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お店の経費は削減すべき?もっとかけるべき?適切な経費のバランスを見極める方法【船井総研が解説】

2023.12.19

著者:弥報編集部

監修者:前田 輝久

飲食店や小売店を営んでいると、店づくりにどれだけ経費をかけるべきか、または削減すべきか悩むこともあるでしょう。せっかくだからと内装にコストをかけたのに、集客につながらなかったり、昨今の物価高騰の影響から、仕入れや人件費を削減した結果、売上も下がってしまったり……。

それらの悩みは、投資と削減のバランスが崩れているから起こることかもしれません。投資と削減には正しいバランスが存在します。それを理解し何に経費をかけるべきか、削減すべきかを押さえることが解決策の1つと言えるでしょう。また、よかれと思って投資・削減していたことが、実は逆効果だったということも起こりがちです。

そこで今回は株式会社船井総合研究所の前田 輝久さんに、お店づくりにおいての適切な施策や、投資と削減のバランスについてお話を伺いました。お店を経営されている方や、これから出店する方がすぐに実践できる投資のほか、必要経費と削減すべきポイントを解説いただきます。


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店舗経営で投資すべきは「品質・ヒト・清潔さ」

店舗経営において、積極的に投資すべきものについて教えてください。

店舗経営において、投資するべき重要な経費は大きく分けて3つあります。

  1. 原材料費
    コアサービスでもある品質に直結するものです。提供商品の安定したクオリティは店づくりにおいて大前提です。コスト削減のために粗悪な食料や材料にしてしまうと、店の本質的な部分の価値が下がり、結果としてお客さまに支持されない店となる可能性が高いでしょう。
  2. 人件費
    安定したサービスを提供するために必要なものです。これに関しては昨今の人手不足という社会情勢も受け、投資せざるを得ないものとも言えます。行き届いた接客は、顧客満足度の向上にもつながります。従業員の給与や待遇などの人件費を削減してしまうと、従業員の不満につながり、サービスの質が落ちたり、ひいては退職につながったりしてしまうので要注意です。良い人材を確保し長く働いてもらうためにも、必要経費として捉える方が良いでしょう。
  3. お店の清潔感を保つ経費
    お客さまが気持ちよく利用できるように、店の環境を整えておくことは必要不可欠です。日常的な清掃はもちろん、店舗設備の定期的な点検や、劣化した外装・内装のリフォームなども検討しましょう。
各項目に関して投資する際に、活用できる制度などはありますか。

例えば人材を雇用する際であれば「人材確保等支援助成金」が活用できますし、小規模事業者が販路拡大、または生産性向上に取り組む場合であれば「小規模事業者持続化補助金」などが活用できます。まずは有識者に相談してみると良いでしょう。

政府が設けている制度以外にも、商工会議所や各自治体などの助成金・補助金制度もあります。都度内容が更新されたり、事業対象が変わったりするので、定期的に情報を集めておきましょう。

助成金・補助金制度など、資金調達手段の情報収集には以下のサービスも参考にしてください。
資金調達手段を探せる・学べる「資金調達ナビ」|資金調達ナビ by 弥生

上記のほか、売上を改善するためには何に投資するべきでしょうか?

「広告費」や「販促費」はしっかりと確保し、積極的に投資していく必要があるでしょう。

店舗で売上を獲得するためには「新規顧客の獲得」と「既存顧客の再来(リピーター)を増やす」2通りの施策が有効です。すぐに取りかかれる施策としておすすめなのは、新規顧客を獲得するための販売促進です。

しかしいくら良いものを作っていたとしても、お客さまに気付いていただけないと、なかなか集客につながりません。お客さまに気付いていただくためには、広告を打ち出すなど露出を増やす必要があります。

ターゲットや地域によっても異なりますが、特に飲食店などはInstagramなどのSNS広告の反応が良く、集客につながっているという例もあります。金額もある程度調整しながら少額で実行できるので、まずはチャレンジしてみるのもよいかもしれません。

また地方やターゲットの年齢層が比較的高い場合は、新聞の折り込みチラシなどもまだまだ有効な手です。自店に来てもらいたい客層や、打ち出したいコンセプトに合わせて、さまざまな媒体を駆使して露出度を増やしていきましょう。

