお、弥生ではよく使う契約書のテンプレートを準備しているので、ぜひご活用ください。

業務委託契約書や就業規則などのテンプレートが使い放題!弥生の「法令・ビジネス文書ダウンロード」|弥報Online

また、ネット上で配布されているひな型をそのまま利用するのは、非常にリスキーです。AI契約書レビュー支援ツールを活用するのも、1つの方法として検討してみてください。

ネット上に公開されているひな型はハイリスク?AI契約書レビュー支援ツール活用で自作の契約書に安心・安全を|弥報Online

この記事の著者

弥報編集部

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この記事の監修者

棚田 章弘(棚田法律事務所 弁護士)

中央大学法学部卒業。清水総合法律事務所入所、大谷・佐々木・棚田法律事務所を経て、2024年棚田法律事務所を開設。
一般民事、企業法務を問わず、広く事件を扱っており、特に専門分野を絞らず幅広い相談に対応。日頃から相談しやすい事務所、アクセスが容易な事務所を目指し、業務に従事。

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