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小宮一慶が教える、「数字力」の6つの罠と4つの習慣

2020.08.19

前回の記事ビジネススキルを高める「数字力」では、物事を正しく捉えるために数値化し具体化することの大切さと、数字の見方の基本について説明しました。今回はこの数字力を伸ばす際に阻害要因となる6つの「罠」について、また数字力をより高める4つの「習慣」について解説していきます。

勘違いや間違いを生む6つの「数字の罠」に注意!

「数字力」とは数字を正しく捉えることで、その背後にあるさまざまな事象の現状や動向を知ることができ、さらにはそこから導き出される未来を予測する力となるものです。例えば、株式市況の数値など、日常的かつ長期的に同じ数字を追いかけていくことで、その数字を見る感覚は養われていきます。

ところが、私たちが普段から持つ数字の感覚は、時にちょっとしたことで大きな勘違いを生むこともあります。代表的な6つの「数字の罠」についてご紹介しましょう。

1.主観の罠

昔、私がニューヨークの研修ツアーにお客さまをお連れしたときに、高級時計のロレックスを扱う有名なディーラーを特別講師として招き、お話を伺いました。

彼はその場に1億円のアンティークのロレックスを持ってきて、ツアーに参加した十数人の経営者たち1人ひとりに試着させました。世界中に2個しかない貴重なものです。彼は時計を売りにきたわけではありませんが、数人は1億円は無理でもと、200万円のロレックスを買う気になりました。

ロレックスはもともと高価なものですが、それでも50万円くらいのものからあります。一般の感覚からすれば200万円も高価だと思いますが、1億円のロレックスを見た後ではお買い得な気がしてしまうのです。

数字は客観化されたものですが、主観によるバイアスがかかることも理解しておかなければなりません。

2.見え方の罠

ここに同じ職種の2種類の求人広告があります。あなたはどちらのほうが良い会社と感じますか?

(A社)給与:月額30万円、賞与:夏冬計5か月
(B社)給与:月額40万円

年間報酬はA社のほうが30万円も多いのですが、一般に求人広告で重視されるのは月給で、賞与の数字はあまり見ないと言われます。このように数字の見え方、見せ方で数字の捉え方は変わります。

3.常識の罠

以前、15の病院で外来の患者さんの満足度調査を実施したことがあります。「医師の言葉遣い」「トイレの美しさ」など病院のさまざまな項目について、「良い」から「悪い」まで7点満点で評価してもらうものです。

3年間続けたところ、毎年すべての病院で一番不満が出る項目は「待ち時間」でした。では、病院の満足度を上げるためには、待ち時間を短縮する手を打つことが結論なのでしょうか?

この調査結果だけ見たら、多くの人がそう思うかもしれません。しかし、そんなことはわざわざお金をかけて調査しなくてもわかります。調査を終えた私たちが出した結論は違いました。

そもそもこの調査は、病院全体の満足度を上げるために何をしたらいいのかを知るためのものです。それを知るのに必要なのは、一番点数の悪い項目を探すことではなく、全体の満足度に最も大きな影響を及ぼしている項目を知ることです。統計学で言えば、「相関」の高い項目を見つけることです。

分析した結果、待ち時間の数字は全体の満足度との相関が低く、最も相関が高かったのは「医師の言葉遣い」と「医師の信頼度」でした。つまり待ち時間の改善に必死になるよりも、医師や看護師の教育に力をかけたほうが患者さんの満足度は高まることが検証されたのです。

もちろん待ち時間も減らしたほうがいいのでしょうが、そのためには診療時間をさらに短くするしかありません。今でも「3分診療」などと言われているのを2分でやろうかという話になるわけです。そんなことをしたら、逆に患者さんの満足度を下げてしまいます。全体の満足度を上げようとして、逆効果になるわけです。

数字の見方を誤ると間違った結論が出てしまいます。では、何が数字の見方を誤らせるのでしょうか。統計の知識もさることながら、私は「常識」だと思います。「満足度が一番低い項目が、一番の課題」という「常識」が、数字から正しい情報を得ることを妨げるのです。

4.統計の罠

「平均値は見誤る」という経営の格言があります。全体の業績が良いと個別の悪い数字が見落とされがちです。平均値だけでものを考えるのではなく、個別の数字を見て判断しなければなりません。

また「日銀短観」(正式名称:全国企業短期経済観測調査)という企業の状況を見る統計があります。ここに経営者に3か月先の見通しを聞いて数値化する項目があるのですが、この数字は厳しめに出ると言われています。経営者は将来見通しを厳しめに見る傾向があるからだと考えられます。

