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限られたリソースで目標達成!「目的ドリブンの思考法」で手戻りや無駄を削減しよう
2023.08.29
「目の前の業務を日々こなしてはいるけれど、やっているうちにだんだん目的がわからなくなっていく……」「仕事の手戻りがなんだか多い……」など、仕事を行っていてこのような悩みを経験された方も多いのではないのでしょうか。
その悩みの原因は、目的を中心に据えて行動することができていないからかもしれません。常に「目的」を意識して業務を行えるようになると、無駄な行動を回避できたり手戻りの発生を抑えられたりすることができるようになります。最終的には生産性の向上にもつながるでしょう。
今回は『戦略コンサルタントが大事にしている 目的ドリブンの思考法』(ディスカヴァー・トゥエンティワン刊)の著者である望月 安迪(もちづき あんでぃ)さんに、生産性向上に寄与する目的ドリブンの思考法がどのようなものか、またどのように実践するのかについて伺いました。
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目次
経営判断のよりどころになる?目的ドリブンの思考法とは
目的ドリブンの思考法とはどのようなものなのか教えてください。
目的ドリブンの思考法とは、仕事のあらゆる場面で目的を中心に据えて行動する考え方です。「Why・What・How」というピラミッドをイメージし、まず「これは何のためにするのか」という目的を明確にします。そしてそれを基に目標と手段を一貫して決めていくのが中心的なコンセプトです。
比較するとわかりやすいのは、日本企業でよく見られる「How・How・How」という考え方です。この場合、手段の話ばかりが先行してしまい「何を目指しているのか」「目指した先に何が待っているのか」といった、重要な部分がわからないまま手段だけで進んでしまうことがあります。
目的ドリブンの思考法を活用することによって、経営者(会社)はどのようなメリットが得られ、どのような問題を解決できるのでしょうか?
経営者の視点からみると大きく4つのメリットが挙げられます。
- 前例がない状況での経営判断のよりどころになる
- リソース配分を最適化できる
- 従業員のモチベーションが向上する
- 仕事の手戻りを減らし生産性が向上する
例えば過去の経験や常識が通用しないような新たな状況に直面したとき、どちらの選択肢を取るべきかという迷いが生じることが考えられます。その際「この目的に沿って方向転換すべきだ」「現状を維持するべきだ」といった、判断を正しく下すために目的ドリブンの思考法は大いに役立ちます。なぜなら目的ドリブンの思考法とは未来のあるべき姿を目的として設定し、そこから目標と手段を導き出す思考の型だからです。
例えば会社のリソース(人員や資金)をどこに配置するかについて検討する際、目的ドリブンの思考法を活用し目的をクリアにしていくことにより、何に集中すべきかが明確化できるでしょう。社内リソースの配分に関しても、目的ドリブンの思考法を活用することで明確な意思決定と根拠ができ、最適な選択をすることが可能です。
そして経営者が悩むもう1つの要素が、従業員が経営者の考えについてきてくれないことです。単なる数字の目標を追いかけるだけでは、従業員は疲弊してしまう可能性があります。このような場合も目的ドリブンの思考法で「数字を達成した後に何があるのか」という視点を持ち、目標の達成に向けた世界のイメージを共有することができると、従業員のモチベーションを高めることにつながります。
さらに目的ドリブンの思考法を導入することで手戻りが減り、生産性が向上します。
仕事で生産性を下げる最も大きな要因は手戻りです。仕事を進めていて一定の期間が経った後、上司に成果物を提出したときに「求めていたものとは全然違う……」と言われた経験がある人は多いでしょう。
目的ドリブンの思考法では、まず仕事の目的を明確に定義します。具体的な目標や成果物を設定し、それに向けて取り組むことで仕事の方向性が明確化されるのです。そのため無駄な作業や方針の迷いが減り、効率的に仕事を進めることができます。
また目的ドリブンの思考法では、目的を達成するための優先順位設定も行います。仕事の中で重要なタスクや活動を特定し、集中することで時間やリソースの無駄遣いを避けることが可能です。重要なタスクに時間を使えるため、それによる成果の向上や品質の向上が期待できるため手戻りの数を減らせるでしょう。
目的ドリブンの思考法を実践する方法
目的ドリブンの思考法を導入する方法を教えてください。
目的ドリブンの思考法を実践するためには、まず目的と目標を設定する必要があります。
目的とは最終的なゴールです。目標とはそのゴールに至る途中のマイルストーンと捉えます。目的は仕事の意義や根本的な部分を表し、目標は具体的な成果物や到達点を示します。
目的をクリアにすることによって、目標の意味や重要性を明確化することが可能です。具体的な目的が示されると、それに合わせて目標も具体化され各個人やチームは目的に向かって一体となって取り組むことが可能です。目標が目的に対する「意味のある一歩」となるのです。
