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1兆円ブランドに“概念”を投げつけたい。10YC・下田将太が語る「アパレルの未来」【会計士・大野修平 対談連載】

2019.11.19

「経営者はもちろん経営に直接役立つ情報を求めているけれど、それと同じくらい、もしかしたらそれ以上に、他の経営者がどんな想いで経営という仕事に立ち向かっているのかを知りたいのだと思うんです」

ご自身も経営者である公認会計士・税理士の大野修平先生のこの言葉をきっかけに、連載【会計士・大野修平-対談連載-「話題のスモールビジネス経営者に斬り込む」】を企画しました。毎回「スモールビジネス経営者と話すことによって、共通するテーマや普遍的なメッセージを引き出したい」をテーマに、大野先生が経営者に斬り込みます。

今回のゲストはTシャツやスウェットを中心に人気のアパレルブランド「10YC Inc.」代表取締役社長・下田将太氏。10YCは「着る人も作る人も豊かに」をコンセプトに透明性を重視して、生産者・生産工程・原価などを公開することで業界の常識に挑戦し、デビュー当時からメディアに取り上げられ話題となってきました。

前編「アパレル業界の新常識に挑む男。10YC・下田将太が語るブランドヒストリー」では、若手起業家として注目されている下田氏に、ブランドの想い、突然の休止と再開について語っていただきました。後編では、ブランドのこれからと経営者の役割について大野先生が下田氏に斬り込みます。(全2回。前編はこちら

「10年着てほしい」は、僕らのエゴ

大野:「10年着られる」で今後どうやって売り上げを立てていくかにはめちゃめちゃ興味がありますね。例えば、僕がこの半そでのシャツを、10年着ちゃったらどうします?

下田:嬉しいですね!

大野:即答ですね(笑)。でも10年着たら、僕は少なくともこの半そでのシャツはもう買わないじゃないですか。そこってどうですか?

大野修平(公認会計士・税理士)大学卒業後、有限責任監査法人トーマツへ入所。金融インダストリーグループにて、主に銀行、証券、保険会社の監査に従事。トーマツ退所後は、税理士法人にて開業支援、融資支援、税務顧問などの業務を行う。

下田:なかなか難しいですよね。思想的にはずっと一緒にいるというところで10YCを支えてくれていることになるんだと思いますけど、購買でいうと広く浅くになりますね。もしかしたら一回しか買ってくれない人が60億人いるみたいなのが究極の10YCの服の買い方なのかなと思います。だから広く浅く、1着を買ってもらうためにどうするかというところに落ち着くのかな。

大野:でも、そんなに一般受けするブランドでもないですよね?

下田将太(10YC 代表)大学卒業後、衣料品製造委託のベンチャー企業に入社。その後、合併に伴い大手アパレル企業に転籍。中国生産現場での駐在経験を経て、ブランドの生産担当に従事。 2017年8月に退職し、同年9月に友人と3人で株式会社10YCを創業。店舗を持たずにインターネット販売をメインに全国各所で期間限定ポップアップストアなど行いながら洋服の販売をし、「作る人も着る人も豊かに」なる社会の実現を目指している。

下田:そうですね、だから「どの規模を目指すか」によると思います。昔みたいに一生伸びていく会社はないし、一生伸びていく気もないというか、一生は伸びないだろうというのもわかっています。

10YCの客層である、ある程度お金に余裕を持っていて、ものづくりに興味があって、自分がテンション上がる服にお金を使える層は日本以外にもいると思うので、ある程度の規模感で、それを探しにいく感じになる気がします。

その一方で、どうなるのかなぁ、とも思うんですよね。10年着られるって10年後にしかわかんないじゃないですか。わからないから、たぶん、大野先生はきっとまた来年も買うんですよね。Tシャツを2枚くらい。いつの間にか買っちゃってる。

だから、僕らが言っていることと、お客さんが感じることには乖離が起きている状況だと思ってはいます。自分たちが長く着てもらいたいというのをお客さんに押し付けていて、言ってみればそれは「僕らのエゴ」なんですよ。

