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もう月末の支払いに慌てない!「手元流動性比率」を改善して資金繰りに強い会社を目指そう
2024.09.09
「今月の支払いは乗り切った、さて来月はどうなることか……」中小企業を経営していると、資金繰りに悩んだ経験が一度はあるかもしれません。もし自社の手元資金が安全な状況かどうか判断できる指標があれば、対策ができると思いませんか。
とはいえ会社の財務状況を表す指標は、数式が複雑だったり表現が難しかったりとわかりにくいものです。そこで今回の記事では、経営者にとって身近な数字で資金の状況を把握できる「手元流動性比率」を取り上げます。
経営計画や月次決算に強いビジョン税理士法人 代表税理士 鈴木宗也さんに、手元流動性比率の概要や分析方法、改善のアイデアなどを伺いました。
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目次
手元流動性比率の特長は、会社の「リアルなお金」を確認できること
手元流動性比率とは、簡単に言うとどのような経営指標なのでしょうか?
手元流動性比率は、売上に対する現預金の比率を示す指標です。経営者の皆さまにとって身近な言葉で表すと「月商の何か月分のお金が手元にあるか」と言い換えられます。
手元流動性比率が高いほど、その企業には手元の資金が潤沢にあると言えます。つまり直近の支払いに余裕があるかどうかがわかる、と言ってよいでしょう。
さまざまな経営指標がある中で、手元流動性比率に着目することの利点は何でしょうか?
経営者にとって直感的にわかりやすいということです。他の経営指標は、会計や財務の専門家でなければ理解が難しいことが多いでしょう。例えば、経営の安全性を測る指標に「自己資本比率」があります。自己資本が総資本の30%以上を占めることが健全経営の目安になりますが、貸借対照表を見慣れていない人にはイメージしづらいと思います。
一方、手元流動性比率は「月商」という使い慣れた言葉で説明しているので、ほとんどの人がすぐに理解できます。数字が苦手でも、簡単に使いこなせるというわけです。
自己資本比率だけでは安全性は見られないのでしょうか?
はい。手元流動性比率を併用すると、よりリアルな会社の数字が見られます。なんといっても一番信用できるのはお金、つまり「現預金」です。自己資本比率には手元の資金という観点はありません。3年や5年といった中長期で会社の安全性を見ることには優れていますが、目の前のお金を見ることについては手元流動性比率に軍配が上がります。
手元流動性比率を高めておけば、売上が下がったり得意先の都合で入金が遅れたり、といった不測の事態に備えることができます。特に中小企業にとって、資金繰りは経営課題の最優先事項になることが多いでしょう。資金が潤沢にある企業は別ですが、少しでも不安がある企業は定期的に手元流動性比率をチェックすることをおすすめします。私の体感ですが、8割近くの中小企業が該当するのではないかと思います。
当座比率や流動比率との違いについても教えてください。
手元流動性比率は「会社がすぐに使えるお金」がどれくらいあるかわかります。当座比率には売掛金、流動比率には棚卸資産など、すぐには現金化できない資産が含まれているので、直近の支払い能力を見るには必ずしも適していません。
手元流動性比率の計算式とキープしておきたい数値の目安
手元流動性比率の計算式を教えてください。
以下の通りです。中小企業向けに少しだけカスタマイズしています。
(現金+預金)÷(年間の売上高÷12)
例えば現金800万円、預金1200万円、年商1億2000万円だった場合、以下のように計算します。
(800万+1200万)÷(1億2000万÷12か月)
=2000万÷1000万
=2
この場合、手元流動性比率は2か月分、と表現します。
現預金÷月商とすると覚えやすいかもしれません。
一般的には分子に現金と預金だけでなく、短期有価証券(1年以内に現金化できる株式や債券など)を加えますが、中小企業の場合は保有していない企業が多いので、上記のように考えたほうがわかりやすいと思います。もし短期有価証券を持っていたら加えてください。
手元流動性比率がどれくらいあれば安全と言えるのでしょうか?
