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やっぱり「助成金」は利用したほうがいい?社労士に聞く、メリット・デメリットと申請のポイント

2019.10.03

著者:篠田 恭子

「助成金」という言葉は様々なところで使われていますが、国が行っている事業者を対象とした助成金の場合、一般的には厚生労働省が管掌する「雇用関係助成金」を指します。

経済産業省が管掌する「補助金」と同様に返済不要ですが、内容や要件、申請方法などは補助金とは大きく異なります。

今回は小規模事業者が対象となる「雇用関係助成金」のメリット・デメリット、具体例や注意事項などを社会保険労務士の篠田恭子先生にうかがいました。

厚生労働省の助成金は「人の雇用に関すること」に対してもらえるもの

厚生労働省の助成金について教えてください。

厚生労働省の雇用関係助成金(以下、助成金)とは、主として雇用保険制度から支給されるものです。要件に該当し、申請するともらえるもので、融資とは異なり返済の必要はありません。

どんなことについて助成されるのですか?

雇用保険に関係するものなので「人の雇用に関すること」になります。具体的には、従業員の採用、教育・研修、制度の導入、職場環境の改善、仕事と家庭の両立支援などです。

主な助成金の例

テーマ支給の対象助成金
人材育成・能力開発パートタイマーや有期契約労働者のキャリアアップに取り組んでいるキャリアアップ助成金
従業員に対し、職務に必要な専門知識、技術を習得させる人材開発支援助成金
人材育成制度を導入・実施する人材開発支援助成金
人材育成制度を導入・実施し、継続して人材育成に取り組んでいる人材開発支援助成金
人材育成、研修有期契約労働者等に教育訓練を行う人材開発支援助成金(特別育成訓練コース)
正社員に対する研修制度の規定を実施する人材確保等支援助成金 (雇用管理制度助成 コース)
職場環境の改善働きやすい環境作りを行い、定着を支援する(重点分野関連の事業)人材確保等支援助成金 (雇用管理制度助成コース)
採用や雇用を促進高年齢者、母子家庭の母、障害者を雇い入れる特定求職者雇用開発助成金 (特定修飾困難者コース)
高齢者の活用促進のために職場環境を整備する特定求職者雇用開発助成金 (生涯現役コース)
雇用の維持・調整休業、教育訓練や出向を通じて従業員の雇用を維持する雇用調整助成金
離職を余儀なくされた労働者の再就職支援を行う労働移転支援助成金
育児と仕事の両立を支援育児休業取得者の代替要員を確保し、原職等に復帰させる両立支援等助成金 (育児休業等支援コース代替要員確保)
育児休業取得者の復帰を支援するプランを策定し、実行する両立支援等助成金 (育児休業等支援コース育児復帰支援プラン)

出典:「助成金ガイドブック(おひさま社会保険労務士事務所)」より編集部作成

助成金の内容は毎年変更があり、過去には数年で廃止になったものもありました。今年度の助成金については、厚生労働省の「事業主の方のための雇用関係助成金」というページで調べられます。

1つの事業者が複数の助成金をもらうこともできますか?

一緒にはもらえない(併給調整がかかる)助成金もありますが、それ以外の助成金は要件に該当すれば複数受給することもできます。キャリアアップ助成金のように、同じ助成金を繰り返し受給できるものもあります。

助成金のメリットは「要件を満たしていればもらえる」こと

助成金を受けるメリットを教えてください。

メリットは大きく下記の2点です。

1. 要件を満たしていればお金がもらえる

経済産業省が管掌している補助金は審査によって選抜されるので事業者間の競争になりますが、助成金の場合は必要書類が揃っていて内容が要件を満たしていればもらえますので、他社の申請状況に左右されることはありません。これが一番のメリットです。

2. 労働法の理解を深め、労働法の順守、適正な労務管理・勤怠管理ができる

申請には賃金台帳・出勤簿・労働条件通知書(雇用契約書)が求められる場合が多いです。給与計算が正しく行われているかもチェックされますので、結果的に、労働法の理解を深め、労働法の順守、適正な労務管理・勤怠管理ができるようになります。

就業規則が必要なものが多いので、10名未満の小さな会社でも就業規則を作る必要がでてくることもあります。就業規則を作ると社内ルールが明確化されるので、適正な労務管理につながると考えています。

その他に、従業員が働きやすい環境、採用に有利な制度を作ることができる、会社のイメージアップ、取組みのアピールができるなどのメリットがあります。

助成金のデメリットはありますか?

主なデメリットは下記の2点です。

1. 必ず助成金がもらえるわけではない(申請にかけた労力が無駄になることもある)

助成金は必要書類が揃っていて、内容が要件を満たしていれば原則としてもらえますが、100%ではありません。例えば、計画届を出したけれども、助成金の取組みができなかった場合、該当の従業員がやめてしまった場合、途中で従業員の解雇をした場合等で、助成金を受給できないことがあります。要件を満たしていると思っても細かいところで引っかかってしまい、もらえないこともあります。

2. なんらかの「取組み」をしなければならない

助成金をもらうためにはなんらかの「取組み」を順序よく、実施しなくてはなりません。経営者によりますが、取組み自体を「面倒」だったり「本業で稼いだ方がいい」と思われる方にはデメリットと感じられると思います。また、助成金をもらいたいがために自社に合わない制度を入れて後で苦労するケースもあります。

