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顧客を5つに分けて受注単価1.2倍!今ある顧客リストで始める「クロスセル」設計

2026.10.08

著者:弥報編集部

監修者:安藤 優

既存顧客からの売上を伸ばすための方法の1つに「クロスセル」があります。クロスセルとは、現在購入している商品やサービスに関連する別の商品を追加で提案する手法です。しかし、売り込みと受け取られ、なかなか売上につながらないと悩む企業も多いのではないでしょうか。

この記事では、既存顧客への追加提案を仕組み化する「クロスセル設計」の方法を、顧客1人当たりの受注単価を約1.2倍にした事例とともに、日本生産性本部 主任経営コンサルタントの安藤さんに伺いました。


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なぜ既存顧客からの売上が伸びないのか。追加提案が失敗する共通点

既存顧客からの売上が伸びない場合、どこに問題があるのでしょうか。

よくあるのが、一度商品を販売すると、その後の販売活動を終えてしまうケースです。これでは、継続購入を促すことはできても、別の商品を提案する機会を逃してしまい、売上は伸びにくくなります。

追加提案をしようとしても売上につながらない場合、原因は何でしょうか。

顧客の潜在ニーズを捉えられていないことが、大きな原因です。現在購入している商品には、顧客が抱えていた何らかの課題やニーズが反映されています。一方で、顧客には「こうありたい」という、まだ表面化していないニーズもあります。こうしたニーズを把握できていなければ、新たな商品を提案してもニーズに合わず「売り込み」と受け取られてしまいます。

顧客ごとの特性を把握するには、顧客リストが必要です。しかし、リストがあっても、十分に活用できていない企業は少なくありません。顧客情報が整理されていなければ、次に何を提案すればよいのかわかりません。その結果、自社が売りたい商品を全員に一律で案内してしまいがちです。

だれに、何を提案するかが大切なのですね。追加提案のタイミングや方法に関する課題はありますか。

購入直後なのか、使い切るころなのか、提案を受け入れやすいタイミングは、商品や顧客の特性によって異なるため、検討が必要です。また、電話、LINEやメール、商品への同封など、案内方法も顧客に合わせて選ぶ必要があります。こうしたタイミングやチャネルが決まっていなければ、場当たり的な案内になってしまいます。

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クロスセルとは?アップセルとの違いと共通点

既存顧客からの売上を伸ばす方法として「クロスセル」がありますが、具体的にどのような方法か教えてください。

クロスセルとは、商品を購入した顧客に、関連する別の商品を提案することです。例えば、育毛剤を購入された方にシャンプーやコンディショナーを提案したり、化粧水を購入された方に美容液やクリームなどを紹介したりする方法です。

似た言葉に「アップセル」がありますが、どのように違うのでしょうか。

アップセルは、現在購入していただいている商品の上位グレードや大容量の商品、上位プランなどを提案することです。「現在購入している商品より上位の商品を提案する」のがアップセル、「関連する別の商品を追加で提案する」のがクロスセルです。

クロスセルもアップセルも、成功すれば既存顧客1人当たりの売上向上につながります。新規顧客の獲得には広告などのコストがかかるため、既存顧客からの売上を伸ばすことは、収益性を高める方法の1つになります。

クロスセルとアップセルでは、どちらが取り組みやすいですか。

提案する企業側から見ると、クロスセルのほうがハードルは高くなります。クロスセルは、現在購入している商品とは別に追加の支出を求めることになるため、顧客にとって購入のハードルが高くなりやすいからです。

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受注単価が1.2倍に!クロスセルの成功事例

実際にクロスセルの取り組みで成果が出た事例をご紹介ください。

健康食品を扱う企業の事例です。社員は十数名、商品は10〜20点ほどあり、顧客リスト自体はきちんと管理されていました。しかし以前は、商品案内をする際に顧客全員に同じ内容を一斉に提案しており、既存顧客への追加提案が成果につながりにくくなっていました。顧客情報はあっても、それを顧客ごとの提案に活用できていなかったのです。

取り組みの内容を具体的に教えてください。

最初に取り組んだのが、顧客のグループ分けです。年齢や性別、わかる範囲で所得などの属性に加え、この企業では商品の購入動機も収集していました。そこで、これらの情報を基に顧客リストを5つほどのグループに分類しました。

