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最も手軽な評価方法「図式評定尺度法」で人件費の最適配分を!【中小経営者の疑問に答える はじめての人事評価】

2020.04.13

著者:神田 靖美

前回の記事「なぜ社員を評価する必要があるのか?」では、中小企業の経営者が人事評価を始める前に留意しておきたい心構えや目的についてお話ししました。

今回は人事評価の具体的な方法の1つ目として、中小企業が明日から導入できるさまざまな評価方法の中で、最も手軽かつ人件費の最適配分ができるようになる「図式評定尺度法」についてお話しします。

「図式評定尺度法」はあらゆる人事評価方法の中で最も手軽

「図式評定尺度法」とは、なんとも難しい字面と響きを持った言葉ですが実際は世の中で最も普及している、あらゆる人事評価の中でも特に簡単とされる評価方法です。規模が小さく評価に時間や労力をかけられないという小さな会社や、中規模以上の会社でも、何をどれだけやったかという成果が明確につかめない社員を評価するのに適しています。

下図をご覧ください。図式評定尺度法では「……しているか」という複数の問い(評価基準書)に対し、「たいへん良い(5点)」「良い(4点)」「普通(3点)」「悪い(2点)」「たいへん悪い(1点)」というように、多くは5段階で採点した合計点をもって評価します。

図式評定尺度法(例)

評価対象評価項目採点
知識・技能1. 業務を進めるのに十分な知識・技能を持っているか
2. 問題解決に対応できる知識・技能を持っているか
5_4_3_2_1
5_4_3_2_1
判断力3. 職場が抱える問題を的確に把握しているか5_4_3_2_1






実行力20.技術の変化や職務の拡大に柔軟に対応できるか5_4_3_2_1

この評価方法には「こうしていれば5点」「こうしていれば4点」といった絶対的な採点基準はありません。評価者が5点だと思えば5点、1点だと思えば1点が付きます。

ちなみに採点基準を設けた評価方法を「評定基準尺度法」と呼びます。しかし採点基準の作り込みがあまりにも煩雑になるため、私の知る企業ではほとんど使われていません。

「評価基準書」作りでは、8つの視点を踏まえることが重要

それでは図式評定尺度法の「評価基準書」を作ってみましょう。ここで「会社にとって最適な問い」を作るために使うのが「8割賛成法」という手法です。

「8割賛成法」のやり方は、評価する仕事について詳しいメンバーを集め、少人数のAとBの2つの専門家グループを作ります。

まずAグループで「何を評価項目にするか」を議論します。評価項目とは図(図式評定尺度法)にある「知識・技能」「判断力」「実行力」などです。Aグループから出された評価項目の案に対して、Bグループの8割の人が賛成したものは採用し、そうでないものは棄却します。

評価項目が決まったら、次に質問案を作ります。仮に「知識・技能」という評価項目が採用された場合、例えば「日常業務を円滑に進めるのに必要な知識・技能を持っているか」「問題解決に十分対応できる知識・技能を持っているか」というように「……しているか」という問いに落とし込みます。これはAグループが行います。その上で、Bグループが案として挙がってきた問いに対して多数決を行い、8割以上が賛成した案だけを採用します。

こうしたプロセスを経て、通常は20問前後の問いを作ります。必ずしも各評価項目に対し1つの問いに限定する必要はなく、複数の質問があっても構いません。この合計点が社員の評価点となります。

なお社員数の少ない会社では、1つのグループで評価項目作りと採択を行ったり、各グループのメンバーの人数を増減したり、賛成の割合のハードルを下げるなどして評価基準書を作ってみましょう。

また評価項目や問いの案出しについては、経営者や人事総務担当者であれば誰でも慣れているというわけではありません。「何を評価したらいいのか見当もつかない」という人もいるでしょう。評価基準書に盛り込むべきは「会社にとって価値があるにもかかわらず、社員がやろうとしないこと」です。ここで重要なのは8つの視点を持つことです。