正しさの勝負はしたくない

大野:こういった服が好きな人たちって、下田さんがおっしゃった通り、ある程度お金を持っている人ですから、もっと値段つけていいと思うんですよね。はっきり言って僕、このシャツ安いなと思っていて、買い占めたろ!と思っていますよ(笑)。

もっと値段つけて、そこを工場に還元できるのであれば、もしかしたら工場の人ももっと協力的になってくれるのかもしれないし、少なくとも経済的には豊かになる。作る人たちだって、いいもの作ってるぞと思えるものを作りたいときっと思っていますよね。

僕は高いことは決して悪くないと思っています。ファストファッションにはファストファッションのよさがあると思いますけど、そうじゃない服にはそうじゃない服のよさがあると、もっととんがっていい気がほんとにしてしまいます。

クラウドファンディングの時とか、10YCさんが最初に取り上げられたファッションスナップの記事とか、すごいとんがってるなぁ、かっこいいなあと思いました。危なかっしいけどーって。でも、だんだん丸くなってきている感じがしています。最近は別のインタビューでも「自分たちのエゴです」って言っていますよね。さっきも言っていましたけど、それって何なんですか?

下田:エゴと言っている理由という意味ですか?

大野:例えば、僕たちは税務会計をやっていて、お客さんと顧問契約していて「こうやった方がいいですよ」とか「こうやってください」とコンサルします。それも言ったら「エゴ」ですけど、それを僕たちはエゴとは言わないですよ。ほんとにそうやった方がいいと思っているし、僕らプロとしてやっているから。押し付けっていえばそうですけど。そのあたりってどうなんですか?

下田:どうなんですかね。こういう風に最初から言っていたわけはないんですよね。僕らがブランドを始めた時に、その対極にあるのがファストファッションでした。アパレル業界は対極軸が強いので、ファストファッションの対局はエシカルとかサスティナブルとかとされていました。結局、僕らがそう思っているかとは関係なく、ファストファッションの対極ということで、エシカルブランドとか、サスティナブルブランドの中に10YCが入れられてしまったんです。

そうなってしまった時に「正しさの勝負をしたくないな」と思ったんです。ファストファッションにもいいところはある。サスティナブルファッションは環境にはいいかもしれないけど、それがお客さんにとっていいかどうかはちょっとわからない。

正しいから服を作って、正しい人が正しい消費をするために洋服を作っているかと言ったら「何か俺らって違くね?」って思って。僕らもファストファッションも着ますし、もちろん10YCも着るけど、なんかそういう僕らが勝手に作ったものを、社会的に正しいから10YCを着るってことにしたくないなってことで、エゴという言葉を使ってます。

大野:僕は下田さんの発言の変遷を見ていて、すごく経営者っぽくなっちゃったな、と思います。さっきも言いましたけど、最初の頃の下田さんってすごい生意気なことを言っていて、それが業界に一石を投じるみたいなところがあって、僕たちから見るとそれが心地よかったんです。でも、時を重ねるにつれ、それこそ牙も抜かれ、八重歯もなくなり、なんかもう平らな歯しかないんじゃないかって感じがしています。

大衆受けはするだろうけど、ファストファッションならぬファスト経営者になっているんじゃないかと。もっと自分を出していいし、正しさの勝負はしなくていいけど、でも自分が正しいと思うことは伝えていいと思うんですよね。

僕も税理士業界では変わった人間なんです。実は僕、税金のことはそんなにわかんないです。それで税理士やっていて、他の税理士はだめだとか言うから、めちゃめちゃ叩かれますよ。でも、それでいいじゃないかと思うんですよ。

10YCさんは、最初にファッションスナップに取り上げられた記事がNewsPicsに転載されて、あそこはビジネス寄りの人が多いから、「それってビジネス的に成り立たないんじゃないの?」ってコメントで言われて、いろいろ考えちゃったのかなと勝手に想像しています。戦い方は色々あると思うので、その後も跳ねのけて欲しかったというのがあって。

