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小さな会社のテレワーク、社内ルールや制度はどうする?【社労士が解説!】

2020.06.10

新型コロナウイルス感染症がきっかけで、中小企業においてもテレワークを始めた会社は多いと思います。ノートPCやWeb会議システム、VPNの整備などテレワークに必要な機材については「小さな会社がテレワークを導入する方法【必要な機器やソフト、業務の進め方は?】」でも紹介しました。

しかし、いざテレワークを始めてみると、効率よく業務を行うためにいろいろと注意すべき点があることに気づくものです。そこで今回、フランテック社会保険労務士事務所代表の毎熊典子(まいくま のりこ)さんに、従業員が10名未満の中小企業がテレワークを実施するうえで必要な制度やルール、実際に運用する場合の注意点などについてレクチャーしてもらいました。

中小企業におけるテレワーク推進に必要な社内ルールの整備

中小企業(10名未満)でテレワークに必須とされる勤怠管理の項目と、注意点を教えてください。

まず労働基準法上、就業規則の作成・提出が義務付けられているのは、常時雇用する労働者が10名以上の事業所になります。そのため就業規則の作成・提出義務の有無により、企業に求められる対応が異なる点について理解しておきましょう。

(1)始業・終業時刻

テレワーク時の始業・終業時刻の確認方法としては、勤怠管理ツールなどを利用する、もしくは上司や同じ職場の人たちに業務の開始と終了を知らせる意味でもメールやチャットツール、電話で連絡することがほとんどだと思います。どの方法によるかは、各職場の状況に応じて決めればよいでしょう。ただ確認方法を決めたら、必ずそれを徹底させることが大事です。

(2)休憩時間

テレワーク時でも、雇用契約書で定めたとおり休憩を取得する必要があります。ただし小さな子供がいたり要介護者がいたりするなど、家族の世話をしながら働かざるを得ないことが想定される場合には、仕事と家庭の両立が可能になるよう労使間で話し合いが必要です。

一例として適用する労働時間の見直しを行い、フレックスタイム制を適用したり、始業・終業時刻の繰り上げ・繰り下げをして休憩時間を長く設定したうえで、複数回に分けて休憩を取得することを認めたりすることが考えられます。なお、フレックスタイム制を導入する場合には、社内規程(就業規則)に定め、労使協定を締結することが必要です。

(3)時間外・深夜・休日労働

テレワーク(在宅勤務)では、働く場所と生活する場所が同じであるため、オンとオフの切り替えが曖昧になりがちです。そのため時間外労働および深夜・休日労働を、原則禁止とする企業も少なくありません。業務の都合により、どうしても時間外労働などを行う必要がある場合には事前に申告させ、行う業務の内容や時間を明確にしたうえで許可するといった対応が望まれます。

(4)欠勤・休日

社員の中には「今日は熱があるのでテレワークにします」と連絡してくる方もいると思われます。しかし体調が悪い中で無理に仕事をしても能率が上がらず、健康管理上も望ましくありません。仕事をするのが難しい状況だと判断される場合には、本人と話をして病欠にすることも視野に入れましょう。

また判断がしやすいように、テレワークが認められないケースについて「体調不良の場合」「熱が37.5度以上ある場合」など、社内ルールを設けておくことが望ましいです。

テレワークを実施する際、よく争点になるのが業務報告ルールですが、具体的にはどのような方法を取るべきなのでしょうか?

テレワークで労働生産性を維持・向上させるためには、テレワークの実施日にどのような業務を行うのか事前に報告させ、終業時にもその日行った業務内容を報告させることが効果的です。また、あらかじめ納期が決まっている場合には、業務進行スケジュールを作成し定期的に進捗状況を報告させ、遅れが生じている場合には、スケジュールを見直し、その後の業務の進め方について指示するようにしましょう。

特に仕事の経験が浅い社員については、業務の進め方について「何を」「いつまでに」「どのように」「どこまで」進めるかを明確にして指示を出したうえで、こまめに報告させることが大切です。一方、自律的に仕事を進められる社員の場合は業務内容やスケジュールなどを確認したら適宜、報告・相談を受けつつ、ある程度本人の裁量に任せて業務を遂行させた方が業務効率の向上につながります。

テレワークでは、仕事の成果物の提出を義務化したほうがよいのでしょうか?

