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5人の専門家に聞く!新しい時代、経営者はどう「変化」していくべきか

2021.03.29

急激に変化していく世の中。会社経営も、経営者自身も今後「変化」が求められる時代が来ています。

「経理の日」スペシャルコンテンツ「現役経理担当者がぶっちゃけトーク!テレワークできてる?経理の未来は?」では経理担当者やバックオフィス担当者に向けたコンテンツをお届けしましたが、経理と経営は表裏一体。こちらの記事は個人事業主や中小企業の経営者など、スモールビジネス事業者の方々に向けた「経営」にまつわる企画です。

会計事務所、経営コンサルタント、税理士、社労士、中小企業診断士の5人の方々が特別寄稿!「新しい時代に経営者が持つべき考え方とは?」をテーマに、時代の変化に適応し、会社の発展・永続にはどのような考え方を持つべきか、そして経営者として攻めるべきところ、守るべきところについて専門家の視点で解説していただきました。

会計事務所の視点:これからの時代、「高収益高賃金経営」こそ、中小企業の生き残る道 


税理士法人古田土会計 代表 古田圡 満(こだと みつる)

監査法人を経て、1983年1月独立。現在265名の税理士法人古田土会計の代表社員。2020年度の古田土会計グループは年商18億7,000万円、経常利益2億6,000万円、自己資本比率90%の優良企業。開業以来37年間連続増収。営業なしの口コミだけで年間150件以上の新規開拓を続けている。2,450社を超える顧客有し、「日本中の中小企業を元気にする」を使命感とし活躍中。


経営は環境適応業といわれていますが、2020年以降の新型コロナウイルス感染症の影響により状況は大きく変化しました。今までは比較的経済が安定していたため、現商品を現市場で営業していれば成長できると思っていた経営者がほとんどではないでしょうか。

また税金を払うことを惜しみ、節税にお金を使っていたため内部留保が少なく、自己資本比率が15%以下の会社がなんと多いことか。収益性が低く資金が少ない会社は、一時的に新型コロナウイルス融資で資金調達しても、赤字の補填に消え返済ができなくなり、やがて倒産します。

飲食業を例にすると、経営戦略として現商品を店に食事をしにきてくれる現市場のお客さまのみで営業するのではなく、現商品でテイクアウトや出前、通信販売などの新市場を視野にいれて取り組んでいれば、大きな売上減少にはならなかったはずです。これまでのことを悔やむのではなく、今からでもすぐに取り組むすばやい決断が重要です。

財務についても、今後経営者は勉強が必要なことが分かりました。2021年2月8日の日本経済新聞によると、今回の新型コロナウイルス関連融資の据置期間を1年以内に設定した企業が66%、3年以内が96%と驚くべき短さとなっています。経営者が財務をわかっていれば措置期間を3年超、返済期間は15年、短くても13年にすべきでした。

新型コロナウイルスによる大きな赤字を、3~5年で返済できるはずがありません。経営者が今後持つべき新しい考え方は、経営の実学をしっかり勉強することです。収益性は損益分岐比率を80%~90%の間にし、経営の「まさか」に備え、自己資本比率を高め資金を十分に持つ経営をすることです。これからの時代、高収益高賃金経営こそ中小企業の生き残る道です。

社長の仕事は社員のモチベーションを高めて、社員が頑張れば利益が出るような新商品やビジネスモデルをつくることです。現市場は競争相手が増えるし、商品は時間の経過とともに陳腐化していきます。だからこそ、社長は常に前向きに攻めていかなければなりません。

しかし今回のコロナ禍による大幅な売上減少については、縮小を実行しなければならないケースもあります。不採算の事業の撤退、店舗の閉鎖などは「守り」ではなく「攻め」の経営です。限られた経営資源を重点主義により再構築するのが経営です。守りは財務体質の改善と、人財教育です。

財務体質はバランスシートの左側の科目を見直し、総資産を圧縮して借入金返済を進め、今後の返済額を抑え、利益が減少してもキャッシュが回るキャッシュフロー経営を心がけること。また会社の財産は人ですから、社長の経営方針を業績中心主義から社員と家族を大切にする経営に変えることです。