さらに、グループごとに「どの商品を、どのくらいの頻度で購入しているのか」を整理しました。そのうえで、「次に、どのタイミングで、どの商品を提案できそうか」という仮説を立てました。

最後に、その仮説を基にLINEの配信を設計しました。具体的には、条件に応じて配信先や内容を分ける「セグメント配信」と、顧客の行動をきっかけに配信する「ステップ配信」です。この企業では、既存の商品を使い切るころに、顧客グループに合わせた案内が自動で届く仕組みを作りました。

その結果、どのような変化がありましたか。

複数の商品を購入する顧客の割合が、ほぼゼロから2割に増え、1〜2年ほどで顧客1人当たりの受注単価は約1.2倍になりました。

既存顧客全員にアプローチをしたくとも、中小企業ではリソースが足りません。顧客を絞り込み、ニーズに合った提案を行ったことが、成果につながったと考えられます。

受注単価の増加以外に成果はありましたか。

顧客とのコミュニケーションの量と質が上がり、信頼関係の構築にもつながりました。その結果、購入済み商品の解約や顧客の離脱も減っています。

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クロスセルの具体的な設計方法

事例のようにクロスセルを仕組みとして機能させるには、何から始めればよいのでしょうか。

まずは、今ある顧客リストを整理するところから始めましょう。ポイントは「だれが・何を・いつ・いくらで買っているのか」を把握することです。これらを把握すれば「どの顧客に、どの商品を、どのタイミングで提案するか」という仮説を立てられます。

顧客リストを整理するとき、具体的には何を見ればよいのでしょうか。

活用しやすい方法として、RFM分析があります。RFM分析とは、最終購入日(Recency)、購入頻度(Frequency)、購入金額(Monetary)の3つの指標から、顧客を分類する方法です。

すべての顧客にクロスセルを提案するには、多くのリソースが必要です。効率よく進めるためにも、対象を絞り込みましょう。例えば、「1年以内に購入している」「月1回程度購入している」「一定以上の金額を購入している」といった条件で、優先してアプローチする顧客を絞り込みます。

特に最初は、最も売れている「エース商品」を起点にするのがおすすめです。十分な母数を確保できるため、クロスセルの仮説を立てたり、効果を検証したりしやすくなります。

ただし、最終購入から時間が空いてしまっている休眠顧客には、クロスセルの提案はかえって敬遠されやすいため注意が必要です。休眠顧客には、新しい商品を提案するよりも、以前購入していた商品を再提案する「掘り起こし」のほうが適しています。

優先する顧客を絞った後は、どのような情報を見ればよいのでしょうか。

顧客が購入している商品の種類を洗い出してみましょう。併売されている商品を調べると、顧客に共通するニーズや、組み合わせて購入されやすい商品が見えてきます。

また、自社商品に限らず、他社商品の利用状況を確認することも有効です。例えば、私が過去に行った調査では、健康食品の場合、自社の商品を購入している顧客が、他社の商品も利用しているケースが多く見られました。そこから顧客のニーズを把握し、それを満たせる自社商品があれば、提案につなげることもできます。

顧客のニーズを把握する具体的な方法を教えてください。

コールセンターなど、顧客と会話する機会がある場合は、悩みや要望、他社商品の利用状況などを聞き取ることができます。電話以外の方法であれば、アンケートを商品に同封する、メールを送るなどの方法で顧客の声を集めましょう。集めた情報は顧客リストなどに反映し、分析しやすい形で整理します。

顧客のニーズを整理できたら、実際の提案はどのように設計すればよいのでしょうか。

「この商品を購入した顧客には、次にどの商品を、いつ、どのチャネル(LINE・メール・同梱物・電話など)で案内するか」というルールを決めていきます。

大切なのは、商品を起点にするのではなく、利用シーンや顧客の課題を起点に考えることです。「この商品を売りたい」ではなく、「このような場面で困っているなら、この商品も選択肢になります」という組み立てにすると、提案を受け入れてもらいやすくなります。

最初から完璧な仕組みを作る必要はありません。仮説を立てて提案し、反応を見ながら内容やタイミングを修正していきましょう。

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クロスセル設計のポイントと失敗例

クロスセルが成功しやすいポイントを教えてください。

クロスセルで特に重要なのが、提案するタイミングです。購入直後や商品が届いたとき、使い切るころなど、顧客の状況に合わせてタイミングを決めます。季節の変わり目やライフイベント、商品の更新時期などもきっかけになります。

