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何回も注意しているのに改善されない……それ、大人の発達障害かも?該当する従業員への適切な対応とは

2023.01.26

著者:弥報編集部

監修者:尾林 誉史

指示を忘れてしまったり空気の読めない従業員がいて、どんなに指導しても改善されない……。それは本人の努力不足ではなく、発達障害の特性によるものかもしれません。しかも、本人は気付いていないとしたら――。

今回は、VISION PARTNER メンタルクリニック四谷院長の尾林 誉史(おばやし たかふみ)さんに、発達障害の人の特徴や、接し方などについて伺いました。尾林さんは「特性を把握したうえで、周囲の従業員も含めたマネジメントが重要」だと言います。本人が受診する後押しとなる言葉もご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。


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社会に出ると発達障害が顕在化する?「大人の発達障害」とは

最近、「大人の発達障害」という言葉をよく聞きます。大人の発達障害とは、どのようなものなのでしょうか?

そもそも「発達障害」とは脳機能に関する障害で、注意欠陥・多動性障害(ADHD)と自閉スペクトラム症(ASD)の2つに大きく分類されます。ただし、それぞれの特性がすべて当てはまる人はあまりいません。どちらの要素も少しずつ併せ持つなど、グラデーションがあると理解してください。

発達障害は特性の出方もさまざまで、それほど困っていない人から重度の人までいます。比較的軽度だと、学生時代にはあまり気付かれない場合もあります。ところが社会に出て組織の一員としての振る舞いを求められたり、責任が伴う場面が増えたりすると、もともとの特性が際立って仕事・生活に支障をきたす場合が出てきます。つまり「大人の発達障害」とは、特性の顕在化を指した言葉だと考えています。

ADHDとASDについて教えてください。

ADHDの特性は、不注意・衝動性・多動性の症状が強く出ることが多く、会社においては指示を忘れてしまう、特にイレギュラーの業務に対応できないケースが目立ちます。

ASDの特性は、コミュニケーションがうまくいかない、こだわりが強すぎるなどの点です。その状態は「コミュ障」「KY(空気が読めない)」とも表現され、暗黙の了解に踏み込んでしまう、話し始めると止まらないといった事例が見受けられます。

発達障害の人には、どのような特徴がありますか。

幼いころから失敗体験が多く、自己肯定感がきわめて低い傾向があります。自信がないために、理想とする自分の姿とのギャップを埋めようと常に頑張り続けているし、できなくてもできると答えてしまいがちです。自分では腑に落ちていないのに、丸く収まるような答えを選んでしまうこともあります。そういった反応を取り続けているとストレスがたまり、適応障害やうつ病を発症するケースもめずらしくありません。

視覚に訴えるツールが有効?企業がとる適切な対応策とは

発達障害の疑いがある従業員が支障なく業務を行うために、会社がとれる具体的な対策はありますか?

ADHD傾向の人は五感が鋭く、視覚による情報が保持されやすい特性もよく見られます。そのため、メモや付箋といった視覚に訴えるツールが有効です。やることやスケジュール、優先順位を書いて、目につきやすい場所に貼っておくとよいでしょう。

また、ASDの人がうまくコミュニケーションを取れていない場合、本人に悪気はないわけですから「なぜそんなことを言うの?」などと注意しても改善は期待できません。「この状況で今の発言は適切ではないよ」のように、短く・はっきり・端的に伝えるのが大切です。

小さな会社だと、発達障害の人の特性に合ったポジションを用意できないケースもあると思いますが、どう対応すればよいですか?

会社規模によっては、特性に適した職種が存在しない、用意するのが難しいということもあるでしょう。活躍の場がなければ、双方にとって損失です。より力が発揮できる環境を見つけるために、ていねいなコミュニケーションで落としどころを探るべきだと考えます。

発達障害の人には、弱みだけでなく強みもあります。得意なフィールドの仕事に就くとか、業務内容を特性に合わせて工夫すれば、人の役に立つ実感が得られて自己肯定感も上がるのではないでしょうか。できないことを無理にやるより、できることをしたほうがだれでも生きやすいですよね。

