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なぜ社員を評価する必要があるのか?【中小経営者の疑問に答える はじめての人事評価】

2019.12.19

著者:神田 靖美

経営者にとって社員の、上司にとって部下の「人事評価」は難しい仕事の1つです。悩みに悩み抜いて評価しても「不公平だ」と必ず文句を言われます。

評価とは、営業や経理などと同じで、訓練を必要とする専門的な仕事。この連載では、中小企業の経営者向けに、人事評価における留意点や、評価の質を高めるポイントを解説します。

労働力の価値を測る「人事評価」見逃しがちな3つのポイント

評価とは、モノゴトの価値を測る作業です。例えば、土地の評価は土地の金額がいくらかを決める作業です。政策の評価はその政策が税金を投入する価値があったかどうかを判断する作業のこと。スマートフォンのアプリケーションの評価は、そのアプリを他の人に薦めるべきかどうかを判断する作業です。

そして、人事評価は「従業員の労働力の価値を測る作業」です。他のさまざまな評価と比較すると次のような特徴があります。

①期間内に起こったことだけを評価する

1つ目に「今回は○月○日から△月△日までを評価する」というように、評価の対象とする期間が決まっています。これがなければ、遠い過去の内容も評価の対象となってしまいます。

過去に大きな失敗をした人はいつまでも低い評価に甘んじることになりますし、逆に過去に大きな成功をした人はいつまでも高く評価されることになります。

人事評価では、対象とする期間内に起こったことだけを評価し、それ以前のことは評価しません。あるいは「この人は将来伸びるだろう/伸びないだろう」といった将来の期待も評価しません。

②会社の統一ルールに則って行う

次に、会社が決めた統一ルールに則って行います。スポーツの世界では国際競技連盟などがルールを決め、審判はそのルールに則って粛々と点数を数えます。これと同じように、人事評価においては「会社がルールを決め」、上司はそれに則って粛々と部下を採点します。

まれに居酒屋トークで「俺はあんなヤツ、全然評価しねえぞ」と勢いよく話す人を見かけます。しかし、もし上司一人一人がそれぞれ独自の基準で部下を評価しているとしたら、それは人事評価ではありません。

③労働時間内のことのみを対象にする

3つ目に、仕事に関係があることだけ、言い換えれば労働時間内のことだけを評価の対象にします。労働時間外に社会的にいくら良いことをしても、逆に悪いことをしても、評価の対象から外します。

もしもプライベートで犯人逮捕に協力して警察署長から表彰されたら、評価ではなく表彰で対応します。飲酒運転をして交通違反切符を切られたら、懲戒で対応します。

会社が社員を評価するのは何のため?

では、なぜ会社は社員を評価する必要があるのか、その理由についてあらためて見ていきましょう。

①社員の賃金を決めるため

まずは、社員の賃金を決めるためです。「こういう行動を取ったり、成果を出せば高く評価する」という内容を明文化した「評価基準」をあらかじめ作成しておきます。その評価基準にしたがって「阿部さんは60点、伊藤さんは85点」と採点していき、「70点以上はS評価、60点台はA評価」というように評価ランクを決めます。最後に「S評価は3%昇給、A評価は2.5%昇給」とか「S評価の賞与は基本給の2.5か月分、A評価は2.0か月分」と賃金を配分していきます。

このように「採点→評価ランク決定→昇給・賞与配分」という3段階のプロセスを経て、ようやく社員の賃金を決められるのです。このプロセスなしで、社員が仕事をしている様子を見て「阿部さんは○○円、伊藤さんは○○円」と賃金を決められるほど、評価は簡単ではありません。

②昇進する人を見つけるため

また、昇進する人を見つけるためでもあります。誰が見ても特別優秀で飛び級昇進するような社員であれば別ですが、そうでない場合、一般的には、会社の役職は一般職→主任→係長→課長→部長と上がっていきます。他方、相撲には「大関で2場所連続優勝または準優勝すれば横綱昇進」という目安があり、政治の世界では「当選○○回で入閣」という目安があります。

これと同様に、会社の場合は「一般職から主任へは、直前3年間で1度もD評価を取らなければ昇格」や「係長から課長へは、3期連続でA評価以上を取れば昇格」というように、評価の結果で昇進を決めると不公平感がありません。

昇給や賞与でも賃金格差は生まれますが、昇進はさらに大きな賃金格差が生みます。社員は昇進によって発言権も大きくなりますし、昇給や賞与以上のインセンティブになります。それだけに、経営者は頭を悩ませることも多いでしょうが、このやり方なら評価は比較的簡単にできるはずです。

③社員のモチベーションを上げるため

社員のモチベーションを上げるためにも人事評価をする必要があります。モチベーションは「方向性の正しさ×強さ×持続性」で上がります。「こういう行動を取ったり、成果を出せば高く評価する」と示すことで、社員のモチベーションを正しい方向に導くことが可能です。

高い評価を受ければ給料を上げる、昇進させるという仕組みをつくり、かつ定期的な評価で社員に結果を伝えることで、今やるべきことを忘れさせないようにしましょう。

④教育訓練を効果的に行うため

最後に、教育訓練を効果的に行うためであることも知っておきましょう。評価によって、社員の強いところ、弱いところが見えてきます。強いところを伸ばすだけでなく、弱いところを重点的に鍛えることで、教育訓練の効果をより高めます。

教育訓練には、経営者が想像している以上の効果があります。例えば、大企業と中小企業では賃金に差があります。これは大企業の方がもともと優秀な人が集まっているからだと思われがちですが、実際はそうではありません。東京大学の玄田有史教授は「ホワイトカラーの大企業と中小企業の賃金差は、ほとんどが職場訓練の違いによって説明できる」と分析しています。

義務教育を終えて高校や大学に進学するのは、卒業後に働いて得られる賃金が、支払った学費を補って余りあるほどに高いことを期待しているからです。ならば、なぜ経営者は社員の教育訓練にお金と時間を使わないのでしょうか。会社の教育訓練は、学校教育と同じ程度の投資効率があることがわかっています。

日本の企業では教育訓練が軽視されがちです。まったくやらない会社も多数存在します。日本では「社員1人当たり年間2万6,000円をかければ、教育訓練の投資が多い会社の上位10%に入る」(森川正之『生産性 誤解と真実』日本経済新聞出版社)とされます。社員の賃金を上げるには労働生産性を高める必要がありますが、その一番の近道は教育訓練を行うことです。

賃金を決める、昇進を決める、モチベーションを上げる、教育訓練を行う――この4つは、中小企業だからといって免れられるものではありません。具体的な評価の仕方などについては、次回以降お話ししたいと思います。

この記事の著者

神田 靖美

人事評価のコンサルティング会社・リザルト株式会社代表。中小企業を中心に賃金・評価制度の構築をサポート。著書に『スリーステップ式だから、成果主義賃金を正しく導入する本』(あさ出版 2003年)。共著に『会社の法務・総務・人事のしごと事典』(日本実業出版社 2017年)ほか。毎日新聞『経済プレミア』に『ニッポンの給料』、清話会『先見経済』に『目からウロコの賃金管理』を連載。1961年生まれ。上智大学経済学部卒業。早稲田大学大学院商学研究科MBAコース修了。趣味はベトナム旅行

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