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小宮一慶が教える、ビジネススキルを高める「数字力」

2020.07.21

私は仕事柄、経営者やビジネスパーソンと常に接していますが、そこで興味深いことに気づきました。できる経営者やビジネスパーソンは数字に強いのです。必ずしも統計や財務の知識があるわけではなく、例えば書類の数字の誤りにパッと気づきます。今回はビジネススキルを高める「数字力」について説明していきます。

数字による「具体化力」が発想力・説得力を高める

ビジネスでは、物事をできる限り具体化・数値化することが求められます。物事は具体化しない限り実行できませんし、数字はある意味、究極の具体化です。

数値化は「具体化力」(具体的に物事を考える力、具体化力は発想力にもつながる)と「目標達成力」(目標を達成する力)の2つを養います。ここでは「具体化力」の例を見ていきます。

例えば高層ビルや高層マンションを見たときに「高いビルがある」ではなく「○○階建てのビルがある」と考えるのが具体化力です。すると「あのビルよりこのビルのほうが何階高い」という発想も生まれます。さらには高層マンションが新規に建ち並ぶ地域を見て「小中学校や、幼稚園、保育園は足りているのかな?」という考えにも至ります。

また、売上や試験の点数が足りないときに、どのくらい足りないのか数字に落とし込むのも具体化力です。「あとこれだけ点数を高めなければならない」とわかれば、目標に向けて頑張る方法も具体化しやすくなります。

数字を使って具体化すると説得力も高まります。私は東海道新幹線をよく利用しますが、熱海–小田原間はいくつものトンネルを走ります。このときも「熱海–小田原間はトンネルが多い」とは誰でも言えますが、「熱海–小田原間にはトンネルが10個ある」と言えばより具体的になります。

さらに「熱海–小田原間にはトンネルが10個あり、最後のトンネルを出て約3秒後にのぞみは小田原駅を通過する」と言えば説得力が高まります。具体化することで見えないものが見えてきますし、新たな発想を生みます。

「具体化力」が推論の域を広げる例(立て看板を例に)

私はここ20年ほど、東海道新幹線の三河安城–豊橋間の山側にある野立て看板の種類と数を勘定しています。時速270キロ前後で走る車内から勘定するのは簡単ではありませんが、じっくり見るとわかることがたくさんあります。人は看板の多さに気づいていても、具体的にいくつ立っているかは意識して数えることはありません。時代とともに看板を出す会社も変わりましたし、数も減っています。

では、なぜ看板が減ったのでしょうか? 皆さんも推測してみてください。私の推論は次のとおりです。

  1. 三河安城–豊橋間は自動車産業などが多く、工場や住宅が増えて、看板を立てられるような大きな農地が減った。
  2. ネット広告などの影響で看板の需要が減った。
  3. 新幹線に乗るビジネスパーソンが忙しくなり、車内でパソコンを打ったり、寝たりする時間が増えて看板を見る人が減ったため、その魅力が下がった。
  4. 騒音問題で防音壁が増え、実際に見える看板の量が減った。
  5. N700系の登場で「のぞみ」のスピードが速くなり、看板が見にくくなった。

こうしたさまざまな推論ができるのは、具体化力があるからです。

数字を見る際の7つの基本を覚えよう

次に「数字」の見方やコツについて説明していきます。文章には文章の読み方の基本があるように、数字にも数字の見方の基本があります。「数字が苦手」という人の多くは、この見方を知らないことに原因があるのです。

①全体の数字をつかむ

最初に、数字は単体では何の意味も持たないことを知っておく必要があります。なんらかの比較があって初めて意味を持ちます。その1つが「割合」の感覚です。その数字は全体の中でどの程度の割合を持つのか、全体の数字はどのくらいなのかを考えることが重要です。

例えば、現在は世界中で新型コロナウイルスの影響が出ており、各国で感染者数が報告されています。この原稿の執筆時点(2020年5月25日時点)では、日本の感染者数は1万6,000人、アメリカは144万5,000人、インドネシアは1万7,000人です。この数値を見て皆さんはどう考えますか? これだけでは「アメリカは多いね」「日本とインドネシアは同じくらい」程度しか言えません。

そこで、この数字に人口を加えたらどうでしょうか。日本は1億2,600万人、アメリカは3億2,700万人、インドネシアは2億6,700万人です。そうすると人口100万人当たりの感染者数は日本は127人、アメリカは4,418人、インドネシアは64人となります。こうして見比べると、アメリカの感染が圧倒的に多く、インドネシアは日本よりも感染をコントロールできていることがわかります。

②全体の中での位置づけを考える

こちらは①とも関係しますが、全体の中での位置づけを考えることが大切です。

顧問先の会社の役員会で1人の部長が、自社よりも格上の優良企業と提携できたと報告し、それを聞いた役員たちは喜びました。しかし社外取締役として役員会に出席していた一部上場企業の元社長が「それでいくら儲かるんだ?」と尋ねると、部長は「年間数100万円です」と答えました。10億円近い利益を上げる会社ですから「なんだ」と場が一気に白けてしまいました。

