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デキる経営者が1on1面談で確認している「キャリアデザインの3つの輪」

2021.02.12

社員との1on1面談の重要性は理解しているものの「何を話せばいいのかわからない」というスモールビジネスの経営者は少なくありません。信頼関係を作るために雑談は必要ですが、雑談で終わってしまってはもったいないものです。そこで必ず確認したいのが、「キャリアデザインの3つの輪」です。今回はこの理由と効果について説明していきます。

面談で押さえておくべき社員の「キャリアデザインの3つの輪」

前回「社員との信頼関係を築き上げる、効果的な1on1面談の始め方」の記事でお伝えしたように、経営者と社員が面談でコミュニケーションを図る際は、その目的を明確にすることが大切です。ただの雑談だけで終わってしまっては意味がないからです。

では何をどう話せばいいのでしょうか。今回はデキる経営者が社員との面談で必ず確認している「キャリアデザインの3つの輪」の考え方から説明していきましょう。

キャリアデザインとは「キャリアの目的地」(将来の望ましい自分像)と「現在地」(現状の自分)を結ぶ道筋を戦略的に描くことです。そして、その道筋を考えるうえで、重要になるのが3つの輪です。まずは図1をご覧ください。

図1 「WILL・CAN・MUSTの3つの輪」

理想的なキャリアデザインとは、「やりたいこと(WILL)」「やれること(CAN)」「やるべきこと(MUST)」の3つの輪が重なる部分を大きくしていき、さらに輪自体も広げていくことです(したがって、「WILL・CAN・MUSTの3つの輪」とも呼ばれています)。

社員自身が「やりたいこと」を明確にし、それを「やれる(こと)」だけの能力を身に付け、会社から期待される「やるべきこと」を果たしていくことは、キャリアを主体的に考えるうえで大切なことです。

そして経営者の視点から見ても「社員のやる気を最大限に引き出し、社員を成長させながら会社としての成果を上げていく」という考え方は、会社を長期的に存続させるために理に適ったものになります。この「3つの輪」をもう少し詳しく見ていきます。

やりたいこと(WILL)

本人の欲求や将来の希望を指します。入社動機や働く動機もこの輪の中にあります。社員の「やる気」の源泉はここに存在します。社員のやる気を最大限に引き出すには、この「やりたいこと」をしっかり認識させることです。

やれること(CAN)

担当する業務に必要なテクニカルスキル、どんな業種や職種でも通用するポータブル(持ち運び可能な)スキル、専門知識など、「何ができるか」という人材価値のことです。社員の成長は、会社の成長に直結します。社員を成長させることは経営者の責務です。

やるべきこと(MUST)

周囲からの期待や役割を指します。広義では、世の中のニーズに応えることや社会人として果たすべき義務になります。会社では具体的な業務目標がこれに当たります。社員に目標達成への執着を持たせることも重要です。

デキる経営者は、この「3つの輪」を常に意識しながら会話をしています。逆にダメな経営者は「キミの今期の売上目標は3億円だ。死にもの狂いで売ってこい!」と「やるべきこと」のノルマとなる数字を振りかざし、社員の尻を叩くだけ叩きます。こういう経営者は、「なぜその仕事が重要なのか」「それをやることで、本人の目指す姿にどう近づくのか」「どういう能力が獲得できて、何を伸ばせばいいのか」などについてまったく説明しません。

また「あなたには、もっと論理的な思考力が必要だ」などと言い放つだけで、具体的にどうすればその力が身に付くのかを導きもしない、評論家スタンスの経営者もいます。しかし最新型の武器を与えても、武器の具体的な使い方を教えなければ、与えられた人は戦力にはなりません。これでは社員もやる気をなくしてしまいます。

経営者がこの「3つの輪」をしっかりと認識し、1つひとつをヒアリングしながら話を進められれば、面談の質もグッと上がるはずです。

「3つの輪」のバランスの偏りによって、指導ポイントは変わる

経営者は社員の「3つの輪」をバランスよく広げていくことが求められるわけですが、社員の中にはそもそも「やりたいこと」「やれること」「やるべきこと」のバランスが偏った人もいます。

例えば「やりたいこと」の輪が小さな社員は、自分の将来のイメージが漠然としていて、やりたいことが明確になっていません。目指すべき方向がわからず、周囲に流されやすくなり「自分の意見がはっきりと言えない意志薄弱型」と見なされがちです。

この「やりたいこと」が不明瞭な社員に対しては、まず入社動機をしっかりとヒアリングして、「そもそも何のために仕事をしているのか」という原点に立ち返らせることです。また、過去のターニングポイントでの決断にヒントがあることも多いので、それに気づかせるために、「今までの人生で充実していた、やりがいを感じたのはどんなとき?」「自分にとって重要な決断をした際の判断基準となった考え方や価値観にはどんなものがあった?」といった質問も有効です。

「やれること」の輪が小さな社員は、いくら「頑張ります!」と気持ちが前のめりになっていたとしても、スキルや知識が伴わないので結果が出ません。いわゆる「やる気が空回りしてしまうスキル不足型」と言えるでしょう。

このタイプの社員は、スタンスは問題がないので、社長がきちんと「まずは目の前の仕事に一生懸命になりなさい。そうすれば、おのずと力は蓄えていけるから」と、スキルアップの道筋を示すことが肝要です。そのためにも社員の観察と分析が欠かせません。「どこまでできて、どこからできないのか」の際(きわ)の部分を見極め、できないことができるようになるよう、着実にスキルを積み上げられる指導をしてください。このタイプの社員は、スキルを獲得するコツをつかむと一気に伸びます。

