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人材確保は「意味的報酬」をうまく使おう!【小さくても最強の会社をつくる 人材戦略講座】

2020.01.06

中小企業にとって、優秀な人材の確保は事業継続に関わる問題です。特に景気が良くなると大企業が採用数を増やし、人材を根こそぎ持っていきます。では、大企業並みの給与水準を用意すれば、中小企業にも人材は来てくれるのでしょうか。答えは「NO」です。活路は「金銭的報酬」よりも「意味的報酬」にあります。この講座では、中小企業の人材獲得戦略について考えていきます。

高い給与を「売り」にしても、来るのはお金目当ての人材だけ

私が人材コンサルタントとして、経営者から相談されることの多いテーマの1つが「人材確保に頭を悩ませている」というものです。特に中小企業の経営者たちは、異口同音に「いい人材さえいれば、もっと業績が伸びるはず」と言います。これについては、どなたも同意見だと思います。

しかし、かつて知り合いの経営者が「大企業に負けないように思い切って大企業と同じ水準の給与を用意したのに、中途も新卒もまったく人が集まらなかった」と嘆いていました。気持ちはわかりますが、これはまったく的外れな人材戦略と言ってもいいでしょう。

志望理由はいろいろですが、給与の額を上げることでやってくるのは、そもそも高い給与目当てで会社を選ぶ人です。その多くは安定志向が強く、本来は大企業にしか興味がない人たちです。

したがって、中小企業が大企業と同じ給与水準にしても、勝負は目に見えています。最初から中小企業などを選ばない人たちに向けて、当たりのない餌をぶら下げて、糸をひたすら垂らし続けている釣り人と同じだからです。

報酬には「金銭的報酬」のほかに「意味的報酬」というものがあります。「金銭的報酬」は説明するまでもありませんが、給与や賞与などを指し、これは経営的にも限りのある報酬です。一方で「意味的報酬」は、経営者や現場のマネジメントの力によって、無尽蔵に創出が見込める報酬です。

「魚を一匹渡すより、魚の釣り方を教えよ」ということわざの教え

ここで、代表的な「意味的報酬」を4つ挙げたいと思います。

①貢献欲求を満たす

人間は自分以外の誰かに感謝されることで満たされる生き物です。「ありがとう」という感謝の言葉をもらうことは、働き手の大きな喜びになります。例えば福祉や医療、介護関係などは、身体的・精神的に負荷のかかる仕事ですが、感謝されることで満たされるとよく聞きます。

②承認欲求を満たす

人は1人では生きていけません。そこでまず、仲間を欲します。そして仲間ができると、その仲間から認められたくなります。周りから「すごい」と思われたり、称賛されたり、トップ営業マンになったり、表彰される機会が多い仕事は、承認欲求を満たしやすいと言えます。

③親和欲求を満たす

風通しがよく、自由にモノが言える企業風土も、働き手にとっては魅力です。親和欲求が満たされるのは、職場のチームワークがよく、その場にいること自体が楽しいといった状態です。また、職場に目指すべきロールモデルとなる先輩や上司がいて、その存在が刺激になるというのも、親和欲求を満たす「意味的報酬」になるかもしれません。

④成長欲求を満たす

実は、とりわけこの成長欲求を満たすことこそが「金銭的報酬」以上に重要な報酬だと考えられます。金銭の報酬は使ってしまえば何も残りませんが、自分が成長できれば、どこにいても食いっぱぐれがなくなります。「魚を一匹渡すより、魚の釣り方を教えよ」ということわざのとおりです。自分を成長させてくれる環境や上司・経営者の存在は、何よりも価値があるということです。

大企業と勝負するには「成長スピードと挑戦できる風土」を武器に

冒頭で、給与を上げることでやってくる人材は、給与を重視して働く人材だと話しました。一方、成長できる環境に共感してやってくる人材は、自己成長を重視して働いてくれる人材です。後者は新しいことや難易度の高い業務にも果敢にチャレンジしてくれますから、会社としても期待が持てます。

もうおわかりのように、中小企業の経営者が欲しい人材は当然ながら後者のはずです。

だとしたら、給与水準を上げて人材確保を考えるのではなく、社員がいかに成長できる環境をつくるかが、必要な人材を確保するための近道なのです。

大手企業は教育制度や育てる仕組みがしっかりしている分、人材が時間をかけて成長できます。中小企業はそういう制度が用意できない代わりに、若いうちから現場で権限委譲され、否が応でも多様な業務を任される環境があります。

ある中小企業ではそれを逆手に取って「20代で自分自身を急成長させたい人は、大手企業の3倍のスピードで成長できるわが社へぜひ! 会社は小さいけれど、あなたを成長させる権限や役割の大きな仕事が何よりの報酬です」といううたい文句で、大企業に内定していた学生を辞退させて、入社させた例もあります。

定年まで働く人材より、成長路線を共にできる人材を

こういう具体例を話すと「しかし、そういう人材はいずれ独立するのでは?」と心配する経営者もいそうですね。

もう一度問いますが、定年まで働きたいと思うような人材が中小企業を選ぶでしょうか。そういう人材は間違いなく定年まで働ける大企業しか見向きもしません。それに、そんな人材が会社に来ても、むしろ困りませんか。

企業と働き手が、お互いに成長曲線の高まる部分で一致できるのが中小企業の特徴だと思います。たとえ30歳になった社員が独立しても、気持ちよく送り出してあげることが大切です。

そして、その事実こそが、次の人材確保の際の動機形成や意思決定において、具体的なエピソードとして力を発揮するのです。「30歳で独立できるなんて、すごい。大企業ではまだヒヨッコなのに……」と、成長欲求の高い人の心をくすぐるはずです。

「あなたの会社が欲しいのは、どのような人材ですか?」

「その人の最も心に響くようなものは何なのでしょうか?」

「そして、あなたの会社がその人にもたらすことのできるものは何でしょうか?」

大企業と同じ発想ではなく、中小企業ならではの特徴の打ち出し方で人材戦略を考えることこそが、いい人材確保の第一歩であり、結果的に会社も働き手もwin-winの関係で成長することにつながるのです。

まずは、自社にどんな「意味的報酬」が存在するのか。そこを整理してみることからスタートしてはいかがでしょうか。

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この記事の著者

田中 和彦(たなか かずひこ)

株式会社プラネットファイブ代表取締役。人材コンサルタント/コンテンツプロデューサー。1958年、大分県生まれ。一橋大学社会学部卒業後、リクルートに入社し、4つの情報誌の編集長を歴任。その後、映画配給会社のプロデューサー、出版社代表取締役を経て、現在は、「企業の人材採用・教育研修・組織活性」などをテーマに、“今までに2万人以上の面接を行ってきた”人材コンサルタント兼コンテンツプロデューサーとして活躍中。新入社員研修、キャリアデザイン研修、管理職研修などの講師や講演は、年間100回以上。著書に、『課長の時間術』『課長の会話術』(日本実業出版社)、『あたりまえだけどなかなかできない42歳からのルール』(明日香出版社)、『時間に追われない39歳からの仕事術』(PHP文庫)、『仕事で眠れぬ夜に勇気をくれた言葉』(WAVE出版)など多数。

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