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値上げしても顧客離れを防ぐには?飲食店に学ぶ「価値ベース」の価格設定【船井総研が解説】

2026.09.29

著者:弥報編集部

監修者:石本 泰崇

物価や人件費の高騰が続くなか、多くの企業が頭を悩ませているのが値上げの判断です。「価格を上げたら常連客が離れてしまうのではないか」という不安から、値上げに踏み切れない経営者も少なくありません。

しかし、コストが増加するなかで価格を据え置けば、収益性は悪化し、事業継続そのものが危うくなります。では、値上げしても顧客に選ばれ続けるためには、どのような考え方と工夫が必要なのでしょうか。

この記事では飲食店の事例を基に、顧客離れを防ぎながら適正な利益を確保するための考え方と実践法を、船井総合研究所の石本さんにお聞きしました。飲食店に限らず多くの業種に共通する悩みと解決法です。ぜひ参考にしてみてください。


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なぜ値上げに踏み切れない?価格据え置きのリスクと「毎年見直す」発想の転換

物価や人件費の高騰が続くなか、値上げに踏み切れない企業が多いと聞きます。なぜ躊躇してしまうのでしょうか。

最大の理由は「客離れ」への不安です。特に中小企業の場合、地域密着や狭い商圏でビジネスを展開しているケースが多く、既存顧客のリピートが業績の柱になっています。そのため、値上げによって1回当たりの支払額が増えると、利用頻度が落ち、客数が減ってしまうのではないかと不安を抱きがちです。

ただし、客離れのリスクは一様ではなく、年齢層によっても異なります。40代以上の層は「気に入った店に通い続けたい」という傾向が強く、他店と細かく比較することが少ないため、値上げの影響が出にくい傾向があります。一方、30代以下の層は新しい店や商品への関心が高く、他店と比較検討する機会も多いため、値上げによる離脱が起こりやすい傾向があります。

それでも不安が消えないのは、「顧客は、何に対してお金を払っているのか」という自社の価値を把握できていないからです。そこがあいまいなままだと、値上げが顧客にどう受け止められるかを予測できず、漠然とした不安だけが大きくなります。逆に自社ならではの価値を明確にできていれば、その価値に見合った価格設定を考えられるようになります。

値上げを躊躇し続けると、どのようなリスクがありますか?

コストが上がり続けるなか、値上げをしなければ粗利が削られ、収益性は悪化します。最悪の場合、事業の継続自体が難しくなる可能性もあります。

今後、物価や人件費がかつての水準まで下がるとは限りません。だからこそ、コストが上がることを前提に、商品設計や提供価値をどう工夫していくかを考える必要があります。

値上げのタイミングは、いつ検討すべきでしょうか。

タイミングが気になる方も多いかもしれませんが、値上げの時期を見計らうよりも「毎年値上げする」と決めて、あらかじめ価格改定を計画に組み込んでおくことをおすすめします。

例えば飲食店であれば、季節ごとのメニュー開発や商品のブラッシュアップと合わせて、価格改定も計画に組み込みます。事前準備なしの急な値上げは失敗を招く典型例なので、商品や提供価値の見直しとセットで、計画的に進めましょう。

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お客さまにどう楽しんでもらうか──「価値ベース価格設定」の実践法

価格を上げても顧客離れを起こさないためには、具体的にどのような工夫が必要ですか。

価格から考えるのではなく、商品設計から見直すことです。飲食店を例にすると、来店動機となる「名物商品」を確立するのが基本です。名物商品は必ずしも粗利を高くする必要はなく、集客のための商品として割り切ってもかまいません。

そのうえで「1人当たり何品注文してもらうか」を想定してメニューを設計することが大切です。例えば、1人3品注文してもらいたいのであれば、目標とする客単価から逆算して、1品当たりのボリュームと価格を設定します。

