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大企業だけじゃない!中小企業でも導入できる法定外福利厚生制度とは

2021.02.09

「福利厚生は大企業のもの」と思われがちですが、実はそうではありません。社員の定着率が低い中小企業にとっては、エンゲージメント強化施策として福利厚生制度が有効なため、中小企業こそ福利厚生は活用すべきです。

社員育成には、非常にコストがかかります。そのため、社員の定着率アップは中小企業がウィズコロナ、アフターコロナともいわれる新しい時代を生き抜くうえでも非常に重要な課題といえるでしょう。

そこで今回は、企業経営を主に人事労務の面からサポートしているMORI社会保険労務士・行政書士事務所 代表の森 慎一氏に、中小企業でも導入できる法定外福利厚生制度についてお話を伺いました。


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中小企業における福利厚生の現状

そもそも福利厚生とはどのようなものなのか、簡単に説明していただけますか?「法定福利」と「法定外福利」の違いについても教えてください。

福利厚生とは、一般的には企業が基本的な労働条件とは別に、従業員やその家族の生活の安定など福祉向上を目的として実施するさまざまな施策のことです。

福利厚生のうち、法律で会社に負担が義務づけられているものを「法定福利」と呼びます。例えば、「健康保険」や「労災保険」などの社会保険がこれに該当するものです。

これに対して、法定福利以外の福利厚生を「法定外福利」といいます。例えば、住宅や医療・健康に関係する費用の補助などが該当します。その他にも、通勤交通費の支給や社員旅行、特別な休暇制度、永年勤続表彰などが含まれる場合もあります。

現在、中小企業の法定外福利の浸透度はどの程度でしょうか?

法定外福利は、大企業と中小企業の格差が大きい部分です。大企業では導入が進んでいるメンタルヘルス相談窓口や財形貯蓄制度なども、企業規模が小さくなるほど導入割合が低くなる傾向にあります。おそらくは、費用や管理の負担が重いためでしょう。

しかし近年は人材確保の観点から、中小企業でも福利厚生に力を入れる企業は増えてきているように感じます。中小企業の場合の特徴は、自社の業種や従業員の特性に合ったものに絞っているケースが多いことです。

例えば、高齢化が進んでいる企業では人間ドックの費用補助、建設業や運輸業などでは労災補償給付の上乗せが受けられる民間保険に加入するケースも少なくありません。とはいえ大企業に比べると、メニューの少なさは否めない部分もあります。

社員に人気の法定外福利にはどのようなものがありますか?

健康関連の福利厚生は人気があります。人間ドックやインフルエンザ予防接種の費用補助は、利用率が高いようです。また、住宅手当の支給や食事代、保養所やジムなどの施設使用料の補助などのように直接メリットが感じられる施策も従業員に人気があります。

中小企業が福利厚生制度(法定外福利)を導入するメリット・デメリット

中小企業が法定外福利を導入するメリットを教えてください。

中小企業が法定外福利を導入するメリットは、人材の確保・定着や仕事に対するモチベーションの向上があります。特に近年は、人材不足の影響で前者のメリットに注目が集まっているようです。

もっとも、経営者によっては「法定外福利が人材の確保・定着に与える効果をなかなか実感できない」という声も聞かれます。確かに、特定の福利厚生があることが退職を踏みとどまる決め手になるかというと、そうではないでしょう。

しかし、福利厚生が充実していることで従業員に安心感や信頼感をもたらし、それが結果として心理的なエンゲージメントにつながる点にも注目していただきたいです。実際、ある研究機関の調査(※)では、企業の福利厚生制度への満足度の割合が高いほど、現在の企業に「勤め続けたい」とする割合が高くなっていると報告されています。

さらに興味深いのは、福利厚生制度に「やや不満足」「不満足」の場合「どちらかといえば勤め続けたくない」「勤め続けたくない」の割合が顕著に高くなっている点です。従業員の期待を下回る福利厚生しか用意できない場合、離職につながりやすいという結果は注目すべき点だと思います。

「企業における福利厚生施策の実態に関する調査」(2020)|独立行政法人 労働政策研究・研修機構
法定外福利を導入するデメリットや注意点があれば教えてください。

中小企業にとって法定外福利を導入するデメリットは、やはり費用負担と管理負担です。

いくら経営者が福利厚生を充実させたいと思っていても、人員と予算が限られている中でどのような制度を導入すべきか、頭を悩ませている事例は少なくありません。

注意点でいうと、無理のない範囲で導入することは当然ですが、中小企業の場合は目的を明確にすることが大切です。福利厚生は単純に従業員が喜べばいいというものではなく、企業にメリットがなければ意味がありません。

