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小宮一慶が教える、「小さな会社のマーケティング戦略」5つの実行ステップ

2020.03.03

今回は中小企業が事業戦略を実行するうえで、その中核をなす「マーケティング戦略」について説明していきます。

経営学者でマーケティングの大家であるフィリップ・コトラーは「マーケティングとは、人間や社会のニーズを見極めてそれに応えることである」(『マーケティング・マネジメント』)と述べています。

企業経営とは、お客さまのニーズを見極めて、それに応じた商品やサービスを提供することです。そのためにはマーケティング戦略の実行が欠かせません。企業が存続できるのは、お客さまに自社の商品やサービスを認めてもらってこそ、だからです。

前回の記事では「小さな会社の事業戦略 6つの策定ステップ」についてお伝えしましたが、今回は5つの実行ステップをテーマに解説していきます。

STEP 1 お客さまが求めるQPSの組み合わせを見つけ出す

私は経営者の皆さんに「一番厳しいお客さまの目線になって自社を見なければならない」と話しています。事業環境やその会社特有の事情も加味しなければなりませんが、あくまでも企業の価値はお客さまが決めるものです。お客さまに価値を見いだされない会社は存在できません。

そこで、お客さまの視点で自社を見つめ、お客さまの望むQPS(Quality,Price,Service)の組み合わせを見つけ出すことが重要です。その際にはライバル企業の研究も欠かせません。

そして、QPSを見極める目とともに「素直さ・謙虚さ」も必要です。(これについては、本稿の最後にまとめています)

STEP 2 現在の商品・サービスについての方針・目標を決める

お客さまが求めるQPSをきちんと見極めたなら、次のステップとして、現在、皆さんの会社が提供している商品・サービスの方針や目標を設定します。目標といっても売上や利益目標だけでなく、お客さまが望むQPSを踏まえて、どういう商品やサービスを提供するのかを考えます。

ここで重要なことは「徹底すること」です。徹底できない会社は、どんな新規事業を手掛けてもうまくいきません。同じような事業戦略を策定し実行しているA社とB社で業績に大きな差が出るのは「徹底しているかどうか」の差なのです。

STEP 3 これまでの商品・サービスについての方針を決める

3つ目のステップは簡単ではありません。小さな会社でも、大きな会社でも社歴が長いほど、採算の取れない事業や商品、サービスを扱い続けていることが往々にしてあります。そして、その事業を止めようとしても、なかなか止められないのです。

その理由として、すでに慣習になってしまっている場合もありますが、採算が正確に計算できていないことも少なからずあります。ピーター・ドラッカーは「(過去でも未来でもなく)今、その事業を始めるかどうか」を判断基準にするべきと言っています。

もっとも、小さな会社がその基準で判断すると、事業そのものを否定する結論になる場合もあります。そこで私は経営者の皆さんに「将来もキャッシュフローを生むかどうかで、事業の継続を判断するべき」とアドバイスしています。

まずは採算が取れるかどうかの正確な計算と把握を行います。具体的には、変動費や固定費がいくらかかっているのか、本部経費(管理部門の維持管理経費)がどれだけあるのか、などです。

もし本部経費を配賦せずに採算がプラスになるのであれば、事業はキャッシュフローを生んでいることになりますから、そのまま続けるべきです。その状況で事業を止めた場合、本部経費はかかり続けるわけですから、全社のキャッシュフローは悪化します。

問題なのは本部経費は別としても、事業単体で赤字のときです。変動費をカバーしていない、将来性が確実に見込めない、といった状況ならば、その事業は絶対に止めるべきです。経営者は止める決断と勇気も必要です。

景気の荒波にさらされる昨今、事業戦略では「小さくなる能力」を身につけておくことも大切です。そのために経営者は過度な借り入れをしないこと、固定費の比率を高めないことなどの注意が求められます。

STEP 4 これからの商品・サービス、市場についての方針を決める

小さな会社でも、新しいチャレンジはとても大切です。現在の事業が必ずしも将来を保障するものではないからです。ただし、小さな会社の場合、新しいチャレンジが屋台骨を揺るがすことになっては元も子もありません。費用やキャッシュフローを十分に検討してから行うことが重要です。

