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「後継者がいないから」はもったいない!廃業する前に検討したい、事業承継としてのM&A【船井総研が解説】

2024.06.25

著者:弥報編集部

監修者:光田 卓司

経営から身を引く際に、廃業と事業承継のどちらを選択すべきなのか迷う経営者は少なくありません。経営状態はそこまで悪くないのに後継者がいない場合は、廃業しか選ぶ道がないと考える経営者もいることでしょう。実際、事業は好調なのにもかかわらず、後継者が不在のために廃業を選択する企業も増えています。

しかし、それだけの理由で廃業を判断するのは惜しいかもしれません。仮に業績が良くない状況だとしても、他社にとって価値となる技術や商圏を自社が持っている可能性も捨て切れないことをご存じでしょうか。

今回は、株式会社船井総合研究所 フィナンシャルアドバイザリー支援部の光田卓司さんに、M&Aによる事業承継について詳しくお伺いし、頼るべき相談先の判断基準なども解説いただきました。廃業を選択する前に、M&Aによる事業承継の可能性を知り、自社にとって何が1番良いのかをふまえたうえで適切な判断をすることをおすすめします。


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「後継者がいないから」はもったいない!廃業する前に考えたいこと

経営者にとって、廃業を選ぶメリット・デメリットは何ですか?

経営者のメリットとしては、事業をたたむと資金繰りや従業員の雇用など、今まで頭を悩ませていたことから一気に解放されることが大きいでしょう。また、中小企業の経営者は、ほとんどが自社株を保有していることが多いので、一定の資産が残せる可能性があることもあげられます。

一方、デメリットとしてあげられるのは、取引先に迷惑をかけてしまうことや、従業員を解雇しなければならないことです。急な廃業は、取引先や従業員などのステークホルダーに悪影響を与えてしまいます。一度廃業すると決めてしまうと後戻りできません。もし、ステークホルダーへ負担をかけたくない、後継者が見つかりさえすれば事業を継続したいなどと考えるのであれば、廃業以外の選択肢を検討することをおすすめします。

実際に廃業をする際はどのようにすればよいのでしょうか?

廃業方法は法律で定められているので、指定の手順に沿って廃業手続きを行う必要があり、すぐに廃業できるわけではありません。法人で廃業手続きを進める場合、書類の数も多くなるため代理弁護士や顧問税理士と準備を進めるのが一般的です。ステークホルダーへの告知から株主総会での解散決議、法務局での解散登記や税務申告まで、多岐にわたる対応が必須となるため、少なくとも2〜3か月はかかると見込んでおきましょう。

廃業にかかる費用は、各種手続き費用の他、在庫などの処分費や不動産の原状回復費なども発生するケースもあるでしょう。

廃業を検討していた会社が、M&Aで事業承継した事例

廃業以外の選択肢として、どのような事業承継方法がありますか?

基本的な事業承継の方法として、子どもなどの親族が会社を継ぐ「親族内承継」、親族以外の関係者が会社を継ぐ「従業員への承継」、信頼できる企業が会社を継ぐ「第三者承継(M&A)」の3つがあります。既に廃業を検討している経営者に多いのは、「後継者がいない」というケースですが、そのような場合にはまずM&Aに目を向けてみましょう。

経営難かつ、後継者不在または適任者がいない場合、専門家に相談せずに廃業を決める経営者も少なくありません。確かに業績不振の企業には、買手が現れない事例もあります。しかし同時に、自社が保有する技術や商圏などが欲しい企業がいる可能性も捨て切れません。

廃業せずにM&Aなどで事業を継続した方が良いケース、またはその逆があれば教えてください。

一概に廃業すべき、M&Aをすべきとは言い切れないのが正直なところです。M&Aが適しているかどうかの判断基準はないので、成立するかどうかはやってみないとわかりません。

ただ、廃業せざるを得ない特殊なケースとして、経営者が急な病で倒れてしまったり認知症などの病を患ってしまったりなど、予期せぬできごとがあった場合があげられます。どちらにせよ万が一のときに備えて、自身や周囲のために会社の未来を考えておくことをおすすめします。

廃業も視野に入れている企業が、M&Aについて相談するケースもありますか?

