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老舗和食店の女将が教える、店舗経営を長ーく続ける5つの秘訣とは?

2023.05.24

著者:弥報編集部

監修者:小保下 グミ

中小企業白書の統計によると、日本企業の開業から5年間の生存率は81.7%だそうです。これはつまり、5年で約2割もの企業が撤退していることを意味します。「老舗」と呼ばれるほど長く店舗経営を続けていくには、どうしたらいいのでしょうか。

約80年前に創業し、戦争やバブル崩壊、リーマンショックや大震災など、幾多の苦難を乗り越えて今日まで営業を続けてきた和食店の女将が、店舗経営を長く続けていく秘訣をお伝えします。


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秘訣1:お客さまは入れ替わるもの。ご新規さまを常に増やす努力を

店舗経営を長く続けるには、常に新規顧客を獲得し続けることを忘れてはいけません。そんなの当たり前だと思われるかもしれませんが、常連のお客さまが増えてくると、新規のお客さまの集客に手を抜き始める経営者が少なくないのです。

常連のお客さまというのは、どれだけ店を気に入ってくださっていても、嗜好の変化や転居、高齢化などにより減っていくのが運命です。リピーターだけでも十分に売上が上がっていると、つい安心して集客を怠り、気づいたときには経営が成り立たないほどにお客さまが減少してしまうケースもあります。再び集客しようとすると費用がかさみますし、苦労も伴います。そのため経営がうまくいっているときでも、口コミなり地道なSNS投稿なりで新規のお客さまを集客し続けることが大切と考えてください。

特に注意が必要なのは、代変わりのタイミングです。多くのお客さまは、代が変わってもしばらくは今まで通り来店してくださいます。ところが半年から1年もすると、しだいに大半の人が姿を見せなくなります。なぜなら、その方たちはお店のファンというより、経営者の作った商品や人柄そのもののファンだったからです。

当店も、2代目が亡くなった後の集客には苦労しました。初めは3代目である息子(つまり私の夫です)をねぎらうために通ってくださっていた常連のお客さまも、来店頻度が少しずつ減り、一年もするとほとんど来られなくなったのです。先代がいかに人柄の良さでお客さまを呼んでいたのかを知りました。また驚いたのは、当店の仕込みは20年以上も前から夫が行っていたのにも関わらず、先代が亡くなった途端、味が変わったと離れたお客さまがいることです。だれが経営者であるかが、料理の味まで変えてしまったのです。

理由はさまざまあれど、年月と共にお客さまが減っていく現象は、ある意味で仕方のないこと。長くお店を続けたければ、どんなときでも新規のお客さまが来店したくなるような努力を忘れないようにしてください。

秘訣2:時代に合わせて変化し続けよう。次世代の若者に意見を聞くのもアリ

では、新規顧客を増やし続けるには一体どうすればいいのでしょうか。答えは、時代に合わせた変化を恐れず、チャレンジを続けることです。長く続いているお店は、必ずといってよいほど時代時代に合わせて商品やサービスを変えています。変わらない味を売りにしている飲食店もありますが、実際はその時々のトレンドに合わせて調理工程や盛り付けなどに微修正をかけているお店も多いのです。

今から約80年前に創業した当店も、基本のレシピこそ変えていないものの、時代やお客さまのライフスタイルの変化に応じて柔軟に運営の形を変えてきました。例えば、リーマンショックの影響で食事だけではなかなか売上が立たなくなっていた時期には、夜だけ居酒屋のような営業スタイルにする試みを始めました。同じころに、新しくお得なランチメニューも始めています。キャッシュレス決済やフードデリバリーなど、ITの活用もできる範囲で導入しました。どの取り組みも売上に貢献していることが実感できるので、やはりお店を長く続けるには変化を恐れてはいけないのだと感じています。過去の営業スタイルに固執していたら、今ごろ経営が成り立たなくなっていた可能性もあるでしょう。

ただ、何をどのように変化させるかは難しいです。最新のITツールを導入したことで、かえって売上を落とした飲食店のケースもあるように、新しいものが何でも良いとは限りません。ではどうするかというと、ヒントとなるのは若いスタッフや後継者候補の意見です。若い人は比較的発想や考え方が柔軟で、年配の人よりも時代の流れをよく知っています。それに、良い意味で常識にもとらわれにくい傾向にあります。当店が長く続けてこられたのも、その時々の店主が若い後継者から経営に関する意見を積極的に聞いてきたことが大きいと見ています。半人前などといわず、ときには耳を傾けてみてください。

秘訣3:常にキャッシュを切らさないよう注意を

飲食店やサービス業など個人向けの実店舗を経営するオーナーは、キャッシュの重要性を軽視しがちです。店舗経営は製造業などと違って売り掛けが発生せず、売上さえ上がっていれば資金がショートする心配がほとんどないためです。

しかし長く経営をしていると、世界同時不況や天災など、突発的なピンチが訪れることがしばしばあります。そんなときにお店の存続を左右するのは、キャッシュの有無です。現金がなければ家賃や従業員の給料を支払えなくなり、経営の継続が困難な状態に陥る可能性が出てきてしまいます。何はなくとも現金です。たとえ売上がなくても、一時的にお店が開けられない状態でも、固定費の支払いさえできればとりあえず存続できるのです。

