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中小企業も4月からスタート!「時間外労働の上限規制」が適用される前に知っておくべきポイント

2020.02.27

著者:弥報編集部

監修者:篠田 恭子

働き方改革関連法の目玉である「時間外労働の上限規制」。すでに2019年4月から大企業では導入されていますが、いよいよ2020年4月1日から中小企業にも適用されます。違反した場合は罰則の対象となるので注意が必要です。

そこで「時間外労働の上限規制」法令改正のポイントと、スモールビジネス事業者が対応すべき注意点について社会保険労務士の篠田恭子先生にお聞きしました。

「時間外労働の上限規制」とは?違反すれば罰則も!

2020年4月から中小企業にも適用される「時間外労働の上限規制」に関する法令改正のポイントを教えてください。

今までは時間外労働の上限は法律ではなく、大臣告示によって基準が定められていました。今回の改正により労働基準法で定められ、違反した場合の罰則も規定されています。さらに、今までは上限がなかった「特別条項による時間外労働」に上限が定められました。

具体的な改正内容は下記になります。

時間外労働(休日労働は含まず)の上限

原則として、月45時間・年360時間。超過できるのは臨時的な特別の事情がある場合のみ

臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合も

・時間外労働……年720時間以内

・時間外労働+休日労働……月100時間未満、2~6か月平均80時間以内

原則である月45時間を超えることができるのは、年6か月まで
法違反の有無は「所定外労働時間」ではなく「法定外労働時間」の超過時間で判断される
出典:時間外労働の上限規制 わかりやすい解説(厚生労働省)

違反した場合の罰則は、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金です。罰則が科されるのは「使用者」です。「使用者」とは「事業主または事業の経営担当者」などとされており、経営者だけでなく部長や所長、店長なども入ります。

上限規制の施行にあたって、経過措置が設けられていると聞きましたが、実際どういうものなのでしょうか?

この上限規制が対象になるのは2020年4月1日以降の期間のみを定めた36協定とされています。例えば、2019年の10月1日から1年間の36協定を届け出ている場合、2020年9月30日まではそれが適用になります。そのため、2020年4月1日からの協定を新たに結び直す必要はありません。最長で2021年3月31日までは上限規制に適合しない36協定も有効だという意味での経過措置になります。

また、経過措置以外にも上限規制の対象にならない場合があります。どんなものがあるかと言うと、新技術・新商品開発等の研究開発業務は上限規制の適用から除外され、建設事業・自動車運転業務等の特定の事業・業務では上限規制が5年間(※)猶予されます。詳しくは厚生労働省のホームページを参照してください。

適用除外業務や猶予期間においても限度時間を勘案することが望ましいとされています。また、労働者の健康・福祉を確保するための措置が求められており、一部は罰則付きで義務付けられています。「適用外だから長時間労働させても問題ない」「対応までに期間の余裕がある」などと思わずに、できるだけ早急に上限時間内に収まるように対策を講じてください。

※大企業への適用が開始された2019年4月1日から5年間なので、2024年3月31日までになります。

上限規制に則った36協定の締結と届出が必要

スモールビジネス事業者が今回の対応にあたって注意するべき点を教えてください。

まず、時間外労働について正しく認識することです。「うちの会社は残業がない」とおっしゃる経営者によく話を聞いてみると、実際には時間外労働が発生していることがほとんどでした。自社の制度や状況を労働基準法と正しく照らし合わせて、時間外労働を把握してください。

【参考記事】
うちの会社は残業がないから無関係…はNG!社労士に聞く「中小企業の労働時間把握義務化」

ちなみに、時間外労働の上限規制の対象は社員だけでなく、パート・アルバイトも含まれます。派遣労働者に関しては派遣元企業の36協定が適用されますが、36協定で定めた上限を超えて労働させた場合には派遣先企業が法違反となりますので、派遣を受けている企業は注意が必要です。

また、従業員に時間外労働をさせるには36協定の締結と届け出が必須です。これをせずに時間外労働をさせた場合は、その時点で労働基準法第32条違反となり、6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金の対象となります。必ず締結して届け出てください。

届け出を行う際は、2020年4月1日以降のみを対象期間とする36協定は新様式で提出する必要があります。上限規制を遵守する内容で36協定を締結する場合には、それ以前の期間を含む場合も新様式で届け出ることができます。

新様式で届け出る際に協定を結ぶ必要がある事項は、下記の表の通りです。

出典:時間外労働の上限規制 わかりやすい解説(厚生労働省)

臨時的に残業しなければならない場合の措置もあり

月45時間・年360時間を超過する場合は、どのように対応すればよいでしょうか?

