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小さな会社でも脱ハンコはできる?「印鑑」というハードルを越える方法

2020.06.15

著者:弥報編集部

監修者:牧野 剛

新型コロナウイルス感染症の影響により、多くの企業でテレワークが行われるようになりました。しかし実際にテレワークを行った企業が直面した、どうしても越えられない壁として登場したのが「印鑑の押印業務」というハードルです。日本の企業にはいまだにこの風習が色濃く残っているため、印鑑を押すためだけに満員電車で出社しなくてはいけない方もいらっしゃいます。

今後、アフターコロナの時代においては先行きの見えない状況が続くため、日々処理を行う書類に必要な印鑑や社内外とのやり取りのデジタル化が急務といえるでしょう。そこで今回は、電子契約に関するオンライン法律相談など、企業の「脱ハンコ化」に造詣が深い、牧野総合法律事務所弁護士法人の弁護士である牧野剛(まきの ごう)氏に、企業が印鑑というハードルを越える方法についてお話を伺いました。

日々処理している書類、本当に印鑑は必要なのか?

そもそも印鑑が必要な書類とは、どのようなものが該当するのでしょうか?

法律で書面が必要とされているものについては、印鑑が必要です。

例えば、

  • 定期借地契約(借地借家法第22条)
  • 定期建物賃貸借契約(借地借家法第38 条第1 項)
  • 訪問販売
  • 電話勧誘販売
  • 連鎖販売(いわゆる「マルチ商法や」「ネズミ講」と呼ばれるもの)
  • 特定継続的役務提供(「エステティックサロン」、「学習塾」など「特定商取引法」で規制されている販売形態のこと)
  • 業務提供誘引販売取引(特定商取引法第4条等)

などが該当しますが、そもそも印鑑がなぜ必要なのかその理由について考える必要があります。

口頭でのやり取りでも契約は成立しますが、契約書などの形で書面に残すのはそれを証拠に残すためです。法律でも口頭でやりとりした合意が、紙に残っていないという理由で無効になるといった条文はありません。口頭での合意であっても契約は有効です。よって法律で特に規定されている場合を除いて、必ず文書に印鑑を押さなければならないということはありません。しかし合意について争われた場合、紙に残っていないと合意の証明は困難な場合が多いでしょう。(逆に当事者同士が認めているのであれば問題になりません)

このようなリスクがあるため、文書に印鑑を押す必要が出てきたわけです。

また契約書などの文書に押印することによって、その文書に書かれた内容の意思表示がなされたことが推定されるという民事訴訟法の規定もあります。そのことからすると、合意する両当事者がどこまでちゃんと証拠に残したいのかによって、印鑑が必要なのか自分で判断する必要があるのです。

したがってどの書類に必要なのかは、どこまで確実に証拠に残しておきたいかによるとしか言いようがありません。一般論として、合意を否定された場合に大きいリスクを伴うものは書面に印鑑を押す必要があると考えます。

新型コロナウイルスの影響で脱ハンコに注目が集まる状況ですが、テレワークが増えたものの印鑑を押すためだけに出社という状況については、どのようにお考えですか?

印鑑を押すためだけに満員電車で出社している会社員の方もいるようですが、わざわざハンコで押印する必要がある文書がどれだけあるのか、正直言って疑問です。特に争われるリスクがほぼない社内の決裁文書に押印が要求される根拠は、会社の内での取り決め以外にほぼないと思います。(ただし取締役会議事録など一部の社内文書については法律で書面への押印が求められる場合もあります)

新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言下に、社内の決裁文書に押印させるためだけに従業員に意に反した出社を余儀なくさせているとすれば、むしろ会社の安全配慮義務違反が問われる可能性もあると思います。

社内の書類を電子化する際に検討すべきこと

紙を使わずに処理する(PDFなど)場合、印鑑はどのように扱うべきでしょうか?

