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社員との信頼関係を築き上げる、効果的な「1on1面談」の始め方

2020.12.23

最近、話題の「1on1(ワンオンワン)面談」。いくら自由なテーマでざっくばらんに会話するものとはいえ、雑談で終始してしまっては、ただでさえ忙しいスモールビジネスの経営者にも社員にも意味のある面談にはなりません。面談には「目的」が必要です。今回は、効果的な1on1面談の始め方についてご説明していきます。

テーマ自由の「1on1面談」でも、目的を持って話すことが大事

最近、経営者や人事担当者に会うと「1on1(ワンオンワン)面談」のことが話題によく出てきます。

1on1面談とは月に数回、30分から1時間程度の1対1形式の面談のことで、人事考課や目標設定面談のような具体的な内容を決めずに、自由なテーマで会話をするものです。ヤフーが導入して成果を上げたことで世間の注目を集め、この1~2年で業種を問わず数多くの企業が取り入れています。

人事考課や目標設定の面談は「部下を評価する」ために不可欠なもので、それぞれ処遇の決定や能力開発の促進を目的とするため、面談形式も進め方も必要な書類などもある程度フォーマット化されています。

一方、1on1面談は自由度が高く、決まり事は一切ありません。テーマも仕事のみならずプライベートの領域にまでおよび、業務上の課題から人間関係や体調面など、あらゆる内容が話題となります。もちろん近況報告など、上司と部下の情報交換の場としても構いません。

やり方は、部下に「ちょっといい? 少し時間ある?お茶でも飲もうか?」と声を掛け「最近、どう?」と話を切り出し、部下から出てきたテーマに対してまずは聞き役に徹します。部下の感情や思いを吐き出させる「ガス抜き効果」も見込めます。

最も「なら、雑談すればいいの?」と、趣味の話に終始してしまうのはいただけません。部下も「こんな内容の面談でいいの?」と不審がるでしょう。時間を無駄に使えるほど、だれも暇ではないのですから。

スタートは雑談で構いませんし、結果的に大半の時間を雑談に費やしたとしても、上の立場の人が面談を行うのであれば、必ず「目的」を持って話すことが肝心です。

「心理的安全性」の担保が風通しのよい社風を作る

では、目的とは何なのか? 目的とは、経営者と社員の間で、モノが言いやすく風通しのよい風土を形成することです。そして、その実現のためには「自由なコミュニケーション」が必要です。

グーグル社が自社の高業績チームに共通する要素を探るために「プロジェクト・アリストテレス」を立ち上げ、数年にわたり分析してわかったのが「心理的安全性(サイコロジカル・セーフティ)」の重要性でした。

グーグル社はこの結果を元に、「チームを成功へと導く5つの鍵」について発表しています。

  1. 心理的安全性(Psychological safety)……不安や恥ずかしさを感じることなくリスクある行動を取ることができるか
  2. 信頼性(Dependability)……限りある時間を有効に使うため、互いに信頼して仕事を任せ合うことができるか
  3. 構造と明瞭さ(Structure & clarity)……チーム目標や役割分担、実行計画は明瞭であるか
  4. 仕事の意味(Meaning of work)……メンバー一人ひとりが自分に与えられた役割に対して意味を見いだすことができるか
  5. 仕事のインパクト(Impact of work)……自分の仕事が組織内や社会全体に対して影響力を持っていると感じられるか

この中で特に注目していただきたいのが、1つ目にある「心理的安全性」です。グーグル社は「『心理的安全性』は他の4つの力を支える土台であり、チームの成功に最も重要な要素である」と言っています。

この発表を聞いたときに、あまりにも当たり前すぎて多くの人々(私も)が拍子抜けしたものです。先進的な事業を展開するグーグル社ですから、もっと目新しい内容が出てくるのではないかと期待していたためです。