臨時的な特別の事情があり月45時間・年360時間を超過する場合は、さらにいくつかの項目について協定を結ぶことが必要です。

その際に特に注意していただきたいのは下記の3点です。

1. 限度時間を超えて時間外労働をさせる場合の割増賃金率

法定の割増率(25%)を超える割増率となるよう努める必要がある

2. 限度時間を超えて労働させる場合における手続き

事前に申し入れるなど、手続き方法を決めて記載する必要がある

3. 限度時間を超えて労働させる労働者に対する健康および福祉を確保するための措置

下記より番号を選んで、具体的な内容についても記載する必要がある(※特別条項付36協定届出用紙記載心得より転載)
① 労働時間が一定時間を超えた労働者に医師による面接指導を実施すること
② 労働基準法第37条第4項に規定する時刻の間において労働させる回数を1箇月について一定回数以内とすること
③ 終業から始業までに一定時間以上の継続した休息時間を確保すること
④ 労働者の勤務状況及びその健康状態に応じて、代償休日又は特別な休暇を付与すること
⑤ 労働者の勤務状況及びその健康状態に応じて、健康診断を実施すること
⑥ 年次有給休暇についてまとまった日数連続して取得することを含めてその取得を促進すること
⑦ 心とからだの健康問題についての相談窓口を設置すること
⑧ 労働者の勤務状況及びその健康状態に配慮し、必要な場合には適切な部署に配置転換をすること

つまり、限度時間を超過できるのは臨時的例外の場合のみですね?

はい、そうです。「36協定の特別条項を結べば残業させられるんだったらそうしたい」という問い合わせをよくいただきますが、臨時的な特別の事情がなければ限度時間(月45時間・年360時間)を超えることはできず、単に恒常的に月45時間を超えている場合は特別条項の対象外です。

36協定の届出は厚生労働省の作成支援ツールを使ってオンラインで行うことも可能です。社労士に依頼していただくことももちろんできます。社労士は、協定内容や過半数代表者選出のアドバイスも行えますので、ぜひご相談ください。

最も大切なのは業務効率化!残業を減らし働きやすい環境へ

では、時間外労働を正確に把握するためにはどうすればよいでしょうか?

まず、従業員が実際に働いている時間を正確に知る必要があります。労働時間の適正な把握は、2019年4月から労働安全衛生法で義務化されているので、まだ対応していない事業者は早急に対応してください。

出典:労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン(厚生労働省)

その上で、時間外労働の上限規制を遵守するために、使用者は上限を超えないように管理する必要があります。上限時間が規定されたのは時間外労働時間のみで休日労働は対象ではありませんが、月の時間外労働と休日労働の合計は月100時間未満と制限されていますので、休日労働時間についても正確に把握して管理してください。

しかしながら、残り残業可能時間の計算を正確にやることよりも、そこまで残業させずに済むように業務の効率化などを図る方が大切です。従業員が心身ともに健康で継続的に働いてくれることが経営者にとっての利益にもなります。無理と諦めるのではなく、「どうしたらできるか」を考えて対策を講じましょう。

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【関連サイト】
・働き方改革への取り組みガイド(弥生株式会社)

・弥生のあんしん保守サポート(業務ヘルプデスク)
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この記事の著者

弥報編集部

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この記事の監修者

篠田 恭子(社会保険労務士)

1977年埼玉県川越市生まれ。システムエンジニアとして約10年勤務。仕事・子育てをしながら、2011年社会保険労務士試験に合格。2013年1月社会保険労務士事務所を開業。2014年4月特定社会保険労務士付記。 2018年5月移転を機に事務所名を「おひさま社会保険労務士事務所」に変更。 働くすべての人が「楽しい」と思える職場づくりを応援します!を経営理念に掲げ、地域の企業を元気にするために、日々活動している。(所属)全国社会保険労務士会連合会、埼玉県社会保険労務士会、埼玉県社会保険労務士会 川越支部

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