この他のデメリットには、受給までに時間がかかる(長い場合は支給申請してから1年以上)、書類の保管義務がある(支給決定から5年間)、実施調査に協力しなければならない、申請書類提出後に労働局からの問い合わせに対応したり、追加書類の提出を求められることもあるなどがあります。

申請が多いのは「人材開発・能力開発」に関する助成金

具体的な助成金の例を教えてください。

ここ数年、私が担当するクライアントさんから申請が多いのは人材育成・能力開発に関する下記の二つです。

1. キャリアアップ助成金

7コースありますが、その中でも「正社員化コース」を申請される事業主さんが多いです。このコースは有期契約労働者等を正規雇用労働者に転換したり、直接雇用したりした時に支給されるものです。事業所あたりの年間上限数内であれば複数回申請できます。

2. 人材開発支援助成金

労働者のキャリア形成を効果的に促進するために、職業訓練の段階的・体系的実施や人材育成制度を導入し、労働者に適用させた事業主を助成するものです。こちらも7コースあり、経費助成・賃金助成・実施助成・定額助成の4種があります。繰り返しもらえるので利用頻度が多いです。

働き方改革関連の助成金もいろいろあります。例えば、2020年4月から中小企業も「残業時間上限規制」の対象になりますが、その準備を対象とする「時間外労働等改善助成金(時間外労働上限設定コース)」が用意されています。就業規則・労使協定等の作成・変更(計画的付与制度の導入など)や労務管理用ソフトウェアの導入・更新が対象となりますので、施策の実施とあわせて検討してみてください。

また、あまり知られていないようですが、仕事と家庭の両立支援には男性の育児休業支援もあります。「両立支援等助成金(出生時両立支援コース)」では、男性従業員1人が育児休業すると最大72万円が支給されます。中小企業の場合、連続5日以上の育児休業でもらえるのがポイントです。

両立支援等助成金は対象者がいれば比較的もらいやすいですが、申請しなければもらえませんので、その他のコースも含め、自社が対象になる可能性のあるものがないか、一度チェックしてみることをおすすめします。

不正受給にはペナルティあり! 適切に活用しましょう

どんな事業者でも助成金をもらえるのですか?

いいえ、まず二つの条件を満たす必要があります。一つ目は雇用保険に加入していることです。加入していなければ対象外です。これから雇用保険に入る場合は、今から助成金の情報に触れておくと「もらいもれ」が防げると思います。

二つ目は助成金の対象になる中小企業事業主等の範囲に入っていることです。資本金と常時雇用労働者数の上限が決められていますが、具体的な数字は業種やコースによって異なります。

助成金支給決定までの手続きの流れを教えてください。

制度を導入するタイプの助成金の場合、おおまかな流れは下記のようになります。

計画の作成・提出→制度の導入→施策の実施→支給申請→支給決定

支給申請の期間は原則として、申請が可能となった日から起算して2ヶ月以内です。

助成金の申請は社労士さんにお願いするのがいいのでしょうか?

事業者で申請はできますから、事業主さんご自身が申請されるのが一番です。ただし、書類を揃えるのにかなり手間がかかりますし、要件が細かく毎年変わるので事業者が自ら申請するのは難しいところもあると思います。

例えば、キャリアアップ助成金の正社員化コース「有期→正規」転換は、契約社員を正社員にする場合にもらえる助成金ですが、正社員の求人広告を見て応募してきた人に一定期間は契約社員として働いてもらい、その後、正社員にする場合は対象外になります。

知らないで申請して不支給になる可能性があるということです。そういったことまで事業者が調べるのも大変だと思いますから、社労士に頼んでいただいた方がいいのではないでしょうか。

厚生労働省の雇用関係助成金の代理申請は社労士の独占業務ですから、代行を依頼できるのは社労士に限られます。ただし、助成金申請代行を手がけていない社労士事務所も多く、顧問先以外は引き受けない事務所も少なくありません。私自身も「顧問社労士が助成金申請をやっていないので」ということで相談を受けることもよくあります。助成金申請をされる際は、「助成金に強い」社労士事務所に相談されるのがいいと思います。

その他に助成金を活用するにあたっての注意点はありますか?

デメリットのところでも触れましたが、実地調査が入ることがあります。予告のある場合もない場合もありますが、いずれにせよ協力しないと不支給になります。また調査の結果「不正受給」とされた場合は、助成金の返還だけでなく、3年間申請できない、事業主名の公表等のペナルティが課されます。悪質と認められ詐欺罪で立件されている例もありますので、十分ご留意ください。

助成金を資金繰りのあてにしたりせずに、あくまで雇用関係の改善や向上を目的として上手に活用しましょう。

【参考リンク】

事業主の方のための雇用関係助成金(厚生労働省)

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この記事の著者

篠田 恭子(社会保険労務士)

977年埼玉県川越市生まれ。システムエンジニアとして約10年勤務。仕事・子育てをしながら、2011年社会保険労務士試験に合格。2013年1月社会保険労務士事務所を開業。2014年4月特定社会保険労務士付記。 2018年5月移転を機に事務所名を「おひさま社会保険労務士事務所」に変更。 働くすべての人が「楽しい」と思える職場づくりを応援します!を経営理念に掲げ、地域の企業を元気にするために、日々活動している。(所属)全国社会保険労務士会連合会、埼玉県社会保険労務士会、埼玉県社会保険労務士会 川越支部

おひさま社会保険労務士事務所  https://k4-da.net/

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