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「よろしくお願いします」はNG?効果の高い1 on 1を行う方法

2023.09.19

著者:弥報編集部

監修者:越川 慎司

近年1 on 1を導入する企業が増えています。従業員が少ない中小企業においては、経営者自身が実施するケースもあるでしょう。しかし1 on 1は適切な方法で実施しなければ、大きな効果は期待できません。

今回は『トップ5%リーダーの習慣』の著者であり、株式会社クロスリバーの代表取締役社長である越川 慎司さんに、経営者が従業員との1 on 1を効果的に進める方法などについてお話を伺いました。


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1 on 1はどうあるべき?理想は「部下の話す時間が7割」であること

改めてになりますが、「1 on 1」とはどのような取り組みなのでしょうか?

「1 on 1」とは上司と部下が行う1対1の対話です。決められた議題に対して、徹底的にアクションを行うことによりミッションの成功や部下の成長を促すことを目的としています。

一般的には「1 on 1ミーティング」と呼ばれますが、実際に行うのは対話であるため、正確には「1 on 1トーク」という表現が近いでしょう。つまり1 on 1の定義は、上司と部下もしくはリーダーとメンバーが1対1で直接対話をすることです。

1 on 1には2つの段階があります。1段階目「関係構築」で、2段階目が「行動支援」です。

関係構築ではお互いに心を開いて話し合える関係を築くことが求められます。チームミーティングや会議ではなかなか実現できない1対1の対話によって、お互いの思いや考えを素直に伝えられるようになることが目標です。

関係構築ができたら、2段階目の「行動支援」に移ります。ここでは部下が主役となり、部下自身が積極的に話すようにすることが重要です。目安として、部下の話す時間が全体の7割を占めることを目指しましょう。

部下に話す機会を与えるコツは、質問ではなく発問させることです。上司が答えを知っていない状態で傾聴や共感の姿勢を取りながら、お互いに答えがわからない状況からの中で部下に考えさせることがポイントです。ティーチングではなく、部下自身の気付きを引き出すコーチングを行いましょう。

1 on 1は一方的に話す場ではなく、共感や共創のためのツールです。感情を共有し腹を割って話す場であるとともに、行動支援や共創を行う場でもあります。近年は経営者や上司、顧客が主導権を握る時代ではなくなってきたため、一緒に寄り添って共感し、一緒に解決策を見つけられるフラットな関係を築くようにしましょう。

1 on 1によって中小企業が得られるメリットを教えてください。

近年、特に中小企業は圧倒的に人手不足のため、言われたことだけをやる「待ち受け組織」ではなく自分たちで考えてやる「自立組織」を作ろうとする企業が多いです。1on1を行うことで心理的安全性が確保でき、自立組織を作りやすくなるというメリットがあります。

逆に1 on 1を実施しないことによるデメリットとして、下記5つがあげられます。

1.唐突な退職
まず優秀な人が「来月辞めます」と突然言ってくる「ビックリ退職」です。

2.メンタル疾患増加
近年、歴史上最も増えているといわれるうつ病などのメンタル疾患が増えます。

3.行動支援不足による部下の意欲減退
1 on 1を実施しない場合、部下の行動支援ができないため育成機会も減っていきます。

4.嫉妬や愚痴の増加
上司・部下で良好な関係性が築けないことにより、嫉妬や愚痴、メンバー同士の足の引っ張り合いなどにもつながるでしょう。

5.疑心暗鬼による離職率増加
1 on 1や対話が少ない場合、部下が良い評価をもらっていても「なんでこんなに良い評価なんですか?」と疑心暗鬼になり、離職率が上がるケースも散見されます。

自立組織を作るためには心理的安全性の確保が必要、ということですね。では、心理的安全性が確保できている場合とそうでない場合では具体的にどのような違いが出てくるのでしょうか?

目標の達成率や離職率に大きな違いが出ます。

例えば先ほどお話しした関係構築段階において、心理的安全性が取れているチームを「チームA」としましょう。チームAでは上司と部下が2週間に一度、1 on 1を行っています。そんなチームAは会議が少なくて研修時間が多く、結果的に目標達成もしやすい状態になります。

一方1 on 1や対話を行わない「チームB」は、資料作成の時間が仕事の大半を占めたり、精神疾患を患う人が多くなったりしています。離職率もチームAと比較してかなり高いことがわかります。

このような調査結果から、人手不足の解消につながる自立組織を作るためには心理的安全性を確保する必要があるといえます。そしてその心理的安全性を確保するのに、大いに役立つのが1 on 1なのです。

正しい方法で1 on 1を継続的に行うと、現場から経営者に対して「今ちょっといいですか?」という声かけが増えるようになります。これは調査でわかったことですが「今ちょっといいですか?」という声かけは事業開発の機会につながります。廊下や会議室の前でこのような声かけが頻繁に起きる企業では、新商品の開発などもうまくいっている傾向があるのです。

1 on 1は経営者自らが実施するべき?効果的な1 on 1の進め方

近年、中小企業でも1 on 1を導入するところが増えていますが、従業員数は5~15名程度の企業では経営者自身が従業員と実施するケースも多いのでしょうか?