リピーターを増やすための施策としては、定期的なメニュー・商品開発が有効です。長期間同じものばかりを提供していると、当然だれでも飽きてしまいます。定期的に目新しいものがないと来店のきっかけにならないでしょう。ある程度の時間やコストをかけ、季節ごとの新作を打ち出すなどの工夫をしてみましょう。

そのほか、割引券やポイントカードなどもわかりやすい施策として有効です。

広告や商品開発にコストをかける際に、注意すべきことはありますか。

どのような効果を期待するか、つまり費用対効果を定期的に確認しながら軌道修正していく必要があります。

なんとなく広告を続けている、継続して看板を出している、大がかりなメニュー開発を毎月のように行う、などさまざまな施策を実施する店も多いと思いますが、何をもって効果とするのかを断定していない経営者も少なくありません。その場合、効果もわからないままコストを消費するだけの状態にもなりかねません。どのような効果を期待するのかを事前に決めておけば、期待する結果が出ない時に他の広告媒体へ予算を動かす、違う手法でメニューのマンネリを防ぐなどすばやく対応できるでしょう。

一方その施策が直近の売上増加に直結していなくても、店を知ってもらうこと自体が目的であれば、とにかく多くの人に見てもらい注目を集めるために継続するという手も1つでしょう。いずれにしても投資をする場合は、どのような効果を期待するかを明確にしてから実行することで無駄な支出を防ぐことができます。

店舗経営で削減すべきは「無料サービス・包材仕入れ・固定費」

一方で、コスト削減を行った方がよいものは何でしょうか。

開業当時に想定していたキャッシュフローや、店がうまく回っていた時の数字と、今現在の経営状態を比較した時に、大きく乖離する部分見つけ、どのように対応すべきか検討したうえで、抑えるべきと判断した項目に対してコスト削減を行っていきます。

価格高騰などの影響で、一気にコスト削減を実現できる時代でもないため、基本的には小さなことの積み重ねを実施していきましょう。お客さまの満足度や商品品質は下げずに、それ以外の部分でどう削減できるかを考えましょう。

具体的な例として、以下の3点があげられます。

  1. 無料サービスの見直し
    飲食店であればテイクアウト商品に付ける使い捨てカトラリーや、おてふきなどの無料サービス見直しなどがあげられます。使い捨てカトラリーを当たり前のサービスとして認識されている店も多いですが、お客さまに「おはしやおてふきは必要ですか」と確認し、必要ないと回答されれば付ける必要はありませんし、クレームなどにつながる恐れもありません。すぐ実践でき、顧客満足度を下げることなくコスト削減を実現できる施策でしょう。コーヒーの砂糖やミルクなども、同じように確認してから、必要であれば用意するようにしましょう。
  2. 容器や包材などの仕入れコスト見直し
    仕入れに関して食材などは必要以上に削減はできませんが、容器や包材などのコスト見直しは可能です。改めて他社と比較検討をし、取引先を見直すことも必要でしょう。長い付き合いから取引先を変えることが難しい場合は、価格の低い他社を引き合いに出し「可能な限り他社の価格に近づけてほしい」と伝えるだけでもコスト削減につながる可能性もあります。
  1. 水道光熱費などの固定費
    細かな話になりますが、水道光熱費などの固定費も定期的に確認しておかないと、気付くと大幅に利益を圧迫していたということにもなりかねません。水の出しっぱなし、電気のつけっぱなしなどは極力避けるようにしましょう。さらに大切なのはその意識を店全体で持つことです。小さなことかもしれませんが、毎日のことでもあります。企業文化として無駄を削減する意識が根付けば、細やかな配慮もできるようになるなどの副次的なメリットもあるでしょう。
その他、経費削減につながることがあれば教えてください。

例えば今まで配っていたチラシを、フルカラーではなく1色減らす、サイズを小さくする、エリアを絞って配布するなど、チラシ配布1つを取っても細かな削減項目は多数あげられます。

業態によっても変わると思いますが、経費削減を検討できる項目としては、家賃なども対象です。目安としては、売上の7~10%が基準です。新たに出店される場合や、移転などを検討されている方は、目安を超えないような家賃の物件を候補にしてください。