また目的の明確化は、情報共有や意思決定にも大きな影響を与えます。目的が共有されることにより、従業員は自身の役割や貢献度を理解しやすくなります。さらに目的に基づいた意思決定が行われるため、組織全体がより戦略的かつ効率的な方向に進む効果も期待できるでしょう。
目的・目標の設定方法を教えてください。
経営者が目的を設定する際には、個人の感性や使命感が重要な役割を果たします。経営者は自身のビジョンや想いを基に「世の中の変化に対してこうしたい」「組織が達成すべき目標はこれだ」という意思を持つことが多いです。
例えばスターバックスの元CEOであるハワード・シュルツは、スターバックスを単なるコーヒーショップ以上の存在として位置付け、お客さまが「家庭や職場とは異なる第3の場所」として利用できるようにする「サードプレイス」というコンセプトを提唱しました。世の中に流通する一般論として済ませるのではなく、経営者自身の主観や意思を目的として盛り込むことで、目的はより魅力あるものとして導き出されるでしょう。
このようなケースではまず自身の意志や使命を明確に持ちながら目的を設定し、それを経営レベルで具体的な目標に落とし込みます。さらに組織の各部門では、その目的に基づいて部門レベルの大きな方向性を設定し「製造部門ではどのような取り組みが必要か」「企画部門ではデジタル化を進める必要がある」など、具体的な目標を設定することが必要です。
一方、従業員の視点ではポジションに応じて与えられる客観的な役割や要件が重要です。例えば課長ならチームのマネジメントやプロジェクト設計が求められるでしょう。従業員は与えられたポジションの中で自身が果たすべき役割を把握し、それを足がかりにして目的や目標を設定していきます。
目標の粒度やスパンは、どのように設定すればよいでしょうか?
目標の粒度やスパンの設定方法についても、経営者と従業員では異なることが大前提です。目的を設定する際には構成要素と時間軸の観点で分ける必要があります。
経営者の視点では機能単位や部門ごとの目標設定が必要です。例えば製造部門の生産性や企画部門の商品開発、営業部門の販売戦略などが経営者の粒度に該当します。逆に細かすぎる目標設定はマイクロマネジメントにつながり、部門の自律性や経営者の負担に影響を与える可能性があるため注意しましょう。
時間軸の観点では、経営者や役員レベルで1年や中長期(3~5年)の目標設定が一般的です。これは部門単位の目標や長期計画に反映されます。
一方、従業員の視点では目標設定がより細かくなります。経営者から与えられた目的に基づいて、数か月のスパンで設定することが一般的です。さらに作業者レベルでは、例えば次の会議や施策の目的など、より具体的なレベルでの目標設定が行われます。これらは仕事や作業の内容に合わせて短期的なスパン(1週間から1か月など)で設定されることが一般的です。
組織における目的と目標の関係は、経営者が設定した目標が下位組織の目的として反映され、さらに個々の作業の目的につながるような形で組織の階層に沿って連なっていくのが理想です。逆に一人ひとりの作業目的が、経営者の最上位の企業目的につながるような連携が求められます。
目的から目標へ落とし込む方法を教えてください。
目的から目標へ落とし込むためには、KPIの因数分解が必要です。例えば営業生産性の向上を目指すケースを考えてみましょう。顧客当たりの売上を増やすことを目標とする場合、平均販売単価や販売生産数の向上や顧客数の増加、新規・既存顧客の比率、新規顧客の国内・海外比など上位の指標から分解していける要素が存在すると思います。
営業の視点で考えると訪問顧客数の増加や見込み顧客の数、商談への進展率、成約率などの要素に分解して分析することが考えられるでしょう。因数分解を丁寧に行うことによって、抽象的な目的を具体的な目標に落とし込むことが可能です。
目的ドリブンの思考法を従業員へ共有するための5つの「基本動作」
従業員に目的ドリブンの思考法を実践してもらうにはどうしたらいいでしょうか。
まず現在の問題に対処するための基本的な動きは「認知・判断・行動」です。これは問題に直面した際、どのように対応するかを考える基盤となります。盤石な基盤が築けない場合には、将来的な対応が困難になる可能性が高いでしょう。
また「予測」と「学習」は将来に向けての問題解決において、重要な役割を果たします。予測は将来起こりうる問題に対して事前に対処するための予測手段であり、学習はこれまでの経験や知識を将来の問題に適用するための学びの過程と捉えられます。
認知
認知とは問題を正しく把握することです。解決すべきことを明確にして成果のインパクトと解決可能性を考慮します。容易な問題よりも成果を大きく出しやすい、解決の可能性が高い問題に取り組むことが重要です。
判断
問題に対する解決策を策定し、実行すべき選択肢を選び分けることを指します。
どの選択肢を実行すべきかを決定する際には、目的に整合した基準を設定しましょう。例えばマーケットに進出しようとする際、大きなマーケットに進出する前に、「小規模なマーケットで自社の能力を検証する」ことを目的とした場合を考えてみましょう。この場合、判断基準としては市場規模や成長率よりも「小規模でもターゲット顧客が確実に存在すること」「圧倒的な競合がいないこと」といった基準が重要になります。
行動
行動とは目的・目標の達成に向けた方針を、従業員がアクションできるレベルにまで具現化することです。
