- 事業成長・経営力アップ
スモールビジネスの事業拡大や新規事業、どう対処する?【教えて吉田先生!】
2023.10.10
弥報Onlineでは読者から資金調達に関するお悩みを募集しています。回答するのは、財務・資金調達コンサルタントの吉田 学先生。
今回はスモールビジネスを展開する事業者の方から、事業拡大や新規事業展開についての相談をいただきました。
「小規模事業者が、開発・研究に力を入れるなどして、事業拡大や新規事業展開を図る時、資金繰りの面ではどのような課題がありますか?有益な情報などあれば知りたいです。」
このようなケースで想定される課題について、吉田先生がわかりやすく解説いたします。
※本記事は2023年9月13日時点の情報を基に作成しております。法令などの最新情報については、政府から出ている文書をご確認ください。
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目次
小規模事業者が事業拡大および新規事業展開をする際に抱える課題とは?
今回はスモールビジネスでの事業拡大や、新規事業展開時の開発・研究に関する課題についての質問をいただきました。一般的に、小規模事業者に多い課題はどのようなものがありますか。
「日本政策金融公庫2022年度新規開業実態調査」および「2021年版小規模企業白書」によると、以下の通りとなっています。
〈日本政策金融公庫 2022年度新規開業実態調査〉
開業時に苦労したこと
〈日本政策金融公庫 2022年度新規開業実態調査〉
現在苦労していること
日本政策金融公庫においては、開業時と現在(開業後)に分けて調査されている点が特徴です。主に「資金繰り、資金調達」「顧客・販路の開拓」「財務・税務・法務に関する知識の不足」「従業員の確保」などが、課題として取り上げられています。
〈2021年版 小規模企業白書〉
小規模事業者が考える自社の経営課題
2021年版小規模企業白書においては、感染症流行前後で分けて調査されているのが特徴です。主に「営業・販路開拓」「新商品・サービスの開発」「新商品・サービスの高付加価値化」「人材の確保・育成、働き方の改善」「ITの利用法」「財務」などが課題として取り上げられています。
それぞれ多少の違いはありますが、小規模事業者の課題を簡潔にまとめると「ヒト・モノ・カネ・情報・ノウハウ」などの経営資源に集約されると考えられます。以下、主な課題と解決策などについて検討してみましょう。
「ヒト」に関する課題とその解決方法
「ヒト」に関する課題にはどのようなものがありますか。
日本政策金融公庫によると「ヒト」に関しては「従業員の確保」が課題となっているようです。小規模企業白書によると「人材の確保・育成、働き方の改善」となっています。人材を財務から考察すると、やはり十分な給与は魅力の一つとなっていることがわかります。
なるほど。ただ、なかなか高い給与を払えないという事業者の方も多そうです。
はい、人材確保の際に十分な給与を支払うためには、やはり資金繰り状況がよくないと対応が難しくなるでしょう。金融機関には、資金が必要となる直前に相談するより、できれば中長期計画などで早めに事業計画について情報提供をしておくことをお勧めします。また、同時に補助金、助成金などをフル活用して人件費確保に努めるなど事前準備がとても重要です。
「モノ」に関する課題とその解決方法
「モノ」についてはどのような課題がありますか。
売れる商品や製品開発、そのための開発部門の立ち上げなどが「モノ」の課題とされています。日本政策金融公庫によると「商品・サービスの企画・開発」が課題とされていました。小規模企業白書では「新商品・新サービスの開発」「技術・研究開発(新技術開発、技術力の強化)」などがあげられています。
「モノ」についても、今回の質問内容のように開発・研究について検討する際、どうしても資金繰りが心配です。
そうですね。売れる商品・サービスなどを開発するには、やはり十分な資金は必要ですが、それと合わせて優秀な人材など、経営資源が揃っていることが重要です。また小規模な開発系企業の場合は、開発部門などを立ち上げる際に多額の資金が必要になる場合もあるでしょう。ハードルが高いかもしれませんが、日本政策金融公庫や民間金融機関の資本性ローンなどの活用を検討してみてください。
