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心理的安全性が「強い会社」を作る!具体的な取り組み方やコツとは?
2023.11.21
部下やメンバーと話す中で「じゃあそれ、やっといて」や「なんでできなかったの?」と言ってしまったことはありませんか?実はそれ、心理的安全性を下げてしまうNGな言動です。
心理的安全性とは、簡潔に言うと「恐れることなく、安心してなんでも言える関係性」のこと。心理的安全性がない会社は、離職が止まらず次世代リーダーが育たなかったり、次の事業の柱を作ることが難しかったり、大きなトラブルになるまで問題が放置されてしまいます。いずれ大きな損失を被ったり経営危機に陥ったりする可能性すらもあります。それくらい、心理的安全性は良い組織の形成と、会社の発展のために大切な要素なのです。
今回は『心理的安全性のつくりかた』の著者、株式会社ZENTechの代表取締役である石井 遼介さんに、心理的安全性を高める方法やメリットなどを伺いました。心理的安全性を下げてしまうNG言動についても紹介しています。自分がNG言動を行っていないか、確認してみましょう。
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目次
心理的安全性とは?
最近「心理的安全性」という言葉をよく耳にします。「心理的安全性」とは、どのようなものなのでしょうか?
心理的安全性とは、地位や経験にかかわらずだれもが率直な意見や素朴な疑問を言える、あるいはお互いに言い合える組織やチームの状態のことです。
心理的安全性が欠ける組織では、小さな問題が報告されず、大事になるまで気付かれないリスクが高い組織です。例えば、従業員が小さな問題を上司に報告しないため、事態が悪化し、顧客からのクレームがあってはじめて問題を認識する事例などが挙げられます。場合によっては、自社工場が火事になったという事実を、社内の情報伝達より先にニュースやマスコミからの連絡で社長が把握するというケースすらあります。
心理的安全性があれば、問題が小さなうちに、あるいは発生して即座に情報が共有されるため、危機回避や損失削減が可能です。さらに、ネガティブな出来事の防止だけではなく、組織・チームで気づきやアイデアが活発に交換されるため、優れた工夫や新しい事業のタネが生まれます。
要するに、心理的安全性は情報共有を促進し、経営上のトラブルを未然に防ぎ、そして未来を作るために不可欠です。
なるほど。心理的安全性の有無は組織に大きな影響を与えるのですね。上記の他にも、心理的安全性を確保することのメリットはあるのでしょうか?
はい。まず、心理的安全性はチームのパフォーマンス向上につながります。心理的安全性の高い環境では、メンバーが進んで間違いや失敗をチーム内で共有しますから学びの機会が増え、チームの成長が促進されます。一方、心理的安全性が低い環境ではメンバーは叱責を恐れて個人の失敗を隠すようになり、結果としてチームの成長も制限されます。
また心理的安全性の向上は、離職の抑制にもなります。私たちZENTechでも、離職者と勤続者の心理的安全性について研究を行いました。1万人近くを1年以上追った研究の結果、離職者の心理的安全性は勤続者のそれと比べ、どの年代でも低いことが分かりました。つまり心理的安全性が低い状態を放置すると、従業員の離職につながってしまうといえます。
最後に心理的安全性の高まりはイノベーションの促進にも一役買います。従業員が積極的にアイデア、意見や新しい発想を出しあえる状態が、心理的安全性の高さです。さまざまな視点から出し合う多様な意見が、イノベーションや次の事業の柱を導きます。
「言ったもん負け」になってない?心理的安全性が低い会社に見られる傾向
心理的安全性の低い会社に見られる特徴を教えてください。
よくある特徴は、以下の7つです。
- 「うちの会社って言ったもん負けだよね」「うち何やってもダメだから」といった諦めムード、不信や忖度、不機嫌な雰囲気がある
- 罰と不安によって社員が動かされている
- 他責思考の社員が多く、自らの責任を転嫁する傾向がみられる
- 業務が社長1人や一部の社員に集中し、お互いに助け合わない
- 上司と部下、社長と社員など上下関係間の距離が遠すぎる
- 「これはうちの仕事じゃない」「〇〇部さんの仕事ですよね」と考えて他部門の問題や改善点を見逃し、会社全体で協力する姿勢がみえない
- 新人は入っても定着しない、活躍しない
総括すると、心理的安全性が低い会社では、社員の自主性と協力が阻害され、結果として生産性と成長が損なわれる傾向があります。
上記は会社全体を見たときの特徴でしたが、経営者自身が社員に対して「自分の心理的安全性が低い」と感じるケースもあるのでしょうか?
あります。これは経営者だけではなく、上司から部下への心理的「非」安全性として、一般的にみられる傾向です。大企業などでは、課長クラスにそのような傾向が多くみられます。事業の成功や、部下の成長のために必要なことであっても指摘できないようなとき、上から下への心理的安全性が低いといえるでしょう。
では逆に、心理的安全性が高いとは具体的にはどのような状況を指すのでしょうか?
