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中小企業もできる!「ジョブ型雇用」が採用率・生産性アップにつながるって本当?

2024.01.09

著者:弥報編集部

監修者:佐藤 純

日本では現在多くの企業が、人に評価基準を当て込んで給与を決定する「メンバーシップ型雇用」形態をとっています。しかし、働き方改革や人材不足などの時代背景をふまえ、少しずつ「ジョブ型雇用」が注目され始めているのをご存知でしょうか。

ジョブ型雇用は専門性が高い人材が確保でき、生産性の向上が見込めるといったメリットなどがあげられます。一方で、企業風土に合うかわからなかったり、仕事内容があいまいだったりする場合も多く、導入に二の足を踏む企業も少なくないのが現状です。

今回は青山人事コンサルティングの佐藤 純さんに、ジョブ型雇用が注目される背景から、概要、導入の詳細まで幅広くお話を伺いました。ジョブ型雇用のメリット・デメリット、適性を持つ企業の特徴や、導入時の留意点など詳しく解説してもらいます。


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「ジョブ型雇用」とは?なぜ今注目されているのか

「ジョブ型雇用」とは、どのような制度なのでしょうか。

仕事を基準にして採用したり、給与を決めたりする人事制度のことです。

より詳しく解説すると、仕事に合わせて人員を採用・配置し、ジョブサイズ(仕事の大きさ)に適した給与水準の基で成果を出す考え方を指します。ジョブサイズが大きくなればなるほど仕事の難易度も高くなり、より能力の高い人材が必要になるので、給与水準も必然的に上がるというのが、ジョブ型雇用の基本概念です。

一方、人を最初に雇ってから仕事を割り振ったり、年齢や勤続年数などを基準に給与を決めたりする制度を「メンバーシップ型雇用」といいます。

なぜ今、日本でジョブ型雇用に注目が集まっているのでしょうか。

時代の変化を受け、従来のメンバーシップ型雇用を見直す動きが活発になっているからです。

まず世界の傾向を見てみましょう。一般的に欧米諸国ではジョブ型雇用が採用されていることはご存知かもしれませんね。

さらに言うと先進国間で意見交流し、経済成長を促す目的を持つ「OECD(経済協力開発機構)」に加盟する38か国の中で、メンバーシップ型雇用を採用しているのは日本と韓国くらいで、現在給与水準は最下位に近いです。メンバーシップ型雇用が給与水準の低さの直接的な原因であるとは言い切れませんが、ゆるやかな給与アップしか期待できないのは間違いありません。

ジョブ型雇用に関心が向けられる背景として、昨今のグローバル化や物価高騰、コロナショックのような世界同時発生的な不可抗力により、日本も世界水準に合わせるべきだという声が国内で大きくなっていることがあげられます。加えて、日本は労働人口減少という課題も抱えています。人手不足が深刻化していく中で、今後は優秀な人材の獲得がさらに困難になっていくでしょう。さらには多様化する価値観も相まって、一律の時間で管理・評価すること自体に疑問を持つ人動きも増えてきました。

以上のことから、ジョブ型雇用に目を向けるようになったのです。

ジョブ型雇用が企業成長を促す?メリットと懸念点

ジョブ型雇用のメリットは何でしょうか。

大きく分けると、3つのメリットがあげられます。

1つ目は、優秀な人材が集まりやすいということです。技術革新や経済のグローバル化で、企業を取り巻く環境が激変する中、即戦力となる優れた人材を確保できるのは利点といえます。対象の仕事に応じて、人材の能力やスキルを判断材料として採用するので、人材のミスマッチも防げます。

2つ目は組織の生産性が上がり、業務が効率化されることです。社員は自分の職務に集中し能力を最大限に発揮できますから、当然スピードも上がり、精度も高まります。

メンバーシップ型雇用では、どんなに能力があっても、年功序列や勤続年数によって活動の幅が制限されている人材も少なくありませんでした。しかしジョブ型雇用であれば、立場に限らず社員一人一人の能力を活かせるので、会社全体の生産性が上がるのはもちろん、新たなビジネスアイデアが生まれる可能性もあります。

3つ目は、社員のエンゲージメントが上がり、帰属意識が芽生えることです。これは意外に感じられるかもしれませんが、ジョブ型雇用では、優秀な人ほどエンゲージメントや帰属意識が高くなるといわれています。大きな仕事を担当すればするほど、目標達成に向け貪欲に向き合い、責任を持って遂行するため、達成した時の喜びも大きくなるのでしょう。加えて、「会社が自分の能力を評価してくれている」と感じることが、会社に対して良い印象を持つ要因ともなるようです。

時代の変化が激しい昨今、ジョブ型雇用の導入を検討することで、将来を見据えた組織編成を実現でき、企業成長を促せるのではないかと期待されています。

ジョブ型雇用の懸念点は何でしょうか。

文化の違いから、日本人は「能力がある者は評価に値する」という制度に抵抗を持ちやすいという点があげられます。

例えば欧米の若者の間では「大学やインターンシップで専門性の高い能力を身に付けてから就職する」ことが一般的であり、初任給が人によって異なることが当たり前だという認識があります。また社内での待遇は人それぞれで、決して同じものさしでは測れないことを心得ています。