人が幸せになるために、会社があります。今までの経営は人件費をコストと考え、少なければ良い経営だといわれてきましたが、これからは人を大切にする経営が求められます。そのような経営を行うことで自ずと全社員一丸体制となり、社員が安心と安定を感じられる会社にできます。その姿勢こそが、長期的に会社を守ることになります。

経営コンサルタントの視点:経営者がまず見極めたいのは、それが「早く来た未来」なのかどうか


株式会社小宮コンサルタンツ 代表取締役会長CEO 小宮 一慶

企業規模、業種を問わず、幅広く経営コンサルティング活動を行う一方、年百回以上の講演を行う。新聞・雑誌、テレビ等の執筆・出演も数多くこなす。経営、会計・財務、経済、金融、仕事術から人生論まで、多岐にわたるテーマの著書は140冊を数え、累計発行部数は360万部を超える。


今の時代の経営に必要なのは、「ミッション」と「ビジョン」です。ミッションとは会社の「使命」で、これは会社の存在意義となる、ぶれてはいけないものです。「ビジョン」は将来構想のこと。10年後、20年後の社会の変化を見据え、将来像を明確に描くことができるか。これによって会社の将来が決まると言っても過言ではありません。

次にそれを具体的戦略に落とし込みます。ピーター・ドラッカーの名前を出すまでもなく、戦略の根幹は「マーケティング」と「イノベーション」です。

マーケティングとは、お客さまの求める商品やサービスは何かを見つけ出し、それを提供するプロセスです。私はよく「QPS」(Quality,Price,Service)について話します。Qualityは商品の品質、Priceは価格、Serviceは例えば「店が近い」や「対応が良い」など購買を決定する要因です。

社会やお客さまが望むQPSの組み合わせを見つけだすことがマーケティングの根本にあり、それによって会社の「5つのP」(Products:製品・商品、Price:価格、Place:流通、Promotion:広告・宣伝、Partner:パートナー)を変えていきます。その際に会社の「強み」を活かせるかどうかもポイントです。

イノベーションは製造や受注、流通などのプロセスを変えることで新しい価値を作りだすことです。社会やお客さまのニーズに合うように、先ほどの5つのPを大胆に変えるのがイノベーションです。

新型コロナウイルスで大変な時期が続きますが、私は新型コロナウイルスにより「未来が早くやってきた」と感じています。政府が推進しようとしていた「働き方改革」が一気に進みました。新型コロナウイルスで閑散とした場所もありましたが、これも人口減少が進む日本の将来の姿です。

ここで経営者がまず見極めたいのは、それが「早くやってきた未来」なのかどうかです。新型コロナウイルスで落ち込む飲食や旅行のように、後に元に戻る可能性が高いものもあります。それでも、早くやってきた未来と感じたなら、それが会社に有利なことでも不利なことでも、早急に手を打つ必要があります。

ここでも重要なのが、「QPS」で作り出した会社の「強み」を活かすこと。逆に、見込みのないことはやめましょう。

そしてもう1つ、素直さも必要です。松下 幸之助氏は、「人が成功するために1つだけ資質が必要だとすれば、それは『素直さ』だ」とおっしゃっています。素直に謙虚に物事を見て判断していくことが、経営者を成功に導くのです。

税理士の視点:現状維持は後退と同じ。新システム導入で「会社の数字」を知り、経営状態を正確に把握


辻・本郷税理士法人 税理士 菊池 典明

1986年大阪生まれ。同志社大学商学部卒業後、同大学大学院商学研究科で会計学を専攻(修士)。2014年税理士登録。2012年に辻・本郷税理士法人大阪支部に入社し、現在は経営企画室、コンサルティング事業部にて株式会社のほか医療法人、社会福祉法人、公益法人等の税務・会計に関する業務を中心に、法人の事業承継や個人の相続コンサルティングにも携わる。


1990年代と比べて、2000年代はインターネットの急速な普及や情報技術の革新により、変化の大きな時代と言われていました。しかし、ここ10年の変化はさらに激しさを増しています。とはいえ、社会全体のしくみが変わるような大きな変化に関しては、数年かけて徐々に行われるのが世の常でした。

しかしこの度の新型コロナウイルスの流行は、私たちの価値観やライフスタイル、働き方に急激な変化をもたらしました。この変化に適応し会社を発展・永続させるために経営者が持つべき新しい考え方について、経理や会社の数字面から考えてみましょう。

