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中小企業の人材育成は「平等ではなく、公平に」が鉄則!【小さくても最強の会社をつくる 人材戦略講座】
2020.07.28
首尾よく優秀な即戦力人材を採用でき、入社が決まったとします。しかし「即戦力人材だから勝手に成果を上げてくれるだろう」などと考えてはいけません。どんなにポテンシャルの高い人材でも、その人に合った育成をしなければ、宝の持ち腐れとなります。今回は中小企業だからできる効果的な人材育成について一緒に考えていきましょう。
目次
平等でないものを平等に扱うことほど不平等なことはない
人材採用には大きく分けて「未経験者採用」と「経験者採用」の2通りがあります。新卒者、もしくは中途採用でも新卒者とほぼ変わらない社会人歴3~4年目程度までの第二新卒者は、社会人としてのマナー教育に始まり、業務に必要な知識やスキルを順序立てて丁寧に教える必要があり、育成にはそれなりの労力と時間を要します。
一方、経験者は過去の実務経験があるので、未経験者ほど手厚く育成に時間を割く必要はありません。それでも会社や業界が変わることで、現場で戸惑うケースがよく見られます。会社側で入社後の導入をうまくサポートすれば、早期に戦力化してくれます。
大企業の場合は、未経験の新卒者たちを集めて同じメニューで育成計画を立てることもできますが、それはあくまでも新卒者たちがある程度同じ立場で同じ力量という条件が付きます。中小企業の場合は、そもそも大量採用など難しい話ですし、力量のばらついた人材を不定期に採用することが多いので、一人ひとりに合った育成計画が必要になるのです。
「平等でないものを平等に扱うほど不平等なことはない」ということをぜひ肝に銘じてください。育成は「平等にではなく、公平に」が鉄則。一人ひとりの経歴や過去の実績やポテンシャルに応じて、育成のステップに濃淡を付けることが人材育成に公平性を生むのです。
育成する側ではなく、育成される側の立場に合った基準に
これをマネジメント理論として提唱したポール・ハーシーとケネス・ブランチャードによる「SL理論」(Situational Leadership)についてご紹介しましょう。この理論は「状況対応型リーダーシップ」と訳されるもので、とりわけ新卒者や第二新卒者の基本的な育成方針としてぜひ知っておいて欲しいものです。
「SL理論」は、上司がどんな部下に対しても画一的に関わるのではなく、部下の成長段階(発達度)や置かれた状況に応じて、マネジメントスタイルを柔軟に変化させていくべきであるというものです。「自分のマネジメントスタイルはこうだ」と決め込んで、1つの型をすべての状況に当てはめるのではなく、メンバーの状況に合わせることが大切なのです。
具体的には、大きく3つのステップに分かれます。
①教えるマネジメント
対象は、新卒者や第二新卒者などの実務未経験者、経験の浅い人材です。最初は皆ここからスタートします。
↓
②引き出すマネジメント
対象は、上司がそろそろ安心できるレベルの、自信を持たせたいというタイミングの人材です。成長曲線の伸びが著しいパートです。
↓
③任せるマネジメント
対象は、部下本人も自信が付き、上司も権限委譲できると確信を持てる人材です。育成の最終段階であり、部下に自由と責任を付与するマネジメント上の理想の状態です。
この3つのステップに応じて、上司は部下との関わりを柔軟に変化させることが重要です。育成する立場にいると、往々にしてどんな相手にも同じように接しようとしがちです。しかし、それは育成する側の基準でしかありません。人材育成は、育成される側の立場を常に理解して尊重し、相手に合った基準で接することが重要なのです。
3つのマネジメントで効果的な人材育成を
では3つのマネジメントについて、順に説明していきましょう。
①教えるマネジメント
知識やスキルや段取りなどを、手順を踏んで学ばせる段階です。ポイントは接触頻度を高めること。マニュアルをポンと渡して、あとは放置というのが最もダメなやり方です。「知識」も「スキル」もないのに、1人でゼロから考えさせても何も生まれません。
「知識」とは、聞かれたら答えられること。「スキル」とは、やろうとしてできることです。上司は部下がどこまで理解し、何が実践できるのかをよく観察して、知らないことを知っている状態に、できないことをできる状態に持っていくことです。
部下との接触頻度を上げられない場合は、年次の近い先輩を教育係(メンター)として付けてあげてください。わからないことがあればその教育係に聞けば解決するといった配慮が必要です。入社直後の1か月は、教育係に付いて行動するくらいで構いません。
②引き出すマネジメント
「教えるマネジメント」が、上から下に答えを教えるティーチングであるなら、「引き出すマネジメント」は、相手の中にある答えを下から上に引き出すコーチングです。コーチングは答えを教えてはダメなんですね。「あなたならどう考える?」「3つの案のうち、どの案がいいと思う?」など自分自身で考えさせて、実際にやらせてみましょう。「失敗してもいいから」と付け加えて、伸び伸びとやらせてみてください。ちゃんとできたら褒めて、自信を付けさせることが大切です。小さな成功体験の積み重ねが自信とやる気を生み出します。
以前「優秀な人材確保の方法」の記事でも触れましたが、「魚を一匹渡すより、魚の釣り方を教えよ」という諺があります。与えられた魚は食べてしまえば終わりですが、魚の釣り方を覚えれば一生食いっぱぐれがなくなります。一時的な金銭的報酬よりも、成長させてくれるという関わりのほうが、大きなインセンティブになります。