注文の仕方まで想定して、客単価を上げられるようなメニューを作るのですね。

そのとおりです。わかりやすいのが回転寿司業界の変化です。

かつては「1皿2貫、100円」の寿司を10皿ほど食べてもらい、客単価1,000円前後というモデルが主流でした。しかし現在では、ネタの質を高めつつ1皿当たりのボリュームを抑え、少しずつ多くの種類を楽しんでもらうことで、客単価を引き上げる設計が定着しています。単に1皿の値段を引き上げるのではなく、少量多品目でいろいろな種類を楽しみたいという顧客のニーズを満たしながら、自然と客単価が上がる仕組みを作っているのです。

1品当たりの量を減らして、粗利率を高める方法も有効でしょうか。

はい、その方法も有効です。ただ、価格を据え置いたまま量を減らすだけでは、不満を生みやすくなります。このため、量を減らすのに合わせて1品当たりの価格も下げつつ、グラム単価は上げるという設計が効果的です。

例えばこれまで「1品100g、500円」で提供していた商品を、「1品50g、300円」に変更します。単純に半額の250円にするのではなく、300円に設定することで、1g当たりの単価を高め、粗利率の改善につなげるわけです。

顧客にとっては頼みやすい価格になり、店舗にとっては粗利率が上がるわけですね。

はい。特に近年は1組当たりの来店人数が減少しています。例えば居酒屋業態では、以前は1組当たり3人台が中心でしたが、現在は2人台の利用も一般的になっています。人数が少ないと大皿料理は注文しにくく、少量で低単価の商品は近年の顧客ニーズにも合っています。

さらに豆皿などの器を工夫して華やかに盛り付ければ、さまざまな料理を少しずつ楽しみたいというニーズにも応えられます。単に料理の質や量を変えるだけでなく、その店でどう楽しんでもらうかという体験価値まで含めて設計することが成功のポイントです。

すべてのメニューを一律で値上げする必要はないのでしょうか。

一律に値上げする必要はありません。メニューごとの出数(注文数)には偏りがあり、売れ筋とそうでない商品に分かれます。あまり注文されない商品を値上げしても、収益改善のインパクトは限定的です。まずは、よく出る主力商品に絞って、価格や商品設計の工夫を集中させることがポイントです。

他社のリサーチは必要でしょうか。

他社の情報を取っておいて損はありません。むしろ避けたいのは、自社のやり方だけで考え続け、視野が狭くなることです。他店でどのような商品や価格帯が支持されているのかを見て回るだけでも、自分たちの「当たり前」が当たり前ではないと気付けます。そのうえで取り入れるかどうかは、自社のコンセプトや強みに合うかどうかで判断すれば十分です。

自社の価値を正しく把握し、値上げに活かすには何から始めるべきでしょうか。

以下の3つのステップで整理していくことをおすすめします。

(1) 社長や店主の思いを言語化する
(2) 商品やサービスが、その思いを表現できているか確認する
(3) 自社が考える価値と、顧客が感じている価値が一致しているかを確認する

(1)と(2)は社内で確認できますが、(3)では顧客からの評価を確認する必要があります。自社で強みだと思っている部分と、顧客が評価している部分がずれているケースがあり、このギャップは顧客の意見を把握しないと見えてきません。

顧客が感じている価値は、どのように確かめればよいでしょうか。

手軽な方法としてはQRコードなどを使ったアンケートがありますが、より具体的な声を聞くのであれば、2回以上来店している常連客に店長や経営者が直接声をかけるとよいでしょう。現場のアルバイトだけに任せるのではなく、責任者が直接話を聞くと、自分たちが気付いていない自社の価値が見えてくる場合があります。

自社の価値は、最初から完璧に言語化できなくてもかまいません。店主の思いを言語化する。実際の商品やサービスがその思いを表現できているかを見直す。そして顧客の声を聞く。この3つを繰り返すことで、自分たちが提供している価値が徐々に明確になっていくでしょう。

