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日本のおもてなしは過剰?価格に見合ったサービスの判断方法を和食店の女将が解説
2022.12.08
著者:弥報編集部
監修者:小保下 グミ
日本といえば、おもてなしの国として有名である一方で、そのサービス価格が安すぎるがゆえに疲弊しながら働いている人も少なくありません。値段以上のサービスを提供しようとすると従業員は疲弊し、人件費などのコストが増加するなど、健全な経営から遠のいてしまうため、価格に見合ったサービスを提供するべきです。しかし、これといった基準がないだけに、どれぐらいのサービスレベルが妥当なのか、その判断は難しいものです。
そこで今回は「自社の価格に見合ったサービスをどう判断するか」について、和食店の女将が解説します。サービスに力を入れてきたけど、ちょっと頑張りすぎているかな?と思う方は参考にしてみてください。
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目次
「価格に見合ったサービス」がわかりにくい3つの要因
「価格に見合ったサービス」と言われても、いったい何を基準に考えればよいのだろうと思われるのではないでしょうか。判断を難しくする要因は3つあります。1つ目の要因は、お客さまによって金銭感覚が違うことが挙げられます。
例えば、当店は平均単価が約1,000円の蕎麦を提供しているのですが、日ごろからこの価格以上の店で食事をしている消費者にとっては、当店は日常のお腹を満たす普段使いの店です。したがって提供されるサービスにもさほど大きな期待はしていません。一方で、普段はコンビニやスーパーで買ったお惣菜などしか食べていない消費者にとっては、当店は「たまの贅沢ができる店」という位置付けとなります。期待値も高く、前者と同じサービスを提供しても「これだけ払ってこんなものなの?」と不足に感じる人が出てくる、ということです。
提供価格が同じでも、金銭感覚が違えば求めるサービスのレベルも異なってくるのが、価格に見合ったサービスか否かの判断を難しくさせる1つの要因となります。
2つ目の要因は、需要と供給の関係です。
実のところ人口当たりの飲食店の数は世界的に見てもトップクラス。他店との差別化が難しいため、サービスや人間力で差をつけようと考える経営者も多いのです。結果的にスマイルはおろか、ホテルのようなクオリティの高いサービスがタダ同然で提供されているのが実情です。
逆に地方の観光地や行列の絶えない飲食店など、需要が供給を大きく上回るような店では、都会の密集地ほどサービスに力を入れていないこともあります。先日、家族である温泉地に一泊旅行へ出かけたのですが、そこで入った飲食店はお世辞にも愛想があるとはいえませんでした。しかし周辺ではそのお店しか選択肢がなかったため、開いているだけで助かったのも事実です。
正直なところ、このようなお店は黙っていてもある程度の来客が見込めるので、過度なおもてなしは不要なのかもしれません。ですが、手厚いおもてなしに慣れてしまったお客さまの中-には、必要最低限のサービスに不満を感じる人もいるでしょう。どのあたりのラインを基準にするのか、その判断はなんとも難しいのです。
3つ目の要因は、お客さまに提供する価格は高額な一方で、利益がわずかであることです。
一般的にフレンチレストランは高価格帯であることが多いのですが、利益率はそれほど高くないと言われています。スタッフの賃金も、大手チェーンやフレンチ以外の飲食店とほとんど変わりません。平均単価が高いからといって、儲けが大きいとは限らない典型的な例です。
では、こうしたお店に見合ったサービスレベルとは一体どのようなものなのでしょうか。仮に売価に合わせるとしたら、高価格帯に見合ったハイクオリティなサービスをするべきです。一方で少ない利益に合わせるとなると、従業員に支払える給与もそれほど多くないはずですから、彼らに質の高いサービスを求めるのは酷かもしれません。
現状は売価に合わせてハイレベルなサービスを提供するお店が多いですが、給与と職務のバランスが取れないと離職につながるリスクもあります。経営者としては、悩ましい問題です。
自社にとって最適な「価格に見合ったサービス」を判断するには?