現在、経営者には多くの情報から自社に有用な情報をすばやく見極め、優先度の高い課題にフォーカスし解決していく実行力が求められています。さらに予測困難とはいえ2年後、3年後のビジョンを描き、それに向けて会社の舵取りを行う必要もあります。

数ある情報の中で、自社が置かれている状況や現在の経営状態を把握するには、会社の数字を見るのが有効な手段です。今現在の数字を正確に把握するには、経理業務を迅速に行う必要があります。他の重要な事項に集中するあまり、後回しになりがちな経理や数字の評価ですが、変化の激しい時代において数か月前の数字を今さら見てもそれは有用な情報とは言えません。

情報通信技術の進歩や、AI(人工知能)を活用した会計システムはめざましい発展を遂げています。一方で経理スキルを持った人材は、徐々に獲得困難な時代を迎えつつあるのが現状です。今後はシステムを活用しながら少数精鋭で経理業務を進めることが、有効な手法となります。会社の経理をタイムリーかつ正確に行い、そこから生まれる数字を経営判断に活かすためにも、会計システム・バックオフィス全体のシステムについて見直しが必要と考えてください。

新しい技術やシステム導入に、躊躇してはいけません。スタッフからは大なり小なり不満が出るかもしれませんが、将来自分たちの助けとなることを理解させ、積極的に取り組みましょう。今の時代、「現状維持は後退していること」と同義です。

会計システムについて、1つ具体例をご紹介します。現在多くのクラウド会計ソフトでは、日常のあらゆる「取引データ」は「会計データ」へ変換され、会計システムへと自動連携されるようになっています。人工知能の学習機能活用により、使えば使うほど経理の精度は向上していきますから、導入しない手はありません。

これからの経営者には、新しい技術やシステム導入に対して積極的に検討する攻めの姿勢が必須と考えましょう。

社労士の視点:不安がつきまとう時代だからこそ、「社員がずっと働きたくなる会社」へ


おひさま社会保険労務士事務所 社会保険労務士 篠田 恭子

1977年埼玉県川越市生まれ。システムエンジニアとして約10年勤務。仕事・子育てをしながら、2011年社会保険労務士試験に合格。2013年1月社会保険労務士事務所を開業。2014年4月特定社会保険労務士付記。 2018年5月移転を機に事務所名を「おひさま社会保険労務士事務所」に変更。 働くすべての人が「楽しい」と思える職場づくりを応援します!を経営理念に掲げ、地域の企業を元気にするために、日々活動している。(所属)全国社会保険労務士会連合会、埼玉県社会保険労務士会、埼玉県社会保険労務士会 川越支部/おひさま社会保険労務士事務所


社会保険労務士としてさまざまな業種の中小企業と関わってきた経験のなかで、発展していく会社を一言で表現するなら、「社員が辞めない会社」だとつねづね感じています。

厚生労働省の『2019年(令和元年) 雇用動向調査結果の概況』によると、「退職者の離職理由」として定年や契約期間満了といった理由を除けば「労働時間、休日などの労働条件が悪かった」「職場の人間関係が好ましくなかった」という理由が大きな割合を占めていることが分かります。

残業が多く、休みが少ない。有給休暇が取りにくい。職場のコミュニケーションが不足している。言いたいことが言えない。そのような職場に、従業員は定着しません。たとえ、新入社員に費用と時間とかけて育成しても、会社に貢献する前に職場環境を理由に退職してしまいます。定着率が低いと残された社員も業務過多となり、体力的にも精神的にも疲弊して退職する悪循環に陥りがちです。

従業員の定着率を上げていくには、従業員のライフスタイルやライフステージに応じた多様な働き方への対応や、モチベーションアップへの取り組みといった会社の支援が欠かせません。

社員育成や社内環境整備は会社としての負担が大きいため、業務に支障が出ることも考えられます。そのため嫌がる経営者も少なくありませんが、従業員の定着率が上がると会社の利益も上がります。会社永続に必要な利益を追求するためにも「人を育て活かす」という視点をぜひ取り入れてください。

コロナ禍で不安がつきまとう時代だからこそ、「守り」として労働基準法を中心とした法令を遵守し、従業員の安全と健康を確保する基本的な取り組みを愚直に行うことが一番大切です。

