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M&Aによる事業承継はメリットが多い?中小企業での活用例【船井総研が解説】
2024.06.13
「事業承継」は会社を存続させ続けるうえで、考える必要がある課題です。特に中小企業に関しては、後継者不足や業界の衰退など、さまざまな背景から事業承継が困難なケースも少なくありません。
しかし近年では、中小企業における事業承継方法としてM&Aが注目されています。M&Aとは「他の企業による事業の買収や合併」を意味しますが、中小企業がM&Aに目を向けて、経営者の後継者不足や引退による廃業を回避する動きが活発になっているのです。
今回は、株式会社船井総合研究所フィナンシャルアドバイザリー支援部の光田卓司さんに、中小企業の事業承継としてのM&Aの概要や、売買成立までの流れなどについてお話を伺いました。
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目次
「事業承継」とは?3種類の方法とそのメリット・デメリット
事業承継とは具体的に何を指すのか、概要を教えてください。
大前提として「事業承継」を紐解くと、物的承継である「株の承継」と人的承継である「経営者・役員の承継」の2つがあります。株の承継はせずに経営者を引き継ぐケース、経営権は渡すが実際の株の承継は後回しにするケースなど、さまざまな場合が想定されるでしょう。
特に物的承継は重要です。贈与税や相続税が課税されるので、後継者の負担になる可能性があるからです。よく検討したうえで進めないと事業承継が滞ってしまうので、物的承継は慎重に進行することをおすすめします。
事業承継の方法はどのようなものがありますか?
一般的な物的承継の方法として、親族内承継、社内従業員への承継、第三者承継(M&A)の3つがあげられます。それぞれのメリット・デメリットなどを解説していきます。
【親族内承継】
親族内承継は、子どもなどの親族が会社を継ぐケースです。雇用や取引先は継続される場合が多く、内外の関係者からも心情的に受け入れられやすいというメリットがあります。
一方、相続税・贈与税が発生し、連帯保証も引き継ぐことになるので、経営の負担を背負わせてしまうことがデメリットであげられます。また、そもそも親族が会社を引き継ぐ意思がない場合や、経営能力がない場合なども想定されます。
【社内従業員への承継】
社内承継は、親族内に後継者がいない場合に、社内の人物に引き継ぐことを指します。親族内承継と同じく、ステークホルダーの理解を得られやすく、社内事情を把握していることから、引き継ぎ後の会社方針も大きく変わることはないでしょう。
しかし、株式の売買や個人債務保証に関しての留意点も多く、後継者への負担になることに違いはありません。
【第三者承継(M&A)】
会社を信頼できる企業へ譲渡することで、後継者がいない場合でも廃業を避けられ、場合によっては事業拡大も期待できます。また個人保証が外れるので、経営者は経営のプレッシャーなどから解放されます。
デメリットは、M&A成立のために手続きが煩雑になってしまったり、ステークホルダーの理解を得る必要があったりすることがあげられます。
中小企業のM&Aについて、昨今の推移を教えてください。
全体数は公表されておらず、あくまでも各仲介会社などで集計されている件数からの考察にはなりますが、M&Aは増加傾向にあり、中小企業の割合も増えています。また、国の公的機関である「事業承継・引継ぎ支援センター」への問い合わせ数も高水準となっており、近年における注目度の高さも伺えます。
理由としては、経営者の平均年齢が年々上がっていることや、多くの企業が後継者問題を抱えていることがあります。また、政府や各種機関などの積極的な支援もあり、事業承継としてのM&Aが広く知られるようになったこともあげられるでしょう。
どのような企業がM&Aに適していますか?