このように「この価格ならこんなサービスをすべきだ」というはっきりした定義がない状況において、自店にとってどのサービスが最適かを判断するにはどうしたらいいのでしょうか。これは、1人でじっと考えていてもなかなか答えは出てきません。
おすすめしたいのは、いろいろな店に足を運んで価格とサービスを相対的に比較すること。例えば1人5,000円のランチで気持ちの良いサービスを受けた翌週に、別の店の800円のランチでも同様のサービスを受けたなら、後者のおもてなしは少し過剰気味なのかもしれない、と見極めていく方法です。
このときに心がけたいのは「接客とはこうあるべきだ」「サービスはこうでなくてはいけない」といった固定観念をなるべく排除してのぞむことです。凝り固まったイメージを持ったままだと「5,000円だろうと800円だろうと、可能な限り最高のおもてなしをするべきだ」というふうな極端な答えに行き着いてしまったり、「私が顧客ならこれぐらい払う」などと、自分に都合の良い解釈をしてしまう可能性があるからです。
比較を繰り返すうちに、安くて忙しい店だからこのぐらいが適切だな、ちょっと割高だけど観光地で人が集まるからこんなもんだろうというふうに、価格だけでなく立地や需要と供給、顧客層などの諸条件も踏まえたうえで、そのサービスが価格に対して妥当かどうかを総合的に判断できるようになります。
ここまでできれば、はたして自店のサービスは価格に対して不足なのか過剰なのか、過剰であれば「この値段でどこまでならやれるか」といった判断もつくようになってきます。逆に「この値段でこんなことまでやっていられない」といった判断も、適切に行えるようになるでしょう。まずはぜひ、いろんなお店に足を運んで価格とサービスを比べてみてください。
ちなみに私が女将になった当初は、緊張と責任感から高級旅館のように、ていねいでかしこまった対応をするように心がけていました。しかし来店される大半のお客さまの目的は、日常使い。安い店ではありませんが、決して高級店というわけでもありません。ですので、現在は「かしこまりました」のような硬い口調はやめ、ざっくばらんな雰囲気で接客にあたっています。一方でお冷や配膳などのセルフサービスは今後も行わなず、可能な限り人の手を介したおもてなしを続ける方針です。
利益率が低いならそもそもビジネスモデルを見直すべき
比較だけでは妥当なサービスレベルの判断が難しいのが、先に挙げたフレンチレストランの例のような、高価格帯なのにも関わらず利益率が低いパターンです。
こうした店舗の場合、サービスレベルを落とすと顧客離れにつながります。お客さまは高い金額を払って質の高いサービスを受けに来ているのですから、当然といえば当然です。だからといって給与の額に比べて仕事内容が大変な場合、従業員の離職につながってしまいます。この場合、そもそものビジネスモデルを見直すべきなのです。
例えば、ITやロボットを駆使して雑務を減らすことができれば、従業員の負担が軽減されます。「IT化」「ロボット導入」というと、人の温かみがなくなりサービス満足度が下がるという声を聞きますが、まったくの逆です。人でなくてもよい仕事を機械に任せ、おもてなしに集中できる環境を作ることが、IT化、ロボット導入の本来の目的であるべきなのです。うまく活用し、従業員がおもてなし以外の業務に疲弊しないよう工夫するとよいと思います。
また、物販のような利益率の高いサービスを追加したり、適切な値上げをするなどして利益率を上げる試みを行なうのも1つの方法です。利益が上がれば給与を引き上げることができます。そうすれば、従業員も質の高いサービスの提供に納得して取り組むことができるでしょう。よろしければ弥報Online「増税やコスト増を乗り越えてきた和食店の女将が伝えたい、メニュー価格を値上げして良かった3つの理由」もご参照ください。
顧客からサービスを褒められると、より良くしなければとつい張り切ってしまうこともあると思います。しかし過度なサービスは、消費者に安い買い物で高いもてなしを求める風潮を作ってしまいかねず、ひいては自ら事業存続のハードルを上げてしまうことにもつながりかねません。
現状のサービスが本当に自店の価格帯やスタッフの給与に見合ったものであるかを慎重に検討し、ときに「これ以上はできない」と割り切る冷静さが必要と考えてください。
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この記事の著者
弥報編集部
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小保下 グミ(老舗和食店の女将)
老舗和食店の女将。夫が後を継いだ家業で経営全般に関わる。現在は休業中。
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