経費を削減したあとは、どのように効果測定をすべきでしょうか。

まず削減した項目に関して、本当に経費が下がっているかどうかを確認することが重要です。毎月の損益を確認し、削減の効果を数字で把握できるようにしましょう。

また該当の項目を削減したことで客数や売上までも減っていないかも併せて確認する必要があります。せっかく経費を削減しても、売上まで落ちてしまっていては元も子もありません。削減は目的ではなく、あくまで経営を改善するため施策であることを忘れないでください。

投資と削減のバランスは「売上予測」がカギ

理想の店を実現するために、多額の資金を投資し店づくりを行うとどのようなリスクがあるのでしょうか。

理想の店を作りたいという気持ちはわからなくありません。「どうせ作るなら、良いものを」という前向きな姿勢はすばらしいのですが、突き詰めていくと際限がありません。

年間の想定売上の倍額を投資して店づくりを行った企業がありましたが、投資資金の回収に苦労したのは言うまでもありません。重要なのは売上計画を作ることです。自分たちが作る店がどの程度の売上を獲得し、どれくらいの利益が出るかを明確に想定することで、かけられる費用感も具体的になってきます。基本的には売上総利益と同等までの投資額で店づくりを行うとよいでしょう。

施工時はついつい夢が広がり、取引業者も乗っかって、過剰なサービスや設備を検討してしまう経営者も少なくありません。本当にターゲットとしているお客さまが必要としているものなのかを立ち止まって考える必要もあるでしょう。また、店を開いただけではお客さまは来店されません。計画段階から広告費も含めた初期投資額を考えてください。

対照的に、慎重になりすぎて投資を抑えすぎた店づくりをした場合のデメリットも教えてください。

投資を抑えようとしすぎると、そもそも売上目標を達成できる規模の売場や厨房設備でなくなってしまうケースもあります。「商品力があれば売れるはず」と考え、設備や告知面を削減しすぎてしまうのです。そうなってしまうと中途半端な範囲でしか施策を打てず、結果につながりません。

店も安っぽくなってしまい、結果として失敗してしまったという例もあります。最近では内装やパッケージデザインにコストをかけることで、ファンを獲得するケースも多くなっていますから、デザインも軽視できません。

いずれにしても、的確な売上予測を立て、それに見合った投資額で店づくりを行うことが有効です。

日々の経営のなかで、投資と削減の調整はどのようにすれば良いでしょうか。

最低限かかる費用は必ずありますし、業種ごとにも異なるので、売上に対しての人件費や販促費などの各コストの割合は、一概に断定はできません。絶対必要経費が前提としてあり、そのうえで施策を打つ際、どの項目に投資し何を削減すべきかを各経営者が調整していく必要があります。

ではどのように判断するかというと、損益計算書(P/L)を毎月確認する方法がおすすめです。可能であれば税理士や会計士に、月次決算を出してもらうよう依頼しましょう。毎月数字を細かく追っていき、把握することで見えてくるものがあります。例えば、適正な売価の見直しも、損益計算書を確認することでできることの1つです。原材料の高騰が続いているのにもかかわらず、特に対策を講じないでいると、売っても売っても赤字という状態が続いてしまう可能性もあります。「売上も客数も変わらないのに、前月と比べると利益率が大幅に下がっている」などの異常値にすぐ気付ければ、大きな赤字になる前に対処することができるのです。

人件費に関しても給与や待遇は削減できませんが、損益計算書の売上や客数と比較して、シフト表を見返すと、適正な配置人数が見えてきます。余計な人員を割いていないかなどを細かく確認し、調整していけば、経営に影響を及ぼさずに人件費を削減できるでしょう。


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この記事の著者

弥報編集部

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この記事の監修者

前田 輝久(株式会社船井総合研究所 地方創生支援部 食品観光グループ リーダー)

1999年に船井総合研究所に入社。以来、食品業界のコンサルティングに20年以上従事。
業態開発・商品開発・売場づくり・販売促進・Web活用などマーケティング全般のコンサルティングを行っている。業界として食品メーカー、生産者などのクライアントを中心とし、商品開発やブランディング、直売ビジネスの立ち上げ、ブランドの新規立ち上げなど、企業の付加価値を高めるコンサルティングを中心に実施。

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