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「すべては差別化からはじまる!」マーケティングを知るための5冊【連載:読むべき優良ビジネス書】
2019.07.18
仕事に役立つ本を読みたいと思い、話題の本に手を出してみても今ひとつしっくり来ない。ビジネス書を読んでも仕事に生かせる手ごたえがない。
そんなスモールビジネスパーソンのために、年間300冊のビジネス書を読破するプロ書評家・坂本海氏におすすめのビジネス書を紹介してもらう連載企画。毎回のテーマに沿ってビジネス書から得られるヒントを元にスモールビジネスを考えていくことで、本から得られる学びをお伝えしていきます。
今回のテーマは「マーケティング」。人気の商品・サービスの裏側を紹介しているビジネス書を元に、売れる商品・サービスはどのように作ればよいのかを考えます。
目次
あらゆるビジネスの基本は差別化
あらゆるビジネスにおいて、基本中の基本の戦略は「差別化」と「ポジショニング」です。
競争戦略の教科書として有名なマイケル・ポーターの『競争の戦略』。この中で、ポーターは、企業が競争優位を築くための3つの基本戦略をあげています。
- コストリーダーシップ戦略:低コストを実現し、規模を拡大すること
- 差別化戦略:業界の中で独自性を発揮すること
- 集中戦略:特定のターゲットに絞り、低コストまたは差別化された商品・サービスを提供すること
これをスモールビジネスに当てはめて考えると
- 大手企業には価格競争では勝てないので、独自の商品やサービスを提供しましょう
- リソースは限られているので、特定の地域や顧客に絞って、差別化またはコストパフォーマンスの良い商品やサービスを提供しましょう
ということです。1のコストリーダーシップ戦略は、大手企業でなければ実現できません。
詳しく競争戦略について知りたい方には、『競争の戦略』(ダイヤモンド社)を読むか、簡単に内容をまとめてくれている『ポーターの「競争の戦略」を使いこなすための23問』(東洋経済新報社)もおすすめです。
売れる商品・サービスの公式
さて、ビジネスを差別化するにあたって、どのような商品やサービスをつくれば良いのでしょうか。
そのヒントとして『ヒットの設計図 ポケモンGOからトランプ現象まで』(早川書房)に紹介されている「MAYA理論」を取り上げてみたいと思います。
これは、20世紀のデザイナー、レイモンド・ローウィが提唱した理論です。「Most Advanced Yet Acceptable(非常に先進的でありながら、受け入れ可能なもの)」という意味で、「思い切ったデザインでありながら、すぐに理解できるような製品に人は惹きつけられる」ということです。この考え方は、100年の間、多くの研究によって実証されてきました。
人は「居心地の良さ」「意味がわかること」「なじみ感」を好みます。一方で、「新しさ」「チャレンジ感」「驚き」など、相反するものを求めます。人は、刺激が欲しい一方で、理解できるものがいいと思うもの。つまり「目新しさなどの刺激」と「心地良いと感じるなじみ感」、2つの相反するもの両方をバランス良く備えることが、人気の秘訣だということです。
「MAYA理論」は、小売店、サービス業、メーカーなど、様々なスモールビジネスを行う上でも役に立つ考え方です。ビジネスで差別化された商品やサービスを考える時、単に新しさや刺激的なものにしては、受け入れられにくい、飽きられやすい。一方で、心地良さだけを追求しても、退屈だと感じられる。定番の商品やサービスにちょっとした一工夫による驚きや新しさを加えることが、人気の商品やサービスにつながり、他社との差別化につながると言えそうです。
他の店にはないものを置く
今では有名になっている店や商品、サービスも最初はスモールビジネスから始まっているケースがほとんどです。商品やサービスの差別化について、いくつかの有名な事例を見てみましょう。
差別化のお手本とも言える小売店に、スーパーマーケットの「成城石井」があります。今では駅ナカなど、様々な場所で見かけるようになりましたが、成城石井も最初は1軒の食料品店から始まりました。スーパーマーケットという何でもない業態でも、コンセプト次第で人気店になります。『成城石井の創業―そして成城石井はブランドになった』(日本経済新聞出版社)には、小売店の成功のヒントが書かれています。
成城石井が成功した理由は「よその店にはない商品を置いて差別化を図ったことと、成城の住民に合うものを置いた、つまり地域性に合わせたことが大きかった」と書かれています。
