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【社労士に聞く新型コロナQ&A】感染者が出たら給与は?時差出勤で就業規則は?バイトにも休業手当?
2020.05.01
著者:弥報編集部
監修者:片野 誠
新型コロナウイルスへの感染はもはや他人事ではなく「自分の会社で感染者が出たらどうすればいいのか」を考えるべき局面です。さらには感染防止対策や非常時に対応した労務管理、助成金の検討も必要となります。
今回は社会保険労務士の片野誠氏に、新型コロナウイルスの流行下で企業が対応すべきことをQ&A形式でうかがいました。特に中小企業は大変困難な状況に置かれていますが、この記事があなたの会社と社員の皆さんを守るための一助となれば幸いです。
目次
【感染者が出た場合のQ&A】感染の事実を公表すべき?給与はどうなる?
従業員の感染が発覚した場合、社内に告知したほうがよいでしょうか?またホームページや自治体を通して、公表する必要はありますか?
社内に対しては告知するべきです。保健所をはじめ取引先など、業務に関わる対外的な公表もできるならしてください。その後は会社全体の業務をいったん停止し、全社員を自宅待機させましょう。
業務停止の期間は業種によっても異なりますが、現状では事業所の場合7日から14日というケースが多いようです。その後、ほかの従業員に感染者がいなければ、業務再開という流れになります。
感染した従業員が会社を休んでいる期間、給与の支払いは必要ですか?
新型コロナウイルスは「法定伝染病」なので、あくまでも法律上は支払う義務はありません。そのため、もし本人が希望しているのであれば、年次有給休暇を使ってもらうと良いでしょう。あるいは会社として特別休暇を設けるという対応も考えられます。
特別休暇を設定するなら、必要なエビデンスとして医師の診断書の提出が必要となりますので、就業規則の規定に盛り込みましょう。そうすることで、虚偽申告による休暇取得の抑制にもつながります。
また新型コロナウイルスに限らず、病気やケガなど一定の要件を満たせば健康保険の傷病手当金を受け取ることができます。仕事を連続して3日休んだ場合、4日目以降からは給付金が出るというものです。金額は「支給開始以前12か月の標準報酬月額の平均※を30日で割った金額×2/3」となります。
支給開始以前が12か月に満たない場合は、直近各月の標準報酬月額の平均か、標準報酬月額の平均額のいずれか低い方となります。
※標準報酬月額の平均額30万円(支給開始が2019年3月31日以前は28万円)
従業員の家族の感染が発覚した場合、その従業員は自宅待機にしたほうがよいでしょうか?
すべきでしょう。期間はできれば14日間が望ましいです。なお上記でもお話しした傷病手当金ですが、濃厚接触者というだけでは対象とはなりません。健康保険被保険者が、医師から労務不能と認められた時に傷病手当金の対象となります。
【労務に関するQ&A】会社を休業する場合、休業手当を支払うべき?内定取り消しは?
新型コロナウイルスの影響で会社を休業しようと思っていますが「不可抗力による休業」の場合は休業手当の支払い義務がないと聞きました。新型コロナウイルスによる休業は不可抗力にあたりますか?
不可抗力とは本来、天災事変を指すものです。新型コロナウイルスによる休業は会社都合に該当するため、休業手当の支払いは必要だと考えています。
なお休業手当は労働基準法第26条で定められており、新型コロナウイルスによる休業に限ったものではありません。使用者の責任で発生した休業に対して、労働基準法に定める平均賃金の60%以上の手当の支払いを義務付けています。
営業を続けるつもりだったのですが、会社が入居しているテナントビルの意向でビル全体が閉鎖されることになりました。この場合でも従業員に休業手当を支払わなければいけませんか?
上記でも述べたように、テナントビルの閉鎖が「不可抗力」に相当するかということになりますが、私はこの場合でも休業手当を払うべきだと考えます。
会社の意向ではない休業としては、緊急事態宣言による自治体の要請というケースもあります。こちらも同様に休業手当を支払うべきでしょう。不可抗力への見解は、最終的に決着がつくのは裁判所ということになりますけれど……。従業員の生活を守るのも、会社の役目ですので。
休業手当は、アルバイト・パートの人にも払う必要がありますか?
労働基準法第26条に基づき、アルバイト・パートの人や外国人労働者にも60%以上の休業手当を支払わなければなりません。なお労働基準法への違反があった場合、労働者には労働基準監督署に申告できる権利があります。そのため休業手当の支払いを怠ると、労働基準監督署より事実確認の調査が入る可能性が高いです。
新型コロナウイルスの影響で事業継続が困難な状態です。新卒者や現在採用が決まっている方の内定を取り消したいのですが、可能でしょうか?
この場合は「労働契約がすでに成立している」とみなされ解雇扱いとなる可能性が高いので、最低でも30日前に予告するか、30日分の解雇予告手当を支払う方が無難です。つまり通常の解雇と同じ取り扱いですね。その際は内定取り消しの理由も、きちんと説明するべきでしょう。
【感染防止対策についてのQ&A】時差出勤やマイカー通勤を始めるには?
やむをえず従業員に出社してもらう際、感染防止のため時差出勤を始めようと思っているのですが、始業・終業の時刻を変更する際は就業規則の変更も必要ですか?