具体的な行動へ移る際には「だれが行うのか」「いつまでに行うのか」「何を行うのか」といった要素を、明確に分解して落とし込んでいきましょう。行動をする人の視点やレベルに合わせて具体化し、適切な権限を与えなければ、行動は実現されず意味をなしません。
予測
将来、発生する可能性のある問題を先読みし、その先手を打つ試みのことです。目的とリスクは光と影のような関係です。目的が大きければ、それに伴うリスクも大きくなります。そのため予測ではリスクをあらかじめ見越し、事前に解決策を考えておくことが重要です。
小さな問題はすぐに解決できるかもしれませんが、問題が大きくなると対処が難しく、多くの労力が必要です。予測は目先の問題解決とは異なり、問題が芽生える前に予防できるので労力を節約できるメリットもあります。
学習
学習は経験を深めることと、目的に合わせた学びの転用の2つが重要です。
1つ目の経験を深めることは、徹底してある一つの専門性を極めることとも言い換えられます。「ものづくりを極める」「営業を極める」「〇〇技術を極める」といったことは、まさしく経験を深めていく過程を指します。
もう1つの目的に合わせた学びの転用は、例えば異なる業界のビジネスモデルを自分の業界に転用するといった発想のことを指します。製造業の工場改善の事例で製造装置の修理の優先順位を考える際に、救急医療現場でのトリアージ(医療や救急の現場で優先順位をつけるためのシステムや手法)の考え方が参考になったという話があります。このように学びを横展開することが、学びの転用です。
目的ドリブンの思考法を実践する際の注意点を教えてください。
目的ドリブンの思考法を実践する際には、以下の点に留意する必要があります。
- プロセスを飛ばさない
- 意識的な見極めと絞り込み
- 得意領域を活用して振り返る
- 数をこなして場数を踏む
問題解決や判断においては、プロセスを飛ばさずに順をおって進めることが重要です。「認知」を飛ばして「判断」すると、目的や課題の把握があいまいになり「行動」が的外れになる可能性があります。
その際、意識的に問題の見極めや選択肢の絞り込みも行いましょう。当たり前のことであっても、その意識を忘れないことが大切です。またこれまでの行動を振り返ることも必要です。「認知」の甘さや過剰な課題への対応などをチェックすることによって、目的ドリブンの思考法を実践する手掛かりとなります。
目的ドリブンの思考法を体得するためには、単に理解するだけではなく、実際に自分で頭や手を動かし、自身で“思考の感覚”をつかむことが欠かせません。「量質転化」、つまり数をこなすことで質が向上したときに、初めて自分自身の技術となりえるのです。日々のなかで意識的に実践し、場数を積んでいくことが重要です。
これらのポイントを意識して何度も「基本動作」を実務の中で繰り返し鍛錬することによって、より効果的に目的ドリブンの思考法を身につけることが可能となります。
経営者が従業員に5つの基本動作を習得してもらうコツがあれば教えてください。
経営者が従業員に5つの基本動作を習得させるコツは、以下のとおりです。
- 経営者の振る舞いの影響力
- 目的ドリブンの考え方とメッセージ発信
- 問いかけを通じて従業員の考える習慣を浸透
経営者の行動や態度は従業員に大きな影響を与えます。従業員は経営者を見て行動し、経営者の関心や価値観に共感する傾向があるためです。特に中小企業では経営者の意識が組織の文化や雰囲気に大きく影響を与えるため、経営者のリーダーシップがどう発揮されるかが問われます。
また経営者自身が目的ドリブン的な考え方を持ち、組織内にメッセージを発信することも大切です。経営者が目指す方向や重要視する要素について従業員と対話し、従業員自身に考えさせるようにしましょう。
「今どこを目指しているのか」「何が重要なのか」などの問いかけを続けることによって、従業員が考える習慣を育むことが可能です。「これ聞かれるだろうな」と意識するようになり、自発的に考える意識が芽生えます。
従業員との対話や問いかけを通じて従業員自身が主体的に考える習慣を養い、経営者自身が目的ドリブンの思考法を具体的に体現することが重要です。これにより経営者の意識と行動の変革が組織全体に波及し、従業員のパフォーマンス向上や組織の成果につながるでしょう。
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この記事の著者
弥報編集部
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この記事の監修者
望月 安迪(デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 テクノロジー・メディア・通信(TMT Division) シニアマネジャー)
長期ビジョン構想、事業戦略策定、新規事業開発、企業再生、M&A案件の他、欧州・アジアにおけるグローバル戦略展開、大規模全社組織再編プロジェクトなど、数多くの戦略・組織変革案件に従事。デロイト トーマツ グループ全体を対象とした「ロジカルシンキング」研修講師を担当し、新卒・中途入社社員の採用・人材開発にも関与。
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