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このご時世に愛される接客スタッフ像とは?老舗和食店の女将の考え

2023.05.24

著者:弥報編集部

監修者:小保下 グミ

通信販売・デリバリーサービスなどの拡充、ご近所や職場での付き合いの減少、核家族化などの影響で、実店舗経営はこれまで以上に接客サービスが重要視される場所となっています。悩みや疑問が生じたときに、インターネットで検索をすればそれなりに回答を得ることは可能です。ですがリアルに話をすることを求めている人は、実は想像以上に多いのです。そのため、近年特にカウンセリングや「悩み・愚痴聞きます」というような悩み相談サービスが大変な人気となっています。

こうした状況だからこそ「第三者に話を聞いてほしい」と、サービス業の店舗スタッフに相談相手を求めるケースも増えています。では、お客さまから愛される接客をするには、どのようにすればいいのでしょうか。今回は、そうした場面で心がけたい振る舞いと、注意が必要な言動について解説します。


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令和に求められるのは「話をじっくり聞ける人・相談できる人」

近所付き合いや職場での飲み会の減少、核家族化、生活環境のデジタル化などの影響によりリアルでのコミュニケーションがぐっと減っている今、求められているのは「話をじっくり聞ける人」です。

現に雑談の相手をしてくれたり、ひたすら愚痴を聞いてくれるようなサービスは活況で、試しにインターネットで「話聞きサービス」と検索すると、選びきれないほど関連業者が出てきます。自分の話をだれかに聞いてほしい、相談したいといった需要は非常に大きく、実店舗でサービスを提供するスタッフがこの役を買って出ることができれば、お客さまに喜ばれることは間違いないでしょう。

当店にも、お一人さまを中心に、話をするのが好きなお客さまがちらほらいらっしゃいます。その日あった出来事や職場での悩み、趣味についてなど、スタッフにいろいろとお話ししてくださるのです。当店でも、客足の少ないタイミングを見計らい、お客さまの話は愚痴でもなんでもじっくり聞くようにしています。相槌を打ちながらひたすら話を聞くだけでも、仕事のストレスを抱えるビジネスパーソンや、人とのかかわりが薄れている高齢なお客さまに喜ばれているように思います。

私はまだまだ人生経験が少ないので、お客さまの相談に乗れる場面はそう多くはありません。とはいえ、夫婦関係や家族問題に関して尋ねられることがあるので、自分の経験を踏まえてお話しすることもあります。

対して私の夫は、先代から事業を継承して30年ほどになるベテランです。若い人からの経営の相談に乗ることも多く、そのためにわざわざ遠方から店を訪ねてくださることに、大きな喜びを感じているようです。

お客さまからの相談に応えるためには、日ごろから自分がどんなことを得意としていて、どんな相談なら乗りやすいのかを事前に棚卸しをし、情報を集めておくといいでしょう。いざというときに的確にアドバイスしやすくなります。成功体験が少ない場合は、恥ずかしがらずに、ありのままを伝えてみても良いでしょう。失敗談は、ときに相談者のためになります。

注意点としては、聞かれてもいないのに余計なアドバイスをしないこと、意見や価値観を押し付けないことが挙げられます。まずはお客さまの話をじっくり聞くことを心がけてみてください。

人との繋がりを求める一方で、個人情報に敏感なのも特徴

話を聞いてほしい、相談したいと感じる人が多い一方で、プライベートに土足で入り込んでほしくない、と感じる人が少なくないのも現代の特徴です。接客に力を入れているお店ほど、注意が必要となります。このバランスが大変難しいのです。

具体的にいうならば、まず1つ目は、お客さまのプライベートな情報は相手が開示してくれるまでこちらからは尋ねないことです。特に自宅の場所や会社名、職業などは、個人が特定できてしまう可能性のある情報なので要注意です。未婚か既婚か、子どもの有無なども、センシティブな質問なので避けたほうがよいでしょう。

2つ目は、サービスの提供に関係のない個人情報はスタッフ同士で共有しないことです。例えば飲食店において、お客さまが乳製品アレルギーだという情報をスタッフの1人が聞いたとしたら、次回の来店時にも気をつけられるように皆で共有するのは問題ありません。しかしサービスに関係のない、趣味や家族の話など個人的なものは、わざわざ共有する必要はないでしょう。個人が特定できてしまうような情報だったり、センシティブな内容であれば、なおさらです。スタッフAに話した内容がなぜかスタッフBまで知っているとなると、気持ち悪さを与えたり、個人情報の管理に疑問を感じさせてしまいます。

