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曜日や時間によって値段を変える「変動価格制」とは?【老舗和食店の女将に聞く】

2024.03.21

著者:弥報編集部

監修者:小保下 グミ

ある決まった曜日や時間帯に来客が集中してしまい、お客さまに気持ちよく店を利用していただけなかったり、適切なシフトを組むのが難しかったりすることはありませんか?店側としては、来店してもらえるのはうれしいことですが「もう少しお客さまが分散してくれたらいいのになぁ」と感じることもあると思います。

実はその悩み、消費者の需要に応じて異なる価格を設定する「ダイナミックプライシング」を使えば解消されるかもしれません。老舗和食店の女将が「ダイナミックプライシング=価格変動制」を導入するメリットや方法、注意点について解説します。

事例や実際のお客さまの反応なども紹介しているので、ぜひ導入の参考にしてください。


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最近よく聞く「ダイナミックプライシング=価格変動制」とは?

「ダイナミックプライシング」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。ダイナミックプライシングとは、従来のような原価を基に販売価格を決める手法ではなく、消費者の需要と供給に応じて商品の価格を変動させる仕組みのことです。需要が高いタイミングでは、価格を上げることで利益の最大化を図ることができます。

逆に需要の低いタイミングで価格を下げることによって、余剰在庫の削減につなげることも可能になります。これまでは航空会社や宿泊施設ぐらいでしか導入事例がありませんでしたが、近年はスポーツ観戦やテーマパークチケットにも広がり、さらには飲食店や小売業・ECサイトなどでも同様の仕組みが採用されるようになってきています。

当店でも、時間帯によって異なる価格を設定する仕組みを、かれこれ15年以上前から導入しています。前述したダイナミックプライシングと少し異なるのは、来客が集中するランチタイムの価格を通常より少し安くし、夕方以降は通常価格に戻すという方法をとっている点です。つまり需要が高いタイミングで値段を下げ、需要が低いタイミングで値段を上げるという真逆の方法を採用していることになります。

なぜ需要が高いタイミングで価格を下げているのかというと、その理由は忙しい時間帯に入る注文を、限られたメニューに集中させたいからです。当店は、昼どきになると周辺の企業に勤めている方たちがいっせいに押し寄せます。その方たちがそれぞれバラバラのメニューを注文してしまうと、少ない人数で回している厨房はてんやわんやとなってしまいます。できれば、3種類ぐらいの限られたメニューだけをひたすら作ることに徹したい。しかしながら当店には出前業務もあるため、さすがにメニュー数自体を減らすことはできません。

そうした理由から、お昼は3種類のセットメニュー限定で価格を下げ、注文が集中するようにしているのです。夜の営業に比べると薄利にはなってしまいますが、来客数が多いので財務面で問題はありません。

一方で夕方以降に通常の価格に戻す理由は、この時間帯の営業ではしっかりと利益を確保したいからです。当店は、夜の営業についてはアルコールを飲む人をたくさん呼び込みたいと考えています。お酒と料理を楽しんで、最後に炭水化物で締めてもらうことで、想定した利益をしっかりと上げることができます。

しかしこれがお昼に提供しているセットメニューだけの注文となると、お酒を飲んで、一品料理を頼んで……というお客さまと比べると客単価が低く、利益も少なくなってしまいます。そこでお昼に安く提供しているセットメニューの価格は夕方以降は通常に戻し、食事だけでもしっかり利益が得られるようにしているのです。

お客さまの反応は?当店の場合

気になるのはお客さまの反応ですよね。あるときは高く、またあるときは安いといった価格設定をしていると、お客さまからクレームが入ることはないのだろうかと心配される方もいらっしゃると思います。

結論から言いますと、価格設定のやり方を理由にクレームをもらったことはありません。そもそも、お昼に来られるお客さまはお昼ばかり、夜に来られるお客さまは夜ばかり来られるので、他の時間帯の価格を知らない場合が多いです。

稀にいつもは平日の夜に来店されているお客さまが、休日のお昼に来られることがあり、お昼のメニューを見て、お得な価格に驚かれることはあります。しかし、今まで自分は高い料金を払って損していた!などと怒る人はおらず、同じメニューがいつもより30%近くお得に食べられることにとても喜ばれます。

ここは私の推測ですが、一般的にランチとはお得なものだという刷り込みがあります。ですので普段の自分の支払いより安い価格を目にしても、それほど不満を感じる人が少ないのではないかなと思います。