成果物の提出を求めるか否かについては、各社員が行っている業務内容にもよると思われます。

例えばテレワーク中は常時PCをつなげた状態を保ち、指示があれば直ちに対応することが求められる業務であれば、提出すべき成果物がない場合もあるでしょう。一方で、企画業務や資料作成業務などに携わる社員については、期限を定めて成果物の提出を求めることが必要になります。

ただし、成果物の提出を求める場合は、どの程度の水準のものを会社として求めるのか、あらかじめ社員に示しておくことが必要です。求められている成果物の水準が明確になっていないと、社員が必要以上にハードルを高く設定してしまい、その結果、長時間労働に陥って過重労働になる可能性があります。

経理や総務といったバックオフィス業務では、請求書や稟議書への押印のために、どうしても会社に出てこなくてはいけない社員もいると思います。そのような際には、どのようなルールで実施するべきでしょうか?

新型コロナウイルスの感染が懸念される中で、どうしても出社しなければできない業務がある社員については、

  • 時差出勤を認める
  • 半日だけ出勤させる
  • 交代制にして出勤日数を減らす

などの対応が考えられます。また出勤しなければできない業務に従事する社員に対して「危険手当」を支払うことも考えられます。

捺印が必要とされる書類に関しては、社内の稟議書類と対外的な契約書類に分け、社内の稟議書類についてはメールで確認を取るなど、捺印以外の方法に切り替えるべきでしょう。

テレワークに必要な機材を社員に貸し出すこともあると思うのですが、その際の貸し出しルールを設定するポイントがあれば教えてください。特に、家庭にインターネット環境(Wi-Fi)がない場合は、どのように対処するべきでしょうか?

インターネット環境の構築はテレワークを行ううえで必須となるため、社員の自宅にインターネット環境がない場合は、モバイルルータのようなデータ通信端末を利用する、インターネット固定回線を引くなどの対応が考えられます。

それらにかかる費用については、会社負担として会社が機器を購入して社員に貸与したり、回線工事に係る費用を会社が全部、または一部負担したりするケースも少なくありません。なお業務遂行のための費用を社員に負担させる場合には、就業規則や雇用契約書に定めることが必要です。

業務に使うデスクトップPCや検証機材などがある場合、郵送などの手段を取る必要があると思いますが、その際に注意すべき点はありますか?

会社所有のモバイルPCを持ち帰らせることが一般的だと思われますが、中にはテレワークの導入可否を検討するためトライアルで全社員に在宅勤務を行わせるにあたり、デスクトップPCを社員の自宅に郵送している企業もあります。一方で急遽テレワークを始めた会社では、そのような対応が難しいため、社員の私物のPCをテレワークに利用させる対応を取るケースも多いです。

ただし「BYOD(私物のPC・スマホなどを業務で使用すること)」を認める場合は、セキュリティ上のリスクが高くなります。そのためテレワークで扱える情報を制限したり、私物のPCなどのセキュリティ対策を確認したり、会社が要求するレベルのセキュリティ対策を確保させるなど、情報漏えいを防止するための対策が必須です。

業務に必要な新規機材などの購入費用は、やはり会社側で負担するべきでしょうか?

業務に必要な通信機器などの費用は本来、会社が負担すべきものと考えられ、会社が購入した機器を社員に貸与することがセキュリティ対策の面からみても望ましいでしょう。また業務に使用する文具や書類送付にかかる封筒、切手などはあらかじめ社員に必要な分を渡し、それを利用させるという方法が考えられます。なおテレワークに必要な機材などの費用を社員に負担させる場合には、社内規程(就業規則)や雇用契約に定めておくことが必要です。

テレワークを実施するうえでの社内ルールの設定を行う際の注意点を教えてください。

テレワークを実施するうえでの最低限のルールとして、次のことを決めて運用するようにしましょう。

  1. 始業・終業時刻の確認方法や休憩時間などの勤怠管理に関する事項
  2. 時間外労働や深夜・休日労働に関する事項
  3. 社内システムへのアクセス方法やコミュニケーション方法に関する事項
  4. 情報セキュリティに関する事項
  5. 業務上の報告・連絡・相談に関する事項

テレワークにおける社員の行動についてどこまで強制できる?

働く場所を自宅限定にするなどのルールは必要でしょうか? カフェや飲食店での就業は禁止すべきでしょうか?

新型コロナウイルス対策としてテレワークを実施する場合は、感染防止の観点からも自宅限定でテレワークを行わせることが望ましいといえます。また平時においてもカフェや飲食店は情報漏えいのリスクが高まるので、自宅外でテレワークを行うことを認める場合にはセキュリティルールを定め、研修などを実施し、ルールの遵守を徹底することが必要です。

会社によっては、PCの前から離れる際「離席」状態を表示させたり、カメラから離れたときにアラートを出す仕組みをわざわざ導入したりしているところもあるようです。今時の成果主義的な発想とは相反する部分もありますが、こうした取り組みが業務効率化につながるものでしょうか?