以下の「日本版 心理的安全性4つの因子」があるとき、私たちはその組織・チームに心理的安全性を感じます。
- 話しやすさ:社員同士が自由に意見を言い合える
- 助け合い:社員同士がお互いに助け合える、助けを求められる
- 挑戦:新しいアイデアや手法を提案、挑戦できる
- 新奇歓迎:これまでの組織の常識にない考え方を積極的に取り入れている
要するに、心理的安全性が高い組織では、社員が自由にコミュニケーションを取り、協力し、革新的な挑戦を行える環境が形成されています。
声掛けが重要!心理的安全性を高める方法
心理的安全性を高めるために、経営者はどのように社員と接するべきでしょうか?
何よりも大切なことは、経営者自身の行動を変えることです。おすすめしたいのは、「声を掛ける言葉」から変えていくことです。
声掛けの言葉には、大まかに「きっかけ言葉」と「おかえし言葉」という2つのカテゴリーがあります。きっかけ言葉とは「~してください」のように、依頼や行動を促す言葉で、おかえし言葉は「~してくれてありがとう」などの言葉のことです。行動を促すきっかけ言葉と、行動や結果を受け止めるためのおかえし言葉をセットで捉えることが重要です。
まずきっかけ言葉で重要なポイントは、社員が挑戦するハードルを下げて、背中を押すことです。そのためには、相手のレベルにあわせて「かみ砕いて伝える」ことが大切です。例えば社長が「もっと売上を上げてくれ」と抽象的なきっかけ言葉をかけた場合、社員たちは「頑張ります」とは答えることが予測できます。しかし「何を頑張ればよいかがわからない」ため、成果にはなかなか結び付かないことが多いでしょう。
社員が「そうか、この行動をもっと頑張れば、成果につながりやすいんだな」と感じることができ、実際に行動に移しやすい「きっかけ言葉」の声かけが大切です。
一方おかえし言葉では、頑張った人や行動した人がハッピーに感じる言葉を、できるだけその場で即座に伝えることが重要です。上の立場になると、指示命令などの「きっかけ言葉」は頻繁に使う一方で、おかえし言葉が少なかったり不適切な言葉を使ったりするケースが散見されます。
例えばタスクをお願いして部下が進捗を報告してくれた際「ここまでやってくれてありがとう」と伝えるべきなのに「まだ、これだけしかできていないのか」と言ってしまうなどです。ご自身のおかえし言葉を振り返ってみましょう。
心理的安全性を高める取り組みを実施する際、入社したての社員と長く在籍している社員ではなにか異なる対応が必要でしょうか?
入社したての社員は、自分が的外れなことをしてしまうのではと心配するケースがよくあります。新入社員の心理的安全性を高めるためには「外の会社の経験を知りたい」「若手の意見も知りたい」「うちの常識じゃないことも知りたいから、気付いたことがあったら何でも教えて」といった「きっかけ言葉」が効果的でしょう。
また既存の社員が「だれがどんな人か」で「どんな仕事をしているか」をドキュメントにまとめておくのもよいでしょう。「周りの人が何をやっていて、自分がどこで貢献できるかがわかる」絶好のきっかけになります。
これらの「きっかけ言葉」は言いっぱなしではなく、実際に耳慣れない意見を耳にしたときに、すぐに却下するのではなく「その視点はなかった!もっと詳しく教えてもらえますか?」といった「おかえし言葉」と、セットで使ってみてください。
逆に、心理的安全性を下げてしまう言動を教えてください。
例えば以下のような言葉は心理的安全性を下げてしまいます。
- 「それやっといて」
例えば社員が意見や改善案、アイデアをだした際、社長が何の気なしに「じゃあ、それやっといて。任せたよ」と言ってしまうことがあります。社長も悪気なく軽い気持ちで言っているのですが、言われた社員は「既に別の仕事を抱えているから厳しいのに……言わなければよかったな」と思ってしまいます。そうすると、次回良いアイデアを思いついたり、解決すべき課題を発見したりしても、言ってくれなくなる可能性が上がってしまうのです。
もちろん、提案をしてくれた社員が課題解決に取り組むのは良いことです。しかし、その人1人に任せるではなく、例えば「それってだれに相談したら進みそうですか」と一言添えるだけで、発案者が孤独に「やらされる」不幸な状況を回避できます。社長が手を差し伸べて、関係者に協力を依頼する姿勢も大切です。
- 「意味がわからないんだけど」
経営者から「意味わかんないんだけど」という言葉が発せられることがあります。さまざまな思考を張りめぐらせている経営者がイライラした際につい口に出るフレーズですが、実はこのフレーズは生産性を下げてしまいがちです。
それは、この言葉を言われた側は「すみません」としか言えず、具体的な工夫や問題解決につなげられないからです。
もう少し理解を深めたいと思うのであれば、範囲を絞って質問してみるのがおすすめです。「意味がわからない」ではなく「ここのところがよくわからないんだけど、もう少し教えてくれますか?」と具体的な疑問を述べましょう。
- 「なんでできなかったの?」