中小企業の場合、経営者が従業員に1on1を実施するケースは多いです。なお経営者という立場であっても、1on1で実施すべき内容は通常のものと変わりません。

また経営者ご自身が、必ずしも全員と実施する必要はありません。直属の部下にあたる従業員と1 on 1を実施することがポイントです。

例えば従業員が15人程度の場合、経営者の下に本部長や取締役、部長などがいてその下に5人ずつ部下がいるケースも想定されます。1 on 1は上司と部下の対話なので、この場合は経営者が直接すべての従業員と行うのではなく、取締役や本部長など直属の部下と実施します。

中間管理職が存在しないような企業の場合は、経営者が全員と接するのが良いでしょう。

1 on 1の具体的な進め方を教えてください。

前述しましたが、1 on 1では相手に7割話をさせることが理想です。特に関係構築の段階では、コミュニケーションの頻度と密度が重要です。月に1回1~2時間話すよりも、2週間に1回15分程度の頻度でコミュニケーションを取ることをおすすめします

成功している中小企業では、リーダーや経営者が対話の時間を設けていることが多いです。例えば朝にコーヒーを飲みながら会話するだけの15分でも十分です。中には食事をしながら1 on 1を行うケースもあります。2週間に1回というスケジュールがどうしても難しい場合は、月に1回15分程度でもいいので実施しましょう。

1 on 1を実施する時間帯は各々の行いやすい時間帯でかまいません。ただし午後4時ごろになると左脳(論理的思考)が疲れてしまい、深く考えられなくなるため夕方などの遅い時間は避けましょう。

どうしても1 on 1を継続するための時間が作れない、という場合にはどうすべきでしょうか?

1 on 1の時間を捻出するためにおすすめなのが、社内会議や打ち合わせの見直しです。これらを効率化することで時間を節約し、1 on 1に割り当てられます。

中小企業の成功パターンとしては、会議時間を1時間から45分へ短縮する企業が多いです。余った15分を活かして、部下との1 on 1の時間を設けます。

1 on 1で話す内容はどのように決めたらよいのでしょうか?また、従業員に質問すべき項目があれば教えてください。

話す内容は状況に応じて聞きながら決めましょう。最初はやはり雑談から入るとスムーズです。定番なのは「天気」「時事ネタ(ニュース)」「飲食」「家族」に関する話です。

ただしその中でもネガティブな話題は避けましょう。 例えばスポーツ選手の金メダル獲得や気持ちの良い天気などのポジティブな話題を選び、新型コロナウイルス感染症の感染者数の増加や好きな野球チームが負けた話などの話題は出さないようにします。

また飲食に関する話題は、共通点を見つけやすいことがわかっています。例えば午後の1 on 1で「昼に近くにできた新しい店にオムライスを食べに行ったけど、とても美味しかった」と話すと、部下も食べ物について話すかもしれません。

なお家族の話題は相手と良好な関係が構築されてからにしましょう。よくある話題ではありますが「一般的な中小企業の従業員のうち24%が家族の話を避けたいと感じる」という統計があり、相手に不快感を与える可能性も高いことも事実です。

そして従業員に質問すべき項目についてですが、関係構築と行動支援の2つの段階それぞれにあった対応が必要です。

まず関係構築の段階では、部下との信頼関係を築くために仕事に関係ないことも含めて共通点を見つけるための質問をしましょう。内容としては、好きなビールやラーメンなどのような話題でかまいません。

一方、行動支援の段階では、2週間や1か月というような一定期間の行動の振り返りを行うことが重要になります。部下に対して「この前の○○、やってみてどうだった?」といった質問をしましょう。

このとき重要なのは、結果がうまくいかなかった場合でも、相手の行動を承認し、失敗ではなく学びがあったかどうかを尋ねることです。「どうだった?」「何がうまくいって、どんな学びがあった?」といった質問を通じ、一緒に振り返りを行います。

そして「次はこういうことを試してみようか」といった提案をしましょう。例えば「僕も経営者としてこういうことを実践してみるから、あなたも少し行動を変えてみてはどうか」といった具体的なアクション改善を次の1 on 1までに実施してもらうようにします。

1 on 1の効果を高めるための4つのポイント

1 on 1を実施する際に気を付けるべきことや効果を高めるためのポイントを教えてください。

ポイントは4つあります。

1. 「よろしくお願いします」を使わない

1 on 1の開始フレーズとして「よろしくお願いします」と言っていませんか?実はこれは、最も避けるべき言葉なのです。理由は2つです。

まず1つ目は「よろしくお願いします」と上司が言うと、部下は対話ではなく面談や面接であると感じるためです。面談になると部下は言葉遣いに気を配り「ヘタなことは言えない……」と感じ、腹を割って話してくれなくなる可能性が高まります。特に上司が「よろしくお願いいたします」と敬語を使った場合、部下はますます話しにくくなるでしょう。