例えば、専門的な知識が求められるような業種では、本人の継続的な自己研鑽が求められますので、図書購入や資格取得にかかる費用補助などを実施している企業もあります。また、住宅手当を支給するにしても、通勤への負担緩和や休息時間確保のために、企業の近くに住む従業員を対象とする企業も多いです。

一方で、利用してもらえなければ導入しても効果がないので、従業員のニーズとのバランスも大切です。先ほど紹介した人間ドックやインフルエンザ予防接種の費用補助などを導入する企業が多いのは、企業と従業員双方にメリットがあるためでしょう。

従業員のニーズを把握するためには、話し合いの場を設けるなど、意見を吸い上げる工夫が大切です。従業員から提案があった制度は、利用率も自然と高くなります。

近年大きな課題となっているのは、非正規雇用の取り扱いです。これまで福利厚生は、基本的に正社員に対する待遇という印象が強くありました。

しかし、パートタイム・有期法により正社員と非正規雇用との不合理な労働条件の相違が禁止される、いわゆる「同一労働・同一賃金」が定められ、手当や休暇などについても、処遇格差を違法とされる裁判例が続出しています。非正規雇用の割合が約4割を占める現在においては「非正規だから」という理由だけで福利厚生から外すのは、法令上のリスクがあることにも注意が必要です。

法定外福利の種類

法定外福利にはどのようなものがあるか、代表的なものを紹介してください。

代表的な法定外福利には次のようなものがあります。

「企業における福利厚生施策の実態に関する調査」(2020)より導入割合の高いものを抜粋|独立行政法人 労働政策研究・研修機構

法定外福利の導入に関しては企業側の自由ですが、最低限導入しておくべきものとしては「病気休職制度」があります。これは業務外の病気やケガで長期間働くことができなくなった場合に、すぐに解雇するのではなく一定期間回復を待つ制度です。病気休職制度があることによって、従業員の方も安心して治療に専念できます。

また中小企業においても「慶弔休暇」や「慶弔見舞金」は導入しているところがほとんどです。

ちなみに近年の福利厚生のトレンドは、健康と自己啓発だといわれていて、関連する施策を導入する企業が近年増加傾向にあります。

健康関係では、人間ドックやインフルエンザの予防接種の補助などが代表的です。また食事代補助なども、独身男性社員が多い企業でバランスの良い食事をとってもらうために設けられる場合があります。

自己啓発は、社外講師を招いての講習会実施や社外講習の受講費用補助などがあります。社外の講習やセミナーを受ける日は、特別休暇の取得を認める企業もあります。

その一方で、以前は多かった「住宅手当」や「家族手当」といった生活関連手当は、見直しを行う企業が増えてきています。こちらに関しては、先ほども取り上げた同一労働同一賃金の影響も少なくありません。

「退職金」も、代表的な福利厚生の1つです。中小企業では、比較的事務負担が軽い中小企業退職金共済(中退共)に加入することが多いのですが、最近では確定拠出年金を利用する中小企業も増えてきています。さらに、2018年にスタートしたイデコ(※)に加入している従業員の掛金に企業が追加して掛金を拠出できるイデコプラスを導入する企業も、今後は増えていくでしょう。
※イデコ(iDeco)とは、任意加入の私的年金制度で、自分で拠出した掛金を自分で運用して資産形成を行います。

最近ではユニークな法定外福利も増えていると聞きますが、どのようなものがあるのでしょうか?

