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【社労士が解説】問題ある社員、どうする?懲戒処分の基本と適切な対応法

2024.12.17

著者:弥報編集部

監修者:宮田 享子

従業員のトラブル対応は、多くの中小企業経営者にとって悩みの種です。特に、日々の業務に支障を来たすような行動を取る社員がいる場合、その影響は会社の規模が小さいほど大きくなりがちです。

今回は、問題行動を起こす社員への対応方法として、懲戒処分に焦点を当てます。みやた社労士事務所の宮田享子さんに懲戒処分の種類や手続きの注意点、過去のトラブル事例なども踏まえ、中小企業がスムーズかつ適切に対応するためのポイントを解説します。


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「懲戒処分」は、企業秩序を守るための手段

懲戒処分とは具体的にどのようなものですか?

懲戒処分とは、従業員の不適切な行動や違反行為に対して行われる処分で、組織の秩序を保つための手段です。違反する社員がいる場合に制裁する企業は従業員に一定の職務規律を守ることを求め、違反があればその行動の改善を促し、再発防止を目的としています。

どのような従業員の問題行動が生じたときに検討すべきでしょうか?

法律を犯しているなど、明らかに犯罪行為である場合以外、その問題行動が懲戒処分に値するかどうかは、企業が策定する就業規則に基づいて検討されます。例えば勤務時間を守らない、欠勤が多いなどの日常的に見られる行動から、暴言を吐く、上司の指示を聞かないなどのトラブルにつながりかねない行動まで、想定される事象はさまざまです。また、従事する業種内容によって、その行動がどれほど深刻なものであるかが変わってきます。

例をあげるとすれば、勤務中の飲酒です。同じ飲酒でも、ホワイトカラーの企業と、タクシー業界や医療従事者などでは深刻度が大きく異なりますよね。飲酒状態で勤務することは事故やミスが発生するリスクが高まるため、業務内容が顧客や患者の安全に直結する業種では、特に責任が重要視されます。

就業規則がない場合でも懲戒処分は行えますか?

就業規則がない場合、懲戒処分の正当性が問われる可能性が高くなります。企業は、明文化されたルールがないと従業員に処分の根拠を示すことが難しくなるため、まずは就業規則を作成することが望ましいです。また就業規則があっても、懲戒処分の基準がない場合も、処分の合理性を示せないため、リスクを伴います。具体的な懲戒基準を設けておくと安心でしょう。

知っておくべき懲戒処分の段階と、適用となる場面

懲戒処分にはどのような種類がありますか?

懲戒処分は一般的には6種類あり、軽い順から「けん責(戒告または訓戒)」「減給」「出勤停止」「降格」「論旨(ゆし)解雇」「懲戒解雇」となります。

けん責(戒告または訓戒)

口頭または書面での注意にあたる処分です。これは比較的軽い処分であり、問題行動が発生した際に反省を促す目的で行われます。企業によっては、始末書や反省文の提出を求めるケースもあり、こうした対応は就業規則に基づいて定められています。

減給

給与を一定額減らす処分ですが、労働基準法第91条により減給額が制限されています。例えば、1回の問題行動に対して減給できるのは、1日の平均賃金の半額までです。また、複数の問題行動があった場合でも、月の賃金総額の10%以内に抑えなければなりません。これにより従業員の生活を保護しつつ、行動を改善させる目的が含まれています。

出勤停止

一定期間出勤を停止させる処分です。法的な上限はありませんが、通常は7日から30日の期間を設定することが多いです。出勤停止中の給与については、企業は支払う義務がありませんが、その旨も就業規則に記載しておく必要があります。出勤停止は、問題行動に対する抑止効果を狙い、再発防止のための一時的な措置として活用されます。

降格

従業員の職位や職能資格を引き下げる処分です。この処分は、特に管理職やリーダー職の従業員が問題行動を起こした場合に適用されることが多く、責任の重いポジションから外すことで、組織の秩序を保つことを目的としています。

諭旨解雇

従業員に自主的に退職してもらう形での解雇を指します。この場合、企業は従業員に対して穏便に辞職を促し、退職金の支給が行われるケースが一般的です。通常、諭旨解雇は、懲戒解雇ほど厳格な処分とはされないため、企業としても和解的な解決を図りたいときに適用される場合があります。

懲戒解雇

最も重い処分です。これは、企業秩序を著しく乱す重大な違反行為に対して適用される解雇であり、退職金が発生しないケースも多いです。懲戒解雇は、企業が定める規則に違反した場合に行われ、例えば職務上の不正や重大な規律違反が該当します。

懲戒解雇と普通解雇の違いは何ですか。

懲戒解雇と普通解雇には、性質や適用場面に大きな違いがあります。普通解雇は、懲戒解雇のような「制裁」ではなく、雇用契約の継続が困難な場合の措置とされています。例えば従業員の業務遂行能力の不足や長期の病気・休職などにより職務の遂行が困難な場合に適用されるもので、懲戒的な意図はありません。

懲戒解雇は、企業に重大な損害や信用失墜を招く行為、または社内外に深刻な悪影響を及ぼすような行為が対象となり、即時解雇が適用されることもあります。その一方で、裁判リスクもあり、法的な正当性の確認が重要です。従業員の再就職にも大きな影響を与えるため、企業側としては慎重な対応が求められるでしょう。

懲戒処分は揉めるケースも多い?事例を知ってトラブルを防ごう

懲戒処分を受けた従業員と企業が、裁判で揉めた事例はありますか?