2か月分あれば合格点。3か月分あれば100点満点、といったところが目安です。
というのも手元流動性比率が1か月以下だと、得意先からの入金を待って、仕入先への支払いや給与の振込をしていることになります。もし得意先が支払遅延でもしたら、すぐに支払いに困ることになるでしょう。いわゆる自転車操業です。2か月分以上あれば、次の入金でなんとか当座をしのぐことができます。
小売店のような現金商売ではもう少し目標を低くしてもよいでしょう。例えば飲食店や美容サロンなどです。この場合は1.5か月分が目安になります。最近は決済のキャッシュレス化が進んでいますが、数日〜遅くても翌月には振り込まれるケースが多いので、現金と同様に考えて差し支えありません。
どのようなタイミングでチェックすればよいでしょうか?
少なくとも月に1回、月初に確認するとよいでしょう。計算は簡単ですから、習慣化することをおすすめします。
手元流動性比率の改善方法と未来を見据えた展開
手元流動性比率が目安を下回ったら、どのように対応すればよいでしょうか?
私は借入をすすめています。資金調達のうち最も基本的な直球と言える方法ですが、シンプルで確実です。手元流動性比率が2〜3か月分になるように金融機関から融資を受けるとよいでしょう。
会社の方針によっては、借入をより積極的な投資に回すこともありますが、その場合でもまずは手元流動性比率の目安をクリアしておくべきでしょう。
少し時間がかかりますが、中長期的な取り組みとしては支払条件の見直しがあります。得意先からの入金を早めたり、仕入先への支払いまでの期間を長くしてもらったりすることです。ただ、既存の関係者にいきなり交渉を始めると関係にヒビが入ることがあります。新規の取引先にのみ見直した支払い条件で契約する、といった配慮が必要です。
他に考えられる対応としては、在庫の処分です。過剰な在庫は資金が固定されてしまい、資金繰りに悪影響を及ぼします。例えば、値下げセールを行って在庫を売り切り、悪化していた資金繰りを改善するという手段も有効です。可能な限り早い段階で現金化を検討しましょう。
当面の支払いには問題なさそうな会社も、注意すべきことはあるでしょうか?
財務のバランスや定期的なチェックに注意を払うとよいでしょう。私どもビジョン税理士法人では、会社の安全性を見る目安として貸借対照表を9つのパターンに類型化しています。
具体的には、目指すべき「理想の無借金状態(AAA)」から、純資産がマイナスである「現預金が非常に少ない、借入金が非常に多い(D)」まで分類し、財務状態を冷静に判断するツールとして活用します。
手元流動性に注意が必要なのは「現預金が少ない、借入金が多い(CCC)」や「現預金が少ない、借入金が非常に少ない(B)」、「現預金が少ない、無借金(BB)」などのタイプです。BBB以下のレベルになってくると、現預金と借入金のバランスを考える必要があります。無駄な利息が発生しないように、積極的に返済をしていってもよいでしょう。
1か月、2か月といった短期の資金繰りに奔走するのは、本来の経営者が行う仕事ではありません。経営者の仕事は、事業の未来について真剣に考え、形にしていくことだと考えています。手元流動性比率を定期的にチェックし、必要に応じて借入を行う。これだけで多くの場合、資金繰りの悩みから解放されて全力で本業に取り組めます。
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この記事の著者
弥報編集部
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この記事の監修者
鈴木 宗也(ビジョン税理士法人 代表税理士)
~経営計画と月次決算書で、お客様の夢「=ビジョン」の実現を応援します!~
400社の中小企業の顧問先に対して、スタッフ53名(正社員・パート・委託)と共に「良い会社」になる支援をしているビジョン税理士法人の代表。
経営計画書と月次決算書に出会い、自社で導入したことにより、採用が強化され、応募人数が、年18名から年357名に増加しました。さらにわずか3年で、利益が10倍になりました。
「100年経営とワクワクする良い会社創りを応援する」というミッションを掲げ、さらには「21世紀の日本経済を元気にする」というビジョンを実現するために税理士法人を経営している。
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