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企業の健康診断ツール「ローカルベンチマーク」とは?小規模事業者だからこそ活用しよう!
2019.08.05
大都市圏以外の地域では急激な人口減少と地域経済の縮小が進んでいます。地域(ローカル)の稼ぐ力を高めていくために、地域企業の経営支援などの参考となる評価指標・手法として、2016年3月に経済産業省が企業の健康診断ツールである「ローカルベンチマーク」(通称“ロカベン”)を公表しました。
ロカベンは、金融機関や商工会などの支援機関などが、企業経営者との対話を深め、お互いに課題を認識し、行動につなげていくための「きっかけ」または「たたき台」として使われることを目指しています。よって融資を獲得するためだけに作られたツールではありません。
金融機関を巻き込んで、顧問税理士らと一緒になってローカルベンチマークを作成することで、金融機関に自社のビジネスモデルを深く知ってもらう機会にもなりますし、評価にも繋がります。そして金融機関から融資ばかりでなく、積極的に様々な支援を受けることができるようになる可能性も出てきます。
ちょっと難しそうなイメージを持たれるかもしれませんが、小規模事業者だからこそ、ぜひとも活用していただきたいツールの一つです。
目次
ローカルベンチマークは「企業の健康診断」ツール
ローカルベンチマークは企業の経営状態の把握、いわゆる「健康診断」を行うツールです。経営者が金融機関や商工会などの支援機関とともに企業の経営・財務の状態を把握し、同じ目線で対話を行うための共通ツールのようなものだと思ってください。また、金融機関の事業性評価の「入口」として活用されることも期待されています。
ローカルベンチマークでは、「財務情報」(6つの指標)と「非財務情報」(商流・業務フロー/4つの視点)に関する自社のデータや情報を入力することによって、企業の経営状態を把握することができるようになっています。
なお、ローカルベンチマークはエクセルシートによって構成されており、経済産業省のホームページから誰でもダウンロードできます。
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6つの指標による「財務分析」で総合評価
ローカルベンチマークは、「財務分析シート」「財務分析」「商流・業務フロー」「4つの視点」の4つのエクセルシートから構成されています。
まずは「財務分析入力シート」に売上高や資本金など必要な数字を入れることによって、下図のような「財務分析シート」が自動的に作成されます。
<ローカルベンチマーク「財務分析シート」>
図中にある通り、ローカルベンチマークの「財務分析」においては、以下の6つの指標から財務状況を診断してくれます。
<財務情報(6つの指標)>
1.売上増加率 =(売上高/前年度売上高)-1 | キャッシュフローの源泉を意味する。企業の成長ステージの判断に有用な指標 |
2.営業利益率 =営業利益/売上高 | 本業の収益性を測る基本的な指標 |
3.労働生産性 =営業利益/従業員数 | 成長力、競争力等を評価する指標。キャッシュフローを生み出す収益性の背景となる要因として考えることも可能 |
4.EBITDA有利子負債倍率 =(借入金-現預金)/(営業利益+減価償却費) | 借入金がキャッシュフローの何倍かを示す指標であり、返済能力を判断する指標の一つ |
5.営業運転資本回転期間 =(売上債権+棚卸資産-買入債務)/月商 | 過去の値と比較することで、売上増減と比べた運転資本の増減を計測し、回収や支払等の取引条件の変化による必要運転資金の増減を把握するための指標 |
6.自己資本比率 =純資産/総資産 | 総資産のうち、返済義務のない自己資本が占める比率を示す指標であり、安全性分析の最も基本的な指標の一つ。(自己資本の増加はキャッシュフローの改善につながる) |
こうした専門用語が出てくると難しく感じるかもしれませんが、まずは「財務分析シート」を作成してみましょう。
3期分の「決算書」を用意して、損益計算書や貸借対照表などから必要な数値をエクセルシートに入力してください。その結果が、上のような総合評価点(ランク)及びレーダチャートとして表示されます。
なお、総合評価点については各期においてABCDの4段階でランクが表示されて、自社の財務状況の推移を把握することができます。もちろんAランクがよいのですが、できればBランクを維持できるような財務状況を目指してください。たとえば、厚生労働省の「労働移動支援助成金」などでは、助成金の支給にあたり「ロカベンの財務分析結果が、B以上である」場合は優遇助成(支給額の増額)の対象となっています。
