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勘と経験だけに頼らないぶどう栽培を!IoTによる匠の技「見える化」プロジェクト

2018.03.16

著者:弥報編集部

人間の力が及ばない自然が相手で、機械には置き換えられない手作業も多く、なんとなく「IoT」とは縁遠いように見える農業。しかしながら、韮崎市上ノ山でぶどう農家を営む岩下忠士さんと、約3年前にぶどう栽培とワイン醸造を始めた安部正彦さんは、ドローンやスマートフォンアプリを使った新しいぶどう栽培方法を、JAやIT企業、株式会社山梨フジカラー、さらには大学と連携して研究しています。

前回のインタビュー「ぶどう農家がなぜドローンを飛ばすのか?IoTを使った、産地を守るための挑戦」に引き続き、今回はぶどう栽培に情報技術を用いることによってどんな未来を思い描いているのか、そして、新しいことに挑戦し、影響の輪を広げていくためにはどうしたらいいのかを教えていただきました。

お話を伺った方:岩下忠士氏(左)、安部正彦氏(右)
お話を伺った方:岩下忠士氏(左)、安部正彦氏(右)

岩下忠士氏

建築関係の会社を経営した後、13年前からぶどう農家に。岩下農園の経営と並行し、ぶどう栽培のサポートツールの開発など、新しい栽培方法を模索している。

安部正彦氏

電機メーカー勤務を経て山梨大学でワイン科学を修了した後、2014年に園を引き継いだ比較的新しい生産者。

ぶどうの品質を左右する「摘粒作業」をスマホアプリがサポート!

ぶどう栽培において、枝剪定(えだせんてい)と並んでぶどうの品質に関わる作業に摘粒(てきりゅう)があります。ぶどうの房は、何も手を加えないと、ひと房あたり100粒くらい実がつきます。実が熟すまでにだんだんと実が下に落ちて、最終的には35粒程度になりますが、逆三角形のかたちで実が残るわけではなく、歯抜け状態になってしまいます。ぶどうの見栄えと、味や色、粒のハリを良くするために、摘粒して35粒程度にそろえることが不可欠です。

「ぶどうの房は何万という数があるので、いちいち数えていられないんです。最初に35粒を数えて、『だいたいこのくらいだな』と記憶して作業するのですが、疲れてくると早く摘み終えたいから35粒よりも多いままになってしまうんですね。そして、収穫のときにぶどうの保護袋を開けると、色づきが良くなかったりしてガッカリする。ひと房何千円で売れるはずのぶどうが、二束三文で買われるか、廃棄せざるをえない、ということもあります」(安部さん)

この問題を解決するために、2人は電子機器とアプリケーションを開発している株式会社サンコウ電子の協力を受け、スマホカメラを活用した摘粒サポートツールを開発中です。これを使うことによって、ぶどうの粒をほぼ正しくカウントできるため、品質を維持しやすくなります。

ぶどうの粒をカウントするスマートフォンアプリ。これがあれば何度も数える必要がなくるうえ、摘粒の精度が上がる
ぶどうの粒をカウントするスマートフォンアプリ。これがあれば何度も数える必要がなくなるうえ、摘粒の精度が上がる

ぶどう栽培のノウハウを「見える化&共有」することの意義

ドローンやスマートフォンを使った、枝剪定および摘粒作業のサポートツールは、これまで経験や勘に頼っていた作業を「見える化」するもの。しかしながら、ドローンやスマートフォンになじみがない農家には、自分事として捉えてもらえないという問題があります。

「ドローンで自分の畑を撮影した画像はみんな欲しいというのですが、それを自分たちで使うイメージができないのだと思います。でもこれはある程度、仕方がないこと。それよりも、栽培サポートツールができることにより、若い新規就農者を増やしたり、産地として品質のレベルを上げたりしていければいいと思います。私はぶどう栽培を始めて13年ですが、収穫は年1回だから13回しか経験していないんです。農業とはそういうもの。未来のために、栽培技術とノウハウを蓄積していきたい。そのための栽培サポートツールなんです」(岩下さん)

「画像やデータの解析にはAIを使いたいと思っていますし、ドローンはIoTの技術ですから、新しい技術を取り入れながら栽培していることを知ったら、面白そうと感じてくれる若者も増えると思うんですよね。そういう期待もあります」(安部さん)

ぶどうの産地は全国にあり、各地にぶどう栽培の匠はいます。しかし、その匠の技を持つ人が一握りでは産地全体の品質レベルは上がりません。枝剪定や摘粒などで発揮される匠の技を可視化し、ノウハウを蓄積して、若い農家に伝えていくことは、ぶどう産地の未来を考えたとき不可欠なのです。

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勇気を出して1歩踏み出せば、必ず仲間が現れる!

企業や大学と連携して開発しているぶどう栽培のサポートツールは、韮崎だけでなく全国のぶどう園に活用される可能性を秘めているものです。りんごなどの立木にも応用できるのではないか、という期待も膨らんでいます。

「ドローンなら1本の木をらせん状に回りながら撮影できますから、りんごなどの果実にも応用できるのではないかと思います。すでに研究しているところもあるかと思いますが、平地の野菜を空から撮影することで、生育具合の確認や、病気の早期発見などもできるのではないでしょうか」(岩下さん)

実際に使用されているドローン。あらかじめプログラミングしておくことで、ほぼ自動で必要な位置の写真を撮影できる
実際に使用されているドローン。あらかじめプログラミングしておくことで、ほぼ自動で必要な位置の写真を撮影できる

2人の農家の話し合いから始まった、ぶどう栽培の「見える化」に向けた取り組みは、日本の果樹栽培にも影響を与える可能性を秘めています。ただ、2人とも最初から今のような大きな話になると思っていなかったそうです。

「だけど、勇気を持って1歩踏み出したら、企業や大学、JAなどたくさんの味方が現れて、取り組みの輪が広がっていきました。最初からぶどう栽培にドローンが使える確信があったわけじゃないんです。だから、読者のみなさんも何かやりたいことがあるのなら、まず1歩踏み出していただきたいと思います。そうすれば必ず、味方が現れるはずですよ!」(岩下さん)

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ドローンの主たる機能は「空撮」で、映像制作や土木建築業界では早くから利用されてきました。それを農業に応用できないかと考えたことが、岩下さんと安部さんの取り組みのきっかけです。

日本には、各業界でこれまでに培ってきた技術の蓄積があります。それを自分の業界でも生かせないか考えてみると、新しいことを始めるときに役立つかもしれません。

■連載「中小企業のIoT活用最前線」

連載第1回「IoTって結局、何?どう使うの?スモールビジネスの活用事例を聞いた!」

連載第2回「ぶどう農家がなぜドローンを飛ばすのか?IoTを使った産地を守るための挑戦」

連載第3回「勘と経験だけに頼らないぶどう栽培を!IoTによる匠の技『見える化』プロジェクト」

この記事の著者

弥報編集部

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