私は経営者によく「小さなリスクは恐れるな。しかし、大きなリスクは取るな」とアドバイスしています。この大小の考え方は会社の規模や財務内容によって異なります。ファイナンス力が1,000億円単位の企業なら、100億円は小さなリスクですが、売上数億円という企業からすると1,000万円は大きなリスクとなり得ます。自社のリスク分析を最優先に行いましょう。

ここで重要なのが「自己資本比率」です。資産をまかなう資金源のうち、返済不要な資金の比率は「純資産」÷「資産」で、これは資本金や利益剰余金などの総資産に対する比率のこと。それが新しい事業にチャレンジするために20%を切るようなら止める判断を考えたほうがいいでしょう。

怖いのは事業欲の強い経営者です。これは特に創業経営者に多い傾向で、リスクを取り過ぎると、当然ながら会社が潰れる確率は上がります。どんなに勝算が見込める場合も、自己資本比率を一定以下にしないという「勇気」が必要です。

逆に言えば、一定以上の範囲内でどんどん挑戦してほしい。要するに「成長と安定のバランス」を取ることが大切なのです。

STEP 5 自社のポジショニングを決める

マーケティング戦略を立案する際には、自社のポジショニングを考えることも重要です。ポジショニングとは市場における自社の位置づけです。

自社商品が市場をリードする「マーケットリーダー」、それに真っ向から挑戦する「チャレンジャー」、マーケットリーダーやチャレンジャーを刺激することなく小さな売上で追随する「フォロワー」、ニッチ(隙間)市場で優位的なシェアを持つ「ニッチャー」などです。

小さな会社はフォロワーやニッチャーとなることが多いでしょうが、それがダメなわけではありません。とにかくキャッシュフローを稼ぐことです。

先述のQPSの差別化により、小さな会社でも企業価値の向上を図ることができます。中小企業は人件費などコスト面で大手よりも優位に立てる可能性がありますし、大手よりもきめ細やかなサービスでポジションを守ったり、今以上にシェアを広げることもできます。

素直に、謙虚になってモノを見る

企業の事業戦略の策定・実行は、やるべきことを見定めてきちんと手順を踏めば、決して難しいものではありません。特にお客さま相手の商売では、マーケティングが欠かせません。

最後にもう1つ、以前の記事で新人社長が覚えておきたい経営者の心得のポイントとして「松下幸之助さんは『人が成功するために1つだけ資質が必要だとすれば、それは素直さだ』とおっしゃいます。素直とは『人の話を聞くことができる』姿勢です。また、素直さは謙虚さにもつながります」と書きました。マーケティング戦略の策定・実行に際しても、これと同じことが言えます。

マーケティング戦略では、他社の商品やサービス、あるいはQPSと、自社の商品やサービスとを客観的に比較することが重要ですが、どうしてもバイアス(偏見)がかかりがちです。

「他社製品などたいしたことがない」や、逆に「あの会社には勝てるはずがない」などバイアスをかけてしまいがちですが、他社にも良し悪しは必ずありますし、自社もそう。自社や自社製品に対する「思い入れ」は大切ですが、それが「思い込み」になったら大変です。素直に、謙虚になること、これがマーケティング戦略の成功の秘訣です。

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この記事の著者

小宮 一慶(こみや かずよし)

経営コンサルタント。株式会社小宮コンサルタンツ代表取締役会長CEO。十数社の非常勤取締役や監査役、顧問も務める。1981年京都大学法学部卒業。東京銀行に入行。1984年から2年間、米国ダートマス大学タック経営大学院に留学。MBA取得。帰国後、同行で経営戦略情報システムやM&Aに携わったのち、岡本アソシエイツ取締役に転じ、国際コンサルティングにあたる。この間、UNTAC(国連カンボジア暫定統治機構)選挙監視員として、総選挙を監視。93年には日本福祉サービス(現セントケア)企画部長として在宅介護の問題に取り組む。95年に小宮コンサルタンツを設立し、現在に至る。企業規模、業種を問わず、幅広く経営コンサルティング活動を行う一方、年百回以上の講演を行う。新聞・雑誌、テレビ等の執筆・出演も数多くこなす。経営、会計・財務、経済、金融、仕事術から人生論まで、多岐に渡るテーマの著作を発表。その著書140冊を数え、累計発行部数は360万部を超える。

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