財務の総合評価点などが点数として表示されますので、自社の財務を客観視することができます。ちなみに、総合評価点は帝国データバンクが保有する約100,000社の財務データをベースとして算出されています。
「商流・業務フロー」で自分のビジネスを図式化
次に「商流・業務フロー」について見てみましょう。シンプルにいえば「ビジネスモデル図」です。これに関しては自動作成というわけにはいきませんが、作成することによってビジネスモデルの全体像を把握することができるようになります。
<ローカルベンチマーク「商流・業務フロー」>
「業務フロー」によって、実施内容と差別化ポイントを把握することができます。そして、「商流把握」によって、取引先と取引理由を整理し、どのような流れで顧客提供価値が生み出されているかについて把握することができます。
「4つの視点」から自社の課題と対応策を導き出す
「4つの視点」とは、「経営者」「事業」「企業を取り巻く環境・関係者」「内部管理体制」のことをいいます。これらの4つの視点から「現状認識」と「将来目標」を明らかにして、自社の「課題」と「対応策」を導き出していくという構成になっています。
この「4つの視点」については、「経営者」においては「経営理念・ビジョン」や「後継者」など、「事業」においては「強み」や「弱み」など、「企業を取り巻く環境・関係者」においては、「市場状況」や「競合他社」など、「内部管理体制」においては、「組織体制」や「人材育成」などについて記述していきます。
<ローカルベンチマーク「4つの視点」>
なお、こちらに関しても自動作成というわけにはいきませんが、一例として「事業の強み」については、他社に負けない自社の技術力や品質管理力などを記述してみましょう。「人材育成」については自社のOJT体制や能力開発体制、技術承継体制などついて記述してもよいでしょう。
小規模事業者だからこそ、ローカルベンチマークの活用を!
ローカルベンチマークは「企業の健康診断ツール」として、企業自身だけが活用するのではなく、企業と金融機関、支援機関などの対話ツールとしての活用が想定されています。金融機関側からすると企業などと事業性評価や課題について対話をする際の参考となりうるツールでもあるのです。
金融機関にとって、小規模事業者は融資先としては優先順位が低くなってしまうのは仕方のないことです。業績がよく、さらに数千万~数億円の借入を希望する中小・中堅企業等との取引の優先順位が高くなってしまうのは至極当然のこと。
だからこそ、小規模事業者は、国が用意したローカルベンチマークを作成して、金融機関などに積極的に自社をアピールする姿勢が大切なのです。顧問税理士だけではなく、借入のある金融機関の担当者に、あえて相談に乗ってもらいながら作成されてみてはいかがでしょうか。そういう積極的な姿勢もアピールに繋がると思われます。
また、経済産業省のホームページ(ローカルベンチマーク)には、「ローカルベンチマーク活用事例」として、「ロカベンを活用し、早期経営改善計画の作成した事例」、「ロカベンを活用し、自社に適したIT導入を行った事例」、「事業承継に向け、経営者と後継者の認識共有に活用した事例」が詳細に掲載されています。小規模事業者(従業員数5~17名)による活用事例ですのでぜひ参考にしてください。
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この記事の著者
吉田 学(よしだ まなぶ)
財務・資金調達コンサルタント
株式会社MBSコンサルティング 代表取締役。1998年の起業以来、「資金繰り・資金調達支援」に特化して創業者や中小事業者を支援。これまでに1,000 社以上の資金調達相談・支援を行い、その資金調達支援総額は20億円超。主な著書に、「社長のための資金調達100の方法」(ダイヤモンド社)、「究極の資金調達マニュアル」(こう書房)、「税理士・認定支援機関のための資金調達支援ガイド」(中央経済社)、「税理士だからできる会社設立サポートブック」(第一法規)などがある。
また、全国の経営者・士業などを対象にした会員制の資金調達勉強会「資金調達サポート会(FSS)」を主催している。
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