紙を使わないで処理する場合、例えばPDFには押印できませんから印鑑は不要になるでしょう。しかし紙を使わないでデータ処理する場合には、一般に「デジタルデータは容易に改ざん可能である」という問題に直面します。そこで本来印鑑を押すべきだったデータに、どこまで改ざん防止対策を講じることができるのかが問題となります。

重要な文書は紙の文書に押印した場合と同様のレベルで、改ざん防止が講じられることが必要になってくるでしょう。この場合、三文判で押印すれば足りる文書もあるでしょうし、実印が必要になる文書もあると思いますが、これをデータで処理する場合はそれぞれに応じた電子契約サービスを選ぶ必要があるように思います。

ただしPDFファイルをメールでやり取りすることは、どこの会社でもできますが、それ以上の例えば電子署名を利用した電子契約サービスを導入する場合は、契約当事者の双方が当該電子契約サービスの利用が必要になる可能性もあります。

社内で扱う書類に可能な限り印鑑を押さずにするためには、どうするべきでしょうか?

印鑑を押すことをやめるためには、

  • 印鑑を押す必要がある文書
  • 印鑑に代わる措置を施せば足りる文書
  • 印鑑は特に必要のない文書

などに分類したうえで、印鑑を押す必要がある文書が電子署名制度や他の電子契約サービスを利用することで代替できるのか検討すべきです。

最も電子署名制度を利用するにしても、契約の相手方も電子署名制度を利用している必要があるので、その辺も事前に確認しておく必要があります。そもそも契約などの文書を電子化することで効率化が図れれば良いのですが、かえって書面に印鑑を押す方が早い場合も多々あるようです。

一方、法律上は書面交付が要求されているものについては、電子化することはできません。印鑑を全く押さないということは現時点では不可能と思われますし、そもそも電子化が本当に効率的なのかはよく検討すべきだと思います。

重要な契約書などの場合は「電子契約」が必要

「電子契約」とは、どのようなサービスなのでしょうか?

「電子契約」については、法律上何か定義があるわけではありません。「電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律」という法律があり、「電子消費者契約」という言葉は登場しますが、あくまでもBtoCのインターネット通販などを想定したもので世間一般にいう「電子契約」とは少し異なるように思います。またその法律が契約の有効性について何か規定しているわけでもありません。

「電子契約」は一般用語ですので、厳密に「電子契約」が何であるか決まっているわけではなく、BtoBも含めた「電子文書などのデータ送信を利用した契約の仕方」のことを皆さんが「電子契約」と呼んでいるのでしょう。

電子契約を導入するためには、何が必要になりますか?

先ほどお話した通り「電子契約」の法律上の定義がありませんから、電子契約が必要になる場合について述べることはできません。ただし重要な契約については「電子署名」を利用することをおすすめします。

電子署名とタイムスタンプについて教えてください。

「電子署名制度」とは、手書き署名や押印と同様の法的効果を持つ電子契約のシステムです。電子署名を利用することで「電子文書が改ざんされていないこと」、「電子署名が本人によって生成されたこと」が、印鑑と同様に証明されます。

一方「タイムスタンプ」は、ある時刻に電子文書が存在したことを証明するもので、電子文書が改ざんされていないことが確認できます。法令で一般財団法人日本データ通信協会の認定を受けたタイムスタンプを利用することとされています。

電子契約は法的に認められているのでしょうか?

電子署名を用いるか否かにかかわらず成立し、その契約は通常は有効です。例えば電子メールのやり取りなどでも、裁判にそのコピーが提出され、それを証拠として用いることは多々あります。ただし、電子文書について改ざんや本人でない者によって作成されたことを主張された場合、デジタルデータは改ざんされやすいことなどから、当該電子文書の効力が認められない可能性が出てきます。

電子文書が有効であるかの立証は、電子署名を用いるか否かで変わってきます。電子署名を用いれば、紙の文書に押印した場合と同様に法律でその効力が認められているので、法律に従った電子署名を利用している場合は、実印での契約と同様にその効力が認められやすいのです。

電子契約サービスは、どのように導入するべきでしょうか?