在席確認ツールを使用することで社員が就労途中で離席した場合でも、在席時間を通算して労働時間を確認することが可能になります。労働時間の管理が行いやすく、いわゆる中抜け時間が必要となる社員にとっても働きやすくなるという面があります。また働いている様子がいつでも確認できる環境が整っていることで「さぼっている」と思われる心配をすることなく、安心してテレワークができると感じる社員も少なくありません。

テレワークを行いやすい環境整備については、社員のプライバシーを侵害しない範囲で、労使で十分に話し合って決めることが望まれます。

自宅で働く際、子どもがうるさくてWeb会議に支障が出た場合、外部で仕事しなくてはいけない状況も出てくると思います。このときカラオケBOXやカフェなどを使うと費用が発生しますが、それについても企業側の負担にするべきでしょうか?

最近ではカラオケBOXやカフェがリモートワーク向けにスペースを貸し出すことも増えていますが、セキュリティ上の問題があることも多く、できれば利用する前に会社に報告してもらい安全性を確認することが望まれます。またコワーキングスペースも増えていますので、こうした有料施設を利用することも一案です。

有料施設の利用について会社が費用負担する方法としては、領収書を提出させて精算するほか、テレワーク手当として一定額を支払うことが考えられます。会社がテレワークにかかる費用の一部または全部を負担する場合には、会社が負担する範囲や会社への請求方法、支給方法などについてあらかじめルールを決めて周知しておきましょう。

中小企業におけるテレワークに適した社内規程と評価制度

テレワークが軌道に乗った後は、社内規定や評価制度の追加・変更に着手する必要があると思います。テレワークに適した社内規程で整備する必要があるものとしては、どのようなものがありますか?

今後、新型コロナウイルス収束後においても継続して実施するのであれば、テレワークを行う目的を明確にして、適用する労働時間制や遵守すべき服務規律、セキュリティルールなどを就業規則やテレワーク規程に定め、テレワークを前提とした労務管理体制の見直しを行うことが大事です。

また平時におけるテレワークと緊急事態発生時におけるテレワークでは、対象者や実施期間などが異なります。自社におけるテレワークの目的を明確にしたうえで、目的別に適用対象者の範囲を定め、テレワークの実施ルールを定めるようにしましょう。

今後はテレワークに即した評価制度も必要になってくると思いますが、どのような方法で実施するべきでしょうか?

週に1回、または月に数回程度の範囲でテレワークを実施するのであれば、従前どおりの評価制度でも問題ないと思われます。他方、常時テレワークを行うことを前提として社員を雇用する場合には、新たな評価制度の導入を検討すべきでしょう。

また働き方改革の一環としてテレワークを導入し、場所や時間による制約なく働ける環境を整備することにより働き方の選択肢を増やし、社員が働きやすい環境を整備するにあたっては、成果主義による評価制度を取り入れることも有効と思われます。

評価が成果主義になった場合、成果の可視化や報酬への関連付けはどうするべきでしょうか?

成果主義による評価制度の導入にあたっては、成果の可視化が可能になるよう、会社が個々の社員に求める成果の内容や求める水準、納期などについて社員と話し合ったうえで、明確にしておくことが必須です。

提出された成果について都度確認し、求める水準に達しているか否かを評価していきます。達していないと評価される場合には「何が、どのように足りていないのか」について本人と話し合い、修正を行わせて再度評価するなど、会社が評価の判断基準を明確にし、社員を指導・評価する仕組みを作ることが重要です。

柔軟に制度を改正していける社内体制も重要

今回は、従業員が10名未満の中小企業がテレワークを実施するうえで必要な制度やルール、実際に運用する場合の注意点などについてレクチャーしてもらいました。

新型コロナウイルスの影響によってテレワークを始めた企業の場合、まだそれほど時間が経っていません。そのため現状分かる範囲内でルールや制度を決めたとしても、今後うまくいかなくなる可能性も十分あるでしょう。そのような場合にも、柔軟に制度を見直していける社内体制の構築は、非常に重要な課題です。

今後、中小企業でもテレワークを行う頻度が間違いなく増えると思われますので、長期的な視点を持って取り組むようにしましょう。

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この記事の著者

毎熊 典子(フランテック社会保険労務士事務所代表)

慶應大学法学部法律学科卒業。大手電機メーカーの国際取引部門の法務担当者として勤務を経て、平成13年にフランテック法律事務所に入所。 特定社会保険労務士/特定非営利活動法人 日本リスクマネジャー&コンサルタント協会 評議員・認定講師・上級リスクコンサルタント/一般社団法人日本プライバシー認定機構 認定プライバシーコンサルタント/日本テレワーク協会中小企業市場テレワーク普及・定着推進部会「人材」サブ部会会員/東京商工会議所認定 健康経営エキスパートアドバイザー

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