一時的な始業・終業時刻の変更でしたら、就業規則の中に「繰り上げ、繰り下げることがある」などと記載があれば、就業規則を変えずに時差出勤を実施することが可能です。
長期的に変更するのであれば、就業規則を変更する必要があります。通常の労働者が10人以上の場合、変更した就業規則について従業員の過半数代表者から意見書を提出してもらい、添付して所轄労働基準監督署に届け出てください。
満員電車を避けてもらうために、マイカー通勤を認めたり社用車を貸し出そうと考えていますが、どんな手続きが必要ですか?また、どのようなリスクがあるのでしょうか?
対象が1名であれば覚書でも対応可能ですが、できればマイカー通勤規程を作ると良いでしょう。その際は自賠責保険への加入、運転が危険となる病歴などを確認する必要があります。
リスクとしては通勤途中の事故が考えられますが、通勤に関しては会社の命令下にないので、会社が責任を負うことはありません。これは社用車の場合も同様です。ただし運用上「事故が起きた場合は会社ではなく労働者が責任を取る」といった内容の念書を取ることが多くなっています。
「感染が怖い」「自分も感染しているかもしれない」から会社に行けないという社員がいます。どのような措置をとればよいでしょうか?
まずは休暇を認める場合ですが給与を支払う必要はなく、通常の欠勤扱いとなります。もし会社として特別休暇などの制度を設定するのであれば、その従業員だけでなく全労働者に対しての公平性を保つことを念頭に置いてください。
そのほかに考えられる手段としては時差出勤、テレワークによる在宅勤務、会社周辺の宿泊施設の利用などでしょうか。ホテルなどに泊まる場合、会社の要望であれば費用は会社負担になりますし、本人希望なら自己負担となります。
もし一定の金額を会社が負担する場合、費用負担の割合について事前に検討すべきです。こちらのケースも、すべての従業員に対して公平に対応する必要があります。
【雇用調整助成金についてのQ&A】助成金はすぐにもらえる?手続きは簡単?
雇用調整助成金とはどういう制度ですか?
雇用調整助成金は以前からある国の制度で、休業手当に要した費用を助成するというものです。新型コロナウイルスの流行を受けて、2020年4月1日から6月30日までが緊急対応期間に設定され、金額や要件に関して数々の特例措置が行われることになりました。
中小企業の場合、助成される金額は解雇を伴わない休業であれば、緊急対応期間に限り休業手当の「9/10(通常は4/5)」で上限は8,330円です。また通常は雇用保険の被保険者のみ対象ですが、緊急対応期間はパート・アルバイトなどの雇用保険未加入の労働者も対象となります。
名称は緊急雇用安定助成金です。
雇用調整助成金は解雇を伴うケースでも利用できます。この場合の金額は、中小企業なら休業手当の「4/5」です。
支給限度日数は1年間で100日までなのですが、緊急対応期間はこの間の日数も別途プラスできることになりました。なお雇用調整助成金制度を使うか使わないかは、企業の自由に委ねられています。
上限があるので、企業が負担する額が多いことも大いに想定されます。制度を利用する際は社労士に相談しましょう。
雇用調整助成金の支払いタイミングはいつですか?すぐにもらえるのでしょうか?
今回、厚生労働省は支給申請日から1か月程度で支給・不支給を決定し、その後2か月以内に入金されることを目指すと公表されております。しかしながら申請が殺到することも予想されますので、現在公表されている資金支援や給付金などが受けられるのであれば先に受けたほうが良いでしょう。あとで雇用調整助成金が戻ってくるという、併用のイメージが現実的だと思います。
雇用調整助成金の申請は何を行えばよいのでしょうか。手続きは簡単ですか?
正直、書類はたくさんありますが、2020年4月10日(最新更新4月24日)より新型コロナウイルスに関連した雇用調整助成金の申請書類は緩和・簡素化されています。
提出書類について変更となった箇所は以下をご確認ください。
なお、助成金の対象となる事業主について、従前は2019年12月の生産指標(売上高)があることとなっていましたが、提出月の前月の売上高と前々月の売上高が比較できることと大きく緩和されております。
出典:雇用調整助成金の申請書類を簡素化します|厚生労働省
出典:雇用調整助成金の申請書類を簡素化します|厚生労働省
省略の大きい部分としては、添付書類の休業協定書の労働者個人ごとの「委任状提出の廃止と、支給申請に必要な第9号様式が休業日数のみの記載になったところです。今後も変更される可能性があるため、最新情報については厚生労働省の雇用調整助成金のページをご確認ください。申請は面倒と思う方もいるかと存じますが、会社と従業員を守るために、ぜひ申請を検討してみてください。
大変な最中ではありますが給付金や助成金、資金支援などをうまく併用して経営悪化を乗り切りましょう!
※本記事の内容は、2020年4月28日現在の情報に基づいています。
※5月1日より雇用調整助成金の特例措置がさらに拡充されております。
1)都道府県知事からの休業等の要請を受けた場合は、一定の要件のもとで、休業手当全体の助成率を100%にする
とともに、(2) 要請を受けていなくても、休業手当について60%を超えて支給する場合には、その部分に係る助成率を100%にする
詳細は、厚生労働省の雇用調整助成金のページをご確認ください。
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この記事の著者
弥報編集部
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この記事の監修者
片野 誠(社会保険労務士)
1972年神奈川県生まれ。中小企業の総務部において、経理に約3年、人事・総務に約9年半従事。2006年度社会保険労務士試験に合格。2008年2月に社会保険労務士として開業。2009年5月特定社会保険労務士付記。〈所属〉全国社会保険労務士会連合会、東京都社会保険労務士会、東京都社会保険労務士会 千代田統括支部。
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