懲戒処分を受けた社員が企業を提訴するケースは少なくありません。懲戒処分を行う際、その処分が適切であるかどうかが重要なポイントであり、裁判でも主な論点となります。以下に訴訟例をあげましょう。

ある企業で、部下に対して必要以上にしっ責した部長職の社員に対して、けん責処分を適用させたところ、その社員は訴訟を起こしました。社員は「自分の行為は懲戒処分に値しない」と主張しましたが、企業の提示するハラスメント防止の取り組みを明らかに阻害する言動だったことや、行き過ぎた私的なやり取りなどの記録もあったことなどから、裁判所は「けん責処分が適切であった」と判断しました。

また別の裁判例では、ある大学の准教授が、通勤手当の不正請求を巡り大学から懲戒解雇されたことについて、訴訟を起こしました。その准教授は、通勤届に記載していた電車ではなく、バイクで長年通勤していました。大学は諭旨解雇を試みましたが、退職届を出さなかった准教授に対して懲戒解雇処分を適用させたのです。このケースでは「懲戒解雇は無効」とされましたが「諭旨解雇は有効」となりました。

以上2つの訴訟例から、該当行為に対する懲戒処分が適切かどうかは、該当社員同士の関係性や、行為のあった経緯や状況などにもより、一概に判断できかねることがわかります。

いずれの場合も、適切な手順や検討のうえで懲戒処分を適用させ、またその証拠があれば有効となるケースも多いでしょう。裁判までいかなくても、懲戒処分を受けた社員の逆恨みなども懸念点としてあげられるため、十分な対応と配慮が求められます。

これらのトラブルを避けるためにできる対策はありますか?

懲戒処分を巡るトラブルを回避するためには、従業員との契約や規定を明確にしておくことが何よりも重要です。就業規則の中で、服務規律に反した場合の懲戒処分の内容や手続きを明記しておくことが大切です。就業規則が無い場合でも、雇用契約書や労働条件通知書内で懲戒処分に関する決まりを明確にしておけば、後々のトラブルを避けられます。

加えて、該当する行動を書面として記録すると物的証拠になります。具体的には、問題行動を起こした日付とその内容を書き留めるなどして、後々の対応が正当であることを証明できるようにしておきましょう。

懲戒処分時に求められる注意事項と効果的な対策

懲戒処分を行う際の具体的な進め方を教えてください。

懲戒処分を実施する際には、慎重かつ段階的に進めることが重要です。まずは従業員の行為が就業規則にどのように反しているのか、事実確認から始めましょう。

次に、懲戒処分の内容を記載した通知書を従業員に交付します。この通知書には、懲戒処分の理由や処分内容を明確に記載し、必ず従業員に弁明の機会を与えることが求められます。法的なフォーマットは特に定められていませんが、インターネットで参考となる文書を見つけることは可能です。

その後、処分が従業員の行為に対して適切であるかどうかを慎重に判断します。裁判例には、言動に対する処分が過剰であるとされたケースも多く存在します。そのため、処分内容が適切であるかどうかを確認するために、懲罰委員会を設けるなどして、関係者間でしっかりと話し合いを行うことが推奨されます。

さらに、処分の内容を決定する前に、できる限り専門家や弁護士に相談することが適切です。こうした慎重な判断と事前の調整により、不当な処分を避け、適切な対応ができるようになります。

懲戒処分の際に注意しておきたいことを教えてください。

事実確認を徹底し、必ず従業員に弁明の機会を与えてください。特に懲戒解雇については、納得のいく説明が求められ、法的トラブルを避けるためにも慎重に手続きを進める必要があります。

就業規則や懲戒処分の規定は、ただ作成するだけでは効果を発揮しません。これらの規定は、従業員に周知されていなければ法的に無効となるため、社内での周知徹底が何よりも重要です。

例えば、採用時や入社直後に、間を置かず就業規則を確認する機会を設けることが効果的です。特に中途採用の従業員については、以前の職場で許されていた行為がある場合、それが当社でも認められると思い込み、問題が生じるケースも考えられます。「仕事さえできればよい」という感覚では、遅かれ早かれトラブルにつながりかねません。

懲戒処分をしなくてすむならその方がよいです。日ごろから自社の秩序を保ち、社員全員が安心して働ける職場環境を整えるためにも就業規則を適切に定め、日常的に社員へ周知を図ることが肝要です。


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この記事の著者

弥報編集部

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この記事の監修者

宮田 享子(みやた社労士事務所 代表)

社会保険労務士。産業カウンセラー。
B型。左利き。商社・損害保険会社・ゲームソフト会社など、さまざまな業種の企業で事務職を経験した後、結婚を機に退職。2児の育児中に友人の社労士事務所を手伝ったことが資格取得のきっかけとなった。
2010年4月に独立開業し、労務相談の他講師業や執筆業等にも力を入れている。「お堅い法律の話を馴染みやすく」がモットー。
趣味はオーボエ演奏なので「チャルメラ社労士」を名乗る。

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