お昼にしか来店しない方が夜に来られると、メニューを見て一瞬「あれっ、高い!」という表情をされます。しかしこちらも特にクレームを受けたことはありません。ただし、低価格で提供しているお昼のセットと同じメニューを、夜に来て注文する方はきわめて少ないです。

このような価格設定がお客さまから理解を得られている理由は、メニュー表の作り方にもありそうです。当店のメニュー表は、ランチは紙1枚のポップなデザイン。夜は少ししっかりとしたメニューブックで、シンプルなデザイン。ぱっと見でも、お昼がお得なサービスタイムなのだとすぐに察しがつくようになっています。夜が高いのではなく、昼が安い。特別な時間帯なのです。このような印象をお客さまに与えているからこそ、なんで夜は高いのかとか、昼は安くてずるいなどといったクレームがないのだと思います。

もしも価格だけ違い似たようなメニュー表を作っていたら、価格が変動することを隠そうとしているのではないか、お会計をごまかそうとしているのではないかと疑われていたかもしれません。

忙しすぎる・閑散した時間をなんとかしたいetc……自店の抱える悩みに応じて変動料金制を取り入れてみては?

このように、時と場合に応じて価格を変える仕組みは、意外とお客さまには寛容に受け入れられています。自店が抱えている悩みに応じて変動価格制を導入してみてはどうでしょうか。

例えばイベントなどを定期開催しているようなお店なら、そのような日に限定して価格を少し高くすることを試みるのも良いと思います。当店も価格変動制を初めて取り入れたのは大晦日でした。この日は何の宣伝をしなくても溢れかえるほどお客さまが来られる、一年で一番忙しい日です。人手も必要ということもあり、ある年からメニュー価格を上げたところ、来客数はさほど変わらないのに利益率がグンと上がったのでそのまま毎年続けています。

あるいは休日が極端に忙しく、客を取りこぼしているような状況のお店なら、休日を高く、平日をちょっとお得に利用できるようにするのもよいでしょう。この場合「土日が高い」ではなく、「平日がお得」だとアピールする方が印象は良いです。

アイドルタイムにアルコールの価格をいっせいに下げる「ハッピーアワー」も価格変動制の一種です。閑散する時間帯に人気商品の価格を少しだけ下げることでお得感を出し、集客を図るのもよいでしょう。

売上の最大化を目指したいのか、来客数を分散させたいのか、あるいはその両方か。自店の状況や目的に合わせて最適な変動価格の仕組みを考えてみてください。

ごまかしや隠蔽はトラブルのもと。なぜこのような仕組みを導入しているのか丁寧に説明を

価格変動制の仕組みを導入するにあたっては、1つ注意点があります。それは先ほども少し触れたように、価格をごまかしたり隠したりしないことです。

今までお得に食べていた方に高い価格を提示するのは気が引けるものです。だからといって価格を隠したまま注文を受けても、会計のときにバレれば「何で言ってくれなかったのか?」とトラブルに発展する恐れがあります。

いつも高い価格を払っている人に安い時間帯があることは知られたくないと思うかもしれませんが、ネット上にメニュー表の写真をアップしている人もいたりする時代ですから、隠し通すことはできません。変に隠蔽したりごまかそうとしたりせず、堂々と変動価格制を採用していることを伝えると良いでしょう。

当店も大晦日には全てのメニュー価格を一律で上げていますが、その日に限っては店前に価格を大きく印刷した紙を掲示し、同意した人にだけ入ってもらうようにしています。

あるいはいつもお得なランチセットを注文されているお客さまが夜に来て、メニューも見ずにお昼と同じ料理を注文されたら、ランチとは値段が違うがそれでも良いかどうかを確認しています。安い価格で食べられると思っていたのに、会計のときになって高い値段を請求され、驚くことのないようにするための措置です。

また、お客さまから価格変動制について聞かれたら、なぜこのような仕組みを導入しているのかをなるべく丁寧に説明するようにもしています。まだまだ認知が広がっていない仕組みゆえ、お客さまに誤解を与えないよう配慮したいものです。


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この記事の著者

弥報編集部

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小保下 グミ(老舗和食店の女将)

老舗和食店の女将。夫が後を継いだ家業で経営全般に関わる。現在は休業中。
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