特別休暇制度には、個性的なものがたくさんあります。例えば、従業員や家族の誕生日・記念日に取得できる「アニバーサリー休暇」や、ボランティアに参加する際に取得できる「ボランティア休暇」などが挙げられるでしょう。

また、競泳の池江 璃花子選手が白血病であることを公表したこともきっかけの1つになっているようですが「ドナー休暇」を導入する企業も増えています。一方、同性パートナーの場合でも「アニバーサリー休暇」や「慶弔見舞金」などを認めるといった、LGBTの方に配慮している企業もあります。

その他の珍しい例としては「失恋休暇」や「親孝行休暇」、「ペット忌引き休暇」などの特別休暇を導入している事例があります。親孝行休暇の事例の1つでは取得後に親孝行の内容を社内報告する必要があるのですが、それによって職場の雰囲気も良くなり、コミュニケーションの活性化にもつながっているようです。

健康関係では、IT関係の企業で定期的に整体師が訪問してマッサージを受けられる福利厚生が、人気があると聞いたことがあります。また中高齢社員を対象に骨粗しょう症検診の費用を全額補助するものもあるようです。

最近では企業として禁煙に取り組む事例も増えており、禁煙外来を受診した従業員に費用補助を行う企業もあります。これらも従業員の特性やニーズに合わせた福利厚生といえるでしょう。

この他にも、ビジネスファッションセミナーを実施しているところもあります。昔から新入社員向けの研修で身だしなみ程度はありましたが、クールビズなどの普及もあり最近はスタイリストが講師になる研修もあります。中には座学の後でショッピングに同行してくれるものもあるそうです。企業が1着プレゼントしてくれたりすれば、従業員の方も嬉しいですよね。

ユニークな法定外福利も増えているんですね。

そうですね。他にも、子連れ出勤が可能な企業があります。当初は育休中の社員が子どもを預けられる保育所が見つけられず、やむを得ず始めたそうですが、結果的に育児と仕事の両立支援となった福利厚生といえるでしょう。

また、空きスペースをリフレッシュルームに使用している事例もあります。ソファやコーヒーマシン、お菓子を配置したりするだけでもちょっとした休憩スペースになり、そこでの雑談から良いアイデアが浮かんだという話もあります。中には、休憩スペースで20分程度の昼寝を認めている企業もあるようです。

このように、最初から積極的な効果を期待したわけではなかったことが、結果的に効果的な福利厚生につながることもあるのです。

中小企業が福利厚生を充実させる方法

中小企業が福利厚生制度を充実させるために、何か有効な方法があれば教えてください。

中小企業の場合は予算や人員が限られているため、ポイントを絞った施策が中心になりがちで「充実」させる余裕がないケースが多いです。企業によっては自社製品の「社割」や、関係のあるレストランや施設の割引利用などといった形で工夫されている経営者もいますが、限界があります。

そのような場合には、福利厚生のアウトソーシングを提案することもあります。アウトソーサーが提供する福利厚生パッケージを利用すれば、点の福利厚生から面の福利厚生に広げることが可能です。

中小企業の場合、地域の勤労者福祉サービスセンターに加入すれば比較的安価な費用で幅広いサービスを受けられます。ちなみに、この記事を読んでいる方は何らかの弥生製品を利用されていると思いますが、弥生製品のあんしん保守サポート会員であれば無料で利用できる弥生の福利厚生サービス「クラブオフ」の活用もおすすめです。

福利厚生に活用できる助成金などもあるのでしょうか?

はい、あります。専門的な知識・技能の習得を目的として、事前に立てた計画に沿って訓練を実施した場合に、訓練中の賃金や訓練費用の一部を助成する「人材開発支援助成金」がその一例です。

また有期雇用の従業員を対象に、法定水準を超える健康診断を行った事業主に対して一定額が支給される「キャリアアップ助成金(健康診断制度コース)」という助成金もあります。こちらを利用して、非正規雇用への福利厚生充実に取り組む経営者も多いです。

ただし、助成金は毎年変更される可能性があります。さらに、事前の計画書作成が必要になる場合が多いため、事前にインターネットでの情報収集や労働局の担当部局に相談してください。

弥生のあんしん保守サポート会員さまにご利用いただける福利厚生サービス「クラブオフ」についての記事もぜひご参考ください。

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※あんしん保守サポート会員
登録者(主に経理担当者や経営者)だけでなく、従業員やその家族でも利用可能。
https://www.yayoi-kk.co.jp/yss/service/cluboff/index.html

この記事の著者

弥報編集部

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この記事の監修者

森 慎一(MORI社会保険労務士・行政書士事務所 代表)

立教大学法学部卒。進学塾講師、都内社会保険労務士事務所勤務を経て、平成25年9月にMORI社会保険労務士・行政書士事務所を設立。講演・セミナーの講師も多数務める。学校での労働法教育などの社会貢献活動にも積極的に参加している。

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