この質問も、実は相手を謝罪させてしまうことが多く、本当に知りたいはずの具体的な原因を教えてもらえることが少ないフレーズです。プロジェクトが遅れた理由を知りたい場合、「なんで納期通りできなかったんだ」と問うかわりに「どのステップでつまずいたのですか?」と質問すると、具体的な問題点や課題が明らかになります。
- 社員に「やる」と宣言したことが、立ち消えになってしまう
効果がありそうだと感じて始めたことを数回トライして、効果が感じられずやめてしまう。よくある光景ですが、これはNGです。こうした行動は社員に「社長がまた思い付きで何か始めたけれど、どうせまたすぐ別のことを始めるんだろう。」と思わせてしまい「社長のブームが去ったらまた元に戻るから、この1~2か月は耐え忍ぼう」という雰囲気になってしまいがちです。社長が意思決定をして、変革をもたらそうとする際の障害になります。
「やる」と宣言した何かをやめる際は「○○に取り組もうと思ったけど、うまくいかなかったからやめるね」など、「やめる」ときちんと宣言しましょう。
やり方を変えるときも同様です。突然変えるのではなく「これまでの方法がうまくいかなかったので、目標は変わらないけど、自分のやり方をちょっと変えてみます」と伝えるようにしましょう。
- 部下の話を遮って自分の話をする
社長が社員の話を聞いて「あ、それそういえば俺もさ」と話を奪い取ってしまうことも、避けましょう。何かを報告してもすぐに「俺はこうした」という自慢話にもなると、メンバーは社長に話す気をなくしてしまいます。
相手の話をしっかり聴くことは、心理的安全性を確立するために非常に重要なことです。まずは最後まで社員の話を聞きましょう。イメージとしては「相手にスポットライトを当て続けながら聴く」ことです。
社内の心理的安全性を高める際の始め方があれば、教えてください。
経営者の方におすすめしたい始め方は「心理的安全性宣言」と「行動の約束」です。
心理的安全性宣言とは、心理的安全性を確保することと、自社の事業や経営者の目指す組織とのつながりです。「他でもない我が社は、心理的安全性を確保することで、このような組織をつくり、このようなミッションの実現や事業成長を実現する」という経営の意思を示すことです。
もし、宣言する内容が思いつかない場合、それはむしろチャンスです。まず役員や信頼できる社員に「心理的安全性の強化に取り組もうと思うが、どんな風にスタートしたら社員が受け入れやすいかな?」などと相談し、助けを求め、仲間をつくっていきましょう。
行動の約束とは、そのような心理的安全性の高い組織の実現に向け、経営陣自らが「そのために私はこのように行動を変える」と約束し、それを守り続けようとする姿勢を示すことです。
社員は社長や役員の行動をよく見ているものです。例えば「社員からのトラブル報告があった場合、遮らず最後まで必ず聞く」とった約束をするといった行動をとるのもよいでしょう。新しくたくさんの行動をとると大変かもしれませんが、やってしまっているNG行動をやめるという約束であれば、スタートしやすいです。
心理的安全性が高まったかどうかを確認する方法
心理的安全性が高まったかどうかを判断する指標や、調査方法があれば教えてください。
話しやすさ・助け合い・挑戦・新奇歓迎の4つの因子をものさしとして、チームごとの特徴をつかむことが重要です。同じ会社内でも、経理チームは心理的安全性がきわめて低いかもしれませんが、営業チームは高く、技術チームは普通といったように、チームごとに見ていきます。
また、社内で施策を実施する場合は、その前後で計測することをおすすめします。そうすることで「1回目の評価が低く、危機的状況だな」と気付き、2回目の評価に向けてどのようにコミュニケーションを改善していくかといった話し合いができるでしょう。データを皆で見ながら対話をすることで議論の空中戦を防ぎ、具体的な施策や解決策を導く、地に足のついた対話がしやすくなるという副次効果もあります。
また、先ほど述べた心理的安全性の4つの因子を活用した「SAFETY ZONE」という組織診断のサービスもありますので、そちらの利活用もご検討ください。
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この記事の著者
弥報編集部
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この記事の監修者
石井 遼介(株式会社ZENTech 代表取締役 慶應義塾大学SDM研究所研究員)
東京大学工学部卒。シンガポール国立大学 経営学修士。組織・チーム・個人のパフォーマンスを研究し、アカデミアの知見とビジネス現場の橋渡しを行う。心理的安全性の計測尺度・組織診断サーベイを開発すると共に、成果の出る組織づくりを推進。
著書「心理的安全性のつくりかた」、監修「心理的安全性をつくる言葉55」
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