また、融資だけでは資金供給は不十分なケースがあると予測されますので、融資だけに頼らずにクラウドファンディングや私募債、出資なども検討できるといいでしょう。
「カネ」に関する課題とその解決方法
「カネ」に関する課題には何がありますか。
日本政策金融公庫によると「資金繰り、資金調達」「財務・税務・法務に関する知識不足」などが課題にあげられています。小規模企業白書では「財務(運転資金の確保、設備投資資金の確保、コストの削減、借入金の削減)」となっています。
どのように解決したらよいでしょうか。
小規模事業者は融資を受けられる限度額がどうしても低くなってしまいます。例えば年商3000万円の事業者が1億円の融資を受けることは、常識的に不可能です。確実に売上・利益を向上させて、その程度に合わせて融資残高を増やしていく方法がセオリーと考えてください。
資金調達に関しては、「ヒト」「モノ」で既に説明したように、融資に拘らず、あらゆる調達方法を検討しましょう。事業性によっては、個人投資家やベンチャーキャピタルなどからの出資などを受けて勢いをつけることも一案ですが、ハードルがとても高いものとなっています。出資などに関しては、まずは、中小企業投資育成株式会社などの利用を検討してみるのも一案です。また私募債を検討することもお勧めします。
また小規模事業者の融資については、日本政策金融公庫+民間金融機関との取引をベースに、オンラインレンディングなどが利用できるような準備も必要です。規模に合わせて「融資額を増やしていくこと」のほか「借換などを活用して返済負担を減らすこと」にも積極的に取り組み、「自治体などの金利・保証料の補助などを活用すること」も最大限活用してください。
小規模な事業者はどうしても現預金の保有額が低いので、特に資金調達活動に関しては計画的に検討、実行することが重要だと自覚することが大切です。
「ヒト・モノ・カネ」以外の経営資源の確保方法
小規模事業者の場合、自力で確保する「ヒト・モノ・カネ」だけで十分な経営資源を持つのは難しいこともありますが、どのように対処すべきでしょうか。
小規模事業者ならではの悩みの多くは、経営資源の不足です。これらは個別なものではなく、つながっていると考えられます。例えば新たな商品・サービス(モノ)などを開発するために研究開発部門を立ち上げようとすると、優秀な人材(ヒト)が必要になります。業種によっては多額の資金(カネ)が必要になる場合もあるでしょう。また外部機関との連携によって、情報やノウハウなどを導入することが必要と考えてください。
小規模事業者が自力のみで十分な経営資源を確保することは非常に困難なので、同業者および異業種との連携なども検討しましょう。また取引先金融機関、公的支援機関(公的金融機関、商工会など、中小企業基盤整備機構、中小企業活性化協議会、各自治体相談窓口)、顧問税理士や外部専門家などからの支援を受けて、中長期的な事業戦略を構築する必要があります。外部専門家などを利用する際には、報酬が発生する場合もありますので、まずは顧問税理士や公的機関などを最大限活用することを検討してください。
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弥報編集部
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吉田 学(よしだ まなぶ)
財務・資金調達コンサルタント
株式会社MBSコンサルティング 代表取締役。1998年の起業以来、「資金繰り・資金調達支援」に特化して創業者や中小事業者を支援。これまでに1,000 社以上の資金調達相談・支援を行い、その資金調達支援総額は20億円超。主な著書に、「社長のための資金調達100の方法」(ダイヤモンド社)、「究極の資金調達マニュアル」(こう書房)、「税理士・認定支援機関のための資金調達支援ガイド」(中央経済社)、「税理士だからできる会社設立サポートブック」(第一法規)などがある。
また、全国の経営者・士業などを対象にした会員制の資金調達勉強会「資金調達サポート会(FSS)」を主催している。
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