① 専門的な業務の遂行度

営業部員なら営業活動、経理部員なら経理事務というように、その部門の人がやらなければならない仕事に関すること

②一般的な業務の遂行度

改善提案など、部門を超えて誰もがやらなければならない仕事に関すること

③ コミュニケーション

口頭や文書で情報や意見を他人に伝える力に関すること

④努力

劣悪な条件や逆境にあっても、その克服に向けた努力に関すること

⑤自己規律

欠勤、遅刻、早退、規則違反、いじめ、勤務時間の浪費など、規律の遵守に関すること

⑥チームへの貢献

チームの目標設定、他のメンバーの相談対応、他のメンバーのサポートなど、チームの成果を上げる行動に関すること

⑦リーダーシップ

部下の目標設定、部下の指導、公平な賞罰など、部下の仕事の成果を促す行動に関すること

⑧経営管理

部門目標設定・進捗の把握、危機管理、支出抑制など、部門全体の管理に関すること

これらの視点を踏まえた評価基準書を作ることで、社員の評価において客観性や公平性を持たせることができます。

評価は必ず複数で 評価者は事前の研修でエラーを学ぼう

図式評定尺度法では評価者が1人しかいない場合、えこひいきや差別が起こりがちです。これを排除して評価に客観性を持たせるには、評価者を複数にすることが鉄則です。

例えば課長が社員を評価し、その結果を部長がチェックする。あるいは最初から部長と課長が個別に評価して、その平均点をもって最終的な評価点を出す、といった具合です。

また図式評定尺度法では評価が主観的になったり、他の要因に左右されるなど「エラー」が表れやすいのも特徴です。これについては事前の評価者研修で学んでおきましょう。どんなエラーがあると知っているだけでも、評価への影響は少なくなります。

ハロー効果

ハロー(Halo)とは、仏さまの体から発する光のことです。「後光が差す」というように、例えばある人に際立って優れた一面があるとその印象に引きずられて、すべての面で優秀に見えてしまうことです。

中心化傾向

5点満点であれば3点など、どの人にも中間付近の点数を付けてしまう傾向です。評価に関する知識が乏しい評価者に表れやすい特徴です。

寛大化傾向

どの人にも高い点数を付けてしまう傾向です。高い評価を付けることで部下がやる気になり、ひいては評価者自身の業績も上がるために起こります。フィードバックが行われる場合、特に起こりやすい傾向です。

厳格化傾向

どの人にも低い点数を付けてしまう傾向です。評価者が自分の業務遂行能力に自信を持っている場合に起こりがちです。

親近効果

同じ趣味、同じ価値観、同じ出身地・出身校など、親しみを感じる人を高く評価することです。

近時点効果

評価対象期間のすべてについて均等に見るのではなく、最近起こったことを重視して評価することです。

帰属要因

本人の努力よりも景気や為替レート、伝染病の流行など帰属要因の影響を過大に評価し、本人を高く評価しないことです。

先入観効果

「理系出身者は協調性がない」「年配者は能力がない」「キャリアウーマンは共感性が低い」など、色眼鏡をかけて見てしまうことです。

人件費の最適化を図れる、「図式評定尺度法」導入のススメ

図式評定尺度法の最大のメリットは、ズバリ「簡単なこと」です。お金も手間もかからないので中小企業はもちろん、スタートアップやベンチャー企業もすぐに導入できます。他の評価方法と同様に事前の評価者訓練は必須ですが、訓練時の留意点なども他と比べたら少なめですし、実際の評価も短時間で終わる手軽さが魅力です。

少しだけ横道にそれますが、図式評定尺度法に限らずどんな評価方法でも評価基準にするのは、社員に「こうしてほしい」という内容です。それを見た社員が「そうか、業務を進めるのに十分な知識・技能を持っていればいいのか。よし、明日からやるぞ」とポジティブに考えるか否かは、特に小さな会社の場合は経営者の日ごろの姿勢や社風が大きく影響します。導入に際しては経営者はこの点にも留意したいものです。

図式評定尺度法をうまく活用することで、仕事のできる社員には高い賃金を、仕事のできない社員には低い賃金をというように、人件費を評価に照らして最適配分できるようになります。社員の能力が把握できれば人事異動にも役立ちますし、ひいては経営の効率化にもつながります。

評価方法がわからないと今も悩んでいる経営者の皆さん、明日からぜひ導入してみてください。

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この記事の著者

神田 靖美

人事評価のコンサルティング会社・リザルト株式会社代表。中小企業を中心に賃金・評価制度の構築をサポート。著書に『スリーステップ式だから、成果主義賃金を正しく導入する本』(あさ出版 2003年)。共著に『会社の法務・総務・人事のしごと事典』(日本実業出版社 2017年)ほか。毎日新聞『経済プレミア』に『ニッポンの給料』、清話会『先見経済』に『目からウロコの賃金管理』を連載。1961年生まれ。上智大学経済学部卒業。早稲田大学大学院商学研究科MBAコース修了。趣味はベトナム旅行

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