経営者としては理想に近づいてきて、ビジネスも軌道に乗りつつあるんだろうけど、でもやっぱり、言ったってブランドのトップなんだから尖がってないと……。

下田:確かに丸くなってますね。いま自分でも思っていることを言われちゃったな、とちょっと胸が痛いです。

大野:僕、今日、上は10YCで下はユニクロなんです。そういう組み合わせはお客さんが勝手にやるもので、正しい正しくないは確かにないかもしれないですけど、自分たちの思う「正しい」はもっと出していいと思う。

下田:確かに、牙は抜かれてはいませんけど、隠していますね(笑)。

大野:すごくもったいないなと思って、こんな尖ってた人がって思っちゃって。でも良かった。抜かれてるんじゃなくて、隠してるだけ。じゃあ、もうちょっと踏み込んで聞いちゃおっかな。

1兆円のブランドにはならないけれど……

大野:今後というか、今の10YCさんは、アパレル業界でどういうポジションを狙っているのかというのにもすごく興味があります。今のアパレル業界ってどちらかというとファストファッションというか、流行を素早く捉えてってとか、いくつか型を出してみて、その中から流行りそうなものをバーッと売るみたいな、パターンって多いと思います。

10YCさんは、その業界を変えようと思っているのか、もしくはその中で独自のポジションを築いて、「業界はそうだけど、うちはこれでいくよ」と思っているのか、どっちなんでしょう?

下田:その質問メッチャ面白いですね。業界を変えたいとは思っていて、これが一個の成功モデルになったらいいなとは思っています。だから、10YCは、たぶん1兆円のブランドにはならないと思ってますけど、1兆円のブランドを変えられるような概念を投げつけたいとは思っています。それで業界を変えたい。そのために10YCのポジション的には、同じ価格帯のブランドの中で一番のシェアがあるブランドになりたい、みたいなイメージはありますね。

大野:1兆円のブランドにはならないとしても、会社の規模はある程度は拡大していきたいんですよね?

下田:うーん、したいですね。あんまり僕、停滞が好きじゃないんで、どうしても伸ばしていくっていう方向に向かいますね。どの角度かで伸ばすのかというのはありますが、現状維持はしたくない。

自分が元々400億円くらいのブランドにいたので400億円くらいは見えてる、山的には。それ以降はわからない。400億円くらいの山をいつ達成するかも10年くらいの単位の話だとは思うので、それくらいの時間をかけて山を登っていくというイメージはある。でも、その山を登っても面白いのかな、というのが最近はあります。今までとおんなじじゃんって。

僕には、僕らみたいなブランドが規模を追い求めていった結果、10年後に行きつく先はファストファッションというのは見えています。また新しいブランドが出てきて、お前らがファストファッションじゃん、というのがぐるぐる回っているのがアパレルの中であって、そういう未来に対して10YCがどう解を出すかというのはまだ自分でもわかってません。

この先2、3年は商品のバリエーション増やして、ポップアップやってお客さんとコミュケーションを取り合い、その過程で10YCの服が好きな人を増やしていく。その中で10年後の未来に対してどういう解を出すのかが自分自身楽しみですね。

服だけではなく衣食住の他分野への展開も検討

大野:当面の施策として、長く着てもらうためにリペアとか染め直しというサービスをやっていますよね。そういった「サービスを売る」という発想は今っぽいなと思うし、面白いですよね。あとはラインナップ数を増やしていくということですね。

下田:そうですね、まぁ、増えていって、一応上から下までコーディネートできるようになったらいいなと思ってはいます。

大野:今は上だけですよね。

下田:上だけですね。立ち上げの時からいろいろな商品を開発はしていて、できあがったものから出てるみたいな感じなんですけど、パンツはかなり時間がかかっていて、もうすぐ出そうかなって感じで。パンツが終われば、一気に増えていくことはないかなという感じがしますけどね。