発達障害の人への接し方のポイントを教えてください。

不注意や空気の読めない発言は発達障害の特性で、悪意はありません。感情的な叱責はだれに対しても避けるべきですが、特に発達障害の人には配慮しましょう。

次に、余裕のない状況では特性が出やすくなるため、1時間に1回は深呼吸をしたり、進捗確認の時間を設けたりするのもおすすめです。発達障害の人は、ゴールにたどり着くのに時間がかかります。仕事そのものではなく、業務の進め方をサポートするようなイメージで接するとよいでしょう。

他の従業員が発達障害の人へ不満を感じている場合、どう対応を進めたらよいですか。

発達障害の人は、努力が足りないと受け止められがちです。本人に受診を促して特性を把握してもらったうえで、必要に応じて他の従業員への周知やマネジメントをすることも、上司の役目ではないでしょうか。その際はプライバシーに配慮し、どこまで周りに話してよいかの本人確認も必須です。しかし、発達障害であるという診断の共有はそれほど重要ではありません。

例えば「〇〇さんは同時にたくさんの仕事をこなすのは苦手だから、一度に依頼する業務は多くても2つまでにしよう」と職場に周知したり、「失敗が目立つけれど、この業務に関してはとても優れている」といった伝え方をしたりすれば、発達障害という言葉を使わなくても特性の理解はできます。こういった認識共有でその人の役割が明確になり、スムーズに業務が回り始めたら、みんながハッピーですよね。加えて、周りが我慢するのではなく「皆お互いさまである」という共通認識が形成されると理想的だと思います。

できたら本人が「自分はこんなことを大変に思っている」と言語化すると、より周囲の心に響くでしょう。さらに、子どものころからの体験・苦労、いわゆる「その人の歴史」を共有してもらうとベターです。背景を知ると許せるようになったり、話した本人も同僚への信頼が深まったりします。

病院で発達障害と診断されて、スッキリする人が多い

発達障害が疑われる従業員がいた場合、病院に行ってもらったほうがよいのでしょうか。

ADHDに関しては治療薬もあります。病院に行くことも最善の選択肢の1つと言えるでしょう。ただ、病院に行ったからといって、魔法がかかったように発達障害がなくなったりはしません。それでも受診や検査により自身の特性を理解することで、1人で抱えていたつらさを荷下ろししたり、社会の中でのポジション・向いている仕事がわかってきたりします。実際に受診した人の話の中には「そうじゃないかと思っていた、スッキリした」という声も多く聞きます。

受診先は精神科・心療内科になりますが、すべての病院やメンタルクリニックが同じレベルで対応しているかというと、そうではないのが実情です。発達障害の外来や専門的な治療が可能かどうか、ホームぺージなどで確認するよう助言してあげてください。

発達障害に限らず、精神科への受診に抵抗感を示す事例も見受けられます。

なぜ抵抗があるのかというと、精神科への受診を障害や精神疾患の診断が下されることとイコールに考えているからです。そのように捉えている人には、発達障害ではないとはっきりわかるかも、と伝えると受診につながる場合があります。特に、自分は病気ではないと頑なになっているようなケースでは「そうでないとお墨付きがもらえる可能性」を示唆することで、行動の変容が期待できるでしょう。

受診を促すにはどうしたらよいですか。

受診のきっかけは、結局のところ「本人の困り度合い」です。同じミスを何度も繰り返してしまう毎日に疲れ果て、何とかしたいと思っていれば、スムーズな受診につながるのではないでしょうか。

もし、問題が生じているのに本人に自覚がないなら「周囲は結構大変なんだよ」とやんわり伝えてみてください。その際は、あなたが一歩踏み出せば組織も成長できる、だから協力してほしいというスタンスで話すようにします。一方的な通達・説得ではなく「この先も一緒に働き続けたいからこそ、伝えているんだ」と強調するのも重要です。


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この記事の著者

弥報編集部

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この記事の監修者

尾林 誉史(VISION PARTNERメンタルクリニック四谷 院長/精神科医・産業医・公認心理師)

東京大学理学部化学科卒業後、株式会社リクルートに入社。退職後、弘前大学医学部医学科に学士編入し、東京都立松沢病院にて臨床初期研修修了。その後、東京大学医学部附属病院精神神経科に所属。精神科臨床に加え、約20社にて産業医業務も行う。著書に「元サラリーマンの精神科医が教える 働く人のためのメンタルヘルス術」(あさ出版)、共著に「企業はメンタルヘルスとどう向き合うか―経営戦略としての産業医」(祥伝社新書)など。

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