5.名前の罠

厚生労働省の「毎月勤労統計調査」という統計に、「現金給与総額」という項目があります。これは名称だけ見ると日本全体の給与総額のような印象を受けますが、各人の「総額」です。

給与をもらう人は、基本給などの所定内賃金、残業代などの所定外賃金、それに賞与が支給されます。その1人当たりの「総額」が現金給与総額です。名前に騙されてはいけません。

6.思い込みの罠

例えば、東京駅の新幹線のホームは、在来線の13番線と東海道新幹線の14番線との間に、東北新幹線や上越新幹線などの20番線から23番線のホームが配置されています。東北新幹線が東海道新幹線より後にできたせいですが、数字の順に並んでいないのです。このように「数字は順番に並ぶもの」と思い込んでいると間違えてしまいます。

ビジネスの視野を広げる「数字力」を高める4つの習慣

次に、「数字力」を高める4つの習慣について説明します。

1.主な数字を覚えること

マクロの数字では日本のGDPや人口など、ミクロの数字では自社の売上高や利益、業界全体の売上高などを知っておくと、この比較によって他国の状況や、自社と他社の位置づけがわかります。

2.定点観測をすること

私が特に重視しているのが定点観測です。冒頭でも少し触れましたが、毎日あるいは毎週、同じ項目の数字を見るようにします。小売チェーンであれば、毎日の各店からのPOSデータを見ながら、各店の売上の動向や今後の予測をしたり、仕入れを調整したりします。これも定点観測によって会社や仕入れ責任者の「基準」が生まれるから、そうした予測や調整ができるようになるのです。

3.部分から全体を推測すること

他の数字と関連づけながら定点観測することで自分の基準を持てると話しましたが、それを1歩進めると、ある部分の数字から全体を推測したり、別の事象を推測・予測できるようになります。私は日経新聞の企業業績欄を見て、そこに出てくる一部の企業の状況から、日本全体の企業の状況、また経済の状況を推測・予測しています。

例えば、多くの企業が連日増収増益が続くと、私はそろそろ経済が落ちてくるころだと判断します。いわゆる「陽の極み」(相場でいう頂点)だからです。逆に多くの企業が減益しはじめ、それがしばらく続く状況であれば、そろそろ「陰の極み」(相場でいう底)に近いかなと判断します。経済には必ず波がありますからどこかで反転します。個別企業の動向から全体を見るわけです。

4.常に数字で考えること

数字力を身につける基本中の基本は、日ごろから数字に落としこむ癖をつけることです。会議や商談をはじめ、日常会話でも「高い」「安い」「良い」「悪い」とか、「もうちょっと」「たくさん」「みんな」といった形容詞が出たら、すぐに「それは具体的にはいくら?」「何人中何人?」「何%?実数はいくつ?」と考えます。すべてを数字と結びつけて考える思考パターンを持ち、具体化することで、目標がはっきりし、信ぴょう性が高まります。

世の中の数字を意識すると、生きる世界が変わる

前回の記事と今回を通して、経営者やビジネスパーソンにとっていかに数字が大切か、おわかりいただけたでしょうか?

私たちの生きる世界は数字であふれています。その数字に目(意識)を向けること、そして数字に慣れることが「数字力」というビジネススキルを磨くうえで重要です。さらには、数値化されていないあいまいなものを具体化するために数字に置き換えること。これによりビジネスの世界もそうですし、私たちの生きる世界の見方が変わります。今まで気づかなかったものにも気づけるようになるのです。

「数字を意識しだしたら、仕事がうまく回るようになった!」という皆さんの感想が聞けるのを心待ちにしています。

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この記事の著者

小宮 一慶(こみや かずよし)

経営コンサルタント。株式会社小宮コンサルタンツ代表取締役会長CEO。十数社の非常勤取締役や監査役、顧問も務める。1981年京都大学法学部卒業。東京銀行に入行。1984年から2年間、米国ダートマス大学タック経営大学院に留学。MBA取得。帰国後、同行で経営戦略情報システムやM&Aに携わったのち、岡本アソシエイツ取締役に転じ、国際コンサルティングにあたる。この間、UNTAC(国連カンボジア暫定統治機構)選挙監視員として、総選挙を監視。93年には日本福祉サービス(現セントケア)企画部長として在宅介護の問題に取り組む。95年に小宮コンサルタンツを設立し、現在に至る。企業規模、業種を問わず、幅広く経営コンサルティング活動を行う一方、年百回以上の講演を行う。新聞・雑誌、テレビ等の執筆・出演も数多くこなす。経営、会計・財務、経済、金融、仕事術から人生論まで、多岐に渡るテーマの著作を発表。その著書140冊を数え、累計発行部数は360万部を超える。

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