実は当店も東日本大震災の後に大きく売上が落ち込み、キャッシュ不足で支払いができず、倒産しかけたことがありました。現金商売で使ってもまた稼げばいいという意識があったため、余裕資金を持つ必要性について、あまり考えていなかったのです。

リスクを回避するために、お金は貯められる時に貯めておいてください、と言いたいところなのですが、最近はお金の価値が相対的に下がるインフレ傾向が続いています。このままの状態が続くようであれば、現預金を貯めて保有し続けるよりも、必要なときに銀行で借入をする方が賢明かもしれません。仮に今借りた100万円が時間の経過ともに価値が落ちてしまうのだとしたら、実質的に借金が減るのと同じ意味合いになるからです。

ただし、銀行はいつでもまとまったお金を貸してくれるわけではありません。実は当店も、コロナ禍に改めてキャッシュの重要性を見直し、震災でピンチだったとき以来久しぶりに借入を行いました。しかし当店のような老舗でも、付き合いがなければ200〜300万円を貸してくれるのがやっと。日ごろからの付き合いをしていない企業に、銀行は高額な資金を貸し出してはくれないのです。ですので、いざというときに資金不足に陥らないためにも、日ごろから少額の借入をするなどして銀行との関係をしっかりと深めておくことがお勧めです。経営年数が短いお店は特に信用が低いですから、地道に関係を築いていくことが重要と考えてください。

秘訣4:健康でいるのも仕事のうち。休めるときはしっかり休もう

上記のように、何らかの理由で経営がピンチに陥ると、心配でゆっくり休めなくなったり、寝る間も惜しんで働かなければならないことが出てきます。飲食業界では日常的に長時間労働を行い、無理をする人が多いです。私が知っているお店でも、過労が原因で倒れた人が何人もいます。

疲労の蓄積は、不摂生の加速につながります。疲れやストレスがたまると、人はついアルコールやカロリーの高いものに手を出しがちです。忙しくて、運動をする暇もありません。つい先日も、都内の有名ラーメン店の店主が若くして亡くなられたというニュースがありました。仕事の忙しさに加え、不摂生が祟ったのではないかと言われています。建設関係の会社を営んでいた私の祖父も、ストレスからタバコやアルコール、揚げ物や甘いものがやめられず、周りの助言も聞かずに不摂生を繰り返していたために大病を患いました。後継ぎもいなかったため60歳を目前にして会社を閉業し、今も治療を続けています。

若いときはいくらでも動けるような気がするかと思います。どんなに不摂生をしても影響なんてないだろうと感じるかもしれません。しかし、その不摂生の影響が実際に出てくるのは、年齢を重ねてからです。それまで積み重ねてきた睡眠不足やストレス、不摂生が蓄積し、病魔となって波のように襲いかかり、経営に取り組んでいる場合ではなくなります。

こうした事態を避けるためにも、休めるときはしっかり休み、常に体調を整えておくことを心がけてください。おかしいな?と感じたら病院に受診して検査を受け、病気を未然に防ぐことも必要です。健康でいることも仕事のうちですから、運動する時間を決めたり、アルコール量を制限するなど、日々の生活から気をつけて過ごすようにしてくださいね。

秘訣5:後継ぎ=長男の時代ではない。後進はやる気があって信頼できる人に任せよう

中小企業白書のデータによると、中規模法人が廃業を考える理由のトップは後継者の不在だそうです。日本における法人の9割以上が同族経営だといわれていますが、少子化の影響もあって、かつては当たり前だった長男への事業継承が困難な企業も多くなっています。

このような状況ですから、今どきは後継ぎ=長男が当たり前の時代ではありません。やる気があって信頼がおける人物なら、次男でも長女でも、子の配偶者であっても、こだわらずに任せることが企業存続への鍵となります。長年自社に貢献してきた社員に託すのも一つの方法です。

現在、当店の3代目店主である私の夫は長男ですが、2代目は彼の母親が務めていました。3人きょうだいの長女でした。先代の時代は女性が職人の技術を身に付けることは許されなかったそうなので、途中までは外部から来た職人に主だった調理を任せていたそうです。今では考えられない風習ですが、当時は仕方がなかったのだと言います。そんな理由もあり、先代は夫が20歳のときに早々と代を継承しています。

ちなみに、その夫にもしものことがあった際は、彼より一回り以上年下の私が継ぐことになっています。先代と同じく私も女性ですが、来たる時のため、少しずつではありますが技術の習得を目指して鍛錬しているところです。

今や、女性だから、若者だから、学がないから継がせられないなどと言っていられる時代ではありません。そんなことを言っていたらこの少子化の時代、後継ぎが見つからず企業の存続は不可能になってしまいます。ぜひとも一度、慣習を破って考えてみてください。

また先代や夫、私自身が会社を継ごうと考える理由には、手前味噌ながら「継ぎたくなる魅力が、当店にはある」ことが根底にあります。このように、だれかに継承するにしても、まずは「この会社のトップに立ちたい」と思ってもらえるような、将来性のある企業づくりが大切です。


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弥報編集部

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小保下 グミ(老舗和食店の女将)

老舗和食店の女将。夫が後を継いだ家業で経営全般に関わる。現在は休業中。
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