顧客ノートなるものを作成し、お客さまの情報を細かく記録しておいて次回の接客に活かしているお店がありますが、共有するのは自店の営業に直接かかわるものに限るようにしてくださいね。

3つ目は、店内でお客さまの名前を大きな声で呼ばないことです。何かしらのSNSを利用しているお客さまが多い時代です。名前がわかってしまうと、近くで聞いていた人が興味本位で検索をかけてアカウントを探し出したり、場合によってはネットストーキングに発展してしまう可能性もあります。医療のようなプライバシーにかかわるサービスや、人に話しにくいようなデリケートな商品を扱っている場合、個人が特定できてしまう情報の扱いには特に注意が必要です。

当店でも、傾向として若い人や女性は個人情報に敏感な方が多いので、大きな声で名前を呼ばない、できればあだ名にするなど工夫しています。また、信頼関係が構築できていない段階では、あれこれプライベートなことを聞き出さないように気をつけています。お客さまに寄り添いながらもプライバシーに一定の配慮ができることが、愛される接客の秘訣です。

自分の中にある無意識の偏見に注意

お客さまとざっくばらんに話をする間柄になったからといって、思ったことをなんでも口にすることが良いとは限りません。「アンコンシャスバイアス」という言葉を聞いたことはありますか?

アンコンシャスバイアスとは、人間の中にある無意識の偏見を意味するものです。例えば接客の際に、お客にこんな言葉をかけたことはないでしょうか。

  • 日本語がお上手ですね
  • A型って几帳面ですよね
  • (子ども連れの父親に)奥さんはどうされたんですか?
  • あの年代の人たちはこうですからね

これらはすべて、無意識のうちに心の中に持ってしまった偏見です。例えば「日本語がお上手ですね」というフレーズは、見た目だけで外国人だと判断してしまったために発せられる言葉です。日本人相手に日本語が上手なことを褒める人はいませんよね。初めから外国人だと決めつけているのです。「A型って」「あの年代って」と特定のグループに属している人をひとまとめにしてこういう人だ、と決めつけるのも、一種の先入観といっていいでしょう。

昨今では「男は働きに出て、女は家事をするものだ」なんてわかりやすい差別をする人はいないと思いますが、子どもを連れている父親を見て「奥さんはどうしたんですか?」と言ってしまう人も、少なからずいます。頭の中に固定化された男女の役割分担が、思わず言葉となって表面化してしまうのはよくあるパターンですから、気をつけましょう。ちなみに当店はご夫婦やカップルで来店されるお客さまも多いので、お会計は男性が支払うもの、お酒を注ぐのは女性の仕事などと決めつけずに、その都度確認しています。ネット上にはアンコンシャスバイアスをテストできるWebサイトもあるので、一度チェックしてみてください。

無意識の偏見は、だれしもが多少なりとも持っています。それを100%取り除くことは難しいかもしれませんが、大切なのは、自分自身が偏見を持っていることを自覚し「この言葉に傷つく人はいないかな?」と想像力を働かせることなのです。

令和の時代は「受け身になれること・人の痛みに敏感であること」が接客サービスの肝

当店は10年ほど前から、それまで行なってきた「お客さまのことを知ろう・近づこう」といった接客スタイルから、先述のように注意を払うスタイルに段々と方針転換してきました。これだけが要因とは限りませんが、以前と比べて単に料理を食べるためだけでなく、私たちスタッフに会いに来てくださるお客さまが増えたと肌で感じています。

総じて現代は、受け身になれること・人の痛みに敏感であることが接客サービスの肝になります。これらを意識しながら、愛される接客サービスの提供を目指してみてください。


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この記事の著者

弥報編集部

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この記事の監修者

小保下 グミ(老舗和食店の女将)

老舗和食店の女将。夫が後を継いだ家業で経営全般に関わる。現在は休業中。
noteにて定期購読マガジン「小さなお店のちいさな女将」を運営。飲食店経営や自営業の生き方・働き方について発信中。

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