大野:僕が今日、他社のパンツをはいているのは、それは10YCにないからですよね、完全に。仕方ない。

下田:まぁ、そうですよね(苦笑)。近々はパンツのような10YCにない商品群のラインナップ増やすことですかね。他にもカテゴリを増やすとか方法はいくつかありますね。

あと、服だけじゃないっていうのは最近よく言っています。「衣食住」というところで何かできるかもしれないなぁ、とか。

大野:その衣食住みたいなところで別の分野に乗り出すというのはとっても面白いと思いますね。僕たちと似ているなと思います。僕たちは経営のサポートをするのがメインだけど、それは税務面のサポートだけじゃない。もちろん税務は求められるんでそこを諦めるわけじゃないですけど、それプラスで資金調達どうしようかとか、経営計画どう立てようかとか、経営の戦略どうしようかとか、マーケティング、採用まで全て手当しないと、経営というのは10年、20年のスパンでサポートすることはできないんですよね。

たぶん10YCさんもそんなところに行きそうな気がしますね。結局、10年もたせたいのは服だけじゃないだろってことはあると思うから、10YCの家具とか、そういうのが出てくると、面白いですね。

お客さんがついていきたいと思う未来への案内役

大野:今、目の前の大きな問題、課題とかってあります?

下田:マネタイズの部分ですかね。粗利50%ビジネスなので、1枚売れたら2枚作れるということで、そうそうたくさんは作れなくなっているんで、その辺をどう工夫するかみたいなところです。あと、うちは2年目ですが、黒字化はしていないので、それをいつ黒字化するかというところですね。

やる前からわかっていましたけど、実際にやってみて身に沁みるのは、粗利75%にできたらやっぱ楽だろうなって(笑)。そうしたら1枚売れたら4枚作れるのになぁと思いながらも、言ったら薄利多売ビジネスなんで、ある程度の規模感まではいかないとやっていけないよねみたいなところもあって。

大野:ほんとにその粗利50%にこだわるなら、やっぱり価格を上げないとダメですよね。それでより多く工場さんにバックするとしても自分たちも利幅が増えますから、そこを目指していかないと。そのためにどうしたらいいかというと、やっぱりもっとブランドを打ち出さないといけないし、経営者は尖ってなきゃいけないというところにやっぱり行きつく。

下田:わははは。

大野:高いものを売って、みんなが精神的にも物品的にもリッチになっていくことが重要ですよね。僕ははっきり言って、このシャツはめちゃめちゃいいなと思っていて、これいくらでしたっけ?

下田:それは約9,500円ですね。

大野:安いですよねー。僕、その前までは無印良品のシャツを着ていました。安いけどめちゃめちゃ手入れが大変ですよね。その後、夏になってラルフローレンのシャツ買ったんですよ。1万7~8千円したんですけど、もはやそれは出番ないんですよ。この10YCさんのシャツばっかり着ているから。

下田:いやー、嬉しいですね。

大野:1万5千円でも売れるってことですから、1万5千円に値上げして、粗利50%保ちたいなら保てばいい。それで今の利幅4,500円が7,500円になって、工場にも7,500円入ってみんなハッピー。

下田:めっちゃいいですね。

大野:それでお客さん減りませんかっていうけど、たぶん減らないと思います。だって1ヶ月待ったお客さんがこんなにいるということは値段じゃないですよね。品揃えでもないし。そういう意味ではもっとお客さんを信じていい気もしますね。お客さん、答えは知らないけど、10YCが示してくれる方向へはみんなで行きたいなと思っている人たちがいると思うんですよ。

今までね、1万円出さずに服が買えるって奇跡のようなことで、実はその奇跡の上にいろんな人たちが犠牲になっていて、うちはちょっとそれできないけどいい?ただ、めちゃめちゃ質もいいし、手入れも楽で、もしかしたら10年着られるかもよ。そう言ってくれたら、ああ、ついて行きたいなと思います。誰もそんなこと言ってくれないから。

撮影:Taira Tairadate

会社名:株式会社10YC(10YC Inc.)https://10yc.jp/

代表者:代表取締役 下田将太

本社所在地:東京都墨田区石原3-30-11

創立日:2017年9月22日

事業内容:アパレル商品の企画・生産及び販売

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この記事の著者

弥報編集部

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