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値段を決めるのが難しい?老舗和食店の女将がおすすめする価格設定のやり方

2023.07.18

著者:弥報編集部

監修者:小保下 グミ

売っても売っても利益が上がらない。売りたいものに限ってなかなか売れないーー。こう嘆く経営者にありがちなのが、まず売るものを決め、それから仕入れ価格に応じた利益を乗せる、という形で価格を決めているケースです。この方法では販売価格が高額になりすぎることも多く、逆に販売価格を抑えるために利益がひっ迫してしまうことがあります。

そこでおすすめしたいのが、販売価格を先に決めてしまい、それに応じた仕入れをする方法です。老舗和食店の女将が取り入れる、販売価格の決め方を詳しく解説します。


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商品を決めてから販売価格を決める方法は、問題が起きやすい

自社商品の価格を決める際、売りたい商品を決め、仕入れ原価を確認し、そこに粗利を上乗せして販売価格を決定するというプロセスをとっている経営者は多いかと思います。例えばりんごを売りたいと思い、八百屋に確認したら卸価格は1個60円でした。そこで40円の利益を乗せ、100円で販売するといった形です。一見すると合理的な決め方のように思います。しかしながら私の経験上、このようなやり方だと問題も起きやすいです。

というのも、原価に応じて一定の利益を上乗せするといった決め方の場合、最終的な販売価格が高くなりすぎてしまい、ターゲット層が手を出しやすい価格から大きく外れてしまう可能性があるためです。

例えばすごく美味しいリンゴを見つけたのでぜひ販売したいと思い、奮発して1個300円で仕入れました。そこに利益を乗せて販売しても、自店のお客さまにとっては高すぎて、購入されないといったケースに陥りがちです。安いりんごよりも美味しいことには間違いないとは思うのですが、日ごろの販売価格を大幅に上回っているため、販売個数はそれほど伸びません。生鮮品の場合は、たちまち食材ロスにつながってしまうでしょう。

また先に商品を決め、原価に応じて利益を乗せる方法だと、自店全体の価格バランスが崩れる可能性があります。少し極端な例ですが、ラーメン店に入り、500円の醤油ラーメン・800円のこだわり豚骨ラーメン・2,000円のフカヒレラーメンの3種類がラインナップされていたら、価格がバラバラでどことなくチグハグな印象を受けますよね。大衆的なのか高級なのかよくわからず、どれを選べばいいのかお客さまの頭を悩ませます。作りたいメニューを考えてから値段を決める方法を採用していると、原価に高低差ができてしまい、同じようなことが起きてしまうのです。

かといって、販売価格を揃えるために安く設定すると、今度は利益を圧迫します。たくさん売ってもなかなか利益が上がらない状態に陥り、店主やスタッフが疲弊する原因につながってしまうでしょう。

販売価格を先に決めると、お客さまは手を出しやすく、自社の利益もしっかり確保できる

売りたいものを一から考えだすと、際限がありません。特に自店の商品カテゴリに精通している経営者にとって、より品質の良いものを販売してお客さまに喜んでもらいたいと考えるのは自然のこと。私だって、何を作ってもいいと言われたらブランド野菜などの高級食材をふんだんに使った料理を提供したいです。しかし、そうなると自ずと仕入れ原価は嵩み、販売価格を押し上げ、結果的にお客さまの手の届かない価格になってしまいます。となると、どうしても売れ残ってしまうでしょう。

趣味で始めたお店なら、売りたいものありきで商品を仕入れて販売するのもいいかもしれません。ビジネスとして経営するなら順序が逆です。まず初めに販売価格を決め、その後商品を探すのです。

具体的な手順を、飲食店を例に見てみましょう。あるうどん店が、新メニューを開発するとします。自店がターゲットとするお客さまの消費傾向から、価格は1杯1,000円と決めました。自店の原価率は約30%なので、原価300円でどんなメニューが作れるかを考える。こうした手順です。

万が一、もう少しというところで原価を割ってしまうような場合は、メインの食材の量を減らしたり、付け合わせの食材を安価にしたりすることで調整します。あくまでも設定した原価の範囲内に収まるように内容を考えることが、きちんと利益を確保するための鉄則です。

このように販売価格を先に決める方法を採用することで、ターゲット層が手を出しやすい価格から逸脱せずに商品を販売できるようになります。また、販売価格が思いのほか高くなったり安くなったりすることがないので、自店全体の価格バランスを保つことができます。とり決めた原価の範囲内で仕入れを行うので、安売りして利益を圧迫するようなこともなく、合理的な経営ができるようになるのです。

販売価格を先に決め、価格戦略に売って出よう

販売価格を先に決める。この方法を使うことで、お店はさまざまな価格戦略を打つことができるようになります。

例えば店舗経営では、お客さまにこれぐらい使っていただきたいなという合計金額、客単価があるかと思います。そこになるべく近づけるために、まずは合計金額をこれぐらいと想定し、そこからメインをいくら、サブをいくらなどと分解して各メニューの値付けをする方法があります。

ある美容室は、顧客単価を10,000円に設定しました。10,000円を分解してみると、カット3,500円、カラー5,500円、物販1,000円と3つのメニューで構成できることがわかりました。各メニューの販売価格が決まれば原価が決まるので、それぞれ原価に見合った内容を考案すればメニュー作りが完成します。

あるいは飲食店のように複数購入が前提となるお店の場合、原価率を意図的に変えることで、お客さまの満足度とお店の利益確保の両方を目指すことが可能となりました。

どういうことかというと、各メニューの販売価格を決めた後、目玉メニューであるお刺身の盛り合わせだけ原価率を高め、お客さまの満足度を上げます。代わりにサイドメニューの小鉢は原価を下げ、高回転メニューにして利益をしっかり確保する、という作戦です。

こうすることで、お客さまはメインのメニューでしっかりとお得感・満足度を感じることができますし、お店にとっても高利益のメニューがたくさん売れることで利益確保が可能となります。コロナ禍で飲食店にとって最も痛手となったのが、低原価で回転率の高いアルコール販売の禁止措置でした。高原価と低原価を組み合わせた販売方法はお客さまとお店、両者にとって嬉しい価格戦略なのです。

これらの戦略はいずれも先に価格を決めてしまうからこそ打って出ることが可能な手法です。原価を決めてそこに利益を乗せる決め方をしていると、複数購入した際に金額が跳ね上がってしまったり、金額は妥当なのに満足感に欠ける内容になってしまったりする要因になります。お客さまに何で満足し、どれぐらいの金額を使ってもらいたいのか、自社はどの商品でどれぐらいの利益を確保したいのか。すべては販売価格を先に決めることでコントロール可能だということをぜひ知っておいていただきたいです。


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この記事の著者

弥報編集部

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この記事の監修者

小保下 グミ(老舗和食店の女将)

老舗和食店の女将。夫が後を継いだ家業で経営全般に関わる。現在は休業中。
noteにて定期購読マガジン「小さなお店のちいさな女将」を運営。飲食店経営や自営業の生き方・働き方について発信中。

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