もちろんです。最初から積極的にM&Aを目指す経営者もいれば、「情報収集してから決めよう」という方も少なくありません。M&Aが成立するかどうかは、着手してみないとわかりません。

単純に、自社がどのような企業に求められるのかを知りたいから、という理由でお問い合わせをいただくケースもあります。まずは市場で自社がどれくらいの価値を持つのか、ニーズはあるのかなどを聞いてみてから、廃業するかM&Aに取り組むかを選んでいただいても遅くはありません。

実際に、廃業を検討していた企業がM&Aを選んだ例はありますか?

はい、あります。長年の赤字を理由に廃業を考えていた物流会社が、情報収集がてら試しにM&Aに関して仲介会社に問い合わせ、自社の企業価値を算出してもらいました。

実際に買手を探してみると、保有する営業所エリアやトラックドライバーが欲しいという企業が現れ、条件も良かったことからM&Aが成立しました。会社存続を実現できたうえ、従業員の雇用も守れたという観点で、良い例だと言えるでしょう。

信頼できるM&A仲介会社の選び方

M&Aに関してどのような相談先がありますか?

国の公的機関である「事業承継・引継ぎセンター」がおすすめです。事業承継・引継ぎセンターは各都道府県に設置されており、後継者問題に課題を抱える中小企業に対して事業承継全般の相談を受け付けています。相談料は無料ですし、中立的な立場でアドバイスしてくれるでしょう。

その他、顧問税理士や金融機関に相談して、M&A仲介会社を紹介してもらうのもよいですね。最近では、仲介会社を頼らずにM&Aに取り組む銀行も増えてきました。「地域に根差した会社に譲渡したい」と考えるのであれば、地方銀行なども適しています。

信頼できるM&A事業者を選ぶポイントがあれば教えてください。

最初に、どの段階で費用が発生するかを確認するとよいでしょう。アドバイザリーサービス契約時に着手金が発生する会社の他、M&A成立にかかわらず仲介金が発生する会社もあります。何が良い悪いかという話ではありません。例えば着手金が発生する場合、会社も金額に見合った書類を作成する義務が生じますから、より条件の良いM&Aを目指せる可能性も上がります。どの時点で金額が発生するのが自社に適しているのかに焦点を当てて、依頼する仲介会社を決定しましょう。

また、自社の展開する事業の業界について詳しいかどうかも、適切な仲介会社を選ぶうえでは重要な判断材料になります。同業界のM&A成立事例が多いかを確認しましょう。

注意していただきたいのは、企業価値に対して適正価格を出さない仲介会社です。例えば自社が想定していた額をはるかに超える価格を提示し、良いことばかりを並べてくるような場合は、疑った方が得策でしょう。

M&Aについて相談する前に確認しておくべきこと

事業承継について相談をする前に、しておくべきことがあれば教えてください。

まずはM&Aを選択する動機を明確にしておくことをおすすめします。仮にM&Aを進行することになったら、その過程で多くの選択を迫られます。M&Aはあくまでも手段なので、動機がはっきりしていると判断軸が定まり、自社にとって最善な選択を取りやすいでしょう。

またM&A仲介会社は、決算報告書などから企業価値診断を行います。適切な評価を得るために、改めて財務状況を整理しておきましょう。取引関連の詳細や財務の管理体制が不透明な場合は、早急に問題を解決してください。M&Aをする・しないにかかわらず、日ごろから行っておくとよいでしょう。

その他、事前に準備しておくとより良いことがあれば教えてください。

現在の株主の名義は今一度確認しておくとよいでしょう。特に老舗企業に多い例ですが、株主が不明になっているケースも見受けられます。

また財務状況だけでなく、法務や人事・労務などに関しても適切な経営をしているかを改めて確認しておくことをおすすめします。例えば、古くから自社ビルなどを保有している場合、建築設備定期検査を受けているかどうかなどもチェックし、細かな部分も記録を辿れるようにしておくと、問い合わせ後も進行がスムースです。

 

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この記事の著者

弥報編集部

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光田 卓司(株式会社船井総合研究所 フィナンシャルアドバイザリー支援部マネージング・ディレクター)

横浜国立大学を卒業後、船井総研に入社。大学時代にベンチャーを立ち上げるなど多岐に渡るビジネスを経験。入社後は専門サービス業の経営コンサルティング部門の統括責任者を行い多数のM&Aを経験。現在は、M&A部門の統括責任者を務める。買って終わり、売って終わりではなく、M&A後の企業成長を実現するマッチングに定評がある。過去に経営支援を行ってきた企業は200を超える。

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