「やるべきこと」の輪が小さな社員は、自己中心的な存在と見られやすく、同僚とうまく協働できないことがあります。「組織の中での役割認識不足型」です。このタイプの社員は自分自身のこだわりが強い傾向にあるので、ともすれば扱いづらく感じるかもしれませんが、もともと意思も能力もあるので、考え方さえ変わればその瞬間から戦力になります。いわゆる「大化けする」可能性の高い人材です。

この傾向のある社員に対しては、じっくりと向き合い、会社からの期待を込めて組織内での立場や役割を辛抱強く伝えることです。苦手意識や先入観を持って面談をしてはいけません。その人の弱みに着目するのではなく強みに着目し、組織の中での存在感や影響力を自ら認識するようにうまく導いていただければと思います。

このように社員の「3つの輪」のバランスがどうなのかを把握し、欠けている部分があれば、そこを伸ばすように指導していくのが経営者の役割になります。

社員は将来の「やりたいこと」が明確になり、そのために目の前の仕事である「やるべきこと」に主体的に注力できれば、おのずと「やれること」も増えていきます。社員の3つの輪が大きくなれば、結果的に会社も成長するというわけです。

年度初めの1か月のコミュニケーションが、1年間の成果を決める

イタリアの経済学者ヴィルフレド・パレートが提唱した「パレートの法則」というものがあります。例えば、「日本の高額所得者上位2割の人が、日本の資産の8割を占有している」とか「全商品のうちの売上高上位2割の商品が、売上の8割を生み出している」など、2割が8割に影響するというもので、それゆえに「2割8割の法則」と呼ばれることもあります。この法則、視座の高い経営者の方ならピンとくるのではないでしょうか。

日々の業務にパレートの法則を当てはめてみると、「重要度の高い2割の仕事が、8割の成果を生み出す」ことになります。図2をご覧ください。

図2 「パレートの法則」

そうであるならば、経営者の役割は「重要度の高い2割の仕事を見極め、そこに集中させる」ことに他なりません。

特に仕事の優先順位をあまり理解していない若手社員などは、重要度の低い仕事にばかり集中していて、結果的に重要度の高い仕事を先延ばしにしてしまうことも多いものです。しかも重要度の低い仕事はとかく汗をかくものも多く、本人の充実感や達成感を満たします。社員がどんなことに忙しくしているのか、重要度の観点から定期的に点検してみましょう。そして重要度の高い仕事にシフトさせることが経営者の仕事です。

次に、このパレートの法則を社員との面談のコミュニケーションに当てはめてみましょう。すると、いつ何に集中すればいいかがわかってきます。

私の場合、部下とのコミュニケーションは年間を通じて平均的に行うのではなく、最初の2割の部分、極論すれば年度初めの1カ月に大きなエネルギーを割きます。なぜなら、1年間の成果は、この最初の1か月間の経営者と社員とのコミュニケーションの質と量が決め手になると断言できるからです。

この1か月で社員全員と「3つの輪」について確認し、とりわけ「やるべきこと」(ここでは会社からの期待、言い換えると、年間目標)についてコミュニケーションを取ります。それが腹落ちできていれば、残りの11か月は、年度初めにお互いで決めた確認事項の軌道修正やその都度起きたアクシデント対応に費やせばよく、組織運営はだいぶ楽になります。

その分、最初の1か月は、相当なエネルギーを費やしますので覚悟してください。もちろん、部下の成長段階によって面談時間も変わります。ベテラン社員と若手社員では、どうしても若手の方に時間を取られる傾向にあります。

年度初めは、経営者にとって全社の目標達成のために戦略を考える時間も必要です。そんなただでさえ忙しい時期に一人ひとりと面談を行うのですから、相当な体力と集中力が求められます。「そんなに時間を取られたら、本来の社長の仕事などできやしない」という方は、今すぐにその考えを改めましょう。社員とコミュニケーションを取り、モチベーション高く仕事に取り組んでもらうことこそが経営者の本来の仕事なのです。

社長が1人で会社のことを何もかもしているようでは、会社は社長の器以上に大きくなることはありません。社員に権限委譲していくからこそ、会社は社長の器を超えて成長を続けることが可能になるのです。

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この記事の著者

田中 和彦(たなか かずひこ)

株式会社プラネットファイブ代表取締役。人材コンサルタント/コンテンツプロデューサー。1958年、大分県生まれ。一橋大学社会学部卒業後、リクルートに入社し、4つの情報誌の編集長を歴任。その後、映画配給会社のプロデューサー、出版社代表取締役を経て、現在は、「企業の人材採用・教育研修・組織活性」などをテーマに、“今までに2万人以上の面接を行ってきた”人材コンサルタント兼コンテンツプロデューサーとして活躍中。新入社員研修、キャリアデザイン研修、管理職研修などの講師や講演は、年間100回以上。著書に、『課長の時間術』『課長の会話術』(日本実業出版社)、『あたりまえだけどなかなかできない42歳からのルール』(明日香出版社)、『時間に追われない39歳からの仕事術』(PHP文庫)、『仕事で眠れぬ夜に勇気をくれた言葉』(WAVE出版)など多数。

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