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飲食店に学ぶ、値上げの成功事例と失敗事例

実際に値上げに成功している事例を教えてください。

大衆酒場の業態では、200〜400円台の小皿料理を充実させ「少しずつ多彩な料理を楽しめる」という価値を提供することで、1品当たりの支払額を抑えながら注文数を増やし、客単価アップにつなげている店舗があります。1品の価格だけを見るのではなく、商品の量や見せ方、楽しみ方まで含めて設計し、成功した事例と言えるでしょう。

また、ある大手カフェチェーンでは値上げする商品の順番を工夫することで、価格改定を進めた事例があります。まずは顧客が値上げを受け入れやすい商品から段階的に価格を改定し、最も支持されている看板商品の値上げは最後に回しました。

看板商品を値上げすると一時的に客数が落ちることがありますが、大手チェーンであれば看板商品の認知が高く、その後の回復が期待できるため影響を抑えられるケースもあります。何を、いつ、どの順番で上げるのかという設計も成功のポイントです。

逆に失敗してしまうのは、どのようなケースでしょうか。

事前の告知なしに、主力商品をいきなり値上げしてしまうことです。特に、来店頻度の高いリピーターほど価格の変化に気付きやすく、値上げ幅以上に心証を害します。

では、何週間も前から貼り紙で予告した場合はどうでしょうか。印象としては悪くないのですが、「上がる前にもう一度行っておこう」という駆け込みと、その反動を招きかねません。

現実的な方法は、価格改定のタイミングに合わせて「何月何日から価格を改定します」と明確に事前告知し、お客さまが納得して受け入れるための期間を適切に設けることです。適切なタイミングで事前に伝えることが、常連のお客さまの納得感につながります。

値上げ後、どの程度客数が落ちたら対策を打つべきでしょうか。

1つの目安として、値上げ後の客数が前年同月比で90%を下回ってきたら、追加の対策を検討するサインと考えています。その場合、例えば商品の見せ方を変える、価格設定を見直す、新たな商品を投入するなど、何らかの手を打つ必要があるでしょう。

最後に、値上げに悩む経営者の方へアドバイスをお願いします。

値上げ後に他店と比較され、価格への不満が出ることもあるかもしれません。しかし、他社を否定したり、焦って値下げ競争に戻ったりする必要はありません。大切なのは、自社の強みやこだわりを信じ、価値を正しく伝え続けることです。自分たちの価値を、自信を持って伝えましょう。

もし自社に明確な強みがないのであれば、まずは「選ばれる理由」を作ることが、値上げ対策の基本です。

今回は飲食店の「名物商品」や「出数」を例にお話ししましたが、これはあらゆる業種に共通する考え方です。他業種に置き換えれば、「名物商品」は自社のストロングポイントとなる看板サービス・製品、「出数の偏り」は主力商品とそうでない商品の見極めに当たります。

主力商品こそ慎重に価値を設計し、注文や利用が少ない商品については、値上げに過度な労力をかけない。この考え方は、どのビジネスにも応用できます。

自社が提供している価値を見直し、その価値に見合った価格を設定する。それこそが、値上げしても選ばれ続ける強い事業を作るための確固たる土台になります。


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この記事の著者

弥報編集部

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この記事の監修者

石本 泰崇(株式会社船井総合研究所 地域コングロマリット支援部 フードグループ マネージャー)

2009年2月に中途入社。前職は大手外食チェーンの関西地区にて店舗、人財管理に従事する。
船井総研入社後は、外食・中食・スイーツ業界におけるコンサルティング活動に従事。
船井総研ワンストップで飲食企業の課題解決ができるチームを率いている。
業態開発、新規出店、多店舗展開、既存ブランドのブラッシュアップなど、中でもマネジメントテーマのコンサルティング実績が多く人材マネジメント(教育、定着化の仕組みづくり)を実施し、持続的な企業業績向上のプロデュースに携わっている。

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