ただし、企業側の都合でタイミングを決めるのではなく「なぜ今、この提案をするのか」を顧客の視点から考えることが大切です。

他に、クロスセルにつながりやすい顧客との接点はありますか。

問い合わせや相談をいただいたときこそ、提案の大きなチャンスです。困っていることに親身に向き合い、その解決に別の商品やサービスが役立つのであれば案内してみましょう。顧客一人ひとりに向き合いやすい中小企業だからこそ、こうした接点を活かした提案がしやすいでしょう。

売り込み感を出さずに提案するには、どのような伝え方をすればよいのでしょうか。

まずは、全員への一斉案内ではなく、購入履歴などを踏まえて個別に提案することです。例えば「○○をお使いの方へ」といった形で、自分に関係のある情報だとわかるようにすると、内容を見てもらいやすくなります。

また、既存商品の使い方や活用方法などのお役立ち情報を伝え、その流れで「一緒に使うと便利な商品」を紹介する方法も有効です。さらに「この2つを一緒に購入する方が多い」といった実際の購入傾向を伝える方法もあります。

大切なのは商品を売ることを前面に出すのではなく、役立つ情報の中で、選択肢の1つとして提示することです。利便性や満足度を考えた提案であれば、押しつけではなく、自然な案内として受け取ってもらいやすくなります。

逆に、クロスセルの提案でやってはいけないことはありますか。

最も避けたいのは、顧客のニーズを無視して売り込みすぎることです。売上を増やすことだけを目的に、ニーズに合わない商品を何度も案内すると、これまで築いてきた信頼関係を損なう可能性があります。

次に、値引きに頼りすぎることにも注意が必要です。セット割やお試し値引きは購入のきっかけになりますが、利益を圧迫するうえ、後から定価で購入していただく際のハードルにもなりかねません。

さらに、顧客の違いを考慮せず、全員に同じ内容を一斉に配信するのも失敗の一因です。「自分に関係がある」と感じてもらえなければ、どれだけ役立つ内容でも読まれにくくなります。加えて、提案後の効果を測定せずに新しい提案を重ねると、何が成果につながったのかわからないまま、施策だけが増えてしまいます。

クロスセルは、短期的に売上を増やすことだけを目的にするのではなく、顧客にとって必要な選択肢を提示することが基本です。

売る商品が1つしかない企業は、クロスセルに取り組めないのでしょうか。

そんなことはありません。自社のサービスは1つしかないと考えている企業でも、顧客のニーズを把握することで、新しいサービスや上位プランを作るきっかけを見つけられます。

他業種から学ぶのも1つの方法です。実際に自分が顧客になり、他社がどのようなタイミングで、どのような提案をしているのかを体験してみると、自社で提供できるサービスのヒントが見つかるかもしれません。

中小企業は、まず何から手をつければよいのでしょうか。

まずは、最も売れている「エース商品」を起点に、今ある顧客リストを「だれが・何を・いつ・いくらで買っているのか」という視点で整理することです。最初から難しい分析をする必要はありません。

もし自社のサービスが1つしかない場合は、顧客に「他に困っていることはないか」と聞くところから始めてみてください。他業種のサービスを実際に顧客として体験してみるのも、提案のヒントを得る近道になります。

クロスセルは、商品を売り込む技術ではなく、顧客の「次の困りごと」を知り、必要な提案につなげる仕組みです。単価の向上はその結果であり、顧客との関係を深めることは、既存顧客の離脱防止にもつながります。


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この記事の著者

弥報編集部

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この記事の監修者

安藤 優(公益財団法人日本生産性本部 コンサルティング部 主任経営コンサルタント)

大学卒業後、広告・製薬・化粧品業界でEC・通販事業に約12年間従事。EC統括部長として戦略立案からマーケティング、IT、財務、組織開発まで広く経験。その後、IPビジネスを営む企業の実店舗事業で戦略ディレクターを務め、事業戦略立案・実行、DX推進などを牽引した。
現在は経営コンサルタントとして、企業の診断指導や人材育成に従事。実務経験に基づいた多角的な視点から、事業成長の実行支援を強みとする。

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