しかし、よくよく考えてみるとグーグル社のような時代の先頭を走る企業でさえ、成功の秘訣は心理的安全性を担保したうえで「モノが言いやすく風通しのよい職場を作る」という普遍的ものなのだと、後に「なるほど……!」という納得感がじわじわと湧いてきたものです。当たり前のものにこそ、事の本質は含まれているのです。

風通しのよい風土は、職場に強い一体感を生み出します。それによってモノが言いやすくなり、上下関係にも横の関係にも余計な気を遣うことがなくなり、意思決定と実行スピードが上がります。さらには「将来なりたい姿」を共有することで、従業員の動機付けができ、当事者意識や主体性が育っていきます。

他にも、職場におけるさまざまな問題を早期発見し、小さな芽の段階で摘み取れるようになります。全従業員のベクトルも合わせやすくなります。一体感のある組織において経営者の若いころの体験談は、部下に目標を持たせスキルアップも促すでしょう。

これらを1on1面談の目的として持つということです。

「自己開示」と「他者理解」が社員との信頼関係を築き上げる

この記事を読まれて「よし、うちの会社も1on1面談を導入しよう!」とお考えの経営者の皆さんは、ぜひ次のことに注意してください。

この手の面談に欠かせないのは面談者同士の信頼関係です。相手を尊重し、まずはどんなことでも受け入れる姿勢を持つ。自分をオープンにする(自己開示)ことで相手に安心感を与え、そのうえで相手に強い関心を持って接する(他者理解)ことが2人の間に強い絆を生みます。「自己開示」と「他者理解」の2つが信頼関係を築き上げるのです。

その信頼関係を築くための1on1面談だとも言えますが、それは「鶏が先か卵が先か」と同じようなもので答えはありません。大切なことは、社員と向き合うときには常にこの考えを根底に持っておくことです。

ドイツの社会心理学者エーリッヒ・フロムは「愛するということは、愛の対象物を知ることに他ならない」と言っています。哲学者の西田 幾太郎氏も「知は愛、愛は知」という言葉を残しました。相手について知れば知るほど愛情が湧いてきます。愛情が増せば、もっと相手のことを知りたくなります。知ることは愛することであり、私たちは知らないものを愛することはできません。

最後にワンポイントアドバイスです。中小企業の経営者であれば、必ず全従業員の名前をフルネームで覚えておきましょう。相手への関心の第一歩は名前を覚えることだからです。従業員の名前を知らずして、人を動かそうとしても決してうまくはいきません。皆さんは、従業員を「キミ」や「あなた」と呼んでいませんか?

「大丈夫!」と力強くうなずいている方も、例えば正社員のことは名前で呼び掛けても、アルバイトや派遣社員の名前は疎かにしがちです。「そこのバイトくん」や「ちょっと派遣さん」と呼び掛けていませんか?

派遣社員やアルバイトも会社の貴重な戦力です。そうした人たちこそ、しっかり名前を覚えて呼び掛けることです。それによって、組織の一員としての自覚が芽生え、モチベーションが格段に上がることがあります。「たかが名前、されど名前」であることを、心に刻んでおきたいものです。

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この記事の著者

田中 和彦(たなか かずひこ)

株式会社プラネットファイブ代表取締役。人材コンサルタント/コンテンツプロデューサー。1958年、大分県生まれ。一橋大学社会学部卒業後、リクルートに入社し、4つの情報誌の編集長を歴任。その後、映画配給会社のプロデューサー、出版社代表取締役を経て、現在は、「企業の人材採用・教育研修・組織活性」などをテーマに、“今までに2万人以上の面接を行ってきた”人材コンサルタント兼コンテンツプロデューサーとして活躍中。新入社員研修、キャリアデザイン研修、管理職研修などの講師や講演は、年間100回以上。著書に、『課長の時間術』『課長の会話術』(日本実業出版社)、『あたりまえだけどなかなかできない42歳からのルール』(明日香出版社)、『時間に追われない39歳からの仕事術』(PHP文庫)、『仕事で眠れぬ夜に勇気をくれた言葉』(WAVE出版)など多数。

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