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部下の育成につながる「正しい叱り方」を叱り方コンサルタントに聞く!

2023.02.09

著者:弥報編集部

監修者:吉田 裕児

ついつい部下に怒ってしまう、思ったことがすぐ口に出てしまう……。そんな経営者や管理職の間で、今注目されているのが「怒りのコントロール」です。でも「厳しく言うのは従業員のためなのに」と、腑に落ちない方もいるのではないでしょうか。

日本組織改革研究所の叱り方コンサルタント・吉田 裕児さんは「怒りは決して悪いものではない」と言います。ただし一方的な怒りや間違った叱り方は、パワハラと捉えられかねません。そこで、すぐに実践できる、育成につながる叱り方を伝授していただきました。


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怒るのは悪いこと?コントロールが必要な理由とは

まず、怒るのはいけないことなのでしょうか?

最初にお伝えしたいのが、怒りは決して悪いものではないということです。人は、自分が大切にしている価値観をないがしろにされると怒ります。怒りが湧いたときこそ、本当の自分に気付けるチャンスです。例えば、仕事の遅い部下に腹が立ったとします。それは、あなたがスピードを大切にしているからです。

しかし、ただ怒っているだけでは周囲を傷つけます。怒るを叱るに変えて、ポジティブな影響を与えられる思考回路に導くのが、怒りをコントロールする目的と言えるでしょう。怒りが自分の感情を晴らすため、相手を責めるためのものなのに対し、叱るは相手のため、あるべき姿に導くためのフィードバックだと考えています。


「怒らなくなる」訳ではないのですね。

怒りにフタをするわけではありません。怒りを通して自分を知り、対話することで感情をコントロールします。怒りは相手を攻撃する反応なのです。そして人は怒りを向けられると恐怖を感じて自己防衛本能が働き、心の壁を作って思考停止に陥ります。会社においては、パフォーマンスの低下によって目標を達成できなくなっていきますし、メンタルヘルスやパワハラの問題にもなりかねません。だからこそ、怒りのコントロールが必要です。

自分の実況中継をしてみて。怒りをコントロールする方法

怒りをコントロールするための方法を教えてください。

怒りの感情が湧いてきたら、自分の実況中継をおすすめします。「自分は今怒っているぞ、なぜならば部下が期日を守らなかったからだ」といった具合ですね。人間の脳は生命維持・感情・思考の三層構造になっていて、それぞれの役割を司る場所が異なります。例えば怒りなどを覚える瞬間、感情を司る「大脳辺縁系」という箇所が先に反応してしまいます。このとき自分が怒っていることにすばやく気付けると、思考を司る「大脳新皮質」が動き出して感情を抑えられるんです。つまり実況中継をすることで、自分を客観視できるということです。

先ほど、怒るのは自分の大切にしているものを疎かにされたからとお伝えしました。そんな自分を認めてあげるのも、実は怒りのコントロールに有効なのです。「大事なものを疎かにされたら、怒るのはもっともなんだ」と、自分を励ます・褒めると、気持ちが穏やかになっていきます。そうなれば怒る前に適切なアドバイスができるし、それにより部下が成長したら、そもそも叱る場面もなくなってくるのでは。


自分を実況中継する際に、何かコツはありますか?

実況中継をするときに、なるべく言葉を口に出すと、よりスムーズに感情から思考に移行できます。また、自分を俯瞰しているイメージを作るのも効果的です。もう1人の自分が上から見ていたり、カメラで自分を撮影する姿を思い浮かべるのもよいでしょう。

今すぐできる!部下の育成につながる叱り方

部下の育成につながる叱り方を教えてください。

名前を呼んで、質問言葉を使います。もし、部下が企画書の期限を守らなかったとしたら「Aさん、企画書はどうなっているの?Aさんはスピードを大事にしてるんじゃなかったかな?」と尋ねてください。名前を呼ばれると自分ごとと受け止められるし、質問に対し自発的に考えて行動できるようになります。加えて、責められていないという安心感を与えることも可能です。

さらに、部下と話すときは目を見て話すようにしましょう。人は興味を持たれた相手に関心を持つので、話の内容も伝わりやすくなります。目を合わせることで「あなたに関心がありますよ」と相手に感じてもらうことができるんです。ずっと見られていると緊張する人もいるため、時折視線をそらしてみたりとメリハリをつけるのがコツです。

叱ることに慣れていない人は、タレントやスポーツ選手になりきってみるとスイッチが入ったりします。理想の上司と言われている人・熱血キャラの人などを真似てみてはいかがでしょうか。


部下を叱る以前に上司が注意すべきことや、ポイントはありますか?

