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ベストセラー『解像度を上げる』の著者に聞く!ビジネスで解像度を上げるために重要な「4つの視点」とは
2024.06.04
ビジネスの現場で「解像度が高い/低い」という言い回しを聞くことがありますが、具体的にどういう状態なのか、説明できますか?自分がよく理解できなかったから「これは解像度が低い」、自分がピンと来ているから「これは解像度が高い」などのように使っているのであれば、それこそ「解像度」に対する解像度が低いのかもしれません。
解像度を上げる具体的な方法はきちんと存在します。また、その際に重要となる「4つの視点」があり、その4つの視点から検討すれば物事の解像度は確実に上げられます。加えて、ビジネスにおいて具体的に何の解像度を上げればいいのかなどについても含め、『解像度を上げる』の著者、馬田隆明さんに解像度を上げる具体的な方法などを伺いました。
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目次
今さら聞けない?ビジネスにおける「解像度」とは
そもそも、ビジネスにおける「解像度」とは、どのような意味なのでしょうか。
ビジネスにおいて「解像度」という言葉は、物事の理解度の高さや低さ、あるいは計画の精細さや思考の明晰さのようなものを表現するときによく使われます。「解像度を上げる」とは、情報と思考と行動の量や質を向上させることによって、現象に対するより深い理解を行い、適切な結論を導くための過程のことです。
「解像度が高い」とはどのような状態を指し、それによって何が期待できるのでしょうか。
具体的にいうと、自社の顧客像が明確にわかる、起こるケースに対して的確な事例をあげられる、さまざまな可能性を考慮できているなどの状態があげられます。一見ばらばらに見える情報でも、構造化させるなどして解像度を高めることで、適切な結論を導けるようになるでしょう。目の前に靄(もや)がかかっている状態では、矢をたくさん打てても的を射貫くことはできませんが、解像度が高ければ、少ない矢、すなわち少ない時間や労力、コストで目標を達成できるかもしれません。
あなたのビジネスは大丈夫?解像度チェック!
解像度の高低を、客観的に判別する方法があれば教えてください。
例えば起こった事象に対して、「6W・3H」を明確に第3者に伝えられるかなどをチェックしてみましょう。
【6W】
What?(何が起こったのか)
Who?(だれの課題なのか)
When?(いつ起こったのか)
Where?(どこで起こったのか)
Why?(なぜ起こったのか)
Whom?(だれに対するものなのか)
【3H】
How?(どのように起こったのか)
How much?(いくらぐらいのお金を使っているのか・どれくらいの規模なのか)
How often?(どれくらいの頻度で起こったのか)
その他、現在取り組んでいる仕事を思い浮かべながら、下記のチェックリストも参考にしてください。
- 重要なところを明確かつ簡潔に話せる
- 自信を持って言い切ることができる
- ユニークな洞察がある
- 多層的・多視点的に説明ができる
- 競合他社との詳細な比較が言える
- 短期的と長期的な目標、そこに至るまでの具体的な数値目標を明確に言える
具体的に、ビジネスでは何の解像度を上げればよいのでしょうか。
注力すべきポイントは、「課題」と「解決策」の2つです。特に「課題」に関しては注意深く選定しなければいけません。なぜなら、表層に見えている症状をそのまま「課題」として捉えてしまうと、それに対する「解決策」は根本的な課題解決にはならいからです。
病気で例えてみます。39度の熱がある場合、表層的な解決策は解熱剤になるでしょう。しかし根本的な病因の可能性は、インフルエンザ、食あたり、盲腸などさまざまです。病因を明らかにしなければ、本当の意味での解決策はいつまでたっても見つけられません。
深さ・広さ・構造・時間の4軸で物事を捉える
課題や解決策の解像度を上げるには、どのような方法があるのでしょうか。
それぞれの解像度を上げるには「深さ」「広さ」「構造」「時間」の4つの視点で分析する方法が有効です。ここでは、課題の解像度を上げるための方法にフォーカスして1つずつ解説しましょう。
深さの視点
例えば、売上データなどから新規顧客が減っていることがわかっているとします。ここで、なぜ減っているのかには、さまざまな原因が考えられます。それぞれの根本的な原因を明確にし、目安としては7段階程度まで「なぜそうなのか」と考察することが、深さの視点での分析を意味します。何から始めたらよいかわからないときは、まず目の前にある事象を分解しながら、わかっていること、わかっていないことを整理し、書きだすことから始めてみましょう。
特に新規事業の検討時は、業界や顧客の課題に対して表面的な理解にとどまっている場合も少なくありません。そんなときは「顧客へのインタビュー」などを実施し、顧客一人ひとりに接して、課題の根本的な原因を特定するまで掘り下げてみるのもよいですね。
どこを深く掘り下げるべきかわからないときは、「サーベイ(調査・測定)」がおすすめです。プロジェクトの初期段階では、情報不足で解像度が低いことがほとんどです。事例を集めてみたり、関連する新規事業を調べたりといったサーベイをしてみましょう。より深い情報を得るためには、コミュニティに参加するのもよいでしょう。
広さの視点
新規事業のアイデアを検討する際には、深めていく前に、広さをある程度確保しておくことも重要です。現象や、それに伴う原因をなるべく広く把握し、異なるアプローチや視点を幅広く検討すると、もともと考えていたこととは別の原因や解決策に気付くこともあるからです。目の前の顧客だけでなく、業界全体の構造や動向まで含めて理解するようにしましょう。