正直にお伝えしますと、M&Aが適している企業などの目安はありません。あくまでも目的を達成するための手段なので、向き不向きよりも「会社をどうしていきたいか」が重要です。
中小企業がM&Aを検討する主な理由としては、会社存続、雇用の維持、後継者問題の解決などがあげられます。また、融資には経営者の個人保証が紐付いているため、その重荷を下ろしたいと考える方は少なくありません。また、赤字企業であっても、保有する技術や商圏が価値になることもありますので、まずは事業承継・引継ぎ支援センターや仲介会社などに相談してみるのがよいでしょう。
株式譲渡、事業譲渡……知っておきたいM&A手法
M&Aの手法について、教えてください。
M&Aとは、Merger And Acquisition(合併と買収)の略であり、さまざまな手法があります。中小企業の場合、合併よりも買収が多く、株式の所有権を他社に承継する「株式譲渡」がほとんどです。その他、事業の一部または全部を承継する「事業譲渡」、事業の権利義務の一部または全部を承継する「吸収分割」、新設会社に事業の権利義務の一部または全部を承継する「新設分割」なども見受けられます。目的によって、どの手法が適しているかは異なります。
M&Aは、会社を丸ごと他社に承継するだけでなく、さまざまな状況や要望に合わせて選択できます。例えば業績が異なる複数の事業を抱えている企業が、ご子息への事業承継を考えていたとします。その場合は、事業譲渡を選択し、負担を軽減するために不採算事業だけを売却する、などのケースが想定されます。後継者がいない場合でも、将来性のない事業は精算し、好調で将来性のある事業だけを売却することもあるでしょう。
実際のM&Aの流れはどうなる?売買成立までの道のり
事業承継としてM&Aを選択した場合、どのような流れになるのか教えてください。
大まかな流れは以下になります。
- M&A仲介会社契約の締結
- 企業概要書の作成(仲介会社)
- 買手候補先とのトップ面談
- 基本合意契約
- 買収監査(デューデリジェンス)
- 最終契約の締結
M&Aはよく結婚に例えられます。企業概要書はお見合い写真のようなもので、仲介会社はそれを基に買手候補を選出します。売買が成立するまでの形式や流れは、企業によって異なりますが、双方向の条件などの交渉期間は最低でも半年はかかると想定してください。
なお、いまだにM&Aに対して「乗っ取り」などのマイナスなイメージを持たれる中小企業は少なくありませんが、実際はそうではありません。基本的には、買手と条件交渉後、双方向が合意したうえで契約が成立します。交渉段階で売手も意思表示ができるので、例えば「一定期間は社長や役員として残りたい」「従業員の処遇を良くしてもらいたい」などの希望を示せば、実現する可能性が高くなるでしょう。
M&Aのリスクとその回避方法
M&Aを行う際の留意点があれば教えてください。
M&Aは、主語をだれにするかで成功か失敗かの判断が変わってきますが、売手にとっての成功は「目的が達成されること」です。つまり「何に重きを置くか」が最重要項目だと念頭に置いてください。もちろん、従業員雇用が守られたうえに業績も改善された、などのように会社にかかわる全員にとって「成功」となることも少なくありません。しかし、そうでない場合もあることを知っておきましょう。
例えば、経営者が相場よりも高い売値で会社をライバル社に売却した企業のケースをあげましょう。経営者にとっては良い条件でM&Aが成立したといえますが、条件としてライバル社によるチームの再編成がありました。残った従業員の立場になると、良い選択だったとはならないでしょう。実際、半数以上の従業員が退職したそうです。
最終的にはオーナー(株主)が決断を下すことですが、何を優先させるか、会社にとって一番良い選択肢を考え抜いたうえで取り組むと、後悔のないM&Aが実現するでしょう。
M&A成立後、会社にはどのような変化が想定されますか?
経営者は、条件によっては会社を売却した後も役員として配置されることもありまが、その際によくあるのは、従来の自由な経営ができなくなり、やり方を大幅に変えなければいけないというケースです。買手側はM&Aを事業成長のために行うので、抜本的な経営改革が実施される場合もあります。
また、従業員も買手企業の経営方針や文化に適応しなければいけません。経営統合はすぐにうまくいかないことも多く、時間を要します。
いずれにしても、M&A成立後に想定される変化や起こりうるトラブルに関しては、事前に買手企業と明確に話し合うことで、ある程度は回避できるでしょう。不安な場合は、仲介会社などの専門家と相談しながら進行することをおすすめします。
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この記事の著者
弥報編集部
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この記事の監修者
光田 卓司(株式会社船井総合研究所 フィナンシャルアドバイザリー支援部マネージング・ディレクター)
横浜国立大学を卒業後、船井総研に入社。大学時代にベンチャーを立ち上げるなど多岐に渡るビジネスを経験。入社後は専門サービス業の経営コンサルティング部門の統括責任者を行い多数のM&Aを経験。現在は、M&A部門の統括責任者を務める。買って終わり、売って終わりではなく、M&A後の企業成長を実現するマッチングに定評がある。過去に経営支援を行ってきた企業は200を超える。
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