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最低賃金引き上げは必要?経営者に知ってほしい中小企業向け金融施策【教えて!吉田先生】

2024.06.11

著者:弥報編集部

著者:吉田 学

物価高を上回る所得増が求められる中、現実問題として多くの中小事業にとって賃金引上げは厳しいのが実情です。それでも最低賃金については法律で定められており、中小事業者は守らなくてはいけません。では、どのように対策をすればいいのでしょうか。

ここで活用したいのは、政府の金融支援策です。内容が複雑で、わかりにくいと感じる方も多いかもしれませんが、会社にとって人材は資源です。社員がモチベーションを保つためにも、活用できるものは積極的に申請し、賃上げに対応しましょう。

今回は、中小事業者への金融支援策について財務・資金調達コンサルタントの吉田学先生に伺いました。

※本記事は2024年5月時点の情報を基に作成しております。法令などの最新情報については、政府・各省庁などから出ている文書をご確認ください。


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そもそも賃金引上げをしなくてはいけないのでしょうか?

賃上げは社会的情勢を鑑み、必要と考えましょう。賃金の引上げについては、バブル崩壊後、「失われた30年」などといわれているように、賃金がアップしていないといわれており、長きにわたり大きな課題の一つとして捉えられてきました。例えば、中小企業白書(2023)によりますと、以下のグラフのようにほぼ横ばい状態が続いています。

また、2023年11月2日に閣議決定された「デフレ完全脱却のための総合経済対策~日本経済の新たなステージにむけて~」では、以下のように書かれています。

〈デフレ完全脱却のための総合経済対策〉
「最低賃金額については、今年度全国加重平均1,004円となり、目標としていた1,000円を超えたが、更に着実に引上げを行っていく必要がある。公労使の三者の最低賃金審議会で毎年の最低賃金額についてしっかりと議論を行い、その積み重ねによって2030年代半ばまでに全国加重平均が1,500円となることを目指す。今後とも、地域別最低賃金の最高額に対する最低額の比率を引き上げる等、地域間格差の是正を図る。また、最低賃金の継続的な引上げに対応して、事業再構築や業務改善等の支援措置を充実する」

出典:経済対策等|内閣府

なお最低賃金については、最低賃金法に定められており、下回ることは法律違反になります。一度、以下のWebサイトにて最低賃金について確認することをおすすめします。

(参考)
最低賃金制度|厚生労働省

賃金引上げが厳しいのですが、政府による金融支援はありますか?

現在、政府においては、賃上げを実施する中小事業者向けに、融資、補助金、助成金などによる金融支援を実施しています。

融資については、日本政策金融公庫において「働き方改革推進支援資金」を実施しています。補助金では「事業再構築補助金」や「ものづくり補助金」、「IT導入補助金」などで、申請枠や加点措置が実施されています。助成金については「業務改善助成金」や「キャリアアップ助成金」などにおいて拡充支援が実施されています。

日本政策金融公庫の「働き方改革推進支援資金」の概要について教えてください。

日本政策金融公庫(中小企業事業)の「働き方改革推進支援資金」とは、事業場内最低賃金の引上げに取り組む方などを対象に貸付支援を行う制度です。融資限度額は7億2千万円となっており、規模の大きい中小企業が対象となりますが、小規模事業者の方も国民生活事業の窓口での相談が可能です。

(参考)
働き方改革推進支援資金|日本政策金融公庫

また全国の信用保証協会においては、賃金水準上昇対策特別相談窓口などを開設していたり、自治体によっては制度融資にて賃上げ支援資金などを実施していたりするところもあります。

なお、民間の金融機関においては、具体的に制度として実施しているところは少ないと思われますが、賃上げを実施する際には現在取引のある金融機関に相談してみてください。

事業再構築補助金やものづくり補助金、IT導入補助金の支援について教えてください。

事業再構築補助金(第12回公募時点)においては、賃上げを実施する事業者に対して「継続的な賃金引上げ」および「従業員の増加に取り組む事業者」の上限上乗せ、また補助率の拡大なども実施しています(サプライチェーン強靱化枠以外)。

ものづくり補助金(第17次、18次時点)では、補助事業終了後の3~5年で大幅な賃上げに取り組む事業者に対し、上記各枠の補助上限に100~2,000万円を上乗せ(申請枠・類型、従業員規模によって異なる、新型コロナ加速化特例適用事業者を除く)を実施しています。

(参考)
ものづくり補助金総合サイト

IT導入補助金においては、賃上げ加点が実施されています。

(参考)
IT導入補助金2024|サービス等生産性向上IT導入支援事業費補助金事務局

業務改善助成金やキャリアアップ助成金とは、どのようなものですか?

業務改善助成金とは、事業場内最低賃金を引上げ、設備投資などを行った中小企業・小規模事業者に、その費用の一部を助成する制度です。助成上限額は、引上げ額によって細かく設定されていますが、30~600万円となっています。

(参考)
業務改善助成金|厚生労働省

キャリアアップ助成金とは、非正規雇用労働者の正社員化、処遇改善の取り組みを実施した事業主に対して助成する制度です。賃金規定などを改定し、非正規雇用労働者の基本給を3%以上賃上げする場合に、キャリア アップ助成金の「賃金規定等改定コース」が利用できます 。最大5%以上増額改定した場合は6万5,000円の助成となっており、1年度1事業所当たり100人までは、複数回の申請ができます。

(参考)
キャリアアップ助成金|厚生労働省

賃上げ支援についてさらに詳しい情報を知りたい場合、どうすればよいですか?

賃上げ支援の詳細については、以下のWebサイトやマニュアルなどを参考にしてください。

(参考)
最低賃金引上げに向けた中小企業・小規模事業者への支援事業|厚生労働省
最低賃金・賃金引上げに向けた中小企業・小規模事業者への支援施策紹介マニュアル|厚生労働省

今回、ご案内した制度は代表的なものばかりです。他にも自治体などが独自に実施している制度があると思われます。また金融支援ばかりでなく、税制支援や公的相談窓口、専門家派遣支援など、さまざまな支援がされています。

ちなみに専門家に相談する場合、融資や補助金については、まずは顧問税理士に相談してください。厚労省の助成金については、社会保険労務士が専門家になります。

企業経営には、人材が必要不可欠です。人材流出を防ぎ雇用を守るためには、積極的にアクションを起こすことが大切と考えましょう。


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この記事の著者

弥報編集部

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吉田 学(よしだ まなぶ)

財務・資金調達コンサルタント
株式会社MBSコンサルティング 代表取締役。1998年の起業以来、「資金繰り・資金調達支援」に特化して創業者や中小事業者を支援。これまでに1,000 社以上の資金調達相談・支援を行い、その資金調達支援総額は20億円超。主な著書に、「社長のための資金調達100の方法」(ダイヤモンド社)、「究極の資金調達マニュアル」(こう書房)、「税理士・認定支援機関のための資金調達支援ガイド」(中央経済社)、「税理士だからできる会社設立サポートブック」(第一法規)などがある。
また、全国の経営者・士業などを対象にした会員制の資金調達勉強会「資金調達サポート会(FSS)」を主催している。

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