まずはどの契約を電子契約にするのか検討したうえで、会社内でどのように利用するのかの業務フローを確認することから始まると思います。電子契約サービスといってもさまざまであり、電子署名を利用したものから電子メールで本人認証するものなどさまざまです。

電子化する契約と会社内でそのサービスをどのように使うかを検討したうえで、それに合う電子契約サービスを導入すべきでしょう。また電子契約を導入したい理由は主に業務の効率化だと思いますが、その電子サービスでどこまで業務が効率化できるのか検討しておくことも重要です。

脱ハンコ化につながる!弥報編集部おすすめサービス

最後に発注書や納品書、社内稟議、契約書などの処理業務から、脱ハンコ化につながる解決策となりうるおすすめサービスを紹介します。

やよいの見積・納品・請求書 20

「やよいの見積・納品・請求書 20」は、買ったその日からだれでもかんたんに見積書・納品書・請求書が作れる製品です。法的拘束力が弱い見積書や納品書、請求書に関して、会社印は帳票に会社印の画像を配置できます。自社担当者印は帳票に担当者の氏名を入力することで印鑑イメージの画像が作成されます。さらに「PDF化」することで「書類整理」の効率化にもつながるでしょう。

Misoca

「Misoca(ミソカ)」は、シンプルな操作で請求業務がすぐに完了する中小企業に最適な「クラウド見積・納品・請求書サービス」になります。請求書を作成した後はメール送信も郵送もワンクリックで完了するため、従来の「印刷する→封入する→投函する」といった請求処理の作業を速やかに実施することが可能です。ペーパーレスで封入封緘作業が可能なので、印刷コストや紙の保管コストなど大幅なコスト削減が実現できます。ただし法的拘束力の強い契約周りの書類については、電子契約関連のツール導入が別途必要です。

Shachihata Cloud

「Shachihata Cloud(シャチハタクラウド)」には捺印、回覧ができるクラウド電子決裁サービスである「パソコン決裁Cloud」と、デジタルでのファイル共有、管理が可能なクラウドコンテンツマネジメントサービス「box」があり、デジタルでの押印作業とファイル管理がスムーズに行えます。また契約書など法的効力の強い書類には、電子署名サービス「DocuSign」で対応可能です。

GMO電子印鑑Agree

「GMO 電子印鑑 Agree」は、世界中の政府機関や企業で採用されている電子契約発行システム「GlobalSign」を使った電子契約サービスになります。電子署名と電子サインを併用した契約も可能で、自由度の高い契約締結が可能です。また税法上で必要な検索機能があり、締結済みの電子契約をそのまま保存できるのも嬉しいところでしょう。

SMBCクラウドサイン

「SMBCクラウドサイン」は「紙と印鑑」で行っていた契約業務を「オンライン」で完結できる、日本の法律に特化した弁護士監修の電子契約サービスです。印刷、製本、押印、郵送、書類のデータ化といった作業をすべてオンライン上で実施できるため、契約締結のスピード化とコスト削減につながります。

100%電子化への移行には時間が必要

今回は企業が印鑑というハードルを越える方法について、解説してもらいました。とはいえ100%電子化への移行には、ある程度時間も必要になってくるでしょう。したがって業務を細分化して電子化に即移行できる業務はすぐに移行し、一定期間並行運用が必要な業務については時間をかけて対策していくのが現実的です。

今後、新型コロナウイルスによってどのような影響が出るのか不明な部分も多いため、社内の業務効率化はできるだけ早い段階で進めておくべきでしょう。

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この記事の著者

弥報編集部

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この記事の監修者

牧野 剛(弁護士)

牧野総合法律事務所弁護士法人
東京都出身。早稲田大学第一文学部卒、一橋大学大学院修了。株式会社ジェイ・キャストで「J-CASTニュース」に携わった後に弁護士登録。現在は、企業法務やIT訴訟などを中心に取り組む。主な著書に、「個人情報保護法相談標準ハンドブック」(日本法令、共著)「GDPRの仕組みと対策がよ~くわかる本」(秀和システム、共著)などがある。牧野総合法律事務所弁護士法人ホームページ

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