この社外取締役がそう尋ねるのは当然です。企業にとってはいくら儲かるかが重要であり、提携が目的ではないからです。

③大きな数字を間違えない

まず大きな数字を捉えることです。小さな数字にとらわれて大きな数字を間違えないようにするためです。これは概算に似ています。当たり前のことですが、小さな数字に神経を使うあまり、大局を見失うことがあります。

経営会議で売上高を1円単位で見る必要はありません。中小企業でも100万単位、大企業なら億単位で十分です。その代わり、数字は間違えないようにする。全体と個別のバランスを見つつ、大きなところは絶対に外さないように注意します。

④小さな数字にはこだわる

ここは少し厄介ですが、細かな数字にこだわらなければならないときもあります。経営では、従業員1人が1時間働く際の生産性(付加価値額)を表す指標として「人時生産性」を用いることがあります。これは1円単位で見なければなりません。何万人も雇っている大企業の場合では、数円違うだけで年間数億円の差になるからです。

⑤定義を正確に知る

ところで、日経平均株価とTOPIXの違いは分かりますか? 中には日経平均株価が全上場企業の株価の平均だと思っている方もいらっしゃるかもしれませんが、これは代表的な銘柄225種の平均で、ときどき入れ替えがあります。TOPIXは東証株価指数、東証一部全銘柄の平均です。また日経平均株価とよく比較されるNYダウは30種、それも工業株に限られます。米国ニュース通信社のダウ・ジョーンズ社が算出しています。

定義が曖昧なまま数字を扱うのは危険です。定義を正確に知って初めて数字の意味がわかるようになります。定義は「覚える」ものではなく「理解して知る」ものです。

⑥時系列で見る

先ほど、数字はなんらかの比較を伴わないとその意味は判断できないとお話ししました。前年比や年次推移もそうです。前年同月比との比較で、単体では何も判断できない数字が意味を持ち始めます。さらに10年、20年といった同一条件下の数字を比較することで、より多くのことがわかります。

私は1980年代初頭、銀行員時代に上司と賭けをしたことがあります。日経平均株価が1万円を超えるのとNYダウが1,000ドルを超えるのとではどちらが早いかです。現在の日経平均株価は約2万円です。40年間で約2倍です。一方、当時1,000ドルのNYダウは新型コロナウイルスの影響もありだいぶ下がりましたが、それでも現在2万4,000ドル弱、約24倍です。時系列で見ることで、日本の経済力の推移などもわかります。

⑦他と比較する

時系列で見ることは現在と過去を比較するという、いわば垂直方向の比較です。これに対して他社や他国といった水平方向の比較も大切です。自社の利益率は同業他社と比べて低いのか高いのか? 原価率にしろROE(株主資本利益率)にしろ、標準値や同業他社の数字と比べてみなければ、自社の数字の意味は把握できません。

また業界内の位置を知ることも他との比較です。シェアはどうか? 順位はどうか? テストの成績と偏差値がいい例です。テストの点数は単体では何も判断できませんが、平均点や偏差値を知ることでクラス内、同学年内など新たな意味を持ち始めます。

こうした平均との比較、正常値との比較、基準値との比較が重要です。

「数字力」を磨けばビジネスの世界が広がる

ここまで説明してきたように、数字を見る際の基本を押さえて、数値で具体化してモノの見方の感度を上げることで発想力を広げたり、話に説得力を持たせたり、ビジネスに必要なさまざまなスキルを高めることができます。ビジネススキルを身につけることはビジネスの世界を広げることにつながります。これが「数字力」です。

「数字が苦手」と敬遠しがちな経営者やビジネスパーソンの皆さん、弱みを強みに変えるために、まずは数字を使った具体化に慣れるところから始めてみましょう。

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この記事の著者

小宮 一慶(こみや かずよし)

経営コンサルタント。株式会社小宮コンサルタンツ代表取締役会長CEO。十数社の非常勤取締役や監査役、顧問も務める。1981年京都大学法学部卒業。東京銀行に入行。1984年から2年間、米国ダートマス大学タック経営大学院に留学。MBA取得。帰国後、同行で経営戦略情報システムやM&Aに携わったのち、岡本アソシエイツ取締役に転じ、国際コンサルティングにあたる。この間、UNTAC(国連カンボジア暫定統治機構)選挙監視員として、総選挙を監視。93年には日本福祉サービス(現セントケア)企画部長として在宅介護の問題に取り組む。95年に小宮コンサルタンツを設立し、現在に至る。企業規模、業種を問わず、幅広く経営コンサルティング活動を行う一方、年百回以上の講演を行う。新聞・雑誌、テレビ等の執筆・出演も数多くこなす。経営、会計・財務、経済、金融、仕事術から人生論まで、多岐に渡るテーマの著作を発表。その著書140冊を数え、累計発行部数は360万部を超える。

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