一方、日本では周囲と一緒であることが好まれ、差が発生すると「平等でない」と指摘する文化が根付いています。そのため、年功序列の給与形態が採用されたり、同期全員が同じ待遇になったりするケースが多いのです。

なお、導入に関して業種や会社規模によっては難しいのでは、と懸念される方もいるかもしれませんが、実際はどんな企業でも取り入れられるので心配する必要はありません。時間に比例しない、高付加価値を生みだす職種であれば、さらに導入しやすいでしょう。

重要なのは、日本の高度経済成長期を支えてきた統一的な管理・評価の概念を変化させ、新たな時代にフィットさせた考え方に転換させることなのです。

何から始めればよい?ジョブ型雇用の導入方法

実際にジョブ型雇用を導入する際の手順を教えてください。

ジョブ型雇用は、仕事に対して人を割り振る方法なので、まずは仕事自体の整理が必要です。

仕事の棚卸しを行い、本来やるべき仕事の範囲と内容を見直しましょう。全体像が見えることで、効率的に業務に取りかかれるようになりますし、適した人材を応募・配置しやすくなります。業務構造が複雑な場合は、実際に社員にヒアリングなどをしながらひも解いていきましょう。

その次に作成していただきたいのが、職務記述書です。職務記述書とは従業員一人一人に対して割り振る仕事の詳細や、担当者に求める内容を細かく記した資料です。

職務記述書を作成後、その内容を基に分類法や点数法などによって職務のジョブサイズを判断し、数段階の等級に区分して給与形態を決めていきます。判断基準は、厚生労働省からもガイドラインが出ていますので、参考にしてみてください。

(参考)
職業能力評価基準|厚生労働省

一気に移行するのは経営側にも社員側にも負担になるので、部署ごとに対応していくなど、少しずつ導入すると良いでしょう。

職務記述書に記載する内容を具体的に教えてください。

具体的な記載項目としては、

  • 職務の概要や内容
  • 担当者に期待する事柄
  • 職務遂行に必要な能力と行動

などがあります。

担当者に期待する事柄には、どの程度の到達レベルを期待するかなどをはじめ、売上高、獲得件数、業務の正確性などがあげられますが、企業によって求めるものは異なるので、自社にあった項目を策定してください。

職務記述書は、職務適性や評価項目なども明確にできるので、採用時はもちろん、人事評価時や社員教育時にも活用できます。内容の継続的な見直しは必要ですが、一度作成してしまえばさまざまなシーンで使えますし、職務が「見える化」されると、経営者側も社内の動きを把握しやすくなります。

細かく書きすぎてしまうと制度設計が難しくなり、社員も負担に感じてしまいます。可能な限り簡潔な表記で、明確な職務評価ができる内容にまとめることがポイントです。

ジョブ型雇用を導入する際に注意すべきことがあれば教えてください。

メンバーシップ型雇用に慣れている日本企業で、いきなりジョブ型雇用に切り替えるのは現実的ではありません。段階を踏みながら、徐々にジョブ型雇用を取り入れていきましょう。

特に注意したいのは社員同士の摩擦です。新たにジョブ型雇用で人材を採用する際には、既存社員たちにも「専門職の人材を入れる」と伝えましょう。最初からしっかりと区別し認識しあうという対策を講じれば、双方向の理解を深められます。

既存社員に対しては、メンバーシップ型とジョブ型の給与形態を掲示し、本人に選択してもらう対応なども有効です。その際は、どのような成果を求めるかまで具体的に伝え、明確な同意形成を行いましょう。成果によっては減給などの条件もありますから、トラブルにならないように事前の説明も忘れないでください。

いずれにしても、ジョブサイズに見合った評価制度があることを社内全体で認識し、互いに理解する企業文化を根付かせれば、大きな問題にはならないでしょう。

できることから少しずつ!将来を見据えた導入を

給与水準を一気に上げるのが難しくても、特定の職務に対してジョブ型雇用を採用し、中小企業でも良い環境を提供できるということをアピールすれば、より良い人材を獲得しやすくなるでしょう。適切な投資によって人的資本の価値が高まれば、新たなビジネス戦略が生まれる可能性も増え、ひいては企業価値の向上も期待できます。

変化の激しい時代において、人事採用も転換期を迎えています。企業規模関係なく、世の中の変化をとらえて、食いしばりながらも伸びていく努力をする企業が成長するでしょう。「中小企業だからうちには無理だ」と決めつけず、まずはできることから少しずつ取り組んでみるというチャレンジの姿勢を持つことが重要です。将来を見据え、ジョブ型雇用を取り入れてみてはいかがでしょうか。


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この記事の著者

弥報編集部

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この記事の監修者

佐藤 純(青山人事コンサルティング 代表取締役)

慶應義塾大学経済学部卒業。メーカー勤務後に青山人事コンサルティング株式会社設立。日本経済新聞のコラムを連載執筆(1991年から1997年)。日経ビジネス、日経マネーなどの経済誌に多数原稿執筆。財団法人 日本生産性本部のセミナー講師・本の執筆。現在、人事コンサルタントとして、多数の企業の人事顧問、原稿執筆を活動している。

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