まず、日常的にコミュニケーションを取ることです。何かあったときだけ叱るのではなく、普段の会話の中でも助言はできます。あいさつ・雑談といった、簡単なやり取りからでかまいません。それにより心理的安全性が担保され、叱りの言葉が響きやすい土壌が生まれます。

次に、会社の目指す方向と部下の目標を共有してください。そして、その道筋を外れたときは叱ると事前に宣言します。前提をきちんと伝えておくことで、何のために叱るのかをお互いに理解できるからです。

最後に、減点主義の意識はなくしていきましょう。できないところを探していると、それが目的になって「できない証明」を始めてしまいます。逆に、できるところを探していると、伸びしろのある部下だと思えてきます。部下だけでなく、自分に対しても加点主義を心がけてください。今までがんばってきた自分を認めてあげると心が軽くなります。


もし、怒りを抑えきれなかったときはどうしたらよいでしょう。

「やっちゃった」はだれにでもあります。もしそうなったら、逃げずに謝るべきです。潔さはむしろ魅力に映り、ついて行きたいというリスペクトにもつながります。リーダーとしての誇りが失われることもありませんし、仕切り直してから叱ればよいことです。

人格否定・他者比較はNG。よくない叱り方の例

よくない叱り方の例を教えてください。

「おまえは使えない」と人格を否定したり、「Bさんのほうが仕事ができる」などと他者との比較で叱ったりするのは、相手に自己防衛本能を働かせてしまいます。長時間・人前で叱るのもNGで、このような行為はパワハラにも該当します。一方で、叱れない上司も増えてきており、これは無視しているのと同じです。上司への不信感につながり、組織に対する忠誠心も失われます。

そして、最近はリモートワークが広がっていますが、メールなどのテキストメッセージで叱るのは避けてください。電話や1対1のオンラインで対応すると、本意が伝わりやすくなります。


吉田さんも、かつて「怒り」で失敗した経験があるそうですね。

以前私は建設会社の現場所長で、典型的な怒りをコントロールできない上司でした。「何やってんだ!」「言い訳するな!」「そんなの自分で考えろ!」……。その結果、部下が出社しなくなるなどの事態が発生しました。かくして私は、第一線から外されてしまったんです。

当時はもうダメだと絶望しましたが、なぜ失敗してしまったのか、自らの指導法に向き合ってみました。その後再び現場に戻り、部下が提出したレポートを見たら、70%くらいしかできていない。昔の私なら、残りの30%はどうしたんだと怒りまくっていたところを「70%はできているね」と声をかけてみました。すると、もう部下の目がキラリと輝いて。そしてすぐに、パーフェクトな成果物を作ってきてくれました。

このとき私は「部下ができないのは、本当に部下だけのせいなのか?上司としてやれていないことがあるんじゃないか?」と気付けたんです。部下にのみ責任を求めていると、進むものも進まなくなります。とにもかくにも、あの挫折があったからこその今の自分ですね。

部下との衝突を恐れず、一体感に変えていこう

「叱るとパワハラと言われるかも」と躊躇している人も多いと思います。そんな中小企業の経営者や管理職の皆さんに、メッセージをお願いできますでしょうか。

怒りをコントロールして上手に叱れると相手の成長を促すことにつながり、結果も出てくるし、売上・顧客満足度もアップします。反対に上司がいつも怒っていて雰囲気が悪く、部下の思考が硬直している会社では、自己防衛本能からミスの隠ぺいや、事故が起きやすくなるでしょう。瑕疵(かし)のある商品がそのまま引き渡されたりすると、顧客の信頼も失います。

私もそうでしたが、意識を変えさえすれば怒りのコントロールは可能です。成功のコツは、私は変わろうとしていると周囲に宣言すること。怒ったらごちそうするなどのペナルティを設けたり、客観的にフィードバックしてくれる人を決めたりするのもよいでしょう。

問題に気付いていて何も言わないのは、上辺だけのさみしい関係ですよ。組織が目標に向かっていくとき、ある程度の衝突は避けられません。それを力でねじふせるからパワハラになるのであって、きちんと向き合えば一体感を生み出す要因になります。部下が道を外れたら、きちんと戻してあげてください。今は未熟でも、いつか必ずあなたの右腕となってくれるはずです。


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この記事の著者

弥報編集部

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この記事の監修者

吉田 裕児(日本組織改革研究所 叱り方コンサルタント)

1957年千葉県生まれ、西松建設株式会社の現場責任者として3000人以上のスタッフを指導し、失敗・成功双方の経験のもとに人材マネジメントとリーダーシップに関する研究をスタート。2020年に日本組織改革研究所設立。目標達成を支援するビジネスコーチ、研修講師、叱り方の専門家として活動中。ミッションは『本音で語り合い本気で頑張れる職場づくり』 著書「部下が変わる本当の叱り方」明日香出版社

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