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元社員から「解雇無効」の訴えを起こされた!会社はどう対応する?【弁護士が労務管理をわかりやすく解説】
2020.05.25
わが社の問題社員A。上司の指示に従わない、仕事の能力は平均以下、協調性も乏しくて職場の輪を乱す。ああ、こんなこと言いたくないけれど雇うんじゃなかった。悩みに悩んで退職勧告。しかしそれも無視。もうクビだ!今回のテーマは「解雇」です。
毎回、中小企業の身近な事例を取り上げながら、弁護士の松江仁美が法的見地からわかりやすく解説します。
目次
「解雇」には、普通解雇、整理解雇、懲戒解雇の3種類がある
突然届いた裁判所から呼び出し状。差出人は東京地裁民事19部。うちの会社が訴えられている? 原告は……先日やっとのことでクビにしたあの問題社員Aさん!まさか! と慌てふためく顧問先の社長から相談がありました。
松江「社長、社員を解雇するときは前もって相談してくださいって言いましたよね?」
社長「す、すみません。あまりにひどい問題社員だったので、クビにして当然だと思って……」
気が動転している社長は呼び出し状を見ても訴訟の内容が理解できず、私のもとに裁判所から届いた書面の束を持ってきたのでした。その内容は「解雇無効」の訴えと「地位保全」の仮処分(裁判が結審するまでの間、仮処分によって元の地位・権利を暫定的に定めること。今回の例では解雇された社員Aが、係争中に生活困窮などの不利益を被らないよう、元の職場の社員の立場や給与を仮に保全してもらうこと)のセットでした。
解雇には大きく分けて次の3種類があります。
① 普通解雇
従業員の能力や勤務態度、健康状態などを考慮し、解雇理由が合理的かつ相当と認められる場合に行うもの
② 整理解雇
会社の業績悪化や経営上の理由により、人員削減のために行うもの。解雇回避の努力や人選の合理性、手続きの妥当性などが厳しく問われる
③ 懲戒解雇
従業員に懲戒解雇事由がある場合に行う処分。最も重い処分であり、懲戒解雇に当たる行為などを就業規則にしっかりと定め、周知・徹底しておく必要がある
社長「Aは本当にひどいヤツなんですよ。上司の命令に従わないし、仕事も遅くて雑。モラルに反した行動を取るし。これ懲戒で問題ないですよね?」
松江「その内容では懲戒解雇には当たりません!懲戒になる具体的な行為は、会社の機密情報を横流しして儲けたとか、仕事に関連する罪を犯し騒動になって報道されてしまい会社の信用を潰したとか、セクハラやパワハラで社内の仲間を傷つけたとかそういうものです。元社員Aさんは普通解雇だから、解雇の合理性と相当性が厳しく問われますよ」
「解雇無効」と「地位保全」は審理期日の違いも厄介
このケースでは「解雇無効」については審理期日まで約1か月半の準備期間が取れますが、「地位保全」の審理までは2週間しかありません。そんな短期間では何をどうすればいいのかとパニックになるのも当然です。
松江「社長、落ち着いてください。とりあえず委任状をいただけますか。けれども厳しい戦いになりますよ。こちらに有利なのは、本人にきちんと理由を示して退職勧告をしたことくらいですから。解雇は最終手段です。いきなり『クビだ!』なんて叫んでいないでしょうね?」
社長「……最後には『クビだ!』と叫んでしまいました」
松江「……」
裁判では「当人の能力不足で仕事ができないこと」が解雇に値するかどうかが問われます。言い換えれば教育のしようがないか、改善のしようがないかを判断するには、何度も粘り強く改善指導や部署異動、人間関係を踏まえたサポートをしたかなど、会社が社員のために何をどこまでやったかが問われるのです。
松江「裁判では社員側の弁護士から『もっとほかに簡単な作業があって、その部署に異動させていれば、本人を活かせたんじゃないか?』とか言われるんですよ」
社長「それではまるで、社員のための法律じゃないですか!」
松江「当然です。労働法は労働者のためのものです」
特に「地位保全」の恐ろしいところは、本案の「解雇無効」の審判を待たずに、処分が早期に決定してしまうことです。
例えば「地位保全」で会社が負ければ、元社員の地位が元通りになり賃金の支払いが発生します。もしそうなっても元の部署に戻すわけにもいきませんし(問題社員がほかの社員に与える悪影響も考慮すると)、ろくに働かない人に給与を払い続けることになります。
さらに本案の「解雇無効」で負ければ、正式に雇い続けなければならなくなります。会社にとっては悪夢です。
この会社では退職勧告をしており、解雇の際に必要な解雇予告手当も払っていましたから、手続きの手順は問題ありませんでした。焦点となったのはやはり解雇の合理性でした。部署異動させようにもAさんには協調性がなく、異動先の部署でトラブルになるのは明らかだったのでそうしなかったのですが……。それも今となってはもはや立証できませんでした。
結局、裁判所からは和解勧告がありました。その内容は「地位保全」で負けて賃金を払い続けるくらいなら、1年分の給与程度を払って気分をすっきりさせたらどうかというものでした。何度もの交渉の末、最終的には会社が元社員Aさんに和解金250万円を支払い、元社員Aとの縁をきっぱり切ることができたのです。
労働審判では常日頃からの証拠づくりがモノを言う
前回の記事「未払い残業代の請求」でも書きましたが、今回の結論も同じです。
労働問題は事が起きてから慌てても遅いのです。労働審判に持ち込まれれば会社は無傷ではすみません。大切なのは常日頃からこうした事態を想定しておき、まずは就業規則を整備すること。次に評価制度を整えておくこと。その評価を客観的に捉えられるように証拠づくりをしておくことです。
問題社員の証拠づくりの例として、社員が問題を起こすごとに始末書を書かせ、それを束ねて保管していた会社があります。またこの社員に問題はないかと、全社を挙げてメールで探りを入れていた会社もあります。この2社はいささかやりすぎですが、労働審判ではそれだけ証拠が重視されるのです。
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この記事の著者
松江 仁美
代表弁護士。1957年静岡県生まれ。中央大学法学部卒業。1993年弁護士登録。建築紛争、企業法務などを多く手掛け、建築不動産関係会社の顧問を多数務める。「頑張る社長たちの応援団」でありたいと思っている。空手5段、日本空手道松濤会本部指導員、神田小川町に自らの道場、「一道館」を構え、日々稽古に励んでいる
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