具体的には始業・終業時刻の確認と記録、残業時間や休暇の管理、正しい給与計算、必要な社会保険の手続き、就業規則の整備といった「労務管理」となります。基本的なことではありますが、なかなか実施できていない企業が多いというのが実情です。

「攻め」としては、従業員がずっと働き続けたいと思うような魅力ある職場づくりに取り組んでみてはいかがでしょうか。

例えば、在宅勤務制度やフレックスタイム制度を導入してより働きやすくしたり、有給休暇を取得しやすい環境にすることや兼業を認めたり、福利厚生制度を強化することが挙げられます。今挙げたものは一例であり、答えではありません。その会社のアイデアしだいでいろいろな取り組みができます。

コロナ禍をきっかけに、営業時間の短縮や時差通勤、テレワークなど、「働き方」が大きく変化したと同時に、「働くこと」に対する人の価値観や考え方も大きく変化しています。会社を守りながら、変化に柔軟に対応できる会社経営を目指していきたいですね。

中小企業診断士の視点:自分の器以上の会社にするためにも「既存の事業を任せられる人材づくり」を


ナカミ創造研究所 代表 中田 麻奈美

2002年に九州大学農学部生物資源環境学科卒業後、東京工業大学大学院生命理工学研究科に技術職員として入職。バイオ技術や遺伝子の研究支援に従事。2008年長野県松本市に移住し、地元の食品メーカーに転職。研究開発本部で商品開発に従事しながら中小企業診断士の資格を取得した。2017年にナカミ創造研究所を立ち上げ独立。HACCP導入支援や工程改善、業務効率化を中心に、公的機関での経営相談等を通じて長野県で300社以上の支援にかかわる。


見えるところでも見えない所でも時代は変化し続けています。変化のスピードは速く、多様化が進む時代に、1人のリーダーが常に正解を示し続けることはもはや不可能であると考えましょう。社内はもちろん、社外とも共創していく組織作りが、現在強く求められています。

経営者の仕事としては、周りが共感して巻き込まれていくようなビジョンをしっかり示すこと、皆がアイデアを出し合いやすいように、心理的安全性が保たれた環境づくりをすることがいっそう重要になっていくはずです。

地方の会社が都心の副業人財を活用するような流れも、どんどん大きくなっていくでしょう。社内外のコミュニケーションをスピーディーに行うには、各種グループウェアやオンライン会議ツール等も積極的に活用していきたいですね。デジタル技術活用でビジネスモデルや組織変革を進め、価値提供方法を抜本的に変えるDX(デジタルトランスフォーメーション)を、今こそ導入していきましょう。

経営者は事業のプロではあっても、DXのプロではない場合が一般的でしょう。そのような場合は社内の若手社員を登用したり、外部の専門家を活用するのも一つの方法です。最初から壮大なシステムを入れるのではなく、使い慣れたLINEやGoogleドライブなどの低コストなものから導入して、慣れていくのも良いと思います。

事業拡大だけが正解ではないですが、新規事業を展開している企業に共通しているのは、経営者が次のことを考えるために、既存の事業を任せられる人材づくりをしていることです。特に若手経営者は、プレイングマネージャーからなかなか脱却できないことが多いですが、そのままでは自分の器以上の会社にはなりません。

つまり人材を欠員補充の作業者や「人手」としてではなく、共に育ち共に創る「人財」として育成する・任せる。最初はかえって手間が掛かり非効率になる部分もありますが、結果的に会社が成長し、業務も効率化していく。そんな攻めの人材育成が求められる時代を迎えています。

また業務効率化に関しては、ゴールがあいまいなままやみくもにシステム導入することはお勧めできません。まずどんな意思決定をするために、どんな情報やアウトプットが必要なのか、そのためにどんなインプットが必要なのか、全体像を描くことが欠かせないからです。

最初は紙ベースでもExcelなどの簡易的な情報管理でも良いので、業務の流れを整理・最適化してから、必要に応じてしかるべきシステムを検討してください。過剰性能で使いこなせなかったり、不必要な高額なリースを組まされている事例も見かけますが、機能の優劣や相場観が分かりにくい分野だからこそ、しっかりと信頼できる相手と組んで自社に本当に必要なものを見極めることが重要です。

この記事の著者

弥報編集部

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