ここで注意すべきことは、上司が部下の仕事に過剰介入して自信喪失させないこと。細かく関わりすぎて、自己否定させてしまっては本末転倒です。
③任せるマネジメント
「任せるマネジメント」のポイントは「我慢」です。任せるのが苦手な人は「本人がもう少しできるようになってから」などと言いますが、これは大きな間違い。「任せるからできるようになる」ことを肝に銘じてください。
つい「自分がやったほうが早い」と本来は部下がやるべき仕事を上司がやってしまうケースが見受けられます。その理由は、「納期が迫っているから」「部下に残業させたくない」「段取りを説明する時間があるなら、その時間で済ませる」などですが、心の奥底にある本当の理由は「自分がやるほうがストレスを感じないから」です。
自分でやれば思いどおりの結果を出せますが、部下にやらせると期待した結果が出てこないので、それが我慢できないのです。しかしそれでは部下の成長の機会を奪うことになり、いつまで経っても部下は成長できません。
任せた場合は、細かいことに口出しするマイクロマネジメントは禁物です。逆に任せられないのは「信頼していない」ということであり、その不信は部下にも伝わってしまいます。
ここまでが新卒者や第2新卒など、キャリアの浅い人たちへの育成のステップの解説になります。
では実績のあるキャリアを持ち、即戦力として採用した人材はどうでしょうか。基本的な流れは同じです。最も「教えるマネジメント」は、過去の経験で足りない部分を補足的に教えればいいので短期間で済みます。「引き出すマネジメント」も同様に、ウォーミングアップ的な業務で慣れてもらえば、比較的スムーズに「任せるマネジメント」の領域に進めるはずです。即戦力だからといって、いきなり「任せるマネジメント」に一足飛びして、せっかくの人材をつぶしてしまわないよう、くれぐれも配慮してください。
補助輪を付けるタイミングと外すタイミングを見極めよう
最後に「教えるマネジメント」から「引き出すマネジメント」に、また「引き出すマネジメント」から「任せるマネジメント」に移行するときのタイミングについてお伝えします。
①教えるマネジメント
↓ 「プロンプト」(補助を付ける)のタイミング
②引き出すマネジメント
↓ 「フェイディング」(補助を外す)のタイミング
③任せるマネジメント
「プロンプト」(prompt)も「フェイディング」(fading)も行動分析学で使われる言葉です。「プロンプト」は行動の直前や遂行中に提示される刺激を指し、強化を受ける行動が起きやすいようにサポートするものと定義されています。わかりやすく言えば「ある行動が起きやすいように補助してあげること」で、子供用の自転車の補助輪やプールで使うビート板や浮き輪だと思ってください。「フェイディング」はそれらの「補助を外す作業」です。
幼い子供をいきなり補助輪なしの自転車に乗せることは、ほとんどありません。なぜなら転んで頭をぶつけたりすると危険だからです。まずは自転車に慣れてもらうために、補助輪を付けて伸び伸びと遊ばせます。
そして乗りこなしているのを確認して、もう大丈夫というタイミングで補助輪を外します。不安そうな表情の子供に「大丈夫、お父さんが後ろを支えてあげるから」と言って安心させ、いつの間にか手を放しても子供は自転車をスイスイと乗り回している……そんな経験を誰でもしていると思います。
補助輪は、本来は補助輪なしで自転車に乗れるようにするために一時的に付けるものですが、ビジネスの世界では補助輪をつけたまま部下を走らせ続ける上司も多いものです。フェイディングに無頓着なんですね。新人の育成ではプロンプトは必要ですが、フェイディングなしに成長や自立はありえません。
営業職で例えれば、上司が部下の営業に同行し、部下のプレゼンがうまくいかなくなったら、上司が話を引き継いでうまくクロージングする。――これがプロンプトですね。一方、そろそろ独り立ちをさせようと考えるなら同行しない、もしくは同行しても上司は助け舟を出さずに最後まで部下にやらせ切る。――これがフェイディングです。フェイディングは親ライオンが子ライオンを崖から突き落とすという厳しいイメージです。だからこそ、子ライオンは自立していくのです。
まとめとして、大量採用をする大手企業ではなく採用数の少ない中小企業だからこそ、採用した人材に合わせて個別の育成計画が立てられるというメリットがあります。せっかく採用した人材ですから、しっかり育てて離職のリスクを減らし、組織全体の人材の底上げを実践してほしいと思います。
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この記事の著者
田中 和彦(たなか かずひこ)
株式会社プラネットファイブ代表取締役。人材コンサルタント/コンテンツプロデューサー。1958年、大分県生まれ。一橋大学社会学部卒業後、リクルートに入社し、4つの情報誌の編集長を歴任。その後、映画配給会社のプロデューサー、出版社代表取締役を経て、現在は、「企業の人材採用・教育研修・組織活性」などをテーマに、“今までに2万人以上の面接を行ってきた”人材コンサルタント兼コンテンツプロデューサーとして活躍中。新入社員研修、キャリアデザイン研修、管理職研修などの講師や講演は、年間100回以上。著書に、『課長の時間術』『課長の会話術』(日本実業出版社)、『あたりまえだけどなかなかできない42歳からのルール』(明日香出版社)、『時間に追われない39歳からの仕事術』(PHP文庫)、『仕事で眠れぬ夜に勇気をくれた言葉』(WAVE出版)など多数。
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