前述したサーベイは、広さの視点を持つうえでも有効です。また広さを確保するときには「前提を疑う」こともおすすめです。視座を高くしたり低くしたりすることで見えてくる課題もあるので、さまざまな立場で考えて見たり、物事の抽象度を高くしたり、低くしたりしながら考えてみましょう。
構造の視点
深さや広さで情報を収集した後、それらの情報をうまく構造化することで優れた洞察が得られる場合があります。情報整理を行いながら要素間の関連性を見つけることで、より深い課題や、効果的な解決策のヒントが得られるでしょう。情報を構造化するときには、切り口に留意しながら取り組む必要もあります。
構造の解像度を上げる際、視覚化は有効な方法の1つです。データをグラフ化したり、付箋を活用して関連する要素をグルーピングしたりするなどのアプローチも効果的でしょう。視覚化することで、複雑な情報を整理しやすくなります。
またフレームワークを活用してみてもよいでしょう。例えば「3C※」のような伝統的なフレームワークや「ビジネスモデルキャンバス※」「リーンキャンバス※」などを使用して整理することは、初期には有益なときもあります。ただしフレームワークを使うと、表層的な段階で留まってしまうこともあります。最初のとっかかりとして活用する程度に留め、作っただけで満足しないように注意してください。
※「3C」とは市場環境を分析するためのフレームワーク。
※「ビジネスモデルキャンバス」「リーンキャンバス」は、ビジネスの概要や要素を可視化するためのフレームワーク。
【3C】
顧客 (Customer)
競合他社 (Competitor)
自社 (Company)
【ビジネスモデルキャンバス】
ビジネスの要素を9つのブロックに分け、ビジネス全体の概要を把握するもの。顧客セグメント、価値提案、チャネル、顧客関係、収益の流れ、キーアクティビティ、キーリソース、キーパートナー、コスト構造が含まれる。
【リーンキャンバス】
ビジネスの要素を9つのブロックに分け、検証と実験を通じて短期間でビジネスモデルを構築・改善するもの。仮説の立案、検証、学習のサイクルを重視し、効率的なビジネスモデルを追求する。
時間の視点
ビジネスの課題は時間とともに変わっていきます。解像度を上げるときには、これまで課題がどう変わってきたのか、そして今後どう変わっていくのかといったことを考えることで、今本当に取り組むべき課題も見えてきます。戦略などの場合も、短期的な目標は何で、長期的な目標としてどこまでたどり着きたいのかを整理することで、今何をすればよいのかという具体的な行動の解像度を上げることができます。
時間の視点で解像度を上げるためには、過去データから分析することが一つです。未来についても、いくつかの将来のシナリオをあらかじめ用意しておけば、事態が起こったときにすばやく対応できます。
加えて自分たちの行動の時間軸だけでなく、環境の変化についての時間的な見通しを持つことも意識してみてください。
4つの視点で課題を考えるとき、具体的にどのように整理して考えるべきでしょうか。
深さ、広さ、構造、時間の4つが相互に影響しあって解像度は上がっていきます。わかりやすい方法としては、ツリー構造に分解しながら整理してみることがおすすめです。表面に現れている課題を出発点として、その原因となる要素を分けながら右側に書いていきます。
ツリーが直線に近いときは、広さが足りないか、うまく構造化しきれていないケースが多いです。完成したツリーが、時間が経過するにつれてどのように変化していくかを予想できていれば、時間の視点も併せ持つことができているでしょう。
解像度を上げて世界の見方を変えよう
解像度を上げる作業を行う際、注意すべき点があれば教えてください。
解像度はある日突然上がるものではありません。日々の積み重ねが重要であり、多大な時間と労力を必要とします。ただし、日々意識的に積み重ねなければ、解像度を上げることはできません。
毎日起こる事象を受動的な視点ではなく、能動的かつ意識的に見続けてみてください。その繰り返しで、新たな発見や思考は生まれてきます。そのためには、普段いるコンフォートゾーンから抜け出したり、自分の見ている世界に疑問を持ったりしてみてください。
情報・思考・行動の組み合わせが解像度を上げます。情報や思考がまだ荒い状態でも、行動し始めることをおすすめします。そうすることで、実感を伴った自身の思考も促されるようになり、結果として質の高い情報と思考を獲得することもできるからです。
情報を得たらすぐ思考し、思考したらすぐ行動、行動した結果から情報を得て、再び深く思考して、また行動する、という流れを短時間で繰り返し、サイクルを回すことが解像度を上げるコツです。これに粘り強く取り組んでみてください。
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この記事の著者
弥報編集部
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この記事の監修者
馬田 隆明(東京大学 FoundX ディレクター)
University of Toronto 卒業後、日本マイクロソフトを経て、2016年から東京大学。東京大学では本郷テックガレージの立ち上げと運営、2019年から東京大学卒業生や研究者向けの起業支援プログラムである『FoundX』のディレクターとしてスタートアップ支援やアントレプレナーシップ教育に従事する。著書に『逆説のスタートアップ思考』『成功する起業家は居場所を選ぶ』『未来を実装する』『解像度を上げる』。
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