2つ目の理由として「よろしくお願いします」には引っかかる部分が多いのです。例えば上司から「よろしくお願いします」と言われると、部下は「何を頼まれているのだろう」「週報の内容について言及しなければならないのか?」などと考えてしまいます。

チームミーティングなどではもちろん問題ありませんが、1 on 1で「よろしくお願いします」を使うことは避けましょう。

2. 深くうなずく

話を聞く際に首を使ってきちんと「うなずく」ことは大変重要です。共感を作るのは目や鼻ではなく首の動きです。首でうなずくことで、同意と合意形成の意思を表示できます。また部下が話しているときにゆっくりうなずくことで、部下に安心感を与えることが可能です。

優れた経営者や上司がうなずくのは部下に同意するときだけではありません。部下が変なことを言っていてもうなずく傾向があるのです。これは意見を述べてくれたことに対して「ありがとう」と感謝を示しているのです。その意見を採用するかどうかとはまた別の問題です。

意見を出しやすい雰囲気を作るためには、部下の発言に対してしっかりとうなずくことが重要ということです。

3. 皆平等に行う

従業員の中には「自分に1 on 1は必要ありません」と言う方もいるかもしれません。しかし、実はそういう方に限って1 on 1を実施しないとへそを曲げたり、急に退職したりする可能性があります。

コミュニケーションの頻度を人によって差別するのは避けるべきです。年齢・経歴・役職に関係なく、すべての従業員に均等に接しましょう。特に関係構築の段階では、必ず1 on 1を実施するべきだと考えてください。

4. 部下に対して「私はあなたに興味があります」と伝える

これが一番のコツです。「自分に対して興味関心を持ってくれるかどうか」は、部下のモチベーションの源泉となります。

1 on 1を行う際、優秀な経営者は部下に感謝や労いを伝えることから始めるスタートする傾向があります。具体的な内容をあげて感謝することが、相手に伝わりやすい方法です。例えば「先週は残業が多くて大変だったけれど、ありがとう」「今日は忙しい中、15分取ってくれてありがとう」など、具体的な内容について感謝を伝えましょう。

さらに最も効果的に1 on 1をスタートしたい場合には、間接承認を利用することがおすすめです。具体的には、第三者を使って相手を褒めます。例えば「経理部の●●さんが、君のことを褒めていたよ」「お客さんが君に感謝していたよ」などと伝えれば、部下はテンションが上がるでしょう。名前を使われた第三者も嬉しいですし、部下が喜ぶようすを見る経営者も嬉しいので、だれもが幸せになります。

1 on 1に臨む前には、ぜひ間接承認のネタを準備しておきましょう。 1~2分でも構わないので、1 on 1を行う前に部下のことをよく考えてみてください。前回の対話や会話の中で印象的だったキーワードを思い出してみましょう。その中から相手の興味を引く言葉や、フィードバックを考えるだけで最初の一言が変わります。

これは4,000人の一般社員に匿名アンケートを実施した結果から得られた知見ですから、ぜひ参考にしてみてください。

業務でトラブルが発生しているさなかでも、1 on 1は予定通り実施するべきなのでしょうか。

トラブル対応が必要な場合は、それに集中することが最善です。必ずしも1 on 1を実施する必要はありません。重要なイベントが目前に迫っている場合も、そちらに優先順位を置きましょう。

経営者は皆さん忙しいため、例えば第2週と第4週の月曜日の午後3時半など、定期的なスケジュール設定しておくのはよいでしょう。ただし条件次第で、スキップや変更ができるルールを設けることも必要です。 このルールを最初の1 on 1の設定段階から明示しておきましょう。そうすることで、部下に気を遣わせることなく柔軟に対応できる環境を整えられます。

先ほどあったおすすめの雑談内容の他、1 on 1の場をほぐすのに有効な話題があれば教えてください。

好きなことの話は1 on 1の場をほぐし、経営者と部下の距離を縮めるのに大変有効です。ただ、経営者からいきなり好きなことを聞かれると部下は緊張してしまうかもしれません。そこで優れた経営者は「自己開示の返報性」という原理を活用します。

「自己開示の返報性」とは、自分が知りたい内容があるときにまずは自分のことから話す方法です。例えば「私は趣味でオートバイに乗るのが好きですが、あなたはモータースポーツなどの趣味はあるの?」「私は片付けが苦手なのですが、あなたはどうですか?」などといった具合です。

共通点が2つ以上ある人と関係を構築することは心理的安全性を確保しやすいということが、我々の調査によってわかっています。仕事以外の部分も含め、共通点をみつけるようにしましょう。


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この記事の著者

弥報編集部

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この記事の監修者

越川 慎司(株式会社クロスリバー 代表取締役社長)

国内通信会社などを経て、2005年にマイクロソフトに入社。業務執行役員としてPowerPointやExcelなどの事業責任者を務める。2017年に株式会社クロスリバーを設立。創業当初から全メンバーが週休3日、複業(専業禁止)、7時間以上の睡眠を実践。約700社の中小企業に対して年間400件以上のオンライン講座を提供。著書『トップ5%リーダーの習慣』など29冊。フジテレビ「ホンマでっか!?TV」などメディア出演多数。

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