大量仕入れを行うチェーン店に価格競争を挑むのは勝ち目がない。そこで、思い切って普通の商品を捨て、品質の良いものだけを扱った。他の店にはないものが充実していることが、成城石井に価値をもたらしたとあります。
さらに、成城石井が顧客に支持されたのは、高級なものを高く売る店だからではなく、高い品質のものを抑えた価格で販売し、コストパフォーマンスが良かったからだと言います。デパートに行かなければ買えないような高級食材をデパートや専門店よりも低い価格で販売することで支持されたとあります。
また、成城石井には、新商品がよく売れるという特徴もあります。様々な産地へ出向いて良い商品を発掘し、大量に販売するスタイルをとってきた。他店と異なる品物を揃える。新商品を揃えて、顧客の興味を惹く。その商品カテゴリーの競合と比較して、コストパフォーマンスの良い価格を提供する。人気店の裏側には、きちんとした人気の理由があるということです。
顧客を飽きさせない
最後に紹介する事例が、和菓子の「たねや」です。デパ地下などに多店舗展開しており、現在では従業員2000人を抱える規模の菓子屋になっていますが、最初は滋賀県で明治時代から続く1軒の和菓子屋でした。たねやの急成長については『近江商人の哲学 「たねや」に学ぶ商いの基本』(講談社現代新書)で紹介されています。
たねやは、支店を出して試行錯誤する中で「自信のあるものだけで勝負しないとダメだ」ということを学びます。栗饅頭・最中は創業時代から最も人気のある商品。品目を増やしても、弱い商品が看板商品の足を引っ張り、看板商品の印象を弱めることに気づきます。
東京に進出する時にも、栗饅頭と最中を並べました。この当時、饅頭は庶民の菓子として認知されており、デパートで売られていた和菓子は、抹茶と一緒に楽しむような高級菓子でした。そうした常識を破り、たねやがデパートで並べたのが、柏餅や団子、饅頭などの庶民的な菓子。これが大ヒットします。「饅頭なんてデパートで売るものじゃない」と思われていたからこそ、逆に目立つことになったと言います。
その上で、春には草餅、夏には水羊羹、秋は栗きんとん、冬はぜんざいと、今では当たり前のように思われる季節に合わせた商品を並べていきました。こうして、顧客を飽きさせないことで、人気店となっていきます。
品質が良い看板商品があること、顧客を飽きさせない仕組みがあること、他が置いていないものを提供すること。ここでも、きちんと競争戦略のセオリーが成立しています。
スモールビジネスだからこそチャンスがある
これまでの事例をもとに、ビジネスで差別化を図るためには、何をすれば良いのかを、もう一度整理したいと思います。
1)他社にない商品・サービスを提供するために工夫する
スモールビジネスこそ、大手企業にはできない独自性を発揮するチャンスがあります。例えば、顧客ごとにカスタマイズされたサービスや接客、市場は小さいけれど特定の顧客に人気があるニッチ商品。画一化されていない商品・サービスこそ、スモールビジネスが生き残る秘訣です。
2)セグメント内で比較して低価格や独自性を成立させる
特定の顧客層、地域内の他社比較において、独自性のある商品やサービス、コストパフォーマンスの良いサービスを提供する。立地などの地域性、対象とする顧客層によって、ニーズは異なり、取り巻く競争環境も異なります。スモールビジネスだからこそ、顧客により近いところで、きめ細やかな対応をすることができます。
3)飽きさせない仕組みと定番を両立させる
目新しさを失わずに、馴染みあるものを提供する。そのためにも、飽きさせない工夫は必要です。手間はかかるかもしれませんが、試行錯誤の上、ちょっとした新しさや驚きを提供する仕組みを考えることが大切です。
ビジネス書には、人気の商品やサービスの裏側を紹介しているものがたくさんあります。ぜひご自分の参考になるものを探してみてください。
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この記事の著者
坂本 海
兵庫県出身。大学卒業後、半導体商社を経て、SBIインベストメントでベンチャー投資の審査や経営支援に従事。現在はスタートアップ企業において事業戦略・ファイナンスを担当。書評・要約サイト「ブックビネガー」編集長。ビジネス書読書会「朝・カフェで読書会」